第30話 最後の作戦会議
ハーン地方、領主館。
武装した冒険者たちが、領主の部屋へ踏み込んだ。
「ハーン領主! ギルド総括本部長ガレオンの名において、あなたを拘束する!」
「な、何を言っている!? 私はこの地方を治める領主だぞ!」
ハーン領主は立ち上がり、声を荒らげた。
その前に立つのは、冒険者ギルド総括本部長ガレオン。
彼の後ろには、腕利きの冒険者たちが並んでいた。
「領主という立場を利用し、領民を犠牲にした。さらに、大森林に火を放ち、周辺地域にまで危険を広げようとしたな」
「領地を守るためだ! 多少の犠牲は仕方がない!」
「それだけではない。薬草を独占的に集めさせ、必要としている者たちに公平に使わせなかったことも確認されている」
ガレオンは厳しい目を向けた。
「薬草は領主個人の財産ではない。領民や冒険者たちが採取したものを、己の都合で独占していい理由にはならん」
「黙れ! 私がいなければ、この領地は成り立たない!」
「その領地を守るために、隣の村を犠牲にしようとしたのは誰だ?」
領主は言葉に詰まった。
自分の領地さえ無事なら、他の村がどうなろうと構わない。
その考えが、すでに領主としての資格を失わせていた。
「ハーン領主。あなたには領主の地位を剥奪する処分が下される。また、あなたの命令で動いていた軍も解散とする」
「ば、馬鹿な! 私を誰だと思っている!」
「これ以上、領民を犠牲にさせるわけにはいかない」
ガレオンが手を上げると、冒険者たちが領主を取り押さえた。
「連れていけ」
「離せ! 私は領主だぞ!」
叫び声が遠ざかっていく。
こうして、ハーン領主による身勝手な計画は終わりを迎えた。
だが、大森林にはまだ多くの魔物が残っている。
モロヤ村とチャクダ村を守るための戦いは、これからだった。
◇◇◇
モロヤ村、集会所。
冒険者や兵士たちが集まり、最後の作戦会議が開かれていた。
前列には、魔法使いのセリア。
その隣には、ユウマ、リリア、ミーナの姿もある。
「まずは、大森林に残っている魔物を討伐するわ」
セリアが地図を広げた。
「魔王領側からも魔物の掃討が進められているけれど、すべてを倒せたわけではない。こちらに向かってくる魔物を、できるだけ減らす必要があるの」
冒険者たちが頷く。
「そこで、カイル。あなたにはデコイ役をお願いしたいの」
名前を呼ばれたカイルが、一歩前へ出た。
「俺が、ですか?」
「ええ。あなたには魔物を引きつけてもらいたい。集まった魔物は、ユウマたちのパーティーを中心に討伐する」
カイルは少し考えたあと、力強く頷いた。
「分かりました。俺で役に立てるなら、やらせてください」
以前の戦いで、カイルたちは大勢の魔物に囲まれ、命を落としかけた。
それでも、仲間を守るために盾を構え続けた。
その経験を生かせるなら、今度こそ誰かを守る力になりたい。
カイルはそう考えていた。
「ただし、無理は禁物よ。魔物を引きつけたら、決められた場所まで誘導して、速やかに撤退すること」
「了解しました!」
セリアは地図の別の場所を指さした。
「モロヤ村と、さらに大森林に近いチャクダ村。この二つの村を守るためにも、魔物の群れを放置するわけにはいかない」
「それで、魔物を討伐したあとはどうするんですか?」
ユウマが尋ねた。
「ここからが本番よ」
セリアは、森の奥を指した。
「魔物を誘導して討伐したら、全員いったん撤退する。そのあと、ユウマたちのパーティーと私だけが残るわ」
「俺たちとセリアさんだけ?」
「そう。最後に、私の魔法で残った魔物をまとめて吹き飛ばす」
集会所がざわついた。
「まとめてって……どれくらいの数をですか?」
ユウマは思わず聞き返した。
「できる限り、全部よ」
セリアはあっさり答えた。
「もちろん、村や味方に被害が出ないようにする。そのために、魔物を誘導する場所も慎重に選ぶ必要があるわ」
ユウマは地図を見つめた。
大規模な魔法を使う以上、周囲への影響も考えなければならない。
「なるほど……。それなら、撤退のタイミングが重要ですね」
「そのとおり。魔物の動きを見ながら、私が合図を出すわ」
セリアは頷いた。
そのとき、カイルが口を開いた。
「セリアさん、ひとつお願いがあります」
「何かしら?」
「俺も、その作戦に参加させてください」
「あなたはデコイ役を終えたら撤退する予定よ」
「分かっています。でも……」
カイルはユウマを見た。
「ユウマさんには、俺たち兵士を助けてもらいました。失った足まで元に戻してもらった。あのポーションがなければ、俺たちは今ごろどうなっていたか分かりません」
ユウマは少し照れくさそうに頭をかいた。
「だから、今度は俺が力になりたいんです」
カイルは自分の盾を持ち上げた。
「俺は前に立って、仲間を守るのが役目です。ユウマさんの盾役なら、魔法の爆風くらいは防いでみせます!」
「爆風って……」
ユウマは思わずセリアを見た。
セリアは、なぜか少しだけ視線をそらした。
「……まあ、魔法の規模にもよるけれど」
「それでも、やらせてください!」
カイルは真剣な表情を崩さなかった。
ユウマは、その気持ちを受け止めるように頷いた。
「分かりました。心強いですよ。よろしく頼みます」
「はい!」
カイルの顔に、ようやく笑みが浮かんだ。
リリアはユウマの隣で、小さく呟いた。
「ユウマ、また面倒なことに巻き込まれているわね」
「いや、今回は俺から引き受けたんだからな……」
ユウマは苦笑した。
ミーナも不安そうに地図を見つめていたが、すぐに顔を上げた。
「私も、みんなが怪我をしたらすぐに治療します!」
「頼りにしているよ、ミーナ」
ユウマが笑いかけると、ミーナは嬉しそうに頷いた。
◇◇◇
作戦会議が終わり、参加者たちはそれぞれ準備を始めた。
カイルは盾の具合を確かめ、冒険者たちは武器や防具を整える。
リリアとミーナも、必要な道具を確認していた。
ユウマはというと、いつものように収納の中身を点検していた。
「ポーションは十分。食料もある。あとは素材を回収できれば……」
「ユウマ、今から素材のことを考えているの?」
リリアが呆れたように言った。
「いや、せっかく魔物を討伐するんだから、使える素材は回収したいだろ?」
「そういうところは、本当に変わらないわね」
リリアは笑った。
その様子を少し離れた場所から見ていたセリアは、静かに息を吐いた。
(この人たちなら、うまくいくかもしれない)
だが、彼女にはまだ話していないことがあった。
今回使う予定の魔法は、普通の冒険者が扱うようなものではない。
大森林の魔物を一掃するための、強大な魔法だった。
ユウマたちは、その威力をまだ知らない。
そしてカイルもまた、自分がこれから何を守ることになるのか、まだ分かっていなかった。
翌日。
大森林での最後の戦いが始まろうとしていた。




