催花雨
男が赤子を連れてから、五日が経つ。
己は、竹笹にあたる雨粒の音を、ただ聞き続けていた。
一度、居場所へ帰ったものの、赤子の行方が頭にちらつき、また戻ってきてしまった。
しかし、赤子の気配はない。どこか別の場所にいるのだろうが、嫌な想像が、頭に過ぎってしまう。
人間のフリをして、何かしら行先を聞き出せないかと思い、千年以上ぶりに角を隠し、目の色を変えた。しかし、どう切り出せば良いか、考えあぐねているうちに、日ばかりが経っている。
なぜ、己はこれほどまでに動かないのだろうか。
なぜ、焔嵐のように、馬鹿を見ると分かって、動けないのか。
小高い竹林から、赤い光を放つ小屋を眺め続ける、己の徹底した静観ぶりに、嫌気が差してきた。
しかし、体は動かぬ。
ただ、雨降る中、集落を見下ろすばかりである。
(雨に溶けて消えてしまえば良いものを)
――ある村に、塩の鳥がおりました。
玉依良の声が、脳裏にこだました。
――塩の鳥は、雨の恵みをもたらすと、村人に大切にされておりました。
しかしある年、雨の季節というのに、一向に降りません。村人は皆、塩の鳥に祈りました。
『どうか、天の恵をもたらしてください』と。
――塩の鳥も、天に祈りました。
『どうか、この村に雨をもたらしてください。私はどうなっても構いません。村の恩に報いたいのです』と。
そうだ。そうして、村に雨が降る。だが――
――塩の鳥は、天に願いが通じた喜びに、涙を零しました。
『ああ、天よ。感謝いたします』
塩の鳥の涙は、止まることなく溢れました。目が溶けてしまうほどに流れ続けました。美しい翼も自慢の弧を描く嘴も、天の恵みに洗い流されていきました。
けれど、塩の鳥はちっとも悲しくありません。村人が喜んでいるのですから。
「君……ここで何をしているのかな?」
声が降る代わり、雨が止んだ。否、雨音は鳴り続けているから、何かで遮られたのだ。
目を開けると、見覚えのある男の顔があった。赤子を連れて行った、あの男だった。
「どれだけ、雨に打たれていたんだい? こんな土砂降りの中、地べたに寝そべっているなん、て……」
男は一瞬、はっとしたように目を見開いた。
角は隠し、目も人間と遜色ないものに変えている。鬼神と、気がつかれたわけではないはずだ。あの赤子と違い、霊力も皆無に等しいので、常世のモノと疑っているわけでもないだろうに。
「とにかく……冷えてしまうから、一緒に来なさい。立てるかい?」
男は、手を差し出して訊ねた。今、目の前にいるモノを、悪意のない“人間”と信じて疑わずに。
(鈍いというのは、おめでたいことだな)
それでも己は、差し出されたそのゴツゴツと日焼けした手を、握ってしまった。上へ引き上げられるようにして、立たされる。
「ほら、この傘を使いなさい……僕はこの通り、雨合羽を着ているからね。遠慮はいらないから」
黒傘を、己が言う前に、手に持たされる。傘であることには変わりないが、随分とつるつるした手触りだった。
傘に打ちつける雨音に耳を傾けながら、男の後を追って、赤い光が灯る小屋へ足を向けた。
*
あの男――中村誠司という男に声をかけられてから、半月が過ぎた。
己はなぜか、病人と見なされ、病院という治療所に寝泊まりしている。心、気の病の可能性がある、と人間は言う。訊かれた問いに、答えずにいたからだ。
名を訊ねられ、歳を訊ねられ、住所を訊ねられ……なぜ竹林にいたのか、その前は何をしていたのか。
答えたところで、首を傾げられるのは目に見えているから、答えなかった。それだけのことというのに。記憶喪失だ、なんだと騒ぎ出し、ここに至る。
ただ、思わぬ収穫があった。赤子も同じ診療所にいたのだ。
夜半、誰もいない時を見計らって新生児室を覗く。
ガラスの向こう、透明な箱の中で、毎度短い手足を動かしている。ひとまずは心配いらぬようだった。
「霧生さん」
背後から声がかかる。後ろに視線を向けると、頼りない笑みを浮かべる、中村が立っていた。
一日おき程度には顔を合わせているので、そろそろその顔は見飽きている。
「その子が、気になるんですか?」
「……さあ」
付け加えると、霧生というのは、中村の勘違いと憶測で出来た、己の仮の呼び名である。
中村は己の隣に立つと、赤子を見つめて言った。
「この子はきっと、人を惹きつける力があるのでしょうね。中には、あの事件を知った、不躾な興味本位の人間もいるようですが。皆、この子の姿に絆されて、来てしまうようです。僕もその一人ですよ」
中村は、へらりとした笑顔を向けてきた。
「実はですね……この子を引き取れたらと、妻と話し合っているんです」
中村は、透明な箱の向こうにいる赤子に向かって、手を伸ばすように、ガラスへ触れた。
「僕たちには、子どもができなくて。もうこの先、二人で生きていこうかと話していた矢先だったんです。この子と会えたのは。だから、恥ずかしながら、運命に違いない、神様が遣わしてくれた子だと……」
今、目の前にいる鬼神の仕業と知れば、どう反応するのか。
幾分か興味が出たが、黙って赤子に視線を戻す。
赤子は、また眠くなってきたのか、まぶたが降り始めている。
「霧生さん」
中村は、もう一度、己の呼び名を口にした。
「やはり、思い出せませんか? 以前のことを」
中村を始めとする人間は、顔を合わせる度に、それを訊ねてくる。
無論、覚えている。しかし、こいつらが信じられるものでない限り、それは偽りとなる。ならば、覚えていないも同義である。
「あなたの痕跡が、いくら調べても、どうやら出てこないようです。行方不明者にも、前科者にもヒットしない。周辺を調べても、あなたを知る人はいない。本当に、突然現れたかのようですよ」
当然である。千年以上も、人間は己の姿を見ることなく、生きてきたのだから。
「このままではあなたは、この国で生きていけない。なので、就籍という、戸籍の作成を申請する手続きをする必要が出てくると思います。それだけ、頭に入れておいてください。それと……」
中村は眉間を軽く掻くと、真っ直ぐこちらに向き直った。
「余計なお節介だったら、申し訳ない。もしこのまま宛がなければ……うちの離れに住んでみますか?」
「……は?」
赤子ならともかく、なぜ己まで抱えようとするのか。
人の世の枠に、名を与えられ、住処を宛がわれ、組み込まれていく。それは、ただの一度も触れずにきた領域。
そんなもの、鬼神である己が受け入れるわけがない。即座に断り、立ち去るべき――だが……
(もう妖の世ではないが、霊力があれば色んなものが寄ってくるやもしれぬ……)
離れに住めば、この赤子の側に留まることができる。恙無く過ごせるか、確かめられる。
その一事が、断り文句を、喉の奥でつかえさせた。
「戸籍が作られるまでは、あなたは家を、自分で借りられない。けれど、事情を知る僕らなら、とんとん拍子でいきます。あなたとも、何かの縁でしょうから」
常世のモノが人の子に関わり続けても、良いことなど一つもない。育つほどに、己は柵になる。分かっている。分かっていて、なお。
――私はどうなっても構いません。村の恩に報いたいのです。
ふいに、あの声が滲んだ。
雨を乞うて、その身が溶けるのも厭わなかった鳥の話。あれを語った娘の声で。
(……己も、大概だな)
溶けていくと知って、己はなお、雨を願うのか。
「あと、あなたに学ばせてもらいたいなと、思って」
「……何を?」
「この子との接し方です。あなたに、懐いているのですね。初めて見ましたよ。こっちに手足を、必死に伸ばしている姿なんて。どうやって仲良くなったのですか? 羨ましいです……」
中村は、小さくため息をついた。
相手にするのも馬鹿らしく、無視をして赤子へ視線を戻す。
(別に、仲良くはない。ただ……)
脳裏に、死の間際のことが過った。
玉依良は、己が零した言葉を、叶えに来たのだろうか。あの頷きは、その意味だったのだろうか。
(……己が、月から引きずり下ろしただけだ)
赤子は既に、静かに寝息を立てていた。小さな手は、眠ってなお、こちらへ向かって伸ばしかけたままだった。
*
「き、きりゅっ! きーりゅ!」
季節が一巡した。
赤子は、ちょこまかと動き回るようになる。
珠依――何の因果か、玉依良と似た字を持つ、その名がつけられた赤子は、己の頭上へ必死に手を伸ばす。
珠依と名付けたのは己ではない。中村の夫婦二人がつけた。
当然、玉依良の話などするわけがない。願いを込めた文字を厳選した結果、その二文字となり、読み方を決めたのだとか。
偶然か、はたまたこの娘が手繰り寄せた名であるか、知る由もないが。
珠依が触れようとしているのは、ちょうど角の生えていた位置だ。人の世で、角など生やしたままではいられない。隠しているのだが、やはり意図を持って、そこに触れようとしている。
「留守をありがとうございます、霧生さん。珠依の最近のお気に入りは、霧生さんの髪なのね」
中村葵が、玄関先に荷物を並べながら言う。珠依は応えるように小さく笑い声を上げ、また頭を触ろうと、腕の中で暴れ始めた。
電話が鳴ったので顔を上げると、葵が「そのままで良いから」と言うように手を振り、音の方へと掛けていく。
(何をしているのだろう、己は)
あのまま、離れの提案を受け入れてしまった。
このように、赤子の世話や家事を、手伝いながら日々を生きている。
人間の中で、妖とは関わりない場所で生きるよう、この夫婦の元に押し付けたというのに。なぜ己は人間の子守をしている。なぜよりにもよって、手放したものを腕に抱えているのだ。
「んむうう……」
珠依はまだ諦めず、その短い手を伸ばし身を乗り出す。
ふくふくとした薄紅色の頬が、息を弾ませる度にぴくぴくと動く。片手で挟み込むと、くるりとした黒目が驚いたように己に向いた。
泣き出すだろうかと一瞬思ったものの、己の手はふにふにと、餅に似た感触に浸る。
しかし、杞憂に終わった。珠依はまた、角に手を伸ばそうとし始める。
この子は、あまり泣かない。ただ、月を見ると、火がついたように怯えて泣き出すのだ。
不安定な己の膝の上に立っているというのに、気にせずひたすら上へと手を伸ばそうと、小さな体をこれでもかと伸ばす。
つるっと足が己の脛で滑り、崩れ落ちたところを受け止める。そのまま、珠依をくるりと反転させ、膝の上に座らせて収める。
頭を触れさせなかったことに拗ねるかと思ったが、珠依は嬉しそうに、膝の上で手足をばたばたと動かした。
「霧生さん、弁護士の吉田先生からです」
葵が受話器を持ちながら戻ってきた。
「就籍の手続き、通ったとのご連絡でした。ひとまず、手続きや確認事項があるので、来週の水曜日どうですか? とのことです。その日、珠依の縁組の手続きに事務所へ伺うので、それと一緒に」
「はい。お願いします」
考えるより先に、口が答えていた。
「はい。では、そのようにお返事しますね」
葵がまた受話器を耳に戻すのを、ただ眺める。引き返す道が、一つずつ塞がっていくのを、止める気が起きないのだ。
「あっ、あ! ちょうちょ! ちょちょ!」
珠依が、嬉しそうに声を上げる。黄色の蝶が、縁側から中へ入ってきたらしい。
ただの笑い声であるはずが、何か大きく変えようとする波のように感じた。何ともいえぬ奇妙な心地だった。
(お前はやはり、柵に囚われるのだな)
月から引きずり下ろした鬼神という、厄介な柵に。
*
弁護士事務所の一室に通されたが、一人天井を見上げる他ない。出された茶を一口飲んだが、残りを今、口に含んでしまえば更にやることがなくなる。最後の一口は、とっておくしかない。
中村たちが珠依の手続きに入っているので、その珠依も一緒に、別室にいる。
暇など、千年以上も持て余していたというのに。なぜか、手持ち無沙汰な状況に、落ち着きがなくなっている。
先から、机上の用紙と、ボールペンと目は合っている。以前訪れた際、来客用のものであると事務員が話していたので、己が拝借してもよいものではある。
珠依と関わって以降、書き留める習慣がつき始めたせいか、書く衝動が疼くようになった。ただ、今ここで書くべきものが思いつかない。
とりあえず、一枚抜き取る。
ペン先を紙に下ろし、インクが滲み――そこで手が止まった。やはり、何か内側から噴き出すような衝動があるものの、その正体が分かっていなかったのだ。
茶碗にボールペンの頭がぶつかり、りんと澄んだ音が響いた。器の中で茶の水紋が静かに広がる。
息を一つ吐き、ゆっくりと熱に浮かされるような感覚を抑える。
――昔むかし、あるところに声を持たない泉がありました。
玉依良の声が、囁く。
その泉の話は、好きになれなかった。溢れるほど湛えていながら、誰にも注げず、ただ己を満たすだけの水。あれは、語り部のことだと、気づいてしまったからだ。
なのに今でも、一言一句、違えずに思い出せる。
ばらばらに漂っていた思考が、音もなく沈んでいく。底に触れた、という感触だけが残った。
――声を持たぬ泉はただ静かに、水を湛えていた。流れ出る場所もなく溢れる清水を。
頭に言葉が浮き出す。突き動かされるように、それを紙へと移す。
――泉は声を持たずとも雄弁であった。声の代わりに清水を湧かせ、己を満たし続ける。
ただひたすら、器の中に完成した水模様を、逸る気とせめぎ合いながら、言葉を紡ぐ。日記とは違う。この妙な気の高まりは、味わったことがない。
それは、己の全てを塗り替えてしまうような、そんな感覚へ誘った。
「霧生さん」
ぷつりと、目の前に映っていたはずの泉が、ただの走り書きの文字へと変わった。
声の方へ目を向けると、何度か顔を合わせている弁護士の人間が、こちらを見ていた。
「お待たせしました……何か熱心に書かれていたようですが」
ちらりと、紙へと視線を寄越す人間につられ、もう一度、己がつい先までしがみつくようにしていた物に、目を落とす。
泉は目の前から消え去ったが、まだ脳裏にいる。ただ、己の手の下の紙は、急につまらぬものへと変わったような気が起きた。
「……別に、もういい。捨てておいてください」
弁護士は戸惑っているようだったが、冊子の中にそれを滑らせると、付いてくるよう促した。
泉はまだ己の中にいる。しかし、他のモノで蓋をするように、奥へ押し込まれるようにして、遠ざかっていく。それが何であるか、この時はまだ、はっきりとは分からなかった。
*
手続きを終えて、人間の身分を手に入れた。
一月ほど経つが、それ以前と変わりはない。しかし、これで己はここを離れる機会を失ってしまった。
(つくづく何をしているのだ、己は)
珠依は今日も、己の膝の上に収まり、ご機嫌な様子で手足をばたつかせている。
「悔しいなあ。やっぱり、一緒にいる時間の差なのかな……」
非番の中村誠司が、恨めしげに珠依を眺める。
「夜は一緒に寝ているけど。やっぱり昼の時間が大切なのかな……」
中村はため息をつきながら、シャボン玉――息を吹きかけ、泡を飛ばす遊びをしてみせると、珠依は笑い声を上げながら、それに手を伸ばした。
玄関の方から、人の声がする。「球根を分けてもらいに行ってくる」と、近所へ出掛けた中村葵の声も聞こえる。
「おや。お客さんかな」
猫撫で声で珠依に一言断ると、中村は庭を回って、玄関へと向かった。
養父の姿が見えなくなると、珠依は身を捩って後ろを向き、己の髪を掴もうと手を伸ばす。
一度でも、角に触れれば気が済むのだろうか。珠依は諦めず、肩に手をかけて更に身を乗り出す。
「あ、霧生さん。今、弁護士の吉田先生と、新聞社の方がいらしていて……珠依、何してるの?」
中村誠司は慌てたように、己の髪を引っ張ろうとする彼女に近づいたが、別に構わないと目配せをした。
「お邪魔します……霧生さん。急にお訪ねしてしまい、申し訳ありません」
一人は、ついこの間の弁護士。もう一人は知らぬ顔だった。
「先日は、ありがとうございました。そして、この度は大変、申し訳ございませんでした!」
弁護士が、頭を深く下げた。声に驚いたのか、珠依がわずかに強張ったので、その隙に抱え直し、胡座の隙間に座らせる。
「吉田先生。いったい……」
中村たちが、困惑したように弁護士に視線を向ける。
二人の顔色を見て、ようやく何を言おうとしているのかが、分かった。
「ああ……別に、謝罪することでもな――」
「いいえ。法に携わる者としては不適切な行為でした。大変申し訳ございませんでした」
弁護士の頭がさらに深く沈んだ。
十日ほど前。事務所に置いていったあの走り書きの中身を、勝手に読んでしまった、知人にも過失で見せてしまったという、心底どうでもよいことを、この人間は少し前に電話で謝ってきたのだ。
ただ、あの中身を気に入ったから、それについて相談したいので、伺いたい、と言っていたことを、今になって思い出した。
「こちらは、私の知人でして」
「初めまして。大和新聞の池田と申します」
渡された小さな紙切れ――名刺を差し出されたので、それを受け取る。珠依が、興味ありげに見つめたので紅葉のような手に握らせると、右上に描かれた紋章をじっと見つめだした。
池田と名乗った男に視線を戻すと、訝しげにこちらを見つめている。
「……何か」
「あ、いや……あの文章を書かれた方と聞いていたので。かなり若い方で、驚いてしまって……」
男は一つ咳払いをすると、言葉を選ぶように間を置いた。
「あの、こちら……とても幻想的で、叙情的な作品でした。なかなか眠れず、結局寝たのは明け方で……おまけに、泉になった夢まで見てしまったんです!」
やけに、しん、と静まりかえった。
弁護士の吉田が、軽く池田の肘を小突く。
「色々と、言葉が足りねえよ」
「あ、失礼しました……いやあ、だって、あの文の前では、語彙力もなくなるって」
吉田が再び小突くと、池田はもう一度咳払いをした。
「えっと、改めて。こちら、とても、大変感激いたしました。深い意識の中に言葉が入り込むような感覚で、このような文章が書ける人がいるのかと、大変驚きました」
池田は一つ息をつくと、勢いよく頭を下げた。
「不躾は承知です。ですが、続きを読めないまま一生を終えるのが、どうにも惜しくて。吉田先生に頭を下げて、ここまで参りました。こちらの作品の続きを、書いていただくことは出来ませんでしょうか」
「……は?」
「こちらの作品を是非、うちの紙面の短編小説として、掲載させていただきたい、などとも考えてしまっています」
あのような、勢いに任せて書き殴ったものを気に入る人間がいるとは。変な奴もいるものだ。
「ご検討いただけないでしょうか?」
「あんなものを?」
「あれほどのもの、です。どうか、お考えいただけないでしょうか?」
「別に構わないが」
そう答えるや否や、池田と吉田の顔が、妙に生き生きとしたものに変わった。
泉の行く末をまだ描き切れていない。書くのは別に構わない。それに、手元に置いておくものでもない。
うつらうつらとし始めた珠依を抱えながら、気づけば指先で、小さな背を緩く叩いていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
"人間"として、とんとん拍子に進む霧雨でしたが、もんもんといてしますね。
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次回は【6/30 12:00頃】に更新予定です。
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