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鏡の中の怪物

「それでエリオット陛下。話していただきましょうか。あれはわざとですか?」

 エルヴィスの冷徹な厳しい声に、違うとエリオットは首を振った。

 いつものお茶会の一室に入り、一息をつく。紅茶が注がれ、甘いお菓子が並んだ。部屋が芳醇な香りと甘い匂いに満たされる。

「本当に違うんだ。信じてくれ」

「アマーリエにフィリップ殿下に会ってほしくて仕組んだのではないと?」

「勿論だ……!」

 エリオットは蒼白になって否定する。マルグリットを観れば、ユリウスを抱きながら、疲れ果てたような表情になっていた。

「しかし、あの場所にフィリップ殿下はいらした。誰の差配でしょう」

「知らぬ……いや、しかし、アマーリエ夫人は気丈だな。あんな場面を見ても怯まないとは……」

「エリオット陛下」

 エルヴィスの冷たい声に、エリオットは肩を落とした。実際困っているのだ、と彼は零す。

「陛下、フィリップ殿下に教育は施していらっしゃいますか?」

「教育!? するだけ無駄だろう」

「いいえ、フィリップ殿下には知性があります。きちんと、教育を行うことと、愛情を持って接する方が必要です」

「アマーリエ夫人。あなたも見ただろう。あの子に愛情を持つのは無理だ」

「そんな……お父上の陛下がそんなことをおっしゃっては……」

 エリオットは首を振る。

「あれを見ていると、自分の腐った中身を鏡で見せられているようで吐き気がするんだ。……できれば私も父親なんて役目からは解放してもらいたいよ……」

 それは一国の王というより、疲れ果てたひとりの父親の声だった。

「そんな……!」

 アマーリエはギリと奥歯を噛み締める。フィリップは叩こうと思えばアマーリエを叩けた。それを躊躇した指先の震えをアマーリエは見ている。フィリップに必要なのは、根気強い教育と、愛情だとアマーリエは思う。

「かあしゃま」

 ドレスを引くクラウスの声にはっとして腕に抱く。フィリップの暴走がクラウスに向いたとしたら。クラウスにもしものことがあったらと思うと、安易に引き受けることはできない。

 それでも。

「お願いします、陛下。フィリップ殿下に教育をつけさせてあげてください」

「考えては見るが……無理だろうと思う」

「アマーリエ夫人は、クラウスさまという可愛い継子を持ってうらやましいですわ……」

 マルグリットは疲れ切った声で言うと、震える手でユリウスを抱きしめた。ユリウスは恐怖で凍りついたようにぴくりとも動かない。

 部屋に満ちた芳醇な紅茶の香りは既に冷めている。

 アマーリエはその言葉になにも言うことができなかった。

 クラウスをぎゅっと抱きしめる。抱きしめた身体はずっしりと重く、温かかった。

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