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11.観劇と真意①

「観劇、ですか?」


リリアとの約束の期限まであと少しとなった。


三人でカフェに行って以来、ウィリアム様は学園がお休みの日は決まって我が家に訪れるようになった。リリアも同席して過ごす時間が格段に増えたわ。ウィリアム様の表情もずいぶんと柔らかくなった。私の病状は悪化の一途を辿っているけれど。


と、いうかウィリアム様に遭遇する機会が物凄く増えた気がするの。リリア本人に会った事があるウィリアム様に、学園で会うのは色々面倒なので避けているのに気がつけば視界に入っているの。ウィリアム様には生き別れた双子の兄弟がいるか、超魔術が使えるに違いないわ。


さて、今日も今日とて五月蝿い心臓を隠しながらウィリアム様とお茶を楽しんでいる。お茶菓子が山と盛られるのは、もう見慣れた光景ね。


「あぁ、実は良い席のチケットを貰ったんだ。」


王宮に近くに建つ歌劇場に行くことは、貴族のステータスであり憧れなの。夜は大人の皆様が楽しむ場だけれど、お昼や夕方の観劇は私たちのような年代に人気のスポットよ。


「わぁ!素敵じゃないですか。お義姉様、ぜひ行ってらしてください。」

「?リリアは一緒じゃないの?」

「えぇ?…っと、その日はお友達と出かける予定があるんです!」


近頃リリアはよくお友達と過ごすようになったわ。ウィリアム様と三人で出掛けても、お友達と会うだとか、お友達へのお土産を買うだとか言って、帰りは別々になる事がほとんどなの。とても喜ばしい半面、少しだけ寂しい気持ちになってしまう。


「ウィリアム様、私だけでもよろしいですか?お日にちはずらせないのかしら……。」

「勿論だ!」

「お義姉様、頂いたチケットの変更は難しいと思いますよ?」

「そうだな!折角のチケットを無駄にはしたくないし!」

「ええ、是非!私の事は気にせず行ってらしてください!」


二人にそう言われ、初めてウィリアム様と二人で出掛ける事になった。そういえば初めてだわ!どうしようかしら、何を着て行ったらいいの!?


ウィリアム様が帰った後、はたと気づいて慌て始めた私の部屋に天使がやって来た。


「お義姉様!今日はお義姉様の着せ替えをしましょう!」

「リリア様、クローゼットはこちらです。」

「ありがとうございます!アンリさんも手伝ってくれますか?」

「仰せのままに。」


いつもと立場が逆転した着せ替え大会は、その日の夜遅くまで続いた。不思議と疲れは全くなかったけれど、慣れない事をしたせいか、終始そわそわしていたわ。


そうしてやって来た約束の日。私はリリア監修のもと、アンリの手によってかなり早い段階から磨きあげられた。


ドレスは気恥ずかしくて袖を通してこなかった、淡い落ち着いた色のピンク。袖口は繊細なレースで彩られ、所々に小花の刺繍で装飾されている。胸元を隠すようにレースがあしらわれているいるけど、薄っすら透けて見える、私には珍しい大人可愛いタイプのドレスよ。


毎晩花の蜜でブラッシングされた黒髪は艶が増していて、念入りにマッサージされた肌はいつもより数段滑らか。ついでにいい香りもする。今日はいつもは下ろしている髪を結い上げた。リリアとアンリが「うなじ!後れ毛!」と騒いでいたわ。


化粧は控えめに、けれど唇には艶の出る紅をのせた。アクセサリーは婚約の時に頂いたサファイアの髪飾りに小ぶりのイヤリングを合わせたわ。


手袋を着け、ウィリアム様を待つ。早くからの支度で疲れたのか息が切れたようね。知らなかったけれど、お洒落を頑張るのは運動をするのと同じくらい大変なのね。もうずっと胸のドキドキがたまらないわ。ちょっとした酸欠よ。ゼェゼェ。


そして約束の時間より少し早く、ウィリアム様を乗せた馬車が入って来るのが窓から見えた。急いでエントランスへ続く階段を降りる途中で、危うく転げ落ちそうになる。


───どうしましょう。私の命日は今日になるかもしれないわ。


普段のウィリアム様は白と黒のオーソドックスな服か、学園の制服を着ている印象しかなかった。髪は無造作でタイは外していることが多い。勿論、育ちの良い彼が優雅さを損なうことはないけれど、どちらかと言えば服装には頓着しないほうだと思っていたわ。


それが今日は青みがかったグレーのジャケットとパンツ、落ち着いた水色のベストに、しっかりとタイを締めて手にはハットまで持っている。いつもは無造作な髪も今日は整えられ、胸元にはさりげなくエメラルドのブローチが着けている。


つまり、いつもの三割増しで格好がいい。


そう認識した途端、私の心臓が爆音を立て始めた。こんな時に発作なの!?お願いだからおさまって!


私は呼吸に集中して、何とか無事階段を降りた。


「ウィリアム様、今日はよろしくお願い致します。」

「…あ、あぁ。こちらこそ、クレア嬢。」

「あら!ウィリアム様、デートに行くのにそんな他人行儀じゃ変ですよ?お義姉様をクレアと呼んではいかがです?」


突如登場したリリアが明るく声を掛けてきた。


デート!好意を持っている男女が、日時を決めて行動を共にするというアレね!ん?好意……?


そこまで考えた私はウィリアム様を見て息を飲んだ。


どうしてそんな複雑な表情でリリアを見ていているの───?


そして私へ視線を移した時には、眉間に物凄い皺を寄せていた。


「行こうか…………クレア。」


名前を呼ばれて嬉しいのに、小さな違和感が邪魔をする。胸の奥で心臓が鳴っているけど、さっきとは音が違う気がするの。でも、今日だけは何にも気づかないフリをしたいと、知らない自分が囁いている。


「はい。リリア、行ってくるわね。」

「いってらっしゃいませ!楽しんできてくださいね!」


何故かリリアの顔を正面から見ることは出来なかった。


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