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10.遺書

“お父様 いつも優しくてちょっと頼りないけど、仕事に関してだけはとてもとても尊敬していました。お母様の言う事をよく聞いて、どうか長生きしてくださいね。お父様の娘で幸せでした。どうもありがとう。


お母様 私はお母様にとてもよく似ていると思うの。お母様の温かさは感じていました。お父様で遊ぶのは程々に仲良く暮らして下さいね。お母様の娘で幸せでした。どうもありがとう。”


私は今、遺書を書き始めている。と言うのも、実は病状が思わしくない。たぶん、もう長くないと思う。自分の事だもの、自分が一番よく分かるでしょう?


念の為、子供の頃からお世話になっているお医者様に診てもらったわ。お母様の親戚にあたるその方は口数は少ないし無表情だけど腕は確かなの。家族に心配をかけたくなかった私は、密かに彼を訪ねた。


「脈拍が異常に早くなったり、胸が痛くなったりするんです。熱が出る時もあります。」

「常にですか?」

「前は休みの日が多かったですが、今は学園にいる時も症状が出るのです。」

「症状が出る時にしている事などは?」

「これと言って特に。」

「…休日はどなたと過ごされますか?」

「ここ最近はリリアと婚約者のウィリアム様といることが多いです。」

「リリア様とお二人の時、症状が出たことは?」

「ありませんわ。」

「…………。」


お医者様は眉間の皺をしきりにこすり始めた。たくさんある病気から、的確な物を絞り出すのは大変だものね。


「…え~ごほん、他に症状は?」

「実はかなり深刻なのですけど…。」

「はい。」

「私の心臓が体内を移動するのです!」

「……はい?」

「先日ウィリアム様に手を触れられた時、心臓が手に移動しましたの!」

「…成程?」

「それに心臓の数が増えているようなのです。身体中に心臓があって耳元で鼓動が聞こえる時もあるのです!」

「…っごほごほごほおぉ!」


余程の奇病だったのか、お医者様は下を向いて咳き込み始めた。あぁ、やっぱり、思わしくないのね…。


「先生、どうか誤魔化さずに仰ってください。いつまで大丈夫でしょうか?」

「…時がくれば分かります。無理をせず、日々を大切にお過ごしください。」


お医者様はそう言ってくれた。ボソリと「若いとはいいですね」とも言っていたから、まだ少しの猶予はあるとは思うけど、死期はそう遠くないのだと思う。


「お嬢様、何を書いているんですか?」


アンリに声を掛けられ、はっとした。何度も書き直していたから気づかなかったけれど、もう部屋は暗くなってきている。


「アンリ…。」


誰にも心配かけたくなかったけれど、秘密にするのも辛くなっていた。アンリは私が子供の頃からお世話になっている姉とも言える大切な存在だ。


「実はね。」


ソファに移動し向かい合った私は、彼女に全てを話した。これまでの病状からお医者様の言葉まで。少し長くなってしまったけど、アンリは何も言わず聞いてくれたわ。


「お嬢様っ…。」


全てを聞き終えたアンリは下を向いて肩を震わせ始めた。心優しい彼女を泣かせてしまったわ。でも、誰かが悲しんでくれるって嬉しいものなのね。


「アンリも今まで本当にありがとう。今ね、家族に遺書を書いているところなの。改まって感謝を書こうとすると難しいものね。」

「…ふっ。病は気からと申しますし、遺書はまだ書かない方が宜しいかと。ふふっ。誰かに見られたら、んん!大変ですし…ひっ。」


アンリは嗚咽を抑えながら、そう話してくれた。そして「何か飲み物を持って参ります。」と部屋を出ていった。その顔は真っ赤で目には涙が浮かんでいたわ。


部屋を出た途端「ぶはっ!───ひぃっひひ、ごほごほごほ!」と独特のむせ方をしていたのは、聞かなかった事にしてあげる。その後、紅茶を持ってきてくれたのは、いつもの彼女だった。


アンリには止めるよう言われたけど、備えは必要だと思った私は遺書を書き上げた。でも誰かに見られたら心配されるのは確かね。


悩んだ私は遺書入れた封筒の表に“私が死んだら開けるように”という意味の言葉を、直接的ではない表現で記入する事にした。これならパッと見は分からないから大丈夫ね。後はお医者様の言っていたように、日々を大切に過ごそうと決めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 公爵家に使える侍女や医師でもこれには流石に耐え切れないw
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