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20/21

にじゅう。

ようやく、投稿できました~。

次も頑張ります!

修正いたしました。29.3.5

 

 今日も花嫁修行と言う事情を伏せてアーリは刺繍を、イルグルムはその隣ではらはらと警戒する。


 肩の力が抜けないアーリの一針は誰が見てもはらはらさせられ、しかし横から口を挟めば力んだまま動く手元を見ずに振り向くのだから口出しも手出しも出来ない。


 心配で堪らないと視線だけでイルグルムに何とかしろと送るミシィは離れたところで今日もやきもきしていた。


 今日はようやくアーリに“ 魔術 ”について話す予定だったのだが刺繍がなかなか上達しないアーリはどうしても、とイルグルムに懇願したのだ。


 アーリと一緒にいられるイルグルムに与えられた時間は半日だけだが、眉尻を下げてお願いされてしまってはイルグルムも駄目とは言えなかった。


 妥協点としてハンカチーフの小さな布にしっかり描かれた図案の、花の中心である小さな円の部分だけと範囲を決めてアーリに付き合ったのだがこれがなかなか進まない。


 じぃっと図案がしっかり描かれた布を手に見ていたと思えば気合いの入った一針がアーリの手元で行われる。


 はらはらとイルグルムもミシィも見つめるが見ているだけはやはり落ち着くはずがなかった。


 と言うわけで、早々にイルグルムはアーリの両手から布と刺繍針を奪い自ら手本を見せる事にしたのだ。


 悲しきかな。禁忌の犠牲者は人から嫌厭されていたがために自分の事は自分でしなくてはならなかった。特に肌に触れていたものは。


 着替えはもちろん、魔力を帯びた衣服は誰にも触れない。採寸も出来るわけがなく自分で計りそれまでちょっとした繕い物は自分でやるしかなかった。刺繍は初めてだが縫い物ならば大体わかる。



「手にも、肩にも、力は必要ない必要なのは――……集中力」

「真心です」



 すかさずミシィが控えている場所から声を送る。いっそミシィが手ずから教えればいいのに……などとは口にしないが仮面越しに訴えてみる。が。


 仮面なので表情がわかりませんとでも言うようにミシィはそのまま。視線をすべて受け流し控え続けた。


 絶対にわかって言っているのだろう?


 思わず片方の眉が上がるが仮面を付けているので誰もそれを指摘するものはいない。


 イルグルムと刺繍と布を交互に見るアーリに負けて刺繍を再開するしかなかった。



「真心が必要らしい」

「真心……思うのだけど、真心を込めた物ってどうやって伝わるのかしら?」

「さあ……相手によるだろう」



 さすがにわからない。イルグルムも首を捻ってゆっくりと刺繍を教える。


 そんな二人を見ていたミシィは心の中で色々と叫んだ。


 まさかアーリの口から『真心』の有無を聞いてくるのだ。贈り物をする時に感謝の想いを込めて渡す習慣がなかった事が窺えて衝撃を受ける。



(その渡す行為で伝わる、伝えられるものがあるでしょう!?)



 実はアーリが指した刺繍のハンカチーフはイルグルムにプレゼントするよう仕向ける計画を立てていたのだ。


 歪な刺繍でもそれは個性だし唯一無二のそれを“ あげる ”行為と“ 貰う ”行為がそこで起きればそこからまた二人の関係に少し変化をもたらすのだと思っていた。


 アーリならきっと恥ずかしながら渡すだろうしイルグルムも初めてとなるプレゼントにきっとアーリを意識すると……



(物語が進む、はず。そう、真心がこもった贈り物は少なからず意識するはず!なのにっ)



 この二人ときたら頭を付き合わせほとんどの距離を縮めているのにも関わらず静かにイルグルムの刺繍を見ているだけ。


 アーリが一度だけ顔をあげたが視線を元に戻して音沙汰はない。おかしい……ミシィからはすべてがよく見える配置に控えている。


 のにも関わらず、イルグルムは黙々と刺繍。アーリはそれをじっと見るだけ。頬が仄かに赤いが……


 ときめきの欠片もない。


 こんなもどかしい二人のちょっとはにかんだ態度を間近で伺える機会などなかなかないのに……いっそ背中を押してしまおうか、などと考えてミシィはげんなりした。


 仮面が邪魔すぎて恋愛のれの字も感じられない。だからミシィは新たな作戦の遂行を決意する。明日から。


 椅子では距離をもっと縮められないので体が触れられる可能性が大いにあるソファーを用意しよう。アーリに触れているとイルグルムの魔力が出てこないのでどこかに触れさせて仮面を外すように言おう。


 これは今後のためを思いやらなければならない事である。そう。二人を相思相愛にするために!



(素顔を隠す仮面はいらないのよ!!アーリ様、もっとイルグルムに迫ってもいいんですよ!!)



 そんなミシィの内情など知るはずもない二人は無言でチクチクと進む針に釘付けで……先ほどお願いした範囲は終わってしまった。


 本当にときめきもへったくれもない。



「すごいわ。私だとどこを指せばいいのか分からなくて怖いのに」

「指の隙間で感覚を取ればいい。あと、針は全体を握るように出来るだけ先端の近く持つといいと思う」



 それなら針の全体を握っているので危なくはない。指先が少し出るようにして握れば恐怖も薄れるだろう。少しだけ元気かないアーリにもっともな助言を言うイルグルム。アーリが気を落としているのだが気づくわけがなかった。


 ミシィを呼んで刺繍の片付けを終わらせるとようやく授業が始まる。傍らにティーカップとお菓子が置いてあるが勉強に支障はないのでこのまま行うのが二人の勉強スタイルだ。



「魔術の説明はいるか?」

「ええと、本で読みました」



 魔術とは、神の言霊と知られている。この世界を作りし神は世界にあらゆる可能性を実現させた。


 学ぶ手助けを眷属と化した精霊に託し、産み出す自由を与える。


 誰もが魔力を捉え認識した頃――意思あるものは願った。神と精霊に近しい存在になりたい、と。


 あらゆる『火』を。『水』を。『風』を。『土』を扱い自由をもっと充実に。


 神は教える。産み出された愛しの子らに、自由を与え求めた彼らに魔術を。神の言霊に従うのなら、力を分けてあげましょう。


 魔力を糧に意思を強く持ちなさい。具現する魔術の像をしっかり描き理解しなさい。


 それはどのようなもので、どのような形で、どのような役割で、どのように必要で、どのようにか、想像しなさい。


 出来たならその者に言霊を贈りましょう。浮かび上がる言霊に声を乗せ吟いなさい。



「覚えたのか?」

「ミシィの教えがとてもまとまっていて、覚えやすかったの。魔術って、凄いのね。魔力さえあれば想像してそれを強く思い描くだけで形になる」

「だがそれに制限があるぞ?」

「それでもほんの少しの魔術のおかげで生きられる。助けになる」



 水に困らないのは嬉しいね、とアーリは笑った。


 どうしてそんなに嬉しそうなのかイルグルムには分からなかったが、はにかみながら言うアーリの言葉になるほど、と納得する。そして――まさか、とも。


 水さえあれば数日の飢えを凌げる。


 まさかアーリは……と考え、仮面をしているのにも関わらずアーリは分かっているとでと言うように否定した。


 雰囲気でも読み取ったのだろうか?「違いますからね?」の後に続く言葉は自分ではなく、アーリの世界で貧しい暮らしをしているだろうその人たちの事を思ったことなのだと。


 アーリの話を聞いていたイルグルムは驚いた。地球と言う暮らしでは誰もが教養に等しく進んでいる世界だと認識していたからだ。


 しかし聞いてみるとやはり貧しい暮らしをしている国もあるようだ。その昔は差別もあったし、ある国では奴隷もあったと。


 どの世界でも似たようなもので、こちらの世界には階級制度がある。


 王を筆頭に貴族たち。その下が兵士。続いて平民(冒険者)のここまでが人それぞれではあるが普通の生活基準を得られる民。そして、慎ましい生活を送らずにはいられない奴隷だ。


 もちろんこの奴隷制度は借金と犯罪奴隷に限る。


 借金奴隷は奴隷契約が細かく普通より少ない賃金を本人次第で上乗せ出来る契約がある。もちろん普通の平民より高額にはならないが。少なくともこれにより借金奴隷からの解放率はかなり高い。余程の高額でなければ奴隷で一生を終えることはないだろう。


 だが犯罪奴隷だけは奴隷から抜け出せない。彼らはもっぱら鉱山へ送り込まれ死ぬまで発掘だ。


 しかし近年では借金奴隷が(いい事なのだが)少なくなり、奴隷商の商売が成り立たなくなってきた。そのおかげで借金奴隷を作ろうと画策する者たちが増え今では衛兵の仕事が多発したと報告を受けている。



「奴隷、いるのね。でも――思ったより酷い扱いじゃないのね」

「……奴隷はな」



 もっと酷い扱いを知っている。もっと辛い事を知っている。


 何を言おうとしたのか、イルグルムは恐ろしくなり仮面を押さえ付けた。


 自分はなぜこの事をアーリに喋りかけたのか分かってはいないのだが、咄嗟に自分の待遇を話そうとして止めた。


 突然仮面を押さえつけたイルグルムに怪訝な表情でアーリは見返すが何でもないと返せばすぐに素知らぬふりをする。


 いつか話す時が、話す機会があるのだろうか――


 少しだけもやもやしながらイルグルムは雑念を振り払い魔術の話に戻した。




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