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じゅうさん。

お久しぶりです!

これからまたちょいちょい書いていきますのでよろしくお願いします。

修正いたしました。28.11.6

 何をやっているのだろう。そんな気持ちもすぐに消え今はただ呆然とジークスは前を、イルグルムはアーリを見つめる。


 微かに聞こえていたアーリのか細い戸惑った声はイルグルムにもジークスにも届かなかった。


 当事者であるアーリを忘れて何をやっているんだ、と言われたら何も言い返せない。イルグルムは交差した黒い瞳を見つめる。


 顎が外れそうなほどだらしなく口を開けたジークスを呆けた顔そのままにイルグルムは脳内処理に勤しむ。


 まさか……手形を付けるように掌でイルグルムの顔面を叩くとは思わなかったのだ。当の本人はかなり動揺して落ちた仮面とイルグルムを交互に見ているが。


 仮面を着けていたから取りたくて顔面を狙われたのだろうか?それともジークスとうだうだ話し合っていたのが気に食わず殴ったのだろうか?


 他にも色々とよぎるが掴み取れなかったイルグルムの仮面はそのまま床に落ちたままだ。


 カランと音を立てた仮面はアーリの足元に。誰もがアーリの突飛な行動に動けず時が止まる。


 後ろに控えているミシィに何らかの動きがあったのだが今のイルグルムたちにはそこまで気を回せなかった。



「……あの、ごめん、なさい。で、でも、かこいいいですよ?なぜ?」



 静寂を破ったのはアーリ。彼女もまたイルグルムの素顔に焦点を合わせると呆然と見つめ固まり――やっと動いた小さな唇から疑問を口にする。


 はて。『かこいいい』とはなんだろうか。それとも『かこい』だろうか。


 なんとか思考が動くイルグルムは心の中で首を捻った。イルグルムの脳内で当てはまる単語を探すが今の状況を照らし合わせても答えが出てこなかったためだ。


 ほんのりと頬を染め始め動揺も始めたアーリはそろりと顔を反らすが――何も言わず見つめ続けるイルグルムに痺れを切らせてそろりと視線を戻し少し様子を伺う。


 ジークスは未だに固まったまま。イルグルムもまた動けないでいる。いや、動けない。脳内は色々と考えが駆け巡るのだがなぜか体は動かなかったのだ。


 とくにアーリの動作が様子を伺う小動物のようでなんとも言えぬ衝撃を受けていた。


 ジークスだって動けない。滅多に――むしろお目にかかる事がまず無理だろうと囁かれるイルグルムの素顔を見て体を動かすことを忘れてしまった。


 二度目となるイルグルムの素顔は『醜い』だろうと噂されていた顔ではない。まじまじとそれを見つめて分かることは『美形』だ。


 深い緑の瞳はローブの影によって青にも見える。横顔だと言うのに鼻筋のラインと輪郭がとて綺麗だ。アーリに唖然としポカリと開いた口だと言うのに間抜け面にならない。間違いなく美丈夫の顔立ち。


 ジークスの脳内でも色々な思いが駆け巡った。誰かに言いたいのに信じてもらえないだろうイルグルムの素顔。でも言いたい。いやしかし――ジークスの格闘はまだまだ続く。


 しばらくして――ミシィの咳払いによりなんとかイルグルムたちは動き出した。



「えっと、かこいいい?アーリ嬢、もう一度言ってくれ。なんと言ったんだ?」

「え」

「いや、師団長、そこ?仮面の方じゃなくて言葉の方!?むしろ魔力の方じゃないの!?て、あっ!?」



 そう言えば!と怯え悲鳴をあげるようにジークスが叫んだ。


 イルグルムは肌を晒すことによって魔力が漏れてしまうのだ。あまりにも濃すぎる(溢れる)魔力はどんなに高い魔力保持者でも昏倒させてしまう威力。いくら検討中だからと言ってそれを忘れるとは如何なものか。


 しかしその凶器とも言える魔力が漂ってこないのだからジークスが一人で騒ぎ出してしまう。


 手袋の境目を晒されただけで「っ、」と怯んでしまう魔力。手袋を脱げばジークスでさえも目眩を覚える。長く近くにいれば頭痛だって起きるのだ。


 だが、それがない。


 その結果はすべてイルグルムと手を繋ぐアーリがもたらされたもの――



「はっ!仕事しなきゃ!……えっとアーリ嬢。何か感じますか?」

「何か?感じ、る?」

「そうですねー。目眩などは?」

「?いいえ」

「頭痛や吐き気などは?」

「なにも……」

「本当に不調を感じないのか?……私の目を見て言ってほしい」



 やはり疑わずにはいられない。ずいずいと質問をするジークスに淡々と答えるのでイルグルムも確かめる。しかしイルグルムの質問にはなぜか目を反らし始めるアーリ。余計に疑わしくなった。


 どうなのだ?どうした?と質問をするたびに顔が近づき追い詰めているような姿なのだがこれは調査としてであり問題はない。イルグルムにとっては。


 アーリにとっては全くもって別である。こんな顔が整っている美形に何か問いかけるたびに逃がさないと言わんばかりに顔が近づいてくるのだ。


 アーリにとってイルグルムの素顔は『格好いい(かこいいい)』と言える整った顔。それを目と鼻の先ほどまで間近で見るなどアーリの人生にない。


 よほどの無関心でなければ世の女性には参ってしまうだろう。実際にアーリも照れて俯いてしまっているのだが。


 そこが分かっていないのが二人。イルグルムとジークスだ。イルグルムはどうして目を反らすのだろうか、もしかして嘘を言っているのではないのだろうかと疑問ばかり。ジークスは二人の問診を書き込みアーリが溢す症状を聞き逃さない!とばかりに真剣になるだけ。


 二人の頭の中はすでに気がかりでいっぱいである。そして



「あ、の……ちっ、近い」

「え?」

「あっ!あー!あぁあーあーあー!」



 アーリの限界だった。


 一目散に逃げるジークス。不思議がるイルグルム。真っ赤な顔のアーリ。後ろで小さな舌打ちが鳴る。


 あまりの心配にイルグルムは気づかなかった。目線を合わさないアーリの頬を捕らえその黒い瞳を覗き込むように近づいていた顔。その様子が端から見ればなんと親密なほどか。


 ようやく気づいたジークスも顔を真っ赤に後ずさるほどだ。第三者から見ても親密な距離と言えるのだろう。


 改め気づかされたイルグルムもまた気恥ずかしさに距離をとった。うっかり手までも離しそうになりジークスが叫ぶ。イルグルムもまた動揺していた。



「もう少しでしたのに」

「やっぱり二人はそう言う関係なんですね!僕は邪魔だったんじゃないですかあ!!」

「……ミシィ」

「なんですか。私の本音です」

「つまりイルグルム師団長は狙ってえ!?見せつけないで下さいよ僕だって彼女がほしいのに!!ミシィさんまで両手に花ってやつですね!」

「……ジークス。お前はもう少し状況を見ろ。何がどうしてそうなる」

「ジークスって面白いわよね。人の話を聞かなかったらここまで酷いなんて。私には夫がいるのだけどなぜあんな発想にいたるのかしら」

「人妻に手を出しちゃ駄目ですよ!」

「副官で大丈夫なの?」

「まあ、重宝している事が多い。半々か」



 本当なの?と疑うように冷たい視線でミシィは語りかける。久方ぶりに見るイルグルムの素顔にまったく動じない。



「まあいいわ。収集がつきそうにないから私も傍で控えさせてもらうわね。アーリ様、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。ちょっと恥ずかしい、だけ」



 まだ頬の熱はとれないらしい。ぱたぱたと手で扇ぎながら答えるアーリは未だに目線を外したまま答えた。


 ミシィが来てくれた事により安心したのだろう。イルグルムと触れている右手は緩やかに握られている。


 その後はミシィの仲介により問診はスムーズに出来るようになった。余計な茶々を入れてしまいそうになるジークスを叩く事数回。


 イルグルムが無意識にアーリを動揺させる事二回。そのため仮面はすぐさま付けられ無事、検査は終了した。



「では、血を。私は少し離れていよう。ミシィ、頼む」

「わかりました。アーリ様、こちらへ」

「……どうしても、血?」

「唾液でも構わない」

「髪、毛は?」

「体外では検査しても正確なものが出ない。体内のものが一番いい」

「わかった」



 やはり女性が血を抜くと言う行為は好まないのだろうか?魔術師であれば検査するのにどんな人間だろうが素直に採血していたので別段動揺するほどではない。


 この国は血で身分証の登録、家族の繋がりも証明するため自分の指などから少し血を流す行為は一般的だった。


 なのでアーリの反応にいまいち納得が出来ないイルグルム。


 やはり自ら血を流すのが怖いのだろうか?確かに好きなものはいないだろう。


 しかし検査なのだから別に恐れる事はない。その血を卑しい事に使うわけでもないのだ。イルグルムは少し離れた所から緊張に震えながらナイフを握るアーリを見た。


 指先を軽く撫でるだけなのだが……ぎゅっ、と力の限り握る手がすごく危なく見え隣のジークスもはらはらと見守る。


 隣から小さく「大丈夫かな?」「ああ、あんなに強くしなくても」と心配でたまらないとジークスの動きも怪しい。


 ミシィが代わりにやると言っているがアーリの決意はなぜか強く固かった。


 呼吸、目の焦点が正常で力みすぎのアーリ。やはり自分を傷つける行為に躊躇いがあるのだろう。



「えい!」

「っ――はぁ……」



 ……ジークスの発狂のおかげか、イルグルムはすごく冷静でいられた。


 とりあえずもう任せないでいいだろう。ミシィが咄嗟にどこから出したのか不明なトレイでガードしてくれたため手のひらに勢いよく刺さらなかったのだから。


 なんでアーリにそのままやらせてしまったのだろうか。少しだけ後悔したイルグルムだった。




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