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じゅういち。

修正いたしました。28.11.6


 

「し~だんちょーぉおおおおお!!!!」



 雄叫びが聞こえた。呼んだのはイルグルムなので止まらずに歩く。止まった方が危ない。下手に止まると衝突しかねないので、ジークスに呼ばれたからと足を止めてはならない。


 呼び止められているはずなのに顔を伺うことも止まることもしないこれはよくある事である。


 ばたばたと走る姿は見苦しいと咎められている行動は王宮では聞きなれない足音。それを気にせず鳴らして向こうから駆け出してくるのはイルグルムの副官を勤めるジークス・デルダン。


 子爵である彼は落ち着きがない。十七となれば、王宮で働くとなれば、周囲から逸脱しないために落ち着きは自然と身に付くとイルグルムは思っている。


 なんと言ったってこの王宮。貴族の頂点の根城に落ち着きなくはしゃぐと目立ち、口だけの貴族にねちねちと教育がどうこうと陰で叩かれる。


 それでもジークスはあっちでどたばた。こっちでどたばたと騒がしく……そういえば以前から彼の両親がどうしたら落ち着くのかを仲がいい貴族と相談しているらしい。そしてその相談がなぜか魔術師への問題へと書類が上がっている。


 個人への嘆願書を魔術師にふるな、と思ってしまうがジークスの所属が魔術師なのだから仕方がない。実際に騒がしい彼は研究員たちからかなり迷惑だと嫌みを隠すことなく告げられている。


 そしてその魔術師を束ねる師団長、イルグルムの副官となれば嫌がらせとして送るのも必然となってくるのだ。


 と言ってもジークスはあの人懐っこさとどたばたとした行動によって魔術師のイメージが緩和されているのだからイルグルムは処置するつもりはまったくなかった。馬鹿にされているとは思うが、これがまたイルグルムにとっても緩和作用をしているので咎めることはない。


 元々、魔術師と言う職種は邪険にされていた。今この国は大国となり豊かで民も潤っている。戦争がほとんどない平和なおかげで魔術師の使いどころはなくなってきていいるが昔は魔術師が必要で――だが、その魔術が受け入れられず魔術師以外からは悪評だったと言う。


 まだこの国が小国であった時。セルディーダ国は魔力だけが他国より豊富だった。


 魔力とは精霊の吐息である。吐息といっても本物の吐息ではない。一人一人の精霊が産み出す力が魔力と呼ばれ、どういうわけかセルディーダ国の極一部が精霊の好きな場所であり精霊の吐息の溜まり場となっているのだ。


 その影響は人に与えられ、魔力が豊富な人が生まれ、国は人も土地も魔力が豊富となっていた。そして――魔力が豊富となる代償に魔物も豊富で力も強い。


 そんな魔物に立ち向かうのは人であり、民を守るべく王が騎士と魔術師を集め軍を作り立ち向かう。だがここで騎士と魔術師に大きな溝ができた。


 騎士は基本的に最前線に出て剣を奮う。魔術師は基本にして後方に下がり魔術師を放つ。危険性と言えばもちろん騎士であり、魔術師は魔力が尽きればほぼ用がない。


 魔術を打つタイミングも一歩間違えれば味方に当たり、それは実際に起こっていて騎士と魔術師は犬猿の仲。


 しまいには魔術師の独断行動で魔物をねじ伏せ騎士はお払い箱扱い。民からは賛辞の言葉が贈られるが仲間内である騎士からは魔術師への評価は一気に地に堕ちた。


 今では平和な国であり騎士とも魔術師とも不干渉……とまではいかなくても普通にある。昔と今では状況が全く違うし、王がそれぞれの役割を決めてしまうのだから歯向かうものはいない。



「僕、もう限界です!!書類整理は飽きました!!僕も外の仕事がしたいです!!」

「部屋を片付けられたら頼むとしよう」

「無理ですね!でも今日は僕が必要なんですよね!頑張ります!!」



 だからジークスの態度はある意味で大切である。物静かな魔術師では気味が悪い。何にもはまらない魔術師がいれば少なからず印象が変わる。


 単なる馬鹿は必要ない。必要なのは場の雰囲気を一変にさせ人脈の歪みを繋ぎ会わせ、魔術師との間に中立の場を設けることが出来る人材。


 それを実行し諸々を払拭させているのがジークスだ。ただ理解力が少しだけ欠けているのでたまに相手側を怒らせているが。……主に書類方面で。


 しかしジークスがいるおかげでイルグルムは助かっているのだ。今まで書類関係はすべて魔術を使って転送。相手からの伝言は人を数人も挟み書類が届けられるかデュラミス宰相へ話を持っていき、デュラミス宰相から書類が届くか。


 魔力に当てられたくない。回りくどく死にたくない人間や関わりたくない人間の壁。ジークスが来てからずいぶんとやり易くなった。騒がしいジークスから一丁前にお小言が増えたが概ね関係が良好になっている。それでも、イルグルムを良しとするものはいないが……


 自分で取り合わず誰かがその役目を担ってくれるのだからいらぬ波風が立たずによかったとも言える。


 ただジークスの即答で無理とはなんだ。ジークスの手当たり次第に片付けてごった返した紙の山を分別してそれぞれの部署に届けるだけだろうに……イルグルムも久しぶりに頭を抱えたくなった。



「そういえばこの前の――」

「ジークス。黙って着いてこい」



 どうしても目立ってしまう。この場所にあまり人が通らなくてもだ。声の大きいジークスと入れば自然と周囲が見る。


 そして今から向かう場所は決して知られてはならぬ場所。ジークス以外に教える気は、ない。


 魔力によって周囲を探っているイルグルムはありとあらゆる気配を探って進んでいく。ジークスが騒がしかったので誰かがこちらに気づいていないか、だ。


 周囲1キロ圏内に範囲を広げておけば溜まって魔力が暴走することもないので実は常時行っている。念のために地下通路も交えて目的の場所へ目指した。


 そしてついた場所は王宮で一番奥まった一室。重要賓客専用のそこは限りられた人しか入れない。


 扉は二重で最初に陛下自ら選んだ護衛が四人。そこを潜り抜ければ次に洗練された従僕が二人。しっかりと誰が来るのかを確かめられ、中にようやく通される。あまりの厳重さにジークスが萎縮してしまっているがこれに慣れなければ上の役職にはつけない。


 軽くノックをしてやればすっと出てくるのはミシィだ。イルグルムの顔(仮面)を確認すればすぐに侍女としての礼をとって奥を促した。


 前々から話をしておいたので後ろに控えるジークスを連れても問題はない。ただ中へ入れば少し緊張をしている彼女が身を固くして立っていた。



「今日は前より話していた魔力を検査する。彼は助手として私の副官であるジークスだ」

「初めまして。デルダン子爵が子息、ジークス・デルダンです。お見知りおきを」

「アーリと、申す。よろしく、お願い、ます……あれ?」

「アーリ様。どこの騎士様ですか。誠に惜しいですね。“し”と“ま”が抜けていますよ」

「まだ長文、は、難しい」



 拗ねたように唇を小さく尖らせて。眉間をきゅっと寄せてアーリは唸った。まだすらすらと喋れなく、単語を繋ぎ合わせたようなそれはもう少しのところで完成しない。


 発音が難しいのかと問えばそれほどではないらしい。しかしいざ喋ると舌がもつれ文が切れてしまい――しかし意識はもう出来上がった台詞を言おうと止められず言えるところをそのまま言ってしまう、らしい。


 では止めれるようにすればいいじゃないかと言えば後にミシィから伝言でイルグルムに聞かされたのは会話を不用意に途切ると相手が変に思うかも知れないから恥ずかしいとの事だ。


 確かに会話が途切れるのなら少しおかしいとは思うが、それがなぜ恥ずかしいのだろうか。イルグルムがそれをミシィに訪ねれば目の前で盛大なため息を出されたとか。


 だが、対話が拙くてもミシィから学ばされている淑女の礼を完璧にやり遂げるアーリ。やはり元にいた場所ではそれなりの教養を教えられたのだろう。淑女の礼節に仕草や角度など細かいことはさすがのイルグルムには今一つだが、義母と見比べてもその動作は問題なく発揮されている。


 本当は礼儀作法と対話ができるならデュラミス宰相としては早く養子に迎えイルグルムとくっつかせるために画策してやりたいと考えていたが……しかしドルオット侯爵家の方がアーリを迎えるための準備がまだ出来ていないと夫人が嘆いたので未だ準備中だ。


 そんな事を何一つ知らないイルグルムはそれまで完璧に喋れるようにしなくてはと使命感が芽生えていたりする。



「アーリ嬢って可愛いですね!体は大丈夫ですか!?」

「体……?大丈夫、です」

「ジークスは何を言っているの、イルグルム」

「気にするだけ無駄だと言っておこう。私にも分からない」



 何となく――最初に出会った事を言っているのではないだろうな?と思考を巡らせるが騒がしいジークスは疑問を浮かべるアーリに次々とそれで、あれで、なんですよ!へへへ。と一人で話始めたのでさすがに止めなくてはと頭を叩いた。


 ぎゃっ!など言っているがアーリは初めてあった時のように警戒してしまっているので当然の報いだと思っておく。


 とりあえず――まずは本人に魔力があるのか、ないのか。もう一度確認する事から始まった。前回は無遠慮に口内へ指を突っ込むと言う荒業をしてしまったので、今回はしっかりと説明して事を進めたい。



「魔力を診るために、体内のものを採取したい。血液をくれないか」



 べしっ!!



「――、魔力を診るために体内から採取した物はその人物の唯一無二の物なので性質を見極めるために体液はもっとも検査の効率がいい。血液をくれないか」



 頭部が揺れ取れそうになった仮面を押さえつつ、イルグルムは言い切った。後ろからなぜか冷たい視線を感じてしまったが必要なのだから仕方がない。


 ジークスも必要なのだからと持ってきていた瓶と小さなナイフをアーリへ渡そうとする。どうぞ、と無邪気に押し付けるがアーリはなんとも微妙な顔で……若干ひきつっているように見えなくもない。


 しかもそれを後付けで「出来たら底一面に染まるくらいにほしい」と言われたらアーリの表情も困ったと訴えたくなるだろう。一滴や数滴だけでは駄目なのか……


 医者でもない全身を黒のローブで隠してさらには仮面までつけて素顔を隠していれば怪しい魔術師でしかない。むしろ魔術師を知らなければただの怪しい人だ。だがアーリの知人だ。検査だと分かっている。


 しかしアーリや女性からしてみれば自分で傷つけて血を採取するなど怖いではないか。痛いではないか。


 小瓶の底は赤ん坊の拳ぐらいか……ほんの少しだろう。ちょっとの切り傷でどう血が流れるのか。一滴一滴では気が休まらない。深ければきっとじくじくと痛い。


 そして――宥めようと近づいたイルグルムが一歩踏み出せばアーリとの距離が再び広がった。



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