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平日の5日間は完璧な他人。週末の2日間だけは、俺の部屋で「めちゃくちゃにして」と強請ってくる学校一の優等生。~あざとい後輩と、週休二日のナイショの夜を~   作者: 藤沢 淵
第1章:『学校では完璧な他人のフリ。だけど週末は、家賃4万の部屋でめちゃくちゃに甘えてくるあざとい後輩』
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第1話:平日の廊下では、ただの他人

学校の廊下ですれ違う時、俺たちは目を合わせない。


彼女はいつもスクールバッグを律儀に両手で持って、友達の輪の真ん中で楽しそうに笑っている。クラスの男子たちが「あいつマジで可愛い」と遠巻きに騒ぐような、絵に描いたような1年の優等生。それが、学校での彼女だ。


すれ違う一瞬、俺はただの「2個上の、名前も知らない先輩」のフリをして、歩く速度すら変えずに通り過ぎる。


誰も知らない。 週末の金曜日、あいつが学校指定のチェックスカートを脱ぎ捨てて、俺の部屋のベッドでどんな声を出して鳴くのか。


付き合っていない。ただの先輩と後輩。 平日の5日間は完璧な他人。だけど、週末の2日間だけは――夜の都合がいい関係。


学校から少し離れた、家賃4万のしけたワンルーム。 夕方、カギを開けて部屋に入り、制服のネクタイを緩めたところで、ポケットのスマホが短く震えた。


メッセージの送り主は、さっき廊下で俺を見向きもしなかったはずの、あの後輩。


『先輩、今から行きますね』


画面に表示されたのは、拍子抜けするほどあっさりとした、事務的な一言だけだった。 いつものあざとさはどこにいったんだよ、と心の中で毒づき、画面を閉じようとしたその時。


ぴこん、と続けて通知音が鳴った。


画面の向こうで、あいつが今まさに、どんな顔をして文字を打ち込んでいるのか。そのタイムラグを想像させる数秒の間を置いて、さらに一行、メッセージがスクロールしてくる。


『他人のフリするの、1週間が限界です……。先輩の部屋ついたら、学校で我慢したぶん、めちゃくちゃにしてくださいね?』


心臓が、嫌な跳ね方をした。 視覚から飛び込んできたあまりに直球な言葉に、一瞬で体温が跳ね上がる。


だが、あいつの襲撃はそれだけじゃ終わらなかった。 最後に画面がふわりと光り、読み込みのローディングが一瞬だけ走る。


送られてきたのは、一枚の自撮り写真。 だけど、ブレザーのボタンは完全に外されていて、中のブラウスの襟ぐりが大きくはだけていた。学校のトイレの個室で撮ったのだろう。カメラを見つめる瞳は熱を帯びていて、完全に俺をハメにきている、あのあざとい小悪魔の顔だった。


「……クソ、よくこんなの学校で送ってくるな」


ぽつりと呟いた俺の声は、思った以上に熱を帯びて掠れていた。 平日という仮面が、金曜日の夕暮れに溶けていく。


スマホをベッドの上に放り出し、俺は一人きりの静まり返ったキッチンへと向かう。


水道のレバーをひねると、冷たい水が勢いよくケトルを叩く音が、狭いワンルームにやけに大きく響いた。 ずっしりとした重みを感じるまで水を満たし、台座にセットしてスイッチを入れる。


カチリ、と硬いプラスチックの音が鼓膜を震わせた。


お湯が沸騰するまで、だいたい三分から四分。 いつもならスマホの画面でも眺めてやり過ごす退屈な時間が、今日に限っては、信じられないほど濃密でじれったいものに変わっていく。


ジー、という小さな電熱の音が、ケトルの底から聞こえ始める。


俺はキッチンのシンクに背中を預け、ただじっと、部屋の入り口にある古い木製のドアを見つめていた。


まだネクタイも外していない。ブレザーのポリエステル特有の硬い感触が、学校という現実の余韻を肌に残している。なのに、頭の中はさっき届いたあいつのメッセージと、あのブラウスをはだけさせた自撮り写真で完全に支配されていた。


他人のフリをするの、一週間が限界。 あいつはそう言った。 それは俺だって同じだ。廊下ですれ違うたび、声もかけずに通り過ぎるたび、あいつの甘い体温や、俺のシャツを着てくすくすと笑う声が脳裏をよぎって、胸の奥が焼き切れそうになっていた。


ケトルの音が、少しずつ大きくなっていく。 コトコトと、水が熱を帯びて小さな気泡を生み出す音が、静寂を侵食していく。 その音が響くたびに、俺の心臓の鼓動まで早くなっていくようだった。生唾を飲み込む。喉の奥が、信じられないくらいにカラカラに渇いていた。


あと、何分だ。 あいつの足なら、駅からここまでは十五分。学校を出たタイミングを考えれば、もうそろそろ着いてもおかしくはない。


じっとドアを見つめる。 夕陽が窓から斜めに差し込み、部屋の中に長い影を作っている。そのオレンジ色の光の中で、ケトルから白い湯気が、ゆらゆらと、頼りなく立ち上り始めた。


空気の密度が、じわじわと上がっていくような錯覚。 あいつがもうすぐ、このドアの向こうに現れる。 そう思っただけで、下腹部の奥がジリジリと熱く脈打ち、ブレザーのポケットの中で、じっとりと手のひらに汗がにじむのが分かった。


コトコト、コトコト。 沸騰のステップが一段階、上がる。


その、激しくなり始めた水の音に混じって。 階段をトタトタと駆け上がってくる、聞き覚えのある軽い足音が、静かに、だけど確実にこちらへ近づいてくるのが聞こえた。


一歩、一歩、確実に俺の部屋へと近づいてくる。 足音は、吸い寄せられるようにして、俺の部屋のドアの真ん前でぴたりと止まった。


ゴボゴボと激しく沸き立つケトルの音の向こう側、薄いドア一枚を隔てたすぐそこに、あいつが息を切らせて立っている。


――ピンポーン。


静寂を切り裂くように、待ちきれなかったとでも言うような、鋭い電子音が響き渡った。


深呼吸をひとつ。 喉の渇きをごまかすように生唾を飲み込み、俺は玄関へと向かってドアノブに手をかける。


鍵を開け、ゆっくりと引いた扉の向こう。 そこには、さっき廊下ですれ違ったときと同じ制服を着た彼女が、少しだけ肩を揺らしながら、潤んだ瞳で俺を見上げていた。

ブックマーク嬉しくて、続き書いてみましたっ!

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