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平日の5日間は完璧な他人。週末の2日間だけは、俺の部屋で「めちゃくちゃにして」と強請ってくる学校一の優等生。~あざとい後輩と、週休二日のナイショの夜を~   作者: 藤沢 淵
第3章:『学校では完璧な他人のフリ。だけど休日は、誰にも見つからない街で男たちの視線を独占しながら腕を絡めてくるあざとい後輩に、理性のすべてを上書きされるまで』
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第17話:夢の国の代わりに、ここで

「せんぱーい」


俺の部屋のベッドの上で、ごろんと寝返りを打ちながら、春が気の抜けた声を上げた。 体育祭の代休。せっかくの平日休みなのに、窓の外は朝からどんよりとした暗い雲に覆われ、容赦ない雨がガラスを激しく叩いている。


「……なんだ」


机の椅子に座ったまま、俺はスマホの画面から目を離さずに生返事をする。


「……雨ですね」


春はベッドの上で這いつくばるようにして、こちらをじっと見つめてきた。買ってきたばかりだというお気に入りのブラウスの袖を引っ張りながら、不満げに頬を膨らませている。


「……雨だな」


「……今日は夢の国に…」


期待を込めた潤んだ瞳が、俺の背中に突き刺さる。


「いかないぞ」


俺が振り返りもせずにピシャリと告げると、ベッドの上でボフッとクッションが跳ねる音がした。


「えー!なんでですかー!今日のために服も買ったのにー!」


春はガバッと起き上がり、足をバタバタさせながら露骨に唇をとがらせた。学校で見せる「みんなの人気者」の完璧な姿からは想像もつかないくらい、今はただの駄々をこねる子供のようだった。


「こんな日にいったってしょうがないだろ、乗り物だって乗れないし」


呆れ気味に俺が言うと、春はベッドから音もなく滑り降り、こちらへ歩み寄ってきた。


「ちっちっちっ!先輩はわかってないですね!バカです!おバカさんです!」


「……なんか腹立つな」


不敵な笑みを浮かべながら人差し指をチッチッと振る春。その自信満々で生意気な横顔を見ていると、どうにもこうにも我慢できなくなる。


俺は目の前でニヤついている春の、柔らかい両頬を容赦なくガシッと掴むと、そのままムニムニと左右に引っ張った。


「うにゅうにゅにゅ!? ひぁいひゃい!!」


口をへの字に歪めて、あどけない顔でジタバタと抵抗する春。 普段は誰からも憧れられる完璧な人気者なのに、俺の前で見せるこの無防備で間抜けな顔が、どうしようもなく愛おしい。


「いふぁい!いふぁいですせんぱい!ごめんなさいですー!」


頬を赤くして涙目になりながら、必死に俺の手を小さな手でぺしぺしと叩いてくる。 ようやく手を離すと、春は少しだけ腫れた頬を両手で押さえながら、わざとらしくじとーっとした視線を俺に向けてきた。


「……それで、俺が何がわかってないって?」


「あ、そうだ。先輩がおバカさんって話でしたね」


「……」


再び俺がニヤリと笑って手を伸ばそうとすると、春は「ひゃい!」と短い悲鳴を上げて、慌ててベッドの奥へと身を縮めた。


「……冗談ですよー。先輩はいつも素敵です」


ベッドの安全圏まで避難した春は、まだ少し赤みの残る両頬をさすりながら、わざとらしいお世辞を言ってにんまりと笑った。調子のいい奴だと思いつつも、そのコロコロと変わる表情から目が離せない。


彼女はベッドの上にちょこんと座り直し、今度は少し真面目な顔をして人差し指を立てた。


「いいですか先輩、あそこは乗り物に乗るだけじゃないんです!雨の日ならではの楽しみ方もあるんですよ!」


「ほう、それは興味深い」


俺は椅子の背もたれに体重を預け、腕を組んで先を促す。


「普段はしない食べ歩きをしてみたりとか……!あ、今フードフェスティバルやってるみたいですよ!」


「ほうほう……、けど雨の中は歩きたくないな」


俺が即座に現実的な難点を突きつけると、春は「むっー!」と小さく唸って、大げさに肩を落とした。だが、すぐに名案を思いついたように、身を乗り出してさらに言葉を重ねてくる。


「……あとはあとは、雨の日ならではの写真が撮れたりとか!いつもと違う、雨の日の可愛い私が見れちゃいますよ♪」


首を少し傾げ、上目遣いで完璧な計算ずくの笑みを浮かべる春。学校のみんなを虜にする、無敵の人気者としてのオーラをこれでもかと放っている。


「なるほど、お前はいつも可愛いから大丈夫だ、だから今日は家にいよう。な?」


「え!……えへへ、そんなこと言われると照れますねぇ……はっ!?騙されるとこでした!!危ない!」


一瞬だけぽっと頬を染めて、本当に嬉しそうに破顔したかと思えば、すぐに我に返ってベッドの上から俺の胸元をぽかぽかと小さな拳で叩いてくる。自分の武器が通用しなかったのが悔しいらしい。


「ちっ、ダメだったか」


「なんでそんなに嫌がるんですかー!私と行きたくないんですかー!」


「そうじゃない。お前と行きたいに決まってるだろ。ただ……」


俺は椅子から立ち上がると、不満げにベッドの縁に腰掛けている春の背後へと回り込み、その細い腰を後ろから引き寄せるようにして腕の中に閉じ込めた。


「っ……先輩?」


突然のホールドに、春の身体がびくりと跳ねる。


「せっかくの平日の代休なんだぞ? 外に出たら、またいつ誰に見つかるかわかんないだろ。……今日くらい、誰の目も気にしないで、お前を独り占めさせろよ」


耳元で低く呟くと、春は言葉を失ったように小さく口を開けた。


耳元で低く呟くと、春は言葉を失ったように小さく口を開けた。 恋人同士でも何でもない、名前のつかない関係。この前の件もあり、外で見つかった時のリスクは大きいし、同時にひどい飢餓感を生む。学校中の視線が集まるグラウンドでのあの一瞬の舌ペロだって、俺たちの独占欲を刺激するには十分すぎた。


さっきまであれだけ騒いでいた小悪魔が、みるみるうちに耳の裏まで真っ赤に染まっていくのが、抱きしめた腕越しに伝わってくる。


「……ずるいです、先輩。そんなこと言われたら、断れないじゃないですか……」


春は観念したように俺の腕に背中を預けると、首だけを後ろにひねり、潤んだ瞳で俺を見上げてきた。


「じゃあ……今日はお家デート、ですね?」


そう言って、自らブラウスの裾を少しだけ持ち上げるようにして、太も本の滑らかな肌を俺の膝に擦りつけてくる。


付き合っていない二人の、境界線を曖昧にするような甘い時間。窓の外を激しく叩く雨音は、あの薄暗い体育倉庫の時のように、二人だけの世界を完全に閉じ込める心地いいBGMへと変わっていった。


「……ねぇ、先輩」


春は俺の腕の中で、わざとらしく、困ったような溜息をひとつ吐いてみせる。 俺の胸元に預けられた背中から、ドクドクと速い鼓動がダイレクトに伝わってくるくせに、その声だけはどこまでも艶っぽく、俺をからかう色を帯びていた。


「今日、行けないの、本当に、すっごく残念なんです。……だから、そのぶん」


春はゆっくりと身体を反転させると、俺の首筋にその細い両腕を絡めてきた。 上目遣いに覗き込んでくる瞳は、潤んでいるのに、獲物を追い詰めた肉食動物のような鋭い光を宿している。


「ここで、私をたくさん楽しませてくださいね?」


ちろり、と唇の端から覗いた小さな桃色の舌が、俺の喉仏のあたりをなぞるように、触れるか触れないかの距離で動く。体育祭のグラウンドで見せつけてきた、あのあざとい仕草の再現だった。


「……お前、自分が何言ってるか分かってんの?」


「分かってますよ? 嫌なら、今すぐ私を突き放せばいいじゃないですか」


そう言ってクスクスと不敵に笑う春の指先が、俺の体操服の裾から滑り込み、剥き出しの脇腹をそっと撫で上げる。その冷たい感触に、背筋をゾクリとした熱い戦慄が駆け抜けた。


「それとも……また、あの時みたいに、私が泣くまでおねだりしないと、動いてくれないんですか?」


耳元で、吐息そのもののような掠れた声で囁かれる。 学校中が憧れる完璧な優等生。その仮面を自ら剥ぎ取り、俺の部屋のベッドの上で、ただ一人の男を狂わせるためだけに牙を剥く小悪魔。


「……後悔すんなよ」


「するわけないじゃないですか、バカ先輩」


春の言葉が途切れるのと、俺が彼女をベッドへ押し倒すのは、ほぼ同時だった。窓を叩く激しい雨音に消されるようにして、二人の、名前のない熱い呼吸だけが部屋の中に溶けていった。

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