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平日の5日間は完璧な他人。週末の2日間だけは、俺の部屋で「めちゃくちゃにして」と強請ってくる学校一の優等生。~あざとい後輩と、週休二日のナイショの夜を~   作者: 藤沢 淵
第3章:『学校では完璧な他人のフリ。だけど休日は、誰にも見つからない街で男たちの視線を独占しながら腕を絡めてくるあざとい後輩に、理性のすべてを上書きされるまで』
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第12話:一ミリの隙もない横顔の裏で

翌日、空は朝から鉛色の雲に覆われ、激しい雨が校舎を叩いていた。


資料室でのキスの記憶が、頭の中で何度も何度も再生される。春の吐息、熱を持った肌の感触。そのすべてが昨日から一睡もしていない俺の脳を揺さぶり続けていた。


平日の俺たちに、会話はない。教室ですれ違っても、彼女は完璧な優等生の微笑みを浮かべるだけで、俺の視線を受け止めることはない。その「日常」が、昨日の出来事を夢か幻のように思わせ、逆に胸の奥を焦がす。


放課後、友人たちと別れ、雨音が響く図書室へ足が向いた。


重い木製の扉をそっと押し開けると、冷えた空気とともに、古い紙とインクの匂いが鼻腔をくすぐる。外の激しい雨音は、ここでは幾重もの本棚に吸い込まれ、低くこもった地鳴りのように優しく響いていた。


視線を巡らせる。利用者のまばらな閲覧室の、一番奥。雨粒が激しく叩きつける窓際の席に、その背中はあった。


真っ直ぐに伸びた背筋。薄暗い室内の明かりを透かして、柔らかく、どこか儚げに艶めく明るい色調の髪。 一人で黙々と参考書に向かっているのは、間違いなく春だった。


周囲にいるのは、少し離れた席で俯く数人の生徒と、カウンターにいる司書だけ。誰もこちらを見ていない。俺は小さく息を吐き出し、床を鳴らさないようゆっくりと、彼女のいる窓際へ向けて歩みを進めた。


一歩近づくごとに、彼女が纏うかすかなフローラルの香りが、雨の湿気の中に混じって漂ってくる。


通り過ぎるフリをするか。それとも離れた席に座るか。 一瞬だけ迷った。だが、俺の身体は吸い寄せられるように、彼女の真ん前を通り過ぎ、その斜め前にある空席を選んでいた。


椅子の脚が床を擦らないよう慎重に引き、そっと腰を下ろす。


その瞬間、春の持つシャーペンの先端が、ほんのわずかに止まったような気がした。


春は俺が座ったことに気づいているはずだが、ページをめくる手は止まらない。俺もカバンから適当な小説を取り出したが、活字なんて一文字も頭に入ってこなかった。


視線を少し落とせば、白くて細い、彼女の首筋が嫌でも視界に入る。ただ、彼女が纏うかすかなフローラルの香りと、制服の擦れる衣擦れの音が、静まり返った図書室の中でやけに大きく響いていた。


沈黙。


雨音だけが支配する空間で、どのくらいの時間が経っただろうか。 不意に、机の下で確かな重みが俺の足に触れた。


ビクッと身体が強張る。


彼女のローファーのつま先が、俺の靴先をそっと踏んでいた。 ドクン、と胸の奥が大きく波打ち、耳の奥で自分の脈拍が速くなるのを感じる。


動揺を隠して顔を上げると、春は眉一つ動かさず、シャーペンで数式を解き続けている。表情はいつもの冷ややかな、一ミリの隙もない優等生そのもの。


だが、そんな完璧な顔のまま、机の下の足先だけは、じわりと俺のふくらはぎをなぞるように這い上がってきた。


ソックス越しに伝わる、小さくて柔らかい確かな体温。


俺が逃げないのを確信すると、春の挑発はさらに大胆さを増していった。ローファーを器用に脱ぎ捨てたのだろう。ストッキングに包まれただけの足の裏が、俺の制服のズボンをじわじわと滑り、ふくらはぎから膝の裏へ、そして太ももの内側へとゆっくりと忍び寄ってくる。


薄い生地を隔てて、指先の輪郭まで伝わってくるような生々しい愛撫。


(お前、本当に……っ)


心臓が喉から飛び出しそうなほどの焦燥感に襲われ、俺はたまらず上半身を固くした。今、誰かがふと机の下を覗き込んだら、それだけで全てが破滅する。すぐ近くの席では、別の生徒がノートをめくる乾いた音が聞こえているのだ。


だが、春は平然とした顔でカリカリとノートにペンを走らせ続けている。 その横顔は冷徹なほどに美しい優等生そのものなのに、机の下では、指先を小さく蠢かせて俺の太ももをじっくりと、執拗に弄んでいる。


声も出せず、身動きも取れない俺の窮地を、彼女は完全に楽しんでいた。時折、ページの余白に書き込みをするフリをしながら、まつ毛の長い瞳をわずかに伏せて、俺の限界を測るように足先にぎゅっと力を込めてくる。


そのずるくて、淫らな温度に、俺の頭の芯はあっという間に焼き焦がされそうになっていた。


やがて、放課後の終了を告げるチャイムが、静かな図書室に容赦なく鳴り響いた。


その音を合図にするように、春はすっと足を引いた。 何事もなかったかのようにローファーに足を戻し、手際よく参考書をカバンに詰め、立ち上がる。そして、最後まで俺を一瞥もすることなく、凛とした足取りで図書室を出ていった。


指先でそれを拾い上げる。 そこには、彼女の綺麗な、だけどいつもより少しだけ乱れた筆跡で、こう書かれていた。


『昨日のせいで、全然勉強が手につきません。……先輩、責任取ってくれますよね? 今週末、待ってます』


俺は、その小さな紙切れをポケットの奥に握りしめたまま、窓の外で降り続く雨音の中で、ただ深く、溜息をついた。

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