8 火事≒やけど?
自分で抱いた直観に、私は驚きで体が震えていました。この麦畑が、兵隊さんと関係しているとしか思えなかったんです。
ですが、どうすればいいんでしょうか?
(そういわれても……)
兵隊さんが足に大きなやけどを負っていることは、私にも分かっています。この場所で熱いということは、何か燃えているものが麦畑にあるんでしょうか。日差しが強いといっても、太陽は灼熱の夏ほどには強くありません。火事とか火災とかのほうが、熱いというイメージにぴったりあっています。
そんなに都合よく、とんとん拍子で話が進んでいかないことくらい、私も思っていました。だって、おバカな私が思いついたことなんですから、大概は的外れというものです。
それでも、ほかに妙案があるわけでもありません。
思いきって私は、注意深く畑の中を見渡していたんです。遊び半分で白魔法を使おうとした私ですが、助けられるのであれば、兵隊さんのことも助けたかったんです。
痛くなるくらいに目をこらせば、見える景色全部が黄金色に染まった世界で、畑の奥のほうに、かすかに赤みを帯びた部分が見えました。集中して、その部分だけに意識を向ければ、心なしかゆらゆらと輪郭が揺れているように思います。
(火事だ!)
麦の一部に火がついているんだと分かると、私は夢中で駆けだしていました。
目を離すと、すぐにでも黄金色の世界に溶けてしまって、場所を見失いそうだったので、乱暴ですが、畑を横切るようにして向かいます。
火元へと近づくほどに、熱気が肌をちくちくと刺して来ます。耳にはぱちぱちという、麦の穂がはじける乾いた音が響きました。ですが、煙のいやな臭いが鼻を突くことも、喉を焼くこともなく、目に染みるような痛みなども不思議とありません。まもなく、私は燃える麦畑に到着していました。
早くなった呼吸を整えるように、大きく息を吸いながら、私は目の前の火事に目をやります。赤い舌が、ケーキフィルムについた生クリームを、ちょっぴりお下品になめるようにして、動き回っています。
「足が……」
再び兵隊さんの声が頭に響いて来ます。
「分かっているってば!」
焦った私は、思わずいい返していました。
本当にどうしたらいいんでしょうか。この燃える麦たちを消火することができたなら、兵隊さんのやけどが治まるんでしょうか。そんなバカなことがあるんでしょうか。いくらなんでも非科学的じゃないでしょうか。
ですが、それは置いておくとしても、収穫を目前に控えた麦たちが、燃えていていいわけがないでしょう。何か火を消すのに役立ちそうなものはないのかと、私は周囲を探します。頭の上には、相変わらずきれいな小川が流れていますが、私の身長ではうんと手を伸ばしてみても、全然届きそうにありません。第一、これって掴めたり触れたりできるものなんでしょうか。
私は首を横に振って、必死に別の考えをめぐらせます。握りこんだ指先は、無駄に気負っているせいで、爪の先が手のひらに食いこんでしまっていました。
ただでさえ思考がまとまりにくい残念な頭をしているのに、早くどうにかしなきゃいけないと、私の気持ちばかりが急いているので、ますますちゃんとした考えは出て来そうにありません。おもちゃ箱をひっくり返すようにして、ただ頭の中をしっちゃかめっちゃか、無意味にかき回しているだけなんです。
(強い風を起こして消す? でも、どうやって。あるいは乾いた砂で埋めてしまうとか)
そんな大仕事、私1人でできるはずもありません。
空回りする思考が、やっぱり水じゃなきゃダメだと結論づけたとき、私の頭の中では、さっきここに駆け寄って来るときに目にしたものが、ふとよみがえっていました。
畑の真ん中のほうです。
今にも倒れてしまいそうな頼りない木製の柵に、三方向を囲まれた、小さなスペースが作られてあったんです。その中にひょっこりと置かれていたのは、円形に組まれた石の段。今にして思えば、あれは井戸に違いありません!
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