4 私を呼ぶ声
「どう思う?」
ニリンダさんが尋ねて来ます。おバカな中学生を捕まえて、いったい何を聞きたいんでしょうか。
「大丈夫じゃないでしょうか?」
とりあえず、思ったことを口にしてみます。傷自体が深くはないので、命を脅かすことはないと思ったんです。それでも、傷が浅そうな割に、血が止まっていないのは気がかりでした。浅い傷なら、すぐに塞がると思ったんです。
「そう。修繕薬師のあなたがいうなら、間違いないんでしょうね」
その修繕薬師って、さっきからなんなんでしょうか。私の恰好は中学の制服です。この場所では、学生服は何か特別な技能を持った人だけが、身に着けられる恰好になっているんでしょうか。それなら、すぐに着替えますので、どなたか私に洋服をください。できれば、ガーリーじゃないと助かります。どうせ似合わないと思いますので。
(バッグ……。おいて来なきゃよかったな)
そうすれば、体育で使うジャージが入っているので、こちらを代わりに着ることができました。ジャージっていいですよね。全世界の人が、もっと普段からジャージを着ればいいのになと、私は思います。
「マリアン? この人には血止めの塗り薬で平気よ。お願いね」
「分かりました」
近くにいた女の人が返事をします。まだ若い大人の女性でした。
私と目が合うと、その女性が会釈をして来ます。なので、私も慌てて頭を下げました。
……なんで、こんな小娘に? そう不思議に思いましたが、よく考えると、今の私は修繕薬師だと、周囲に誤解されているのだということに気がつきました。プレッシャーで胃に穴があきそうです。たぶん、もうあいています。
「ニリンダさん、急患です!」
別の人から声がかかります。
「急ぎましょう」
ニリンダさんにうなずいて、私もそのあとを追いかけます。私に何ができるわけでもないのに、もはや私はニリンダさんの相棒になっていました。
(これ……あとで絶対怒られるよ)
遅かれ早かれ、私が修繕薬師じゃないことは発覚するはずです。そのときはきっと、たぶん嘘をついていたとして、すっごく叱られてしまいます。
泣きそうになりながら、私は兵隊さんが横になっているところまで向かいました。そして、私はすぐに気がつくことになるんです。この人こそが、私に助けを求めていた人物だということに。
横になった兵隊さんが寝台の上で、苦しそうに体を動かします。
「頭から血が……」
「分かっている! 重症ね。修繕薬師じゃ間に合わない。私がやるわ」
自分の手に針を刺してから、患者の手を握ったニリンダさんが、眉間に皺を寄せました。何をしているのか、私にはさっぱり分かりません。ねむかったので、痛みで目を覚まさせたんでしょうか?
『熱い……』
はっきりと声が聞こえます。
(嘘……。まさか、この人なの?)
周りを見回してみても、不思議がっている人はいません。やっぱり、私にだけ聞こえる例の声なんです。
それにしても、どうして兵隊さんの声が聞こえるんでしょうか。これまで人間の声を聞いたことは、一度もないんです。なのに、どうして今日は……。とても不思議でした。
でも、この不思議と真正面から、向き合っているような余裕はなさそうです。
私の見ている前で、兵隊さんの頭にあった傷が、みるみると塞がっていきます。血もすっかりときれいになっていました。私の常識からは、考えられない事態です。まるでイリュージョンのようです。
「魔法?」
ニリンダさんが目を開けます。今しがた私のした、とんちんかんな発言に対して、苦言を呈されるんじゃないか。そんな私の予想に反して、驚くことですが、ニリンダさんは私の発言を肯定していたんです。
「ええ、そうよ。今のが白魔法」
なんでもないふうにして、ニリンダさんはいいきってみせます。
そうして、変なものでも見るようにして、ニリンダさんは私をちらりと見つめました。それはまるで、非常識な子供をたしなめるかのようでした。
この世界にとって、魔法で怪我を治すという行為は、そんなにもあたりまえのものなんでしょうか。日常にありふれているんものなんでしょうか。私は、いいようもないカルチャーショックを受けていたんです。
お手数ですが、ブックマークと評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




