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すぐに大聖女と呼ばれる私の白い魔法  作者: 御咲花 すゆ花


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3 人違いです……。

 無数の血だまりができた茶色い大地には、お気持ち程度に緑の雑草が生えています。

 そのとき、不意に足元を風が裂きました。

 反射的に下を見やれば、崖のところに1本の流れ矢が突き刺さっています。

 まだ、矢羽根は小刻みに震えていて……。それが何を意味しているのかという、目の前で起きた出来事の正体を理解すると、私の心臓も、おんなじくらいの速さで脈を打ち始めました。


(……(うそ)よ)


 単純な恐怖が私を襲っていたんです。

 もしも、わずかでも矢の位置がずれていたら……。私の体に矢が突き刺さっていたことは、間違いありません。


 こわばった体で、私は再び、崖の下に視線を向けます。

 運のよかった私とは違って、肩に矢を受けてしまった兵士の1人が落馬し、大地の上を転がっていました。手から離れた大きめの剣は、どこか明後日のほうに飛んでいってしまったようです。


 なんだか、めまいがしました。

 私は何か変な夢でも見ているんでしょうか。

 とてもじゃありませんが、現実で行われている出来事だとは、思えなかったんです。

 空想するのは好きですし、正直、もうひとつの私の特技といってもいいかもしれません。ですが、昼間からこんなに設定のこった空想をするほど、私は夢見がちな乙女じゃなかったはずです。……はずです。


「ちょっと、あなた。そこで何をしているの!?」


 呆然と戦場を見つめていた私は、背後から突然声をかけられ、飛びあがっていました。私は首を縮こめたまま、大慌てで後ろに振り返ります。


「ご、ごめんなさい」


 目の前で行われている戦いが、大河ドラマの撮影なんていう発想は、私の頭には全くありませんでした。


「その恰好……兵士じゃなくて、修繕薬師(くすし)ね。 ちょうどよかった。負傷兵がたくさん運ばれて来て、人手が足りていないの。手伝ってちょうだい」


「えっ、あの……私――」


(違うんですけど……)


「思っていたよりも早く、小ぜり合いが始まっちゃったのよ。肝心のシャーロットさんがまだ到着していなくて、修繕薬師(くすし)とはいえ、あなたがいてくれて助かるわ」


 どうやら私の話を聞いてくれていないようで、彼女は矢継ぎ早に私に指示を出していました。私がやるんでしょうか。手伝いを? 本当に? これって失敗したらどうなるんでしょうか。


 でも、そこはノーといえない私です。えっへん。いわれるままに、彼女の後ろをついていきます。念のため、自分がここまで歩いて来た道に視線を向けましたが、案の定、私を奇妙な世界へと導いたはずのトンネルさんは、すっかりと姿を隠してしまっていました。


 それが戻れない意味だということは、私にも分かったんですが、全然、実感が伴っていません。


(私、これからどうなっちゃんだろう……)


 不謹慎ですが、正直なところ、私には何か素敵なことが起きるんじゃないかという、理屈のない期待もあったんです。なんで私はこんなにもおバカなんでしょうか。今さっき、負傷した兵士が運ばれて来たという話が、女性の口から出て来たばかりだというのに、もう私の頭から、その話はすっぽりと抜け落ちていたんです。


 だからこそ、女性に連れていかれた場所で、方々から上がるうめき声を耳にしたとき、私はその場に耳を塞いでうずくまりたくなっていました。


 粗末な天幕の中は、壁も床も赤黒く汚れてしまっています。

 まさか、おしゃれのために、彩色を施したわけじゃないんでしょう。

 きっと、これは血なんです。それも人間の。汗と血と、微妙な青臭さがひとかたまりになって、私の鼻に押し寄せて来ていました。端のほうでは、苦しげな表情をした男の人が、別の兵士の肩を借りながら、こちらにやって来ている最中でした。


「どうしたの、体調でも悪い?」


 顔をしかめ、口元に手をあてる私に、先ほどの女性が心配そうな声をかけて来ます。今さらですが、この大人の女性がニリンダさんという名前であることを、あとから私は知りました。


「い、いえ」

「そう。なら、しゃんとしなさい」


 小走りで、ニリンダさんが負傷兵へと駆け寄っていきます。私も、自分に何ができるというわけでもないでしょうが、ニリンダさんの背中を追いかけました。なるべく下を見ないようにして足を動かします。足元から伝わるぬめりという感触の正体を、確かめたいとは思わなかったんです。


 男の人。

 こんな状況だというのに、着ている服を全部脱がされた男性の体を見るのは、なんだかいけないことをしているような気がして、うまく直視できません。それでも、湧きあがる好奇心に勝てず、ちらちらと視線を向ければ、おバカな私に冷や水を浴びせるだけの現実が、そこにはありました。


 おびただしい数の裂傷。

 汚れていない肌を探すのが困難なほど、その方の体は傷だらけだったんです。

 敷居の代わりに設けられた簡素な布の奥からは、この世のものとは思えない絶叫が聞こえ、そうかと思うと急に静かになりました。


 いったい何が起きているんでしょうか。

 私は不自然に跳ねる心臓から、自分の注意をそむけようと、すぐそばの男の人に視線を向けたんです。


(なんて痛そうなの……)


 幸いなことに、私が見る限りでは、どの傷も深くはありません。いくら男の人に興味があるといっても、体の内部を見てみたいわけじゃないんです。肉とか骨とか、そういうのが飛び出していなくて、とても安心しました。

 お手数ですが、ブックマークと評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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