表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事故物件ダンジョン、再建します!  作者: 雉子鳥幸太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

大原ダンジョン

大きな石像が、こちらを見下ろしていた。


ゴーレム……だと思う。だが、ギリシャ彫刻みたいで妙に人間に近い。

石で出来ているはずなのに、顔だけが妙に生々しかった。


「う、動かない……のかな?」


きりちゃんが恐る恐る氷の短杖(アイス・ロッド)で足をつつく。


コン、と軽い音。

反応はない。


「……だ、大丈夫そうですね。えへへ、びっくりしたぁ~」


『よかった』

『びびらせやがってw』

『ただの置物か?』

『人間様を舐めるなよ』


きりちゃんはホッとした様子で室内を照らしていく。

へぇ、先端がライトになるタイプの短杖か。


壁には古い紋様が刻まれていた。


「古代文明……みたいな? なんでしょうかね?」


雰囲気があるな……。

ライトの円が、スッと石像の顔を横切る。


その瞬間――。


『目⁉』

『え……?』

『おい……』

『目ぇぇぇぇ!!』

『動いた!!』

『逃げろォォォ!!』


コメント欄が、一気に爆速で流れ始めた。


「……え?」


きりちゃんが、ゆっくり振り返る。

石像は動いていない。


「み、みんな、驚かせようとして……もぅ」


『もぅ、じゃねぇww』

『逃げろ!』

『目を見ろ、目を!』


「……目?」


きりちゃんは、ゴーレムの顔にライトを当てた。


「とくに普通、ですね……みなさんの見間違いじゃないですか?」


「きりちゃん、ライト持つわ」

「ありがとうございます」


美場がライトを受け取る。


「あ、記念に一枚撮ってく?」


『スタッフ緊張感ゼロw』


「じゃあ、せっかくなんで営業さんと撮ろか?」

「え? お、俺ですか……?」

営業マンが戸惑いながら自分を指さす。


「ほらほら、ええから並んで」


『おいおい何が始まった?w』

『のんきで草』

『営業マンそこ代われ』

『いいなー』


「いくでー」


ゴーレムを背に、きりちゃんと営業さんが並んでポーズを取る。


「3、2、1――」


カシャッ。


シャッター音が鳴った、その瞬間。


――ゴゴッ……。


「……え?」


ゴーレムの石腕が、ゆっくり持ち上がる。

一拍遅れて、その腕が振り下ろされた。


――ズドンッ!!


巨大な腕が、二人のいた場所へ叩きつけられる。


「ぎぃやあああああーーーーーっ!!!」

「うわぁあああーーー!!」


石片が飛び散った。


『動いたァァァッ!!』

『逃げろぉぉぉーーー!!』

『やばいやばいやばい!!』

『ガチボスじゃん!!』


「みなさん走ってください!! 出口は右です!!」

営業マンが叫ぶ。


「み、右ぃぃぃっ!?」

「こ、こんなの……無理ですぅぅぅ!!」


ゴゴゴゴ……!


ゴーレムが立ち上がる。

石同士が擦れる重低音が、部屋中に響いた。


やべぇ、装備も何もしてねぇのに……!


「お、おい! 何してんだよ!」


スマホの画面に美場の冷静な顔が照らされている。

次の瞬間、配信画面がフッと暗転した。


『えっ』

『は?』

『切るな切るな切るな!!』

『続きぃぃぃ!!』


「おい、美場?」

「続きが気になる状態で切るんが一番伸びるやろ?」


……うわエグいなコイツ。


俺は構わず美場の細い手を掴んだ。

一瞬、美場の目が見開いたように見えた。


「いいから逃げるぞ!」

「う、うん……」


俺たちはゴーレムの部屋を飛び出し、一目散に逃げ帰った。


    *  *  *


――数分後。

美場と入口で待っていると、きりちゃんと営業さんが戻ってきた。


ふたりとも顔面蒼白だな……。


「大丈夫でした?」

「え、ええ……なんとか……」


営業マンがネクタイを緩めながら苦笑する。


「うぅ……死ぬかと思いましたぁ……」


きりちゃんは今にも泣きそうだった。


『アーカイブまだ!?』

『配信切るタイミング天才か?』

『続き気になりすぎるぅぅぅ!!』

『同接4.6万で草』


「いやぁ、ええもん撮れたわ」

美場が満足そうに頷く。


「あそこで切って正解やったな。コメント欄、今ごろ阿鼻叫喚やで」

「……」


俺じゃとても真似できねぇなと感心していた、その時だった――。


「おぉ! すごい!」


営業マンが声を上げ、自分のスマホをこちらへ向けた。


「内見の予約が一気に入りました!」


画面には通知がずらりと並んでいた。


『見学希望』

『動画コラボ希望』

『スポンサー相談』

『現地イベント化可能ですか?』


「え……?」


いったい何の話だと思っていると、美場が普通に答える。


「効果があってよかったです。じゃあ、事前の打ち合わせ通りでええですか?」

「ええ、もちろんですよ! ありがとうございます!」

営業マンは深々と頭を下げた。


「いやぁ、本当に助かりました。また物件が出たら、ぜひ相談させてください」

「ええ、この猫屋敷に連絡もろたら」と、美場が俺に手を向ける。


「わかりました。では、今日はこの辺で――お先に失礼します」


営業マンは何度も頭を下げながら帰っていった。

その背中を見送りながら、俺は首を傾げる。


「……どういうことだ?」


きりちゃんも小首を傾げている。


「ごめんっ!」

美場がパンっ、と両手を合わせた。


「あんな、最初からこれ……プロモ案件やってん」

上目遣いで俺ときりちゃんの顔色をうかがう。


「「……え?」」


「ちゃんと台本があったんよ。ウチと営業さんの間ではな」

「マジかよ……」

「だ、台本……?」


「未公開ダンジョンって話題性あるしな。今回他にもネタ要素があったし……」

美場は指を折って数え始める。


「ツカミで遺産整理やろ? 未調査ダンジョンに謎の鍵で扉探し、最後にボス出現の流れや」


「……」

「い、いや、でもな、台本いうても簡単な流れだけやし、決めてたんは鍵渡すとこまでやで?」

美場が肩をすくめる。


「ゴーレム起動したんは完全にイレギュラーやし」


「「……」」


俺ときりちゃんが美場をじとーっと見つめる。


「あ、あはは……黙っててごめん! この通りや!」

美場が拝むように頭を下げた。


「……で? いくらもらったんだよ。ギャラ出てるんだろ?」


すると美場はゆっくり顔を上げ、ニッと笑って、指を三本立てた。


「えっ、三万円も……⁉」

きりちゃんが目を丸くする。


「きりちゃんごめん、ゼロ少ないわ」


「……え?」

「さ、さんじゅう……っ⁉」


きりちゃんが硬直する。

俺も普通に驚いた。


だが、美場はまだニヤニヤしていた。


「いや、もう一個やで」

「……は?」


「今回の案件料、三百万や」


「「…………はぁぁぁぁぁっ⁉」」


きりちゃんがその場で腰を抜かした。


「さ、さんびゃく……っ!? あ、あわわわ……そ、そんな大金っ……!」

「そら企業案件やしなぁ。それに成功せんかったら、ほぼギャラ無しの取り決めやってん。その分、成功報酬を上げてもろたんよ」

美場はケロッとしている。


「事故物件も、今や立派なエンタメ産業っちゅーことやな」

「怖ぇ時代すぎる……!」


「よぉーし!」

美場がパンッと手を叩く。


「今日は焼き肉や! ぱぁーっと行くでぇ!」

「や、焼き肉っ!?」

さっきまで青ざめていたきりちゃんの目が、一瞬で輝いた。


「いいんですかっ⁉」

「もちろんや。今日の主役はきりちゃんやしな」


「やったぁ!」

ぴょこん、ときりちゃんが跳ねる。


きりちゃんを横目に、俺は小声で美場に尋ねた。


「……おい、きりちゃんの取り分、ちゃんと払うんだよな?」

「当たり前やんか」美場は笑う。


「ただまぁ、あの感じやと……一気に渡したら腰抜かすやろ?」

「……それは、まぁ」


たしかに、今ですら半分パニクってるもんな……。


「落ち着いた頃に、ボーナスって形で渡したらええかなって」

「うん、そうだな」


「美場さーん! 猫屋敷さーん! はやく行きましょー!」

きりちゃんが満面の笑みで手を振っていた。


「はーい」

「今行くよー」


こうして、大原ダンジョンのプロモ案件は大成功を収めた。


後日、本当の額を知ったきりちゃんが泡を吹いてぶっ倒れたのは、また別の話である……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ