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事故物件ダンジョン、再建します!  作者: 雉子鳥幸太郎


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6/9

バズりの力

「いま、この瞬間に売り抜けるんや――」


美場の目がギラついていた。


「え、いや……でも、せっかく客が戻りそうなんだぞ?」

「だからやん」


美場はひらひらとスマホを振る。


「ネットの熱なんてもって三日や。旬が終わった事故物件なんか、また元の値段に戻るだけやで?」

「うっ……」


言い返せない……。

たしかにバズなんて、昨日のことすら忘れられる世界だもんな。


「でも、幡ヶ谷って俺の――」

「ねこやしきぃ、感情で商売したら死ぬで?」


きりちゃんが、おずおずと手を挙げる。


「あ、あの……ダンジョンって、そんな簡単に売れるものなんですか?」

「売れる売れる、きりちゃんのお陰や」


美場はにひっと笑った。


「いまの幡ヶ谷は、もう『事故物件』とちゃうねん。『聖地』や」


    *  *  *


――翌朝。


「ええぇぇぇ――っ⁉」


俺はダンフリーを見て叫んだ。


通知、通知、通知、通知!

通知の数が半端ない!


「なんだこれ⁉」

「せやから言うたやろ」


ソファでポテチを食っていた美場が、勝ち誇った顔をする。

どうでもいいが、カスを落とさないで欲しい。


『配信で見ました』

『内見希望です』

『投資目的で購入検討しています』

『事故物件配信向けにブランド化可能と判断しました』

『スポンサー企業同伴で見学希望です』


「うわ……」


昨日まで二百三十万で買い叩こうとしてきた連中しかいなかったのに。

現在の最高提示額――。


『¥18,000,000』


「い、いっせんはっぴゃく……⁉」


俺は二度見した。

ぶわっと脳内にアドレナリンが出るのを感じた。


「いやいやいやいや! なんでこんな跳ねてんの⁉」

「IP化やな」


美場がドヤ顔で言った。


「事故物件ダンジョン単体には価値ない。でも『配信で跳ねた場所』には新たに価値が生まれんねん」

「そんな芸能事務所みたいな……」

「いまの時代、不動産もコンテンツ産業やで?」


怖ぇ時代だな……。

通知はまだ増え続けている。


『聖地巡礼したい』

『きりおんちゃんが泣いた場所どこ?』

『例のゲジゲージの階段残ってます?』


「ゲジゲージの階段ってなんだよ……」

「名所やろ」

「嫌すぎるって」


その時だった。


――ピロン。

また通知が鳴る。


『公開前物件の案件相談』


「ん?」


俺が開くより先に、美場がタブレットをひったくった。


「あー……これ、おもろいやつや」

「なんだ?」


美場の口元がニヤリと吊り上がる。


「大原遺跡ダンジョン。まだ一般公開前やて」


俺は思わず身を乗り出した。


「えっ、あの五百五十万の?」

……俺が目を付けてたやつじゃん!


「せやな、仲介業者が先行内見OKって言うとるで」


「先行……? いや、そんなことある?」


美場は通知をスクロールしながら笑う。


「しっかり条件付きやん」

「条件?」


「配信OK、てか、配信で宣伝してくれってことやろな」


    *  *  *


明くる日の夕方――。

俺たちは都内のカフェで、きりちゃんと合流していた。


「お、お疲れ様です……」


黒マスクに黒縁眼鏡。

そして、バケットハットを深めに被ったきりちゃん。


……なんかもう芸能人みたいだな。


店に入った瞬間、何人かが二度見してたし。

まあ、見てたのはきりちゃんのアメリカかも知れんが。


「きりちゃんおつかれー。はいこれ」


美場が資料の束を渡す。


「えっ? あの、これって……」

「契約書」


「け、契約っ⁉」


きりちゃんが固まる。


「そんな難しい顔せんでええって。事務所契約みたいなもんや」

「じ、事務所……?」


「事故物件専門配信チーム、作るで」


美場がすでに決まっているみたいに言う。

俺はコーヒーを吹きそうになった。


「はぁ⁉」

「だって需要あるやん」


美場は指を折りながら数え始める。


「事故物件」

「清楚系爆乳眼鏡っ子」

「ガチ悲鳴」

「廃墟探索」

「守りたい系」


「数え切れんわ、役満や役満」

「麻雀みたいに言うなよ……」


きりちゃんは、あわあわしていた。


「で、でも私……そんな大したこと……」

「自己評価低すぎやねん」


美場はカフェラテを飲みながら続ける。


「きりちゃん、自分で思っとるより『見られる才能』があるで」

「……」


「しかも天然やし」

「て、天然じゃないです……!」


『ひゃあっ!?』

と、美場が昨日の悲鳴を真似する。


「や、やめてくださいぃ……!」


周囲の客がチラチラ見ていた。

きりちゃんが耳まで真っ赤になっている。


「ま、とりあえず次や次」


美場がタブレットをこちらへ向ける。

そこには、大原ダンジョンの資料が映っていた。


【大原遺跡ダンジョン】


石造りの地下遺跡。

薄暗い通路。

崩れた祭壇。


写真だけでもかなり雰囲気がある。


「うわ、これ絶対映えるやつじゃん……」

「せやろ?」

「こ、怖そうですね……」


さらに美場が拡大する。


「しかも未公開やで?」

「未公開?」と、きりちゃんが首を傾げる。


「そうや、一般ダイバーはまだ誰も入ってへんのよ」


「えっ⁉」

きりちゃんが固まる。


「そ、そういうのって危なくないんですか……?」

「危ないから再生されるんや」

「言い方ぁ!」

俺は即ツッコんだ。


美場はニヤニヤしたまま続ける。


「恐怖の未公開ダンジョン、あの眼鏡っ子清楚系爆乳ダイバーきりおんが初潜入で失○寸前――⁉」


そこでわざと間を置く。


「伸びると思わへん?」


きりちゃんが、すっごく嫌そうな顔をした。


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