覆面配信者を捕まえろ
『――はい、というわけで、今回は幡ヶ谷の廃墟型ダンジョンに来ています』
美場のスマホに、覆面姿のダイバーが映っていた。
黒いジャケットに、防刃ベスト。
顔全体を覆うフルフェイス型のマスク。
声も少し低く作っている。
『このダンジョンは全七層確認済み。構成モンスターは――』
「あー、あかんあかん」
俺が買い置きしていたポテチを食いながら、美場が首を振る。
「え?」
「おもんなっ」
美場が切り捨てるように言った。
モニターの中では配信者が真面目に解説を続けている。
『二階層までは初心者でも攻略可能です。ただし、三階層以降は――』
「教科書やん」
「いや、でもちゃんとしてるじゃん」
「ちゃんとしてる動画なんて誰も見ぃひんねん」
辛辣すぎる……。
配信者が可哀想になってきた。
見ると同接は三十六。
コメント欄もほぼ止まっていた。
『今日はソロ攻略で七階層を目指します』
「うーん……」
美場は顎に指を当てた。
「なんやろなぁ……悪ぅないねん。でも、致命的に『見んでもええ』配信やろ」
「そこまで言う?」
「言うで」
その後も、美場の容赦ない駄目出しが続く。
俺には何が駄目なのかよくわかないが、いちいち説得力があるなとは思った。
そして、それがBGMに聞こえだした頃だった。
『――以上で配信終わります。お疲れ様でした! 良かったらチャンネル登録、高評価お願いします!』
配信が終了する。
「よっしゃ、ねこやしき、行くで」
「え?」
美場は勢いよく立ち上がると、そのまま管理室を出て行った。
「あ、おい!」
慌てて後を追う。
部屋を出ると、ちょうど配信者が帰るところだった。
「あのー、ちょっとええ?」
「……はい?」
キョロキョロと周囲を確認した後、覆面の奥から警戒した目が向けられる。
「さっきの配信見とったんやけど」
「えっ……⁉」
「自分、全然あかんわ」
ド直球だった。
「なっ――」
配信者が固まる。
「いや、別に下手ちゃうねん。でもな、今の配信スタイルやと一生伸びんで?」
「……」
「正統派気取っとるけど、中身スカスカや。事故物件来とるくせに、そこ一切触れへんとか意味わからんし」
「そ、それは……ちゃんと攻略を見せたいからで……」
「そのちゃんとが弱いねんて」
美場はグッサグサに刺していく。
「視聴者は攻略なんか求めとらんのよ。感情を見に来とんねん」
「……」
「怖がれや。ビビれや。事故物件なら事故物件らしくせぇ」
覆面の奥の目が揺れる。
図星、なんだろうか……?
「……っ、でも、そういう煽り系みたいなの嫌いなんです!」
「ほぉーん?」
美場がニヤッと笑った。
「じゃあ聞くけど、今の登録者なんぼ?」
「……さ、三千ちょいです」
「活動何年目?」
「二年……ですけど……」
美場が「うわぁ」とでも言いたげに顔をしかめた。
「才能ないやつの努力論が一番悲惨やねん」
「っ……!」
配信者の肩が小さく震えている。
半泣き寸前だった。
おいおい、さすがに言いすぎじゃ――と思ったところで、美場が急に声色を変えた。
「ま、でもぉ?」
ぽん、と配信者の肩に優しく手を置く。
「ウチなら伸ばせるで?」
「……え?」
「だってアンタ、素材はダイヤモンドやもん」
美場の目が、じろりと配信者を観察するように細められる。
「まず、その覆面やめよか」
「は?」
「顔全部隠す必要ないやろ。むしろ損しとる」
「いや、これは身バレ防止で――」
「フルフェイスは威圧感強すぎんねんて」
そう言って、美場はスマホを操作しながら続けた。
「黒マスクくらいにしとき。目元見せた方が絶対ええわ」
「……」
配信者はしばらく黙り込んでいたが、やがて観念したように覆面へ手をかけた。
カチリ、とロックが外れる。
覆面を外した瞬間、さらりと長い髪が落ちた。艶のある黒髪だった。
「――え?」
思わず声が漏れた。
黒縁眼鏡の奥で気弱そうな目が泳いでいる。
すっきりとした線の細い顔立ち……。
どう見ても女の子だった。
「え、女の子だったの⁉」
「バレバレやろ、むしろ気付かんかった方が怖いわ」
美場が呆れた顔をする。
「ほら見てみぃ、このブルベ冬! 清楚寄りで儚そうに見えるやろ?」
美場は配信者の顔を指さした後、すっと胸元へ視線を落とした。
「そのくせ、胸だけ妙に主張が強い」
「っ⁉」
配信者が慌てて胸元を隠す。
いや、たしかにデカいな……。
「眼鏡もええな。コンタクトやなくて、そのままが正解や」
「か、勝手に決めないでください!」
女の子が顔を真っ赤にする。
美場が続けた。
「眼鏡+爆乳+清楚は金のなる木や」
「ばっ……⁉」
「そんな便利なもん使わな損やで?」
ニヤニヤしながら美場は続ける。
「あと、強がるな」
「え?」
「徹底的に弱キャラ押しや。ビビりながら事故物件潜れ。『怖いですぅ……グスン』とか言いながら行け」
「む、無理ですよっ!」
「攻略系なんて上澄みしか勝たれへん。言うとくけどな、アンタの才能はそっちとちゃうで」
「え……」
「アンタは守ってあげたい側や――」
その一言で、女の子が黙った。
美場はニタァっと笑う。
「安心しなって。視聴者なんて単純なんやから」
そして、スマホ画面を見せた。
そこには美場がAIでちゃちゃっと作った仮サムネが映っていた。
【眼鏡っ子清楚系爆乳ダイバー、日本史上最恐の事故物件ダンジョンでガチ号泣⁉】
胸元が妙に強調されている。
たしかに目は引くな……。
「はい、こんなん絶対伸びるぅー」
「嫌ですっ!!」
彼女の叫びが、廃墟フロアに響き渡った。




