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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第11話 お茶会


魔物と対峙して斃さなければ、貴重な魔物の核を手に入れることはできません。

成果を得るには、それに見合う困難を受け入れなくてはならないのです。


その意気込みでわたくしは、今、フェリックス殿下のお誘いを受け、学院内にあるカフェで殿下と向き合いながらお茶をいただいています。




フェリックス殿下は思った以上にしつこい、いえ、図太……いえ粘り強いお方でした。


初めてお会いして以降、あちらこちらで顔を合わせることが増え、そのたびに一緒にお茶でも、と誘われたのですが、わたくしの毎日は授業や公務の予定でびっしりと埋まっているため、これまでまったくお受けすることができませんでした。


ようやくフェリックス殿下のお誘いとわたくしの予定の空きが合致したのが今日の午後だったのです。




わたくしたちは衝立で仕切られているスペースでお茶をいただいています。

過度な人目は避けつつお喋りでき、適度な人目があるので誤解を避けることができる、ちょうどよい場所になります。


テーブルに着いているのはわたくしとフェリックス殿下。

ヴァレリオ、そしてレオン殿はわたくしたちの近くに立ち、ソニアはいつでも給仕ができる位置に、わたくしの護衛騎士パーチとロッシは衝立の切れ目あたりにいます。


フェリックス殿下は相変わらず護衛騎士を伴っていません。

少なくとも学院内では護衛騎士を伴うつもりがないようです。

そのかわり、ほとんどの場合、周りに女子生徒を引き連れて闊歩しているようですけれど。



「ようやく殿下とゆっくり話をする機会を得て嬉しく思いますよ」

「わたくしも楽しみにしておりました。こちらでの生活は落ち着かれましたか?」

「ええ。学院では皆さん親切にしてくれますし、授業が無い日は王都内を見て回って楽しんでいますよ」

「不自由なさっていることはありませんか?」

「ええ、日々快適に過ごしています」

「それはようございました」


まずはこれといって当たり障りのない会話です。

フェリックス殿下は快活な表情で、声も明るく、体も適度に弛緩しているようです。


それなのに、わたくしはほんのわずかですが、この場に漂う緊張感を感じ取りました。


誰がなぜ緊張しているのか。


ただ殿下とのんびりお茶を飲みながら会話を楽しみましょう、という場ですのに、不思議なことです。



フェリックス殿下が続けました。


「それにしても殿下はいつもお忙しいようですね」

「わたくしの日々の予定はやりたいことばかりで埋まっていますの。忙しいわけではありませんわ」

「でも公務もなさっておいでですよね? つい先頃、救済院へ出向かれる殿下をお見かけしましたよ」

「あら、そうでしたの?」

「ええ。私はその時、観光に勤しんでいましたがね。殿下とは大違いだ。やはり、そのような場では聖女の力をお使いになるのですか?」

「時と場合によりますわ。聖女の力を振るうことだけがわたくしの役割という訳ではありませんもの」

「なるほど。殿下は救済院だけでなく孤児院などにもよく出向かれると聞きましたよ」

「ええ。我が国では王妃自ら先頭に立ち、そういった場へ気配り目配りしておりますの。わたくしはそれに倣っているだけですわ」

「それでもそういった場へ出向かれるのは大変でしょう。息が詰まりませんか?」

「公務はわたくしの当然の義務ですし、それを厭うことはありません」

「ご立派ですね。私はつい楽な方へと逃げたくなりますよ。殿下は王族に生まれるべくして生まれた方のようだ」

「わたくしもそう思っていますの」


わたくしが真顔でそう答えると、フェリックス殿下は目を丸くしました。


「わたくしは王族として生まれなければこの歳まで生きることはなかったでしょう。赤子のうちに命を落としていた可能性の方が高いのです。その意味で、わたくしは王族に生まれるべくして生まれた、と思っておりますの」



なにしろ赤子のわたくしは乳母を五人も必要としたそうですし、それなりの身分がある乳母を五人も集められたのは王家だからこそ、でした。

わたくしが無尽蔵と言われるほどの魔力量にも負けず無事成長するためには、王家に生まれることが必然だったのです。


もちろんそこまでフェリックス殿下に言うつもりはありませんけれど。



「ですから、王族としての役割を果たすのはわたくしにとって当たり前のことですし、息が詰まるようなこともありませんの。きっと殿下は傲慢な物言いだとお思いになったのでしょう?」


わたくしが少し微笑んで付け加えますと、フェリックス殿下は慌てたように言いました。


「いや、いささか、その、勘違いをして驚いてしまいまして……殿下、もうご勘弁ください」

「わたくしもいたずら心で勘違いさせてしまうような言い方をしてしまいました。ごめんあそばせ」



フェリックス殿下はほっとしたような表情に戻りました。


「やはり殿下は立派なお方ですよ。もし私に聖女の力があれば、王族としての義務などそっちのけで金儲けに走ってしまいそうだ」

「聖女の力というものは私するものではなく、遍く使うべきものですわ。金儲けに走れば待っているのは堕落と破滅ですわね」

「これは手厳しい」

「ふふふ。フェリックス殿下が金儲けに目の色を変えるところなど、想像もできませんけれど?」

「それは買い被りというものでしょう。まあ金はあった方がいいですが、金儲けに邁進するのは私も性に合いません。目の色を変えるなら金より女性の方がいいですね」


おやまあ。

殿下はいわゆる女好き、なのでしょうか。

よく女子生徒たちを引き連れていますし、殿下のために休日の観光案内を買って出る生徒もいるようですが、大っぴらだが明るく楽しんでいるだけで不適切な行為はしていない、という報告を受けていますから、今のところわたくしも見て見ぬふりをしています。



「殿下は学院生活をおおいに楽しんでいらっしゃるご様子。何よりのことです」

「ははは。ありがたいことに皆、本当に良くしてくれますよ。同年代の生徒たちと交流するのはとても楽しいですね。殿下はいかがですか?」

「わたくしも同年代の生徒たちとの交流を楽しんでおりますわ。授業で学んだことについて同じ生徒同士、忌憚のないやり取りをすることをとても楽しく感じています。殿下もそのようなやり取りがおありでしょう?」

「え? ええ、まあ、そうですね」

「確か普通科の授業だけでなく、薬草学の授業も受講なさっておいででしたわね?」

「ええ。こちらの薬草学はバラフ王国よりかなり進んでいますからね。とても勉強になります」



急にフェリックス殿下の表情が引き締まり目が輝きましたわ。

薬草学にはかなり興味がおありのようですわね。

わたくしも薬草についてはそれなりに勉強してきましたから、話が合うかもしれません。



「バラフ王国は土地が豊かで作物もよく育つと聞いておりますが、薬草もよく育ちますの?」

「ええ。ただごく普通の薬草ばかりですし、栽培はほとんどしておりません。自然に生えているものを細々と採取するくらいですね。ですから自国内の消費で終わってしまいます」

「確か、バラフ王国には急峻な岩山の崖に生える珍しい薬草があると聞いたことがありますわ。そういうものも国内消費で終わってしまいますの?」

「それは……さて、どうだったかなぁ」



あら?

急に目の輝きが失せ、またヘラヘラした感じの態度に戻ってしまいましたわ。

不可解ですわね。



「薬草には興味がありますが、こちらで学んだことを国に帰ってから役立たせることができるかどうか。どちらかといえば私の個人的な興味を満足させているだけのことですから」

「まあ、それはもったいないことですわね」

「そうですか? そう言えばこちらでは禁忌魔術大暴走で貴重な薬草が多く失われ、普通の薬草すら入手困難になる時期があったのでしたね? 要するにバラフ王国とは本気度が違うのでしょう。授業は難しいですが、出来る限り他の生徒たちの足を引っ張らないようせいぜい気をつけることにしましょう」



微妙に話を逸らしてきましたわ。

これまた妙ですわね。


こちらでしっかり薬草学を学んで帰れば、バラフ王国でいくらでも活かせるはずですし、栽培を始め、それを大きく育て、ゆくゆくは他国との取り引きを増やすことだってできるはず。

品質の良い薬草は民と国庫を潤してくれることでしょう。

王子という立場があるのですから、ご自身がそれを主導できるのでは?

それを願っての留学だとすれば納得、と思ったのですが。



どうにもちぐはぐな殿下の態度が気になります。


そして気になることがもうひとつ……。

ただひっそりと何も言わず立っているだけなのに、拭いきれない強烈な違和感……。




その後、わたくしたちは当たり障りのない会話を交わしてお茶会はお開きとなりました。

どうにも不可解なことが多いお茶会でしたが、それでもフェリックス殿下の招待をお受けして正解でした。




「調べなくてはいけないことが出てきました」


学院から王宮へ帰る道中でわたくしがそう言うと、ヴァレリオがすかさず言いました。


「あの従者ですか?」

「ええ」

「あれは従者とは言えません。というより従者ではないと思います」

「やはりヴァレリオから見てもおかしいのですね?」

「はい。あれはフェリックス殿下を見下しています」

「ソニアはどう見ましたか?」

「私にも偽従者にしか見えませんでした。時折り口の端をかすかに曲げて、フェリックス殿下のご発言を馬鹿にするような表情を見せていましたので。フェリックス殿下からは見えませんから油断したのかもしれませんが、立ち位置からすれば主がお招きしたお客様である殿下にその表情を見られる可能性がある、ということを失念しているようではお粗末すぎます」


わたくしはあえてレオン殿の顔を見ずにいたのですが、フェリックス殿下を馬鹿にして見下しているような気配を何度も感じ、違和感を覚えていたのです。

二人が表情を観察して見極めてくれたお陰で確信が持てました。



初めてフェリックス殿下とお会いした時に感じた違和感の正体は、どうやらレオン殿だったようです。


そして今日感じた微かな緊張感は、おそらくフェリックス殿下のもの。

それが何を意味するのかはまだわかりませんが、とにかくまずはレオン殿の正体をきちんと調べさせることから始めましょう。

こういうことは疎かにできませんからね。



「王宮に戻り次第、まずは王太子殿下に報告申し上げることにしましょう。先触れは……いえ、すでにジュリオかレジーナが報告に向かっているでしょうから、逆に呼び出しがあるかもしれませんわね」

「おそらく」


ジュリオとレジーナの姿はかけらも見ていませんが、二人の魔力の気配が近くにいることは感じたので、フェリックス殿下とのお茶会の一部始終は二人も把握し、上へ報告が必要だとの判断もしたことでしょう。




さてこれからどうなるか。


あまり厄介なことになりませんように、と願うばかりです。



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