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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第7話 意地の張り合い


わたくしは再度パーチとロッシに馬車の窓の側に立ってもらい、その陰に隠れるようにしてそっと前方の様子を伺いました。


確かに馬車が二台、横転して道を塞いでいます。

馬は二頭とも助け出されたようで、興奮気味ですが、御者か馬の扱いに慣れている男性がそれぞれ馬を宥め、落ち着かせようとしているようです。

ざっと見たところ怪我は無さそうで安心しました。


ですが横転した馬車はまだそのままです。

周りに人が集まって声を掛け合いながら、馬車を起こそうと奮闘しています。


憲兵たちの到着はまだのようです。


これはどう見ても時間がかかりそうです。


安全上、脇道に逸れて回り道することはできませんから、馬車が片付くまで待つしかないようです。




それは仕方がないとしても。


「いったいあの二人は何をしているのでしょうね?」


その二人はおそらく馬車に乗っていた者たちでしょう。

身なりからしておそらく二人とも貴族。

それがなぜか周りの目も気にせず馬車の状態には目もくれず、ひたすら罵り合っています。


わたくしの言葉にヴァレリオも窓から外を覗き、呆れ顔になって言いました。


「ひたすら怒鳴り合っていますね。横転した馬車が他の人の迷惑になっていると気づかないのですかね」


大勢の人が馬を助け起こし、馬車をなんとかしようと奮闘しているというのに、あの二人はただひたすら罵り合いの喧嘩。

どちらも完全に頭に血が上ってしまっているようですね。


「あれはともかくとして、馬車の方は手伝いに行った方がよさそうですね」

「ええ、まだ人手が足りないように見えますわね。ロッシと一緒に行って手伝ってきてください。こちらはパーチがいますし大丈夫ですから」

「では行ってきます」


そう言ってヴァレリオが馬車から降りた時。

その二人の様子がさらに不穏なものに変わりました。



まあ。

殴り合いに発展しそうですわ。

いけませんわね。

二人とも足を滑らせて転んでしまえば少しは頭が冷えるかしら。



そう考えながら様子を見ていると、口汚く罵りながら勢いをつけてお互いに殴り合おうとした二人の男は、同時に足を滑らせ、つんのめって一回転し、背中からドサリと地面にひっくり返ってしまいました。



あらあらまあまあ。

本当に足を滑らせてしまいましたわ。

慣れてもいない殴り合いの喧嘩をしようとするからいけないのですわ。



「殿下。何をなさったのですか?」

「何のことですの?」

「あの二人の喧嘩を止めようと何かなさったことはわかっています」



……バレてしまいました。


いたずら心が出て、つい。

でも悟られないようこっそりとやったつもりでしたのに。


ヴァレリオったら鋭いですわね。

仕方がありません。

白状しましょう。


「風魔法と重力魔法を組み合わせてあの二人の足を滑らせひっくり返しましたの。頭と背中に衝撃が無いよう手加減しましたから怪我はしていないはずですわ」

「殿下……まあ、お陰であの二人はどうやら頭が冷えたようですが」


罵り合っていた二人は周りの冷たい視線にようやく気づいたのでしょう。

急にきょろきょろと周りを見渡し、近くにいた者に助け起こしてもらって服の埃を払い取り繕っていますが、髪も服も乱れてみっともない格好を晒しています。



「そこの体格のいいお兄さん!あっちの馬車起こすの手伝ってよ!」


どこからともなく現れた双子の片割れ、ジュリオがロッシに声をかけてきました。


「あいつら、狭いところを無理矢理自分が先に通ると意地を張り合って同時に動いて馬車同士ぶつかってどっちもぶっ倒れちまったんだ。馬鹿だよねー。馬はどうにかみんなで助けたけどさ、馬車はもっと大変だから、ね、頼むよ!」

「仕方ないな。手を貸してやろう」


手伝いに向かうヴァレリオとロッシにわたくしは囁きました。


「わたくしが手助けしますからね」

「よろしくお願いいたします」



ジュリオのお陰で何が起きたかはわかりました。


この道は道幅は広めですが人通りが多いので、馬車が速度を上げ過ぎないように所々わざと狭くしてあり、馬車同士がすれ違う時は互いに気をつけ、場合によっては譲り合うことも必要になります。

そのような道で意地を張り合って譲り合いもせず同時に馬車を走らせたらどうなるか、想像がつきそうなものですが。



見ていると、どこからか長い棒が運ばれてきて、ヴァレリオとロッシが加勢し、憲兵も駆けつけてきて手伝いに加わり、わたくしもこっそりと重力魔法で手助けし、ようやく馬車は二台とも起こされました。


ですが両方とも車輪や牽引棒が破損しているようで、それについてまたあの二人が言い合いを始め、憲兵に引き離されています。


それにしてもあの二人、いつまでも大袈裟に騒ぎ過ぎているような気がしますが……おや?


あの馬車の扉の家紋はもしかして……。



わたくしは思わずうんざりとした気持ちになってしまいました。

二人の正体がわかったからです。


あの二人は父親の代から非常に険悪な仲の子爵家当主たち、ゴルジ子爵とグッツォ子爵です。

険悪な仲になってしまった原因は側から見れば実にくだらないことだったそうですが。


そういえば、両家の娘と息子が恋仲になってしまって引き離そうと互いに躍起になっているとの噂がありましたわ。

ただ、躍起になっているのは当主と元凶の先代当主だけで、彼らにうんざりしている家族は娘と息子を応援しているらしい、との噂も。


そういう事情があるからあそこまでいがみ合っているのでしょう。



とは言っても、そのような事情はこの場にいる人々にとってはどうでもよいことです。

わたくしものんびりと道が空くのを待つ気が失せてしまいました。


とにかくあの二人をどうにかしなくては。

わたくしの馬車だけでなく、前方にも後方にも数台、貴族や商人の馬車が足止めされているようですし。


「パーチ。ロッシかヴァレリオに合図を送ってください。こうなったら少しばかりわたくしが口を出すことにしましょう」


わたくしはパーチの合図に気づいて戻ってきたヴァレリオに伝言を頼みました。


「あの二人はおそらくゴルジ子爵とグッツォ子爵です。それを確認した上で、わたくしがこう言っていると二人に伝えてください。家族の意向を私情で蔑ろにする視野の狭い者は、周りにも目が行き届かぬようですね、この騒ぎの噂が広まり己の立場が弱くならぬよう願っていますよ、と」



これでわたくしが、両家のあれこれは把握しているからこれはくだらぬ意地の張り合いに過ぎぬとわかっている、そんなことでいつまでも道を塞いでいるのは周りに迷惑、直ちに道を空けなさい、と言っているのだということが伝わるでしょう。



彼らの事情をわたくしが知っているということは、王家が知っているということ。

しかも憲兵まで呼ばれる騒ぎを起こしたその原因は単なる私情による意地の張り合い。

その意地の張り合いで馬車を横転させて道を塞ぎ、彼らの事情にはまったく無関係なわたくしの馬車や他の貴族、商人の馬車を足止めさせた。

しかもわたくしが口を出すまで、周りの迷惑も考えず、平気で足止めさせていたのです。


さらに、横転した馬車や馬をどうにかしようとしたのはこれまた無関係な周りの善意の人々で、その人々にも迷惑をかけているのです。

そしてこの騒ぎに遭遇した人々の口からこの件についての噂はあっという間に広がってしまうでしょう。

それは確実に彼らの家族の耳にも入るでしょう。


さあ、その結果どうなるか。


流石に本人たちもわかるはずです。



わたくしの言葉はヴァレリオから憲兵の目の前で二人に伝えられたようです。

二人は慌てた様子を見せましたが、憲兵に諌められて道の脇へ下がり、周りの人々の手で馬車は二台とも道の両脇に寄せられました。


これでようやくわたくしの馬車が通れるようになりました。

やれやれ、と言ったところです。


ヴァレリオとロッシが戻って来たので、わたくしはすぐさま出発することにしました。

これで足止めされていた他の馬車も順々に動けるでしょう。



「ゴルジ子爵とグッツォ子爵に殿下のお言葉を伝えたところ、急に青くなって大人しくなり、殿下にお詫びを、などと言っていましたが断りました」


ヴァレリオがそう報告してくれました。


「ええ、詫びなど不要です。詫びるなら周りの善意の皆さんと馬車を足止めさせられた皆さんへしてもらいたいものですわ」

「あそこまで周りが見えなくなるなど、きっとご大層な事情があるのでしょうね」

「両家は先代当主同士の諍いによりずっと険悪な仲のままなのです。しかも現当主の娘と息子が恋仲になってしまい、引き離そうと互いに躍起になっているそうですわ。他の家族は応援しているようですけれど」


「それはそれは……それにしてもずいぶん拗れてしまっているのですね」

「ええ。先代当主同士のくだらぬ諍いが元で険悪な仲となり、現当主同士がこのような喧嘩騒ぎを起こしてしまったのです。次はもっと酷い騒動に発展するかもしれませんわね」


「お身内はうんざりしていそうですね」

「ええ、実際そのようですよ。元がどのようにくだらぬ諍いでも、拗れて長引き、双方引っ込みがつかず、意地を張り合った挙げ句に今日の騒ぎです。夫人や嫡男は家のことを思い、このままではいけないと危機感を持って動くのではないかしら」

「そうですね。間接的とはいえ王族の乗る馬車の行手を邪魔することになったのですから、この噂を聞いたら夫人も嫡男も当主はなんてことをしでかしてくれたんだ、と怒りたくなるでしょう。殿下に直接叱られずに済んで助かったとはいえ、もう放ってはおけません。でも両家にとって、これは返っていい機会になるかもしれませんね」

「そうなることを願いましょう」


うまくいけば相思相愛の娘と息子は堂々と結ばれる、という方へと事態が転がるかもしれませんわね。

子爵家同士で家格も釣り合いますし、なにより双方が思い合っているのです。

これを機にお互い協力し合ってそれぞれの領地を発展させる方へと力を注いでいけるかもしれませんし。


どうか両家にはこの災いをうまく転じてもらいたいものです。





「それにしても今日は面倒な足止めにばかり遭ってしまいましたわね」


思わずこぼしたわたくしのぼやきにヴァレリオが言いました。


「殿下の場合、こういう目に遭ってしまうのはある程度仕方がないことだと思います」

「このような足止めに遭うことですか?」

「いえ、足止めというより、厄介ごとに遭遇してしまうことです」



はてさて?


それはいったいどういう意味でしょう。



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