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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第6話 サファイア魔石


「…………」



決められません。


わたくしはトレーの上に並んだ二十個近くの魔石を見つめながら固まってしまいました。


どの魔石もおもしろい形が素敵で、これにしようかと思うそばから、いえこちらの方が、などと思い、堂々巡りになってしまうのです。

自分のための物ならすぐに決められるのに、誰のためにどれを選ぼうかとなると、とたんに難しくなってしまいます。



これ以上悩んでも決まりそうにありませんので、わたくしが魔石を選ぶのを待っていてくれたヴァレリオとソニアの方へ向き直り声をかけました。


「ヴァレリオ、ソニア。手を貸してください」

「「はい」」


側に来た二人にトレーに載る魔石たちを見せます。


「この魔石たちの中から好みだと思う形のものをいくつか選んで欲しいのです」

「わかりました」

「手を触れても構いませんでしょうか?」

「ええ、手に取ってよく見てください」



二人は真剣に魔石を選んでくれました。


ソニアはわたくしが剣のような形と思ったものを百合の花のような形なので気に入りました、と言い、わたくしが矢尻のような形と思ったものはハート型で可愛らしいですね、と、あわせて三つ選び出してくれました。


ヴァレリオはわたくしが猫のくねった尻尾のような形と思ったものを同じく、まるで猫の尻尾のような形ですから好みです、と言い、わたくしが山のような形と思ったものを猫が寝そべっているような形ですから好みです、と言い、わたくしが角笛のような形だと思ったものを魔物の牙のような形が面白いです、と、こちらも三つ選び出してくれました。


ソニアの見立ては女性らしい感性だと思いましたし、ヴァレリオの見立ては動物に偏っているのが面白いです。

わたくしは二人が真剣に選んでくれた六つの魔石をペンダントトップに加工してもらうことに決めました。



ペンダントトップの加工をお願いする職人はもう決めています。

トンマーゾの孫にあたる店主の娘ミーナです。

ミーナはデザインから加工まで行う腕の良い職人なのです。

特にデザインセンスは際立っていて、ここルッソ宝飾店の看板職人の一人でもあります。


トンマーゾにミーナを呼んでもらい、わたくしから細かい注文をつけ、デザイン決めから加工、納品までの段取りを決めたところで、ミーナがわたくしの前に覆いをかけたトレーを差し出してきました。


「殿下。実はつい先日思いがけず入荷したものがございましたので、こちらをご覧いただきたく存じます」



ミーナが覆いを取って見せてくれたのは、美しい青い宝石をあしらった髪飾りと、別に青い宝石がひとつ。


髪飾りは姉ニコレッタのためにわたくしが注文していたもので、まだ最終仕上げの前の段階のようです。

そしてこちらの青い宝石は……。


これは……もしかして?



「これはサファイア魔石ではありませんか?」


ミーナが笑顔で頷き、トンマーゾも頷いて口々に教えてくれました。


「はい。サファイア魔石でございます」

「正真正銘、サファイアが魔力汚染で魔石に変貌したサファイア魔石でございます、殿下」

「しかも髪飾りにあしらわれているサファイアと色がほとんど同じですわ」

「はい、そうなのです。ですからご相談申し上げたく、こうしてお見せしました次第でございます」


ミーナの言いたいことがわかりました。

姉ニコレッタへの結婚祝いの品なのだから、このサファイア魔石を髪飾りに使ってはどうか、ということです。


「手に取って見てもいいかしら?」

「ええ、ぜひ手に取ってご覧ください」


宝石のサファイアと同じようにカットされ研磨されているので輝きは十分ですし、もともと硬いものですから割れる心配はほとんど無いでしょう。

圧縮した魔法陣を刻み込めるスペースも十分に確保できる大きさです。


何より色がとても美しい。



宝石の原石が魔力汚染によって変質してできた魔石は、魔力汚染がもたらした数少ない利のひとつです。

ただ魔力汚染されたからといって必ずしもすべての宝石の原石が魔石化するわけではないため、その希少性からどんなに小さなものでも人気があります。

したがってたいへん高価になりますが、わたくしの私財はこういう時に使うためにあるのです。


もうこれはぜひとも髪飾りに使ってもらいましょう。


「ミーナ。わたくしはこのサファイア魔石がとても気に入りました。姉ニコレッタにとてもふさわしい魔石です。ぜひこの髪飾りにあしらってください」

「かしこまりました。この大きさを生かして中央にあしらうことにいたします」

「ええ。お願いしますね」

「お任せくださいませ。これより最終仕上げに入りますが、他に何かご要望があれば承ります」

「ではひとつだけ確認を。髪飾りの内側の魔石は変えないようにお願いしますね」

「かしこまりました」



わたくしが姉に贈る髪飾りなのですから、もちろんただ美しいだけのものにはなりません。

姉デルフィーナに贈った髪飾りと同じ作りで、外側から見えないところに魔石をつけてもらっています。

その魔石に身を守る魔法陣を刻み込むつもりでいるのです。


念のため、姉の婚約者であるマスカーニ公爵家嫡男アンドレア様には、わたくしが結婚祝いに姉に髪飾り型の魔道具を贈ることは伝えていますし、姉の瞳の色に合わせてサファイアを使うことも伝えています。


妹が結婚する姉を思って、身を守るためのちょっとした魔道具を贈りたいという気持ちを込めた髪飾りなのですから、それが高価なサファイア魔石をあしらった髪飾りになってしまったとしても、きっとアンドレア様は許してくださるでしょう。

魔道具に魔石は付き物ですし、わたくしが贈るのはあくまでも髪飾り型の魔道具、なのですから。




さて、こうなると、姉デルフィーナにも贈りたくなってしまいますね。

姉の瞳の色に合わせるならエメラルド魔石です。

すぐに手に入るようなものではありませんから、これは気長に探してもらいましょう。


そして最初に選び出した魔石の残りもすべて買い求めることにしましょう。

双子のジュリオとレジーナのために役立ちそうな魔道具を作るのに使えるかもしれませんし、とにかく上質な魔石はいくつあっても困りませんから。




トンマーゾとミーナにお礼を言い、店主にエメラルド魔石も探して欲しいと依頼して、魔石の残りを包んでもらい、わたくしたちはルッソ宝飾店を後にしました。



今日の買い物はこれで終わりです。

気に入った形の魔石が見つかり、思いがけずサファイア魔石まで入手できて、ここでもまた最高に楽しい買い物ができました。


王宮へ帰る馬車の中で、わたくしはヴァレリオとソニアにサファイア魔石やエメラルド魔石の話をしたり、ペンダントトップや髪飾りが完成した様を想像してみました。



ペンダントトップが完成したら、わたくしの目にもヴァレリオの目にも猫の尻尾の形に見えた魔石はヴァレリオに贈り、ソニアの目には百合の花の形に見えた魔石はソニアに贈りましょう。

ハート型のものはザネッラとパーチに、猫が寝そべっているような形のものはロッシに、魔物の牙のような形のものはメラートに贈りましょう。


ペンダントトップはわたくしの学院入学前に完成するようですから安心ですわね。

学院には留学生も含め、大勢の生徒が入学してきますから、疑うわけではありませんが何か起きた時のために備えはあった方がよいのですし。

皆には常に身につけてもらうことにしましょう。


そしてあの髪飾りは子から孫へと引き継がれることになるかもしれませんわね。

珍しいサファイア魔石があしらわれた髪飾りですから、魔道具としての役目を果たせなくなったとしても髪飾り自体はずっと残りますものね。


サファイア魔石には髪飾りを身につけている者の身を守る結界を張る魔法陣を刻み込み、髪飾りの内側の魔石には状態異常解除の魔法陣を刻み込むことにしようかしら。

持ち主が代わり、魔石に魔力を込める人がいなくなっても、魔法陣はそのまま残るから、後々それが思わぬ形で何かの役に立つこともあるかもしれませんわね。

三百年後、あるいは五百年後あたりにでも。


わたくしがこの世からいなくなっても、わたくしの作ったものはずっと残るだなんて、素敵ですわね。




などと楽しく考えていた時。


突然、また、馬車が止まりました。

ルッソ宝飾店を出てからまだそれほど進んでいないのですが。


今度はいったい何が起きたのでしょう。



程なくしてパーチが報告してくれました。


「殿下。申し上げにくいのですが、前方で馬車が二台、横転して道を塞いでいるようです。またしばらく動けそうにありません」

「三度目……」



本日三度目の足止めですわ。


なぜですの?

今日に限ってこんなことばかり起きるだなんて。


いったい何がどうなったら買い物道中に三度もの足止めをくらうことになるのでしょうか?



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