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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第5話 皆を守るために


「さあ、ここですわ」

「え? 宝飾店ですか?」

「ええ。ここは老舗宝飾店として有名ですが、最上級の魔石も扱っていますの。いつもは王宮へ来てもらいますが、今日はわたくし自身の目で見て魔石を選ぼうと思い、足を運んだのですよ」

「なるほど、お目当ては魔石なのですね」



ヴァレリオが驚いたのも無理はありません。

わたくしが宝飾品を誂えるためにわざわざ店まで出向くことはないからです。

でも今日のわたくしの目的は魔石。

今度はわたくしのものではなく、周りの皆に贈るものをここで買い求めるのです。



ここ、ルッソ宝飾店は王室御用達の老舗で、わたくしが持つ宝飾品はほとんどがこちらで誂えたものです。

また、ここでは魔石鉱山から出た魔石のうち最上級品を多く扱っています。


もちろんいつもの通り、王宮に品物を持ってきてもらってその中から選んでも問題はありません。

その場合、店主があらかじめ質はもちろん形や大きさまで選び抜き持参した物の中から選ぶことになりますから、まず間違いのない良質なものを入手できます。


ですが今回は、皆のためにわたくし自身の目で確認して選びたいと思ったのです。




「ヴァレンティーナ殿下。ようこそおいで下さいました。直々のお運び、恐悦至極に存じます」


店主が深々とお辞儀をしてわたくしたちを出迎えてくれました。


「今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願い申し上げます。部屋はご依頼の通りに準備を整えております」

「ありがとう。すぐ案内してくださいます?」

「はい。では、どうぞこちらへおいで下さい」


わたくしたちが通されたのは、店の奥にある来賓用の個室です。

重厚な設えの落ち着いた雰囲気の部屋ですが、そこには大きなテーブルが持ち込まれ、その上に箱に入った魔石が隙間なく並んでいました。


そして、そのテーブル脇に立つ背筋がピンと伸びた老人。


「まあ、トンマーゾではありませんか。久しぶりですね。元気でしたか?」

「はい、殿下。お陰様にてどうにか達者で過ごしております。本日は直々のお運び、恐悦至極に存じます。恐れながら本日はこのトンマーゾめがお手伝いをさせていただきます」

「トンマーゾがいてくれるなら百人力ですよ。よろしくお願いしますね」

「かしこまりました」



トンマーゾは元店主で魔石や宝石の目利きです。

今は息子に店主の座を譲り、相談役に退いていますが、その目利きはまったく衰えていません。

ですから、わたくしが自分で選んだ魔石をトンマーゾに確認してもらえば万全ですね。



テーブルに並ぶ魔石の山は、この店にある最上級品の魔石のうち、極小から握って手の中に隠れるくらいの大きさまでのもの、すべてです。

これは事前にわたくしから依頼しておいたのです。

今回入手したい魔石は、質さえ良ければ形に難があるものでも構わないので、そういったものも含めてすべてを並べてもらいました。


「では早速見せてもらいますわ」

「はい。どうぞ心ゆくまでご覧ください」



わたくしは魔石の山に取り組み始めました。

目についたものを手に取ってはそれをじっくりと観察し、気に入ったものを選り分けてトンマーゾが持つトレーに載せていきます。


そうやって選り分けたものは、すべて形に難ありと見做されそうなものばかりです。

剣や矢尻のような形に見えるもの、虫のような形のもの、山を正面から見たような形のもの、馬の横顔みたいな形のもの、猫のくねった尻尾のような形のもの、等々。


形はばらばらですが、共通点はあります。

それは圧縮した魔法陣を石の内部に刻み込むスペースがきちんと確保できること。

これだけは外せません。


さらに、魔石は産出した時の形のままの方が状態は安定していますので、加工された跡がないものを選んでいます。




わたくしは今日ここで選んだ魔石に身を守る魔法陣を刻み込み、それをペンダントにして皆に身につけてもらおうと考えているのです。

具体的には状態異常を解除する魔法陣を刻み込むつもりです。

贈る相手はヴァレリオ、ソニア、ザネッラ、パーチ、メラート、ロッシです。


ヴァレリオやわたくしの護衛騎士たちは攻撃から自分の身を守る術を身につけていますが、目に見えない邪な魔術から身を守るのは難しいため、そちらをわたくしが作った魔道具で対処しようと考えたのです。


これは以前からずっと考えていたことです。


ただ常時身につけてもらう必要がありますから、仕事の邪魔にならないよう、どのような形にするかよく考える必要があります。


装身具を常時身につけるとしたら何がよいかそれとなく皆に聞いてみたところ、指輪はヴァレリオも護衛騎士たちも皆、剣を握る時邪魔に感じると言い、ソニアも仕事中わたくしの物を取り扱い持ち運ぶ際、傷つけてしまう可能性があるので邪魔になると言います。

ブレスレットも同じような理由で邪魔になります。

ブローチや飾りボタンなどは仕事中、気づかぬうちに取れて無くしてしまいそうだし、ピアスはザネッラ、パーチ、メラートはすでに好みのものや親しい者から贈られたものを付けていて、ロッシやヴァレリオは好まないと言います。


結局、消去法で残ったのがペンダントでした。

それなら仕事中でも服の中に隠しておけば邪魔になりません。


ですから今日は無加工でペンダントトップになりそうな魔石を探そうとしているのです。

あまり大きくなく、薄くもなく厚くもなく、重すぎないもの。


魔石自体は金か銀の透かし彫りの細工で覆ってもらうつもりでいますから、形は歪でもかまわないのです。




状態異常解除の魔法陣を刻むと決めたのには訳があります。


王家にはフォンタナ王国内のみならず他国のお家騒動の情報も集まってくるのですが、その中に、禁忌の魔術か秘薬が使われたのでは? という疑いのある騒動がごく稀にあるのです。

禁忌の魔術とは人の心、思考を操る魔術のことです。

秘薬で言えば魅了薬がそれにあたります。



テオ様が国王となって以降、ベネドリナ王国では法で明確に魅了薬を作ることも入手することも使うことも禁止していました。

実際に使われた事例があるから禁止したのです。

その事件はテオ様が国王になる前のベネドリナ王国で起きています。

もちろん魅了薬を禁止する法はフォンタナ公国でもフォンタナ王国でも受け継がれ、魅了薬は禁忌とされ、入手しただけでも禁固刑、作ったり使用したりすれば極刑は免れません。



それでも、製法を知る者や薬を作れる者はどこかにいるかもしれませんし、大昔に作られた魅了薬を密かに隠し持っている者がいるかもしれませんし、誘惑に負けて手を出してしまう者もいるかもしれません。

残念なことに、こういう物はいくら法で禁止しようが根絶できないものなのです。



魅了薬は使われても本人は気づけない恐ろしい秘薬です。

魅了薬に類する魔術も無いとは言い切れません。

その対抗手段のひとつが状態異常解除の魔法陣を身につけておくことなのです。


わたくしはすでに国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、王太子妃殿下、マヌエル殿下に指輪型の状態異常解除のための魔道具を贈っています。

これは念のためです。


わたくしはそういった魔道具を作れるようになりましたし、作れるのですから、たとえどれほど起きる確率が低くとも備えをしないという選択肢はありません。


姉デルフィーナには結婚祝いとして、何かあった時、身を守ってくれる結界を張る髪飾り型の魔道具を贈りましたが、状態異常解除のための魔道具も作って贈るつもりでいます。

姉ニコレッタにも同様に結婚祝いとして贈るつもりです。


そしてわたくしの周りにいる皆のためにも同じようにペンダント型の魔道具を贈るのです。

こういったことへの備えに手を抜くことはしません。



わたくし?


もちろん母とわたくしは魔力型が全型ですから、全型以外の人間から禁忌の魔術を仕掛けられてもまともに効くことはないでしょうし、状態異常解除はいつでも使えるので魔道具は必要ありません。

それでも心構えは常にしています。



実際にはこの魔道具が必要になるような時は来ないと思いますが、それでもわたくしは手段があるのに備えなかったと悔いるより、備えておいたけれど結局使わなかった、となる方を選ぶのです。




さあ、選り分けた魔石は二十個近くになりました。


「トンマーゾ。この魔石たちはどれも安定した状態で、割れる心配もないと思いますけれど、如何?」

「はい、殿下。殿下の目利きはまことにご立派でございます。どれも間違いのない魔石でございますから、必ずや殿下のお役に立ちましょう」


ずいぶんと大袈裟に褒めてくれましたが、とにかくトンマーゾのお墨付きを得ましたから安心です。


では、この中からさらに選り選ることにしましょう。


ペンダントにする細工をお願いする必要がありますから、まずは皆に贈る分から。


どの魔石もおもしろい形が気に入って選んだものですから、迷いに迷いそうですけれど、心を込めてじっくりと。



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