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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第2話 街へお出掛け


「ヴァレンティーナ殿下。いつになく楽しそうな顔をなさっていますね」

「あら、表情に出ていますか?」

「はい」


ヴァレリオが頷き、ソニアも同意を示しました。

たしかに、今日のわたくしは子供みたいに浮かれているのです。


「ヴァレリオはお店に行って買い物をしたことがありますか?」

「買い物はしたことがありませんが、兄たちにくっついて刀剣を扱う店に行ったことがあります」


まあ、ヴァレリオに先を越されていましたわ。


実はわたくし、これまでに一度も自分から足を運んで商店に行って買い物をしたことがありません。

でもいつか、あれこれ並んだ品物の中から気に入った物を選んで自分で買い物をする、という行為をしてみたいと思っていたのです。



今、わたくしとヴァレリオ、ソニアは馬車に乗っています。

馬車の外には護衛騎士のパーチとロッシがいます。

行き先は街。

今日は貴族学院入学に備えて、いろいろと買い物をするのです。


どんなことでも最初の一歩を踏み出すのはわくわくします。

ですから今日のわたくしは買い物が楽しみで楽しみで、朝からそわそわしっぱなしなのです。




最近のわたくしは入学に備えて様々な準備をしています。

どのような授業があり、どのような講義が行われるのか調べ、教材として使われる本を入手し、公務で授業を休む可能性を考慮して予習を進め、履修を必須とされている授業科目のうち授業免除を受けられそうなものはその試験の準備をし、制服など学院生活で必要な物を調べては準備をし、といった具合です。


すでに学院の制服は仕立てが始まっています。

わたくしはまだ身長が伸びている最中ですので、とりあえず一年分。

ヴァレリオはこの二年ほど、ものすごい勢いで身長が伸びているので、やはり一年分。


制服は紺ブレザーとグレーのパンツかスカートと決まっていますが、中に着るシャツやブラウス、クラバットやリボンタイ、革靴の色などは華美にならない程度に自由にしてもよいとされています。

そういった物は侍女のグレタやスザンナがわたくしに似合う物も好みも熟知していますので、ほとんど任せてしまいました。


ですがグレタに、学院の授業で使うノートやペン、インクなども普段お使いの物と同じ物を準備いたしますか? と問われた時、ふと思いついたのです。



ノートやペンならば普段使いの物と同じにせず、好みに合うものを自分で選んで買ってみるのもよいのでは?

学院の生徒たちはどのような物を使っているのかしら?

同じ物をわたくしも使ってみたいですわ。

それに授業用に新たに一式揃えるというのは楽しそうですわ。


つまりこれは初めてのお買い物体験の絶好の機会なのでは?!



こう思いつくともう居ても立っても居られなくなりました。

ですから今日は街へ買い物に出掛けることにしたのです。


もちろん自分で買い物をしたことがないわたくしだって物を買う時はお金が必要で、支払いに金貨、銀貨、銅貨などを使うことは知っていますし、実物も見て知っていますよ。

でも知っているだけでは身についたとは言えませんものね。

何事も自分自身で経験して初めて身につくのですから。




わたくしたちが乗る馬車は王宮の敷地を出て街中へ入りました。

最初に目指すのはもちろん、紙やペン、インクなどを扱う商店です。

王都内で最も大きく、取り扱う品も希少な物から手の届きやすい物まで多種多様な物を取り揃えていると評判の店です。

そこは買物客が馬車を止めておく場所も備えているそうなので、ゆっくり買い物ができそうです。


わたくしが最初に見ようと考えているのはノートです。

学院で生徒が使うノートは、紙の束を半分に折り曲げて表紙をつけ糸で綴じただけのものが一般的だと聞いています。

本のように装丁された厚みがあるものより軽くて持ち運びやすく、早く使い切れるので達成感を感じやすい、といった理由で好まれているようです。


ただ実用一点張りで見栄えはしないので、ソニアが学院にいた頃は、綺麗な革や布のノートカバーを掛けたり、絵心のある者は自分で表紙に絵を描いたりして個性を主張し合っていたとのこと。

そういう工夫は面白いですね。

わたくしも何かそういった工夫を考えてみたくなります。




途中、進路前方で荷馬車の荷崩れがあり、散乱した荷の片付けが済むまで馬車を進められない、というハプニングがありましたが、お目当ての商店に到着し、中に入って店内を見渡したわたくしの頭の中はもう紙とペンとインクのことでいっぱいになってしまいました。


大きなガラス扉のついた棚の中には綺麗に装丁された様々な大きさの、まるで本のようなノートが陳列されています。

大きなものは日記にしたり、家の重要な出来事を記して後世に残すのに使えそうですし、小さめのものは携帯していろいろ書き込んだり読み返したりする用途に向きそうです。


簡易なノートは陳列台に並べられていて、手に取って確認できるようになっています。


別の一角には上部がガラスの箱のようになっている陳列台に美しい羽根ペンやインク壺のついた美しいペントレーがたくさん並んでいます。


さらに別の一角にはインクの入った瓶が並んでいて、黒、青、赤のインクが大きさや形の違う瓶に詰められ並んでいます。



「ここは楽園ですわ」



わたくしは目に入った光景に感じ入り、思わずそうつぶやきました。


店の中はこのようになっているのですね。


事前に話を聞いて店内の様子をわたくしなりに想像していたのですが、見ると聞くでは大違い、とはこのことです。

もう少しこじんまりとした店内に品物がぎっしり並んでいるのかと思っていましたが、ゆったりとした広さのある店内でしたし、並べ方はそれぞれに工夫されていて、客の目をうまく惹きつけているように思えます。

店内の雰囲気も気に入りました。



わたくしのために店内は一時貸し切りにされましたので、まずは自分の好きなように見て回ることにしました。

それが買い物という行為の醍醐味であり、わたくしがしたいのはまさしくそれなのですから。


わたくしはさっそくノートが並ぶ一角に足を運びます。

真っ先に学院の生徒たちがよく使うという簡易な作りのノートを手に取り、開いてみます。


中身は少し黄色みを帯びた紙です。

薄手の紙で、手触りは多少ざらつきを感じますが、書きやすそうな紙のようです。

ほぼ平らに開くのも良い点ですね。

表紙は少し厚めの柔らかい紙で、焦茶色、薄茶色、濃いグレーの三種類。

これは女子生徒にとっては物足りない色かもしれません。

ノートカバーが欲しくなる気持ちがわかるような気がします。


隣でヴァレリオもノートを手に取ってあれこれ確認していますが、表紙の色より開き具合に感心したようです。



わたくしたちは店主に買い取りを約束して、一冊のノートに実際にペンで書いてみることにしました。

店内には重厚な書物机があり、そこで試筆ができるようになっているのです。

用意されている筆記具は羽根ペン、金属ペン、鉛筆、黒インクです。


わたくしたちは楽しくあれこれ試してみて、ペン先の滑りは許容範囲だけれど、インクがページの裏まで染み出してしまうのでこのノートには鉛筆を使った方がよい、軽さと開きが気に入ったから学院の授業で使うノートとしてこれを採用してみよう、という結論に達しました。


ヴァレリオは用意されていた鉛筆が気に入ったようです。

そしてわたくしの計算はこうです。


「このノートは筆記に何を使うにせよ、見開きで右側のページだけに書く使い方になりますから、ページ数を考えると十日ほどで一冊使い切りとなり、一年でおよそ二十冊、それを受講科目数分揃えるとして百冊以上必要になりますわね」


なぜかヴァレリオもソニアもぽかんとした顔になってわたくしを見ています。

百冊以上必要になることは間違いないはずですけれど、どこかおかしな点があるのでしょうか?


「そんなに大量に書くのですか?」

「ページは両面使えばよいのではありませんか?」


ああ、そういうことですのね。


「ノートというのは何度も読み返し、後から記述を足したりして手を入れるものです。ぱらぱらめくってすぐに目的の記述を探せるよう、程よい大きさの文字を書きますし、文字だけでなく図も書きますからページはあっという間に埋まりますわね。余白を残しておくことも大事です。わたくしは一枚紙に何か書く時も表側しか使いませんし、厚いノートへ書く時も右ページだけと決めています。このノートはインクを使えば裏に染み出し、鉛筆で書けば筆圧で向かい側のページに黒い色が移ってしまいますでしょう? やはり右ページだけ使うやり方が一番ですわ。従って百冊以上必要になります」


わたくしが自信を持って言い切りますと、今度はこちらの様子を伺っていた店主の顔色が少し焦った色に変わりました。


なぜでしょう。

まだ何かおかしな点があるのでしょうか?



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