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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第35話 初めての魔物討伐(7)お母様の初遠征

わたくしと母は今、討伐拠点の城の王族専用食堂にいます。

わたくしはもうお腹と背中がくっつきそうなほどの空腹を感じています。


すでにおいしそうな料理が次々と運ばれてきています。

ただし、どこで食事をするにしても王族の護衛を担う近衛隊の騎士は必ず毒見をするのが任務ですから、彼らが毒見を済ませてからでないとわたくしたちは食事ができません。

それなのにおいしそうな匂いが漂ってきてわたくしのお腹がぐうっと鳴いてしまいそうな危機的状況です。


本当のことを言えば、わたくしも母も毒見を必要としません。

たいていの毒は口にする前にわかってしまいますし、口に入れてしまっても自分で解毒できるからです。

だからといって騎士たちの任務を蔑ろにするなど以ての外。

例え王宮から遠く離れた討伐拠点の城にいる時であろうとも、どんなにお腹が空いていようとも、そういうことは疎かにしないのです。

わたくしのお腹はもう限界ですが。



お腹が空いたという表情を浮かべないよう堪えていると、ようやく毒見が済んで牛肉のステーキ、オムレツ、野菜のスープにパンがテーブルに運ばれてきました。

お肉とオムレツは母とわたくしにそれぞれ二人分以上の量が出されました。

事前に頼んでおいた通りです。

完璧です。


「さあ、いただきましょうか、ヴァレンティーナ」

「はい、いただきます!」


わたくしと母は空腹を満たすべく、食事を始めました。

味付けは素朴ですが、とてもおいしくて量はたっぷり。

今日はわたくしもそれなりに役割を果たせたはずですから、心置きなく食事を楽しみます。




ここ現アンジェロ領は王国の食糧庫へと発展した元フォンタナ公爵領ですから、農産畜産が盛んです。

従って食材も新鮮で豊富。

わたくしも母も気兼ねなくいつものようにたくさん食べられます。

魔力と体力の回復にはまったく困ることがない、討伐拠点としてはもってこいの素晴らしい場所なのです。


騎士たちも今頃は食堂でたっぷりの食事を楽しんでいることでしょう。

わたくしはまだ未成年ですし、母とわたくしは殿下と呼ばれる立場ですから、同じ場で飲食すると騎士たちに要らぬ気を使わせてしまいます。

それで食事の場は分けているのです。

もちろんわたくしと母の護衛騎士たちも交代で食堂へ行き夕食をとることになっています。




食事をしながら、わたくしは母が初めて魔物討伐に参加した時のことを教えていただきました。


「お母様はまだ貴族学院在学中だった頃に魔物討伐の遠征に初参加したのですよね?」

「ええ。十六歳の時でした」

「よくお許しが出ましたね」

「いずれ汚染された森の浄化のためにわたくしの力を使わなくてはならないことはわかっていましたから、浄化の力が使えることを証明するためにアンジェロ領へ赴きたい、と申し出たところ、国王陛下も王妃殿下も反対なさいました。特に王妃殿下はなかなか頷いてくださいませんでした。もちろんわたくしの身を案じてくださってのことでしたが、わたくしはわたくしで王妃殿下のためにも浄化や魔物討伐で成果を挙げて周りを黙らせようと決めていたのです」

「周りと仰るのは貴族たちのことですか?」

「ええ。そして学院の生徒たちです。わたくしの聖女の力のことは知られていましたが、実際に何をどこまでできるのか知らない方が多く、たかだか治癒魔法ができる程度で子爵家の娘が王家から目をかけられるなど、と不満を抱いていた方も多かったのです」



母は聖女の力を持つだけでなく、とてつもない美貌の持ち主でもあります。

ですから学院でも周りの嫉妬に苦労したようです。

王家の意向で母は高位貴族の令嬢が学ぶ淑女科で学びました。

その頃はまだ母の身分は子爵家の娘に過ぎなかったので、下位貴族のくせに生意気だとずいぶん疎まれ嫌がらせをされたそうです。

また、側妃となるのだから、と領主科で必須とされている科目もいくつか学んでいたため、そちらでもいろいろと酷かったとか。


入学前には卒業後すぐ側妃になることが決まっていたため、母にはすでに専属の護衛騎士が付いていましたし、影の監視も付いていました。

だから嫌がらせや嫉妬などたいしたことはなかった、と母は言いますが、実際はとても大変だったはずです。


でも母にとってそれは遠征の準備に比べたらほんの些細なことに過ぎなかったのでしょう。



「初めての遠征は、学院の長期休暇に合わせて日程を組んでもらいました。遠征前、わたくしはほぼ毎日、授業を終えると王宮へ行き、討伐隊の騎士たちと様々な準備をしたのです。とにかく何もかもが手探りで最初はとても大変でした」



汚染された森の浄化はおよそ百年ぶりとなりますし、浄化に伴う魔物討伐を経験している者も誰もいません。

そこでまず、汚染された森から彷徨い出てきた魔物を討伐したことがある者たちをかき集めて討伐隊を結成。

浄化から魔物討伐までの流れは王室第一騎士団所有の過去の資料を皆で共有しながら把握。

魔物の種類やそれぞれの弱点などをあらためて頭に叩き込む。

母が騎士たちへ身体強化や回復をかける訓練を積み、攻撃系の魔法が使えることも騎士たちに見せて証明。

その頃はまだ対魔物に特化した結界は張れなかったので、物理的な攻撃を防ぐガチガチの結界を張ってある程度安全を確保できることも証明。


このような準備を経て聖女の力について騎士たちからの信頼を得たところ、ようやく王妃殿下も母がアンジェロ領へ向かうことを許してくださったとのこと。


浄化の力は目の前に汚染されたものがないため証明してみせることはできなかったが、現地に行けば必ずできると確信していた。

そして実際に現地で汚染された森の前に立った時、揺るぎない確信をもって浄化の力を使えたとのこと。


一度に浄化する範囲を試行錯誤しながら三日間、汚染された森を浄化。

二日目と三日目には魔物が出現。

魔物討伐で大怪我を負ってしまった者もいたが治癒魔法で治し、一人の死者も出さずに済んだ。

王都に戻った時、国王陛下と王妃殿下が直々に出迎えてくださり、お褒めの言葉を頂戴してとても嬉しく光栄に思った。


おおよそこのような初遠征だったそうです。



「周りの反応はどうなりましたか?」

「ずいぶん変わりましたよ。学院には討伐隊の騎士の子息が何人かいて、父親からある程度討伐について話を聞き、学院内で広めたのです。それで、わたくしの聖女の力は治癒魔法だけではなく、浄化もできるし攻撃もできる、ということがようやく知られるようになったのです」

「それはきっと騎士団の意向、陛下や王妃殿下の意向があったのでしょうね」

「ええ、その通りです。きちんと情報を調べた貴族たちも静かになりましたし、わたくしも学院での生活が楽になりました」


「実際に浄化や討伐を経験したことはとても大きなことだったのでしょうね?」

「ええ。何もかもが初めての経験でしたが、わたくしも討伐隊も得るものが多かった初遠征でした。それ以降、浄化も討伐も何度も行い、試行錯誤し、それによって技術もどんどん進歩していきました。わたくしが側妃になってからは閲覧できる資料も増えましたから技術は格段に上がりました。もっと早く知りたかった、という知識もたくさんありましたが、学院生だった頃はまだ古語が読めませんでしたから、それはまあ仕方のないことでしたね」



過去の資料を読み解きながら試行錯誤していくのはとても大変だったでしょう。

わたくしは母や討伐隊の十五年ほどにわたる経験の蓄積を始めから共有してもらえるのですから楽なものです。

本当にありがたいことです。




母と二人きりで馬車に乗ったり食事をすることは滅多にありませんので、この遠征はわたくしにとって母にいろいろな話を聞けるとてもいい機会になりました。



浄化と討伐はあと四日間を予定しています。

今日もたくさん新たな経験をしましたが、明日以降もきっと新たな経験をすることでしょう。


もっともっと母の話を聞き、母の技術をよく見てわたくしも物にしよう。



食事を終え、明日に備えて早々にベッドに入ったわたくしは、そんなことを考えながらあっという間に眠りに落ちたのでした。



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