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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第32話 初めての魔物討伐(4)汚染された森へ

「それでその賊と、賊の言うさるお方はどうなったのでしょう」

「それは後年、アンナベッラ王妃殿下から聞かされることになりました。その賊は王家の影に侵入したところも怪我を負って逃げ出してきたところも見られ、その後の行動のすべてを監視され、通じていた貴族も露見し、その者は王家からすべて知っているぞと匂わされ、震え上がったとか」

「やはり王家が曖昧にして放っておくわけないのですよね」

「ええ。わたくしはあえて詳しいことは聞きませんでしたが、王妃殿下からその貴族は二度と王宮に出入りできない立場に落とされたから心配しなくてよい、と教えていただきました。その者は表面上人当たりがよく悪い評判などない人物だったようです。賊の方はお金で誘拐や恐喝を引き受けるならず者だったそうで、人を手にかけたことも一度や二度ではないとわかり処刑されたと聞きましたよ」

「顔立ちが優しげな美形でも、中身はならず者だったのですね」

「ええ。人としての一線を越えてしまった者はどれほど顔が美形であろうが人当たりがよかろうが、不気味で恐ろしいとつくづく思いました」


母の苦労は並大抵のことではなかったことがよくわかります。



もっと他の話も聞いてみたいと思った時、母が言いました。


「ヴァレンティーナ。そろそろ目的地に到着しますよ」


わたくしは緊張感が増してくるのを感じました。

でも母はわたくしに微笑みかけて元気づけてくださいました。


「大丈夫です。ヴァレンティーナ。あなたはしっかり準備をしてきました。必要なことはあなたの体が覚えています。たとえ生きている魔物と遭遇して怖いと思ったとしても、それは人として当たり前の感情なのですから恥ずかしいことではありませんよ」

「はい」

「汚染された森の前に立ったあなたは、きっと、自分は間違いなく聖女の力を持ち、必ず使えるのだと確信するでしょう。そのことがあなたに自信を与えてくれるはずです。わたくしがいます。あなたの護衛騎士たちも常にあなたを守っています。討伐隊もいます。あなたはひとりではありませんからね」

「はい!」


母の言葉はまるで予言者のようです。

きっとご自身の経験から出た言葉でしょう。

お陰でわたくしの緊張は少し和らぎました。




目的地に着き、討伐隊隊長の出迎えを受けてわたくしたちは本隊と合流しました。

騎士たちがきびきびと動いています。

医師が待機する治療用の天幕が張られています。

馬たちもきちんと世話をされています。

皆の物慣れた様子はわたくしを勇気づけてくれました。


わたくしたちは隊長や小隊長たちと最終確認を行い、当初の計画通り予定した場所の浄化から始めることに決まりました。

決まったとなれば、いよいよ汚染された森へ出発です。


「ヴァレンティーナ殿下。我々は常に殿下のお側にあり、どのような事態が起ころうとも必ず殿下をお守りいたします。心置きなく浄化に集中なさってください」


出発間際、わたくしの護衛騎士ザネッラ、パーチ、メラート、ロッシが励ましてくれました。


「ありがとう。ザネッラ、パーチ、メラート、ロッシ。皆、よろしく頼みますね」

「「「「はっ!」」」」



ここから先、馬は使えないので徒歩で予定地へ向かいます。

森の中の道は狭いので、先遣隊、母と母の護衛騎士、わたくしたちの順で森の中へ入りました。

討伐隊は小隊にわかれて別の道を通り、予定地へ向かいます。


今歩いているあたりは、すでに母が浄化済みで緑豊かな気持ちのよい森です。

鳥の鳴き声、時折り動く小動物の気配、草木の葉擦れの音などが聞こえてきます。

このあたりはごく普通の森そのものです。


さらに歩いていき、そろそろ予定地に辿り着こうかという時、わたくしはふと重い雰囲気を感じました。

目を凝らすと前方にどす黒い森が見えます。


わたくしたちはその手前で歩みを止めました。

予定地に到着です。

事前に倒木などを動かして整備し、ある程度平らにならした場所です。

別の道を辿ってきた討伐隊も合流しました。

さっそく隊長の指示で討伐準備が始まります。

わたくしは母と共に対魔物用の結界を張る準備に取りかかりました。


準備が整い、隊長の指示のもと全員が配置につきます。

わたくしは母に従い、汚染された森へぎりぎりまで近づき、そこで立ち止まりました。



わたくしの視線の先にあるのは禍々しい雰囲気のどす黒い森です。

そちらの森とわたくしたちがいる側の森とはひと続きの森なのですが、見えない境界がこちらとあちらをくっきりとわけているかのようです。

こちらは陽の光が差し込んでいるのに、あちらは陽の光がほとんど差し込んでいないようで、森の奥の様子は目視できません。

一度飲み込まれてしまったら二度と出て来られないような深い深い暗闇が広がっているように思えます。

生き物の気配は感じられません。

空気が重く、肌に粘りついてくるように感じられます。

本能的に、この森へ入ってはいけない、と感じるとても異様な森です。


わたくしは森の異様さに思わず身震いしてしまいました。

足にうまく力が入らず、心許ない気持ちに陥りそうです。

それでもわたくしは汚染された森から目を離さず睨むように見つめます。



そうやって見つめていると、この汚染された森は、浄化された森を侵食しようとあがいているように思えてきました。


禍々しい何かが侵食を試み、浄化された森に触れようとして弾かれ、それでも懲りずに侵食を試みる。

けれど汚染された森と浄化された森の間には見えない境界があってお互いの侵食を阻んでいる。

目には見えない攻防。


でも汚染された森は苦しんでいる。

もしかすると侵食しようとしているのではなく、救いを求めているのだろうか。

どうしようもない、もどかしい、そんな痛々しさも感じられてくる。



そのようなことを考えているうちに、わたくしは確信しました。




わたくしは今何をすべきかわかっている。

ここを浄化しなくてはならない。

わたくしは浄化のやり方を知っている。

これはわたくしが成すべきことである。




母が言った通りです。

わたくしには聖女の力が備わっていて、それは汚染された森を目の前にした時、ここでは浄化の力を使えばよい、と自然に準備を整えてわたくしに知らせてくれた。

そのような感覚でした。


他の魔法を使う時とはあきらかに違います。

誰かが使っているところを見て真似して使って覚えるのではなく、聖女の力はその時になれば自然に使えるのです。

今、それをはっきりと確信しました。


わたくしが治癒や回復、結界を張るなどの聖女の力を使い始めたのはまだとても幼い頃で、なぜ使えるようになったのかは覚えていないのでわからなかったのです。

でも今、必要な時には自然に使えるのだとわかりました。


結界を張るやり方もうまく言葉で説明できませんし、浄化も同じです。

ですが説明はできなくとも、わたくしにはできるのです。

何も考えずとも呼吸ができるのと同じなのです。



わたくしはいつでも、今すぐにでも浄化の力を使える。



自信が湧いてきました。

わたくしの身震いは止まりました。

地面を踏み締める足には力が戻ってきました。



隣に立つ母がわたくしの顔を見て頷きました。


「ヴァレンティーナ。確信したようですね」

「はい」

「では始めましょう。まずわたくしが浄化をします。一度に浄化する範囲を実際に見せますからね」

「はい。心して拝見します」



母は隊長へ、始めます、と言い、汚染された森へ視線を戻し、両手をかざしました。


母の両手から出る強く明るい金色に輝く光が目の前の森を照らし、包み込み始めました。

よく見るとその光は金色だけではなく、さまざまな色を含んでいます。

わたくしが知る色の名前だけではとても言い尽くせないほどのさまざまな色の光を含んでいるのです。

そのきらめきはあまりにも美しく、優しく、慈愛に満ちて、温かく、目の前の森のあらゆるものに溶け込み始めました。


するとどす黒い森は少しずつ黒味が薄れだしました。

さらに濃い灰色へ、薄い灰色へと変化していきます。


やがて草木の輪郭が浮かび上がってきました。

その色も本来の色を取り戻してきました。


陽の光が差し込み、すっかり本来の色を取り戻した草木、そして小さな花々までもがわたくしたちの目にあきらかになった時、母の手から浄化の光が消えました。


目に見える範囲はすべて浄化されました。

ですが母も騎士たちも油断せず、辺りの気配をうかがっています。

浄化後は魔物が出やすいからです。



しばらく時間を置き、何事も起こらないと判断した隊長が第一予定地の作業完了を告げました。



母がわたくしの顔を見て言います。


「次はあなたの番ですよ」

「はい!」



さあ、次はいよいよわたくしの出番です。



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