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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第31話 初めての魔物討伐(3)お母様の武勇伝

「まあ、お母様。なんて格好良いのでしょう!」


わたくしは騎士服に身を包んだ母の姿を見て思わず声を上げてしまいました。

長い黒髪をまとめ、白を基調として瞳の色の赤紫を差し色にした騎士服に足元はブーツを履きしっかりとした足拵え。


わたくしはドレス姿か白衣を着ている母の姿しか知らないので、その凛とした立ち姿に目を奪われてしまったのです。


「ありがとう、ヴァレンティーナ。あなたもキリッとしていてとても格好良いですよ」

「ありがとうございます」


わたくしも母とお揃いの騎士服を着て、髪も同じようにまとめてもらっています。

わたくしたちのこの格好は魔物討伐時の戦闘服なのです。

森の中で身軽に動けるように、いざとなったら走れるように。

髪や服を木の枝に引っかけたり、足元が見えず何かに躓いて転ぶことなく、浄化と討伐に集中するために。



今わたくしたちは討伐拠点となる城にいます。

王都からここまで来るのに馬車で四日かかりました。

今日は王都を出発して五日目。

いよいよ魔物討伐に向かいます。



この城がある場所は元はフォンタナ領と呼ばれていた地域です。

フォンタナは王国の名となったので、今は別の名に変更されました。

かつてベネドリナ王国時代に臣籍降下した王弟のひとりがアンジェロ公爵となり、この辺りを含む一帯を領地としていたことから、今はアンジェロ領と呼んでいます。


アンジェロ領には王都から汚染された森へ向かう道筋に沿って三つの砦があります。

魔物討伐隊はその城に泊まりながら移動し、討伐拠点となる城へやって来たのです。

わたくしにとっては初めての馬車での長旅でしたが、三つの砦はどこもきちんと整っていて、快適に過ごせました。



「ヴァレンティーナ。体調は大丈夫ですか?」

「はい。万全です」

「では出発しましょう」

「はい!」


母とわたくしは一緒の馬車に乗り、母の護衛騎士とわたくしの護衛騎士が騎乗で馬車を守りながら、目的地である汚染された森へと出発しました。

魔物討伐隊の本隊は先に出発しており、浄化予定地近くで周辺の調査や討伐準備を進めています。

今日の予定は、昨日の夕食前に全員で確認していますが、本隊と合流して再確認し、どのような手順で浄化と討伐を進めるか最終決定することになっています。




いよいよ本番が近づいてきました。

初めて魔物を見ることになった時、わたくしは怯えずにいられるでしょうか。


今、馬車の中にいるのは母とわたくしだけです。

わたくしは母に尋ねました。


「お母様は初めて魔物を見たとき、怖いと思いましたか?」

「ええ。初めて見た時は恐ろしい生き物だと思いました。ですが、魔物に立ち向かう騎士たちの後方支援をしているうちに、恐怖心は薄れていきましたよ」

「それは騎士たちが強かったからですか?」

「騎士たちは強かったですし、その時も無事討伐を果たしました。ですがわたくしの恐怖心を薄れさせたのは別のことが要因です」

「別のこと、ですか?」

「ええ。魔物の外見は恐ろしいものです。魔物のすることも外見に違わず恐ろしいものです。でも恐ろしいという点では魔物は外見も中身も一致している、と思った時、恐怖心が薄れていったのですよ」

「?……よくわかりません」

「そうですね。では見た目は可愛らしい子猫なのに、することが魔物そのものだとしたら、どう思いますか?」

「驚いて、恐ろしく思います」

「魔物の見た目は恐ろしく、そして、することも凶暴で恐ろしいことですね?」

「わかりました。見た目通りの恐ろしいことをするから、外見も中身も一致していると思ったのですね?」

「その通りですよ。それに比べて人間は外見と中身が不一致の者も多い、そちらの方がよほど恐ろしい、と思ったら、魔物への恐怖心は薄れていったのです。そういう人間は散々見てきましたからね」


母は聖女の力を持つと周りに知られるにつれ、邪な性根の者が次から次へと周辺に湧いて出てきて、王家に保護されるまで苦労したと聞いています。


「人間の方が恐ろしいのですか」

「そういう人間もいる、ということですよ。わたくしはそういう人間を大勢見ることになりましたし、いかに厄介であるかも知ることになりましたからね。魔物の方がマシだと思ってしまったのですよ」


母は少し遠い目をしながらそう言いました。


「いろいろ大変な目に遭われたのですね」

「ええ。わたくしに聖女の力が発現してからは、たまに領民の酷い怪我を治癒していましたが、やがて領民の名を騙ってわたくしを呼び出そうとしたり、家紋無しの馬車でやって来て急病人が出たと言いわたくしを連れていこうとする者が次から次へとやって来ました。もちろんどれほど泣きつかれようが父や母がすべて断りましたけれどね。そもそもわたくしはまだ治癒師ではなかったのですから、治癒が効かなかったとしても一切責任は取れないし、必ず癒るという保証もできない、と断ったのですよ」

「きっと相手はそれを口実に言いがかりをつけてお母様を囲い込むつもりだったのですね」

「おそらくそうでしょうね」


母は遠い目をしたまま頷きました。

よほどそういう輩が多かったのでしょう。


「それで少しは落ち着いたのですか?」

「いいえ、今度はお茶会の招待が次々と舞い込んできました。ご令嬢との交流かと思いきや、皆様からは兄弟や従兄弟の売り込みをされるというものでしたよ。さらに婚約の打診まで来るようになってしまいました。父と母は本当に苦労しました」

「そうするとお母様が年頃になったらもっと大変になったのではありませんか?」

「いいえ、実はその頃からわたくしたちは王家によって密かに保護されていたのです。わたくしの聖女の力のことが噂になり始めた頃から王家はタスカ子爵家を監視していたのですよ。わたくしは知りませんでしたが、そのお陰で父は高位貴族からの婚約のねじ込みや圧力を躱せたようです」


それは頷けることです。

王家は異世界人の血筋を繋ぎ続けるため、聖女や勇者の噂を掴めば必ず調べさせるはずですから。

そしてそれが本物だと確信できれば保護するでしょう。


「それでようやく落ち着いたのですか?」

「いえいえ、表立った動きができないとなると、もっと酷いことをしてくる輩が現れました。ですがわたくしもただ黙って耐えていたわけではありませんよ」


そう言った母の目が勝気な色に輝きました。


「武勇伝があるのですか?ぜひお聞かせください」

「そうですね。ではひとつ、聞かせてあげましょうね。ある時、屋敷の敷地内に侵入してきた賊に弟が誘拐されそうになったことがありました。その頃のわたくしは簡単な結界を張れるようになっていましたから屋敷と敷地全体に結界を張り、門ではない所から何かが侵入してくればわかるようにしていたのです。その日は門ではなく塀からの侵入があったので何者か確認しようと屋敷から出た時、侍女が大声で助けを求める声が耳に入りました。わたくしは大急ぎでそちらへ駆けつけたのですが、弟はすでに賊の手の中。ずいぶんと手際のよい賊でしたね。そしてわたくしに気づいた賊は弟に刃物を突きつけて、弟の命が惜しければさるお方のためにその身を差し出し聖女の力を使え、その覚悟が決まるまで弟の身柄は預かる、もちろんこの事を他にバラせば弟の命は保証できないぞ、と言ったのです」

「まあ、なんということを」


母は不敵な笑みを浮かべて続けます。


「ふふふ。その賊は顔立ちが優しげな美形でしたが、眼つきは鋭く不気味な雰囲気の男でした。ただあいにくとわたくしの神経は図太い方ですからね。無言で賊にウインドカッターをお見舞いしてやったのです。もちろん弟の体にだけ防御魔法をかけて保護しましたよ。狙ったのは賊が刃物を持っていた方の二の腕です。わたくしの放ったウインドカッターは賊の二の腕を切り裂き、その後ろに生えていた木を切り倒してしまいました。賊は自分が何をされたのかわからなかったようでしたが、背後の木が倒れたことに気づき、それからようやく己の腕の状態に気づいたのです」


木を切り倒した?

わたくしの口もあんぐりと開いてしまいそうになりました。

でも母は攻撃系の力にも優れていますし、弟を人質にされたとあれば、賊に対して容赦などできなかったでしょう。


「それは賊も震え上がったでしょうね?」

「ええ。滑稽なほどに青くなって震え上がりましたよ。おそらく聖女の力は治癒だけだと思い、丸腰の年若い娘など容易に脅せると過信したのでしょうね。その後わたくしは賊に言ってやったのです。さあ次はお前の首を狙いましょうか、それとも脚を一本ずつ?、わたくしは指一本動かすだけで治癒もできるし命を奪うこともできますよ、ここは我が屋敷の敷地内、何が起きようとも外には漏れません、それとも弟を無傷で返して生きてここから逃げる方を選びますか、とね」

「もう賊は逃げるしかありませんね?」

「ええ。弟も刃物も捨てて逃げていきました」

「ご無事で良かったです。でも賊との対峙は怖くなかったのですか?」

「その時は怖さより弟を人質にされた怒りの方が強かったのです。なんとしても弟を守るのだ、という強い気持ちがわたくしを突き動かしていたのですよ」


そう語る母はとても頼もしく見えました。




誰かを守ろうという強い気持ちがわたくしを突き動かす。


なんとなくわかる気がします。

魔物討伐もこの王国と民の安寧のため。

そう思えばわたくしは魔物に怯むことなく立ち向かっていけるかもしれません。

なんといってもわたくしはこの頼もしい母の子ですし、神経も図太い方ですから。



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