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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第28話 従者ヴァレリオ

男性護衛騎士ロッシ視点


ヴァレンティーナ殿下が仰る。


「わたくし自身の身を守るためかと言えば、それは違います。わたくしには常に護衛騎士がつきますし、周りの者にもいつだってそれとなく守られていますから。ただ、わたくしが皆に守られているのと同じように、わたくしもわたくしにできるやり方で皆を守りたいと思っているのです。守られるだけというのは性に合わないのです。ですからわたくしは皆を守るための魔道具を作りたいと考えているのです」


殿下は力みもなく素で仰っている。

本気で仰っているのだ。


ヴァレリオ様へ向けた言葉ではあるが、私の胸にも迫るものがあった。


六歳の王女が現実を知らず大きなことを言っていると思う向きもあるかもしれないが、現フォンタナ王家の王子王女様方は皆様、同じようなところがある。

その原動力が何なのか、王家の教育だけではなさそうに思えるのだが、私などには知る由もない。


それはそれとして、我々護衛騎士は殿下をお守りするために身を盾にし、その結果怪我を負ったとしても、殿下をお守りできるのならまったく構わないと思っている。

それが専属護衛騎士としての役割であり矜持であり誉れでもある。

殿下も我々の矜持を尊重してくださっていることは確かだ。

それでも殿下は、我々が殿下を守らんがために怪我を負うことを好まれないのだ。



殿下の言葉にヴァレリオ様は感銘を受けたようだ。


「殿下は素晴らしい主君ですね。私も殿下のような方にお仕えしたいです」


ヴァレリオ様の口から素直な気持ちが言葉になって出てきた。

ヴァレンティーナ殿下の顔が柔らかくほころぶ。


「ヴァレリオにそう言ってもらえると、とても嬉しいですよ」


殿下の言葉にヴァレリオ様の顔が赤く染まった。

サムエーレ殿がその顔を見て驚くが、すぐに目を細めてほんのり口元に笑みを浮かべた。

ヴァレリオ様が続けて言う。


「今日だけじゃなく……ずっとお側にお仕えしたいです」


なんと、ヴァレリオ様が直談してきた。

ヴァレリオ様は本気で言っているようだ。

仲良くお話ししている様を見るに、お二人の相性は良いように思われるのだが。

流石にこればかりは殿下に決定権はないだろう。

国王陛下のご意向次第となるはずだ。


ヴァレンティーナ殿下は冷静に仰る。


「わたくしの側に仕える、ということは、あらゆる学びも武器の稽古も、その他様々なこともほとんどすべてを共にする、ということですよ。そのうえ家族にも話せない秘密を抱えることになるかもしれませんよ。それでもよいのですか?」

「はい。望むところです」


ヴァレリオ様の目は真剣な色を湛えている。


「では、わたくしがどのような一日を送っているか、執務室に戻って教えてあげましょう。それについていけるかどうか、冷静になって考えてみてください。ヴァレリオ」

「はい」

「サムエーレ。わたくしたちは執務室に戻ります」

「はい、殿下」

「今日もいろいろとありがとう」

「殿下のお役に立てることが私の喜びですので。またいつでも私をお使いください」


サムエーレ殿は続けてヴァレリオ様に言った。


「いずれご縁がありましたら、ヴァレリオ様には細かい魔力操作についてお教えしましょう」

「え?あの、私が苦手なのがわかるのですか?」

「はい」


サムエーレ殿はヴァレリオ様に片目を瞑ってみせた。

どうやら彼なりのヴァレリオ様へのエールらしい。


「その時はぜひ、よろしくお願いいたします」


ヴァレリオ様はそれがわかったのだろう。

サムエーレ殿に深々とお辞儀をしてお礼を言った。




サムエーレ殿の研究室を出ると我々は殿下の執務室に戻った。


「お帰りなさいませ、殿下」

「ただいま戻りました」

「ご指示通り、多めにおやつを用意いたしました」

「ありがとう。でもおやつをいただく前にしておきたいことがあります。グレタ。ここ十日ほどのわたくしの日程表を持ってきてください。ヴァレリオにわたくしの日常の行動を教えたいのです」

「かしこまりました」


グレタ様が持ってきた日程表を広げたヴァレンティーナ殿下が、その中の一日を選んでヴァレリオ様に見せた。


「この日は外へ出る公務がなかった日です。わたくしの一日はたいていこの日のような流れになっています。起床、身支度、軽く食事をとり、本日の日程確認を済ませてから、後宮を出て王宮へ入り、この執務室へ来ます。まず前日の勉強のおさらいや本日の予習をし、家族揃っての朝食へ。それからずっと公務、勉強及び稽古の時間になります。昼食をはさんでからも公務、勉強及び稽古の時間が続きます。間食をとり、その後は自学自習の時間です。それが済むと後宮に戻り、自分の好きなことをして過ごし、夕食、場合によっては夜食をとり、早めに就寝します」


ヴァレリオ様は目を見張ってその日程表を見ている。


「普段わたくしは、弓の稽古、乗馬、古語、国内外の言語、文化、歴史、政策、さらには医療を主に学んでいます。自学自習の時間にはサムエーレに魔術や魔法陣、魔道具のことを教えてもらうほか、母や王家秘蔵の資料から様々なことを学んでいます」


ヴァレンティーナ殿下はヴァレリオ様の顔を見てさらに続ける。


「今のわたくしの公務は王妃殿下や母と共に孤児院や救済院へ訪問することが主です。そうして少しずつ王宮の外の世界の様子を見聞きして学んでいます。また先日は国賓級のお客様をお招きしたパーティーへの出席がありました。そういう時は事前にマナーや言葉などのおさらいをして失礼がないように備えます。他に、今日の昼食後、医務室に呼ばれたように、緊急の呼び出しに応じて働くこともあります」


殿下は真剣な目でヴァレリオ様を見た。


「わたくしの一日はこのような流れになっています。今はまだ若年ゆえ公務より勉強や稽古の時間のほうが多いのですよ。もしあなたがわたくしの側に仕えるとしたら、わたくしが弓の稽古をする時はあなたは剣の稽古、あとは共に乗馬、国内外の言語、文化、歴史などを学ぶことになるでしょう。医療の勉強や母から学ぶのはわたくしだけですから、その間、あなたは他に必要なことを学ぶことになるでしょう。パーティーへあなたを伴い出席することもあるかもしれませんから、そのためのマナーを学ぶ必要がありますし、あなたが受けてきた教育では足りない部分を補う学びもあるでしょう。きっと忙しくなりますよ。ただ、教師は一流の方ばかりですから、きちんと学べばそれは一生の宝となり、あなたはどこに出しても恥ずかしくない紳士となれるはずです。ヴァレリオ。これを知ってどう思いますか?」


ヴァレリオ様もやはり真剣な目でヴァレンティーナ殿下を見て言った。


「私は新しいことを学ぶのが好きです。勉強を苦にしたことはありません。殿下と共に学べることはとても光栄なことです。今の私は殿下の学びから遅れていると思いますが、必ず追いつきます。殿下の足を引っ張ることはしません」


ヴァレンティーナ殿下はじっとヴァレリオ様を見つめ、そして笑顔になった。


「あなたの覚悟はわかりました。ヴァレリオ。わたくしはあなたが気に入りました。国王陛下、王妃殿下、エドアルド第一王子殿下にわたくしから申し上げておきます。今はそのご判断を待ちましょう」

「はい」


ヴァレリオ様はほっとして肩の力が抜けたようだ。

私も心の中で肩の力を抜いた。

もちろん顔には出さないが、心の中でついヴァレリオ様の肩を持ち、力んでしまっていたようだ。

それほどにヴァレリオ様は一所懸命だった。



それから兄君のジョエレ様がヴァレリオ様を迎えに来るまで、お二人は仲良くおやつを召し上がり、魔術や魔道具の話に興じていた。

帰り際のヴァレリオ様は実に名残惜しそうな表情だった。




ヴァレンティーナ殿下が後宮へ戻る前、国王陛下からお呼び出しがかかり、ご命令により我々専属護衛騎士も全員が殿下と共に陛下の前へ参じた。


そこで陛下と王妃殿下にヴァレリオ様についてどう思ったか問われたヴァレンティーナ殿下は、真っ先にこう仰った。


「ヴァレリオの魔力がたいへん気に入りました。わたくしには一緒にいてとても心地の良い魔力の持ち主です」


この返答は陛下にとって予想外だったようだが、王妃殿下は柔らかい笑い声をたて頷かれた。


ヴァレンティーナ殿下はヴァレリオ様のお人柄も好ましいと思われただろうが、それより何よりまず魔力が気に入ったということのようだ。

魔力にも相性の良し悪しがあるのだろうか。


その後、我々も護衛任務中に見聞きしたヴァレリオ様の様子を報告申し上げ、それは陛下にも王妃殿下にも好感触だったように思われた。





そして。

二十日ほど後。

本日の護衛任務にあたる私とザネッラは後宮へヴァレンティーナ殿下をお迎えにあがった。

後宮の門の前には黒髪黒瞳の少年が一人。


「おはようございます。ザネッラ卿。ロッシ卿」

「「おはようございます。ヴァレリオ殿」」

「本日より従者としてお仕えすることになりましたので、私もヴァレンティーナ殿下をお迎えにあがりました」

「従者登用、おめでとうございます」

「ありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「共に殿下へよくお仕えしましょう」

「はい」


後宮の扉が開き、ヴァレンティーナ殿下が姿を現した。


「殿下、おはようございます。ザネッラ、ロッシ、お迎えにあがりました」

「おはようございます。今日もよろしくお願いしますね」

「「はっ」」

「ヴァレリオ。待っていましたよ。今日からよろしくお願いしますね」

「ヴァレンティーナ殿下。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。精一杯務めさせていただきます」



こうして、晴れやかな天気のこの日、ヴァレンティーナ殿下の従者ヴァレリオ殿が誕生した。



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