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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第27話 魔法陣談義

男性護衛騎士ロッシ視点


「ヴァレンティーナ殿下。お待ちしておりました」

「まあ、サムエーレ。ここまで迎えに出て来ずともよかったのですよ」


研究室の前に立ち、殿下の訪れを待っていた宮廷魔道士サムエーレ殿にヴァレンティーナ殿下が仰った。

だがサムエーレ殿はにこやかに言った。


「殿下と共に大きな魔力の気配がやって来るのを感じたので、何事かと思い、出てきたのです。珍しいお客様ですね」

「やはり気づきましたか」

「はい。なかなかのものです。さて、立ち話もなんですから、殿下、皆様、どうぞこちらへおいでください」


我々はサムエーレ殿の案内により、魔道士たちの共用研究室の奥にある個室へ入った。

ここはサムエーレ殿専用の研究室だ。

共用研究室の方は文献や書き散らかした魔法陣や開発中らしき得体の知れない魔道具などの山があちらこちらに聳え立っているが、この部屋はいつ来ても綺麗に整っている。

ヴァレンティーナ殿下が足を運ばれてサムエーレ殿をお訪ねになることが多いからか、と最初は思っていたが、実際はサムエーレ殿自身の好みらしい。

もともと他人より多くのものが見えてしまうから、余計なものは目に煩いのだ、と以前教えてくれた。


私とサムエーレ殿との縁は、ヴァレンティーナ殿下が乳児だった頃、殿下の魔力量や使える魔法を調べに来たサムエーレ殿が殿下にかくれんぼの相手をせがまれ、私の背後に隠れたことから始まった。

あの頃はサムエーレ殿は宮廷魔道士としてはまだ駆け出し、私は近衛隊に任ぜられていたがまだ殿下専属ではなく、あの日はたまたま順番で護衛任務にあたっていた。

それが今は、乳児だった殿下は六歳となり、サムエーレ殿は順調に出世し、私は殿下の専属護衛騎士となっている。

それを思うと少しばかり感慨深い気持ちになる。



部屋に入るとヴァレンティーナ殿下がさっそくサムエーレ殿にヴァレリオ様を紹介した。


「サムエーレ。こちらはヴァレリオですわ。今日のわたくしの遊び相手ですの。ヴァレリオ、こちらは宮廷魔道士サムエーレです。今は副魔道士長の地位にある方です。そしてわたくしの魔術の師匠です」


ヴァレリオ様が進み出て挨拶をした。


「お初にお目にかかります。タルティーニ侯爵が三男ヴァレリオと申します。副魔道士長様にお会いできて光栄です」

「サムエーレです。あなたのような魔力量の多い方にお会いできて私も嬉しく思います」


ヴァレリオ様が目を丸くした。

サムエーレ殿は生体の魔力が見える目の持ち主として王宮内では有名だが、ヴァレリオ様は知らなかっただろう。

いきなり魔力量が多いと言い当てられたら驚くのも無理はない。


「私の魔力量がわかるのですか?」

「はい。私は人の持つ魔力が見えるので、魔力量もわかってしまうのです」

「すごい目をお持ちなのですね」


ヴァレリオ様は尊敬の目でサムエーレ殿を見上げている。


「このような目を持つ人はとても少ないのですが、皆無というわけでもないのですよ。フォンタナ王国にも数人存在していますが……その話はご縁があればまたいずれといたしましょう」

「はい」


サムエーレ殿は殿下に向き直って尋ねた。


「ヴァレンティーナ殿下。本日はどのような難題をお持ちになったのでしょう」


殿下はにっこりと笑って仰った。


「サムエーレ。立体魔法陣を作れますか?」


私には殿下が何をお尋ねになったのかさっぱりわからないが、サムエーレ殿は興味を引かれたという表情になった。


「立体ですか?」

「ええ。最近、小さな可愛らしい四角い箱に入った贈り物をいただいたのですけれど、その箱を見て思いついたのです。魔法陣を役割ごとに分けて作り、それを箱のように組み立て、魔力を通す道をつけてあげたら大きな魔法陣を小さくできるかもしれない、と」

「魔法陣そのものを小型化するのではなく、機能ごとに分割して連動させることで小型化したい、ということですね?」

「機能ごとに分割して連動。ええ、わたくしが言いたいのはそれですわ。魔法陣そのものを機能を損なうことなく小さくすることはわたくしも練習してできるようになってきましたけれど、あれは圧縮という精密な魔術とそれなりの魔力量が必要で、できる者は限られます。それよりもいっそのこと役割ごとに魔法陣を分けてしまう方がもっと簡単に小さくできるのでは?と思ったのです」

「ふむ……」


相変わらずお二人が何を話しているのか私にはさっぱりわからないが、サムエーレ殿は顎に手を当てて考えている。


「同じ魔石から四角い板を必要なだけ切り出し、それぞれに魔法陣を刻んで組み立てれば、元が同じひとつの魔石ですから魔力の道もつけやすく魔法陣同士の連動もしやすいでしょう。やってみる価値はありますね。ですがその前に魔法陣を機能ごとに分割して連動させる方法から考えてみましょう」

「よろしくお願いしますね」

「承りました」


「それからもうひとつ、魔石を割ったり切ったりして形を変えることなく、その中に直接魔法陣を刻むことは可能ですか?」

「それは……なかなかに難しいお尋ねですね。魔石の中に魔法陣を刻むことができるとしたら、それはかなり微細な魔力操作ができる者に限られるでしょう。加減を誤ると魔石を割ってしまうでしょうから」

「微細な魔力操作ができる者に限られるけれど、不可能ではない、ということですね」

「はい。それができれば安定性が増すように思われますね。そして魔石の形はどんなものでも構わない、ということになります。歪な形のものでも使えますね」

「はい。わたくしもそう思ったのです。書き換えも難しくなるのではありませんか?」

「ええ。そこに後から下手に手を加えるとすべてが台無しになる可能性が高いですね」

「わたくし、魔法陣をごく小さくして小さな魔石の中に刻み、アクセサリーにしてみたいのです。身を守る役割を持たせて大切な人に贈り、身につけてもらいたいと思ったのです」

「なるほど。素晴らしいお考えですね。殿下ならできると思います。もちろん練習を重ねる必要がありますが」

「ええ。わたくし、やってみます」

「私も立体魔法陣について深く考えてみましょう。今思いついたやり方ですが、ひとつの魔石を何層かに切り分け、それぞれに魔法陣を刻み、再度貼り合わせるやり方で試してみるのも面白いかもしれません。箱の形に組み立てるのがよいのか、重ね合わせて箱型にするのがよいのか、両方試してみましょう。いや多面体ならなんでもよいのか……同じ三角を四面にしてもよし……」


サムエーレ殿は思考の中に入り込みかけたが、はっと我に返り、殿下に言った。


「殿下。興味深い考えを共有してくださりありがとうございます。色々思いついたこともあります。しばらくお時間をいただくことになりますが、やってみましょう」

「よろしくお願いしますね、サムエーレ」

「お任せください」


お二人の話はそこで終わったらしく、ヴァレンティーナ殿下が興味深そうに話に耳を傾けていたヴァレリオ様に仰った。


「ヴァレリオ。また待たせてしまいましたね」

「いえ、興味深いお話をなさっていると感服しながら聞いておりました」

「ヴァレリオも魔法陣に興味がありますか?」

「今までは興味がありませんでしたが、おもしろそうだなと思いました」

「何か聞きたいことがあれば、サムエーレに教えてもらうといいですよ」


ヴァレリオ様はおずおずとサムエーレ殿に尋ねた。


「あの……副魔道士長様は魔術が得意だと思いますが、なぜ魔法陣が必要になるのですか?」

「ヴァレリオ様も得意な魔術がおありでしょう」

「はい。風と火魔法の応用魔術が得意です」

「それは魔法陣がなくても使えますね?」

「はい」

「私も同じです。自分の得意な魔術の発動に魔法陣は必要ではありません。頭の中で組み立てるだけで使えます。それに対して我々魔道士が魔法陣を構築するのは、複雑で緻密な術と膨大な魔力を必要とする時、そして魔道具を作る時です」

「魔道具ですか?」

「はい。世の中には魔法が使えない人もいますし、人によって得手不得手、向き不向きというものがありますから、そういう人でも便利に使える魔道具を作ることは、世の中のためになると思いませんか?」

「なると思います」

「そうですね。ですからどのような用途の魔道具を作ればよいか考え、それを叶える魔法陣を構築するのです。魔道具の心臓は魔法陣ですから、それを構築する者にとっては己の腕の見せどころとなるのですよ」

「とても……その……創造的な仕事なのですね」

「そう言っていただけるととても嬉しいです。ありがとうございます」


ヴァレリオ様が首をひねりながら考えだして言った言葉をサムエーレ殿が嬉しそうに受け取った。


「では今殿下と副魔道士長様が話していた魔法陣は魔道具のものですか?」

「その通りです」

「殿下は魔道具も作られるのですか?」


ヴァレリオ様が尊敬の眼差しでヴァレンティーナ殿下に尋ねた。

殿下は笑って仰る。


「わたくしはまだ魔法陣を勉強している段階なのですよ。作りたい魔道具はいくつもありますけれど、まだまだです」

「どのような魔道具を作りたいとお考えなのかお聞きしてもよろしいですか?」

「そうですね。ひとつは武器の攻撃から身を守るアクセサリーの形をした魔道具です。そういう効果をアクセサリーに付与するやり方もありますが、一度きりでしょう?付与をできる者も限られています。魔法陣を魔石に刻む方が、魔力を込め直して何度も使えるので、わたくしはそちらを作りたいと思っているのです」

「あの、それは御身を守るためですか?」

「ヴァレリオ。それはとてもいい質問ですね」


ヴァレンティーナ殿下はキリッとしたとても真剣な表情になってヴァレリオ様を見た。



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