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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第24話 護衛騎士は二人の会話に静かに感動する

女性護衛騎士ザネッラ視点


美味しそうな食事が運ばれてきた。

護衛騎士メラートが毒見を済ませると、給仕がヴァレンティーナ殿下とヴァレリオ様の前に料理をお出しする。

料理を眺めてにっこりと微笑まれたヴァレンティーナ殿下が仰った。


「ヴァレリオ。わたくしはとてもたくさん食べますの。驚かせることになるかもしれませんが、気にしないでくださいね」

「はい」


ヴァレンティーナ殿下の言葉にヴァレリオ様は目を瞬いてから返事をした。

そんなこと気にしないのに、という表情だ。

だが、扉前に控えているヴァレンティーナ殿下の専属護衛騎士である私ザネッラとメラートはこっそり目を合わせ、ヴァレリオ様はどうしたって驚くことになるだろう、と心の中で頷き合ったのだった。




ここは王宮の王族専用食堂。

王族が家族揃って朝食を召し上がる食堂とは別に設けられた食堂で、王宮で働く者たちが使う大食堂の近くにある。

王族は皆様それぞれの公務に忙しく、王宮内で食事をなさる場合には各自が思い思いにこの食堂に来て召し上がる。

ごく親しいご友人やお客様を伴って利用なさることもある。



ヴァレンティーナ殿下は、ヴァレリオ様がデルフィーナ第一王女殿下と剣で手合わせをした後、お腹が空いたでしょうからと昼食に誘い、お二人は着替えをしてからここへ来られた。

ヴァレンティーナ殿下は髪を下ろし、いつものようにシンプルだが極上の生地で仕立てられたワンピース姿。

ヴァレリオ様はきちんとしたハーフパンツスーツ姿だ。


こうして見てみるとヴァレリオ様はいかにも育ちのよい高位貴族のご令息といった風情だが、デルフィーナ殿下と手合わせをしている最中は、まだ六歳だとは思えぬほど猛々しかった。


そのヴァレリオ様が初めてお会いしたヴァレンティーナ殿下に視線を送られた瞬間、みるみる顔を赤く染めたところを、側に控えていた私もメラートも目撃している。

何度も殿下のお顔に目を向けては見惚れていたヴァレリオ様が、デルフィーナ殿下に対しては躊躇なく剣を向けて立ち向かったのだから、まるで別人を見ているような気がしたものだ。


まあ、ヴァレリオ様があっという間にヴァレンティーナ殿下に陥落したのも無理はないだろう。

何しろ殿下は国王陛下とコンチェッタ側妃殿下の顔立ちの良さを見事に受け継ぎ、たいそう愛らしい顔立ちなのだ。

そして顔立ちよりもっと印象的なのが、艶やかな黒髪に神秘の色を宿す赤紫の瞳。

あの瞳にじっと見つめられると、大抵の人は殿下に陥落してしまう。

かく言う私もその一人だ。

殿下が降嫁なさるにしても独立なさるにしても必ずお供し、一生涯お仕えする、という決意でいる。




今、お二人は丸テーブルにつき、わりと近い並びで座っている。

ヴァレンティーナ殿下のご指示だ。

どうやら殿下はヴァレリオ様と親しく会話を楽しみつつ食事をなさるおつもりらしい。


「では、ヴァレリオ、いただきましょう」

「はい。いただきます」


ヴァレンティーナ殿下がまずお肉を口に運ばれると、ヴァレリオ様がすこしぽかんとして殿下の顔を見た。


そう。

殿下の食事の仕方、というか、食べる順番は、どんな時もまずお肉から、なのだ。

そしてオムレツなどの卵料理、と続く。

野菜やスープは常に後回し。

パンなどは一番最後。


目の前に並んでいるのはマリネ風サラダ、具入りスープ、牛肉のステーキが少量の茹で野菜と共に盛り付けられたお皿。

この並びであればヴァレリオ様の常識ではまず最初にサラダやスープから食べる、ということなのであろう。


「ああ、おいしいわ」


幸せそうな表情で仰ったヴァレンティーナ殿下がさらにお肉を食べると、迷っていた風のヴァレリオ様もお肉に手をつけた。

ひと口食べて目を見張る。


「おいしいですね!」

「ふふふ。そうでしょう?もっとたくさん召し上がれ」

「はい」


流石に王女と高位貴族の令息なだけあって上品な食べ方だが、子供らしい旺盛な食欲を示すお二人。

お二人がお肉を食べ終わる頃、再び給仕が食事を運んできた。

メラートが毒見を済ませると、給仕がヴァレンティーナ殿下に追加の肉料理の皿をお出しした。

今度は鴨のローストだ。


驚いたヴァレリオ様が目を丸くしてヴァレンティーナ殿下を見た。

殿下は笑顔で仰る。


「わたくし、いつもこうなのよ。ヴァレリオも召し上がる?」

「あの、よいのですか?」

「ええ、もちろん」

「では、私もいただきます」


給仕がヴァレリオ様の前にも肉料理の皿をお出しした。

お二人はまたせっせとお肉に舌鼓を打つ。

合間にヴァレンティーナ殿下が尋ねられた。


「ヴァレリオは食べ物に好き嫌いはありますか?」

「いいえ、ありません」

「では大好きな食べ物は何ですか?」

「肉です」


ヴァレリオ様の率直な答えにヴァレンティーナ殿下は嬉しそうに微笑まれた。


「実はわたくしもお肉が一番好きなのですよ」

「同じですね」

「ええ」


ヴァレリオ様も嬉しそうだ。

それにしてもヴァレンティーナ殿下がご自分の好みについて他人に語るなど、実に珍しいことだ。


「ヴァレリオ。その手の甲の傷はどうしたのですか?」

「飼い猫と遊んでいた時にひっ掻かれてしまいました」

「まあ。お家では猫を飼っているのですか?」

「はい。二匹飼っています」

「毛の色は何色ですか?」

「一匹は白黒です。もう一匹は黒猫です」

「名前は何と言うのですか?」

「白黒がマルコ、黒猫がネッロです」

「きっと美しい猫なのでしょうね?見てみたいですわ」

「その……我が屋敷においでくださればご覧いただけます。私は高い木の上に駆けのぼったり、庭をすごい勢いで走ったりする猫たちが好きです。ツヤツヤの柔らかい毛を撫でるのも気持ちがよいです」

「まあ、とても心惹かれますわ」


殿下が羨ましそうな表情で仰る。

ヴァレリオ様もぜひともヴァレンティーナ殿下をお招きしてお見せしたい気持ちでいっぱいのようだ。

こういう時、王女殿下は気軽に訪問の口約束をできないのが辛いところ。


「またお家の素敵な猫たちの様子を教えてくださいね」

「はい」



肉料理を食べ終えて、ヴァレンティーナ殿下が少しスープを召し上がっていると、また給仕が食事を運んできた。

今度は卵料理だ。

メラートが毒見を済ませ、給仕が殿下の前に料理をお出しする。

赤いソースがかかったふんわりとしたオムレツ。

それを見たヴァレリオ様はまたまた目を丸くした。


「わたくし、卵料理も好きですの。ヴァレリオも召し上がる?」

「あの、私はもう十分にいただきました」

「そう?では、わたくしはいただきますね」

「はい」


ヴァレンティーナ殿下が食事はここまででよいと仰ると、給仕はお二人にパンをお出しして下がっていった。

ヴァレリオ様はパンに添えられたバターの量に驚いている。

実はこれも殿下のお好み。

パンを召し上がる時は必ずどっさりとバターを乗せるのだ。


殿下はヴァレリオ様の驚きをよそに、美味しそうにオムレツを召し上がっている。


ヴァレリオ様も短い間に何度も驚き、驚くのに慣れてしまったのか、達観したかのような表情になってご自分もパンとスープを食べ始めた。



それからも殿下がお食事の合間に様々なことをお尋ねになった。


「ヴァレリオ、もう魔剣術は習っていますか?」

「いえ、父や兄たちにまだ早いと言われているので、習っていません」

「まあ。それは残念だわ。得意な魔法は何ですか?」

「風魔法と火魔法です。出力を上げた攻撃に向く技が得意です」

「では出力を微調整する方は苦手?」

「はい。兄たちにもまだ下手だと言われます」

「それで魔剣術はまだお預けなのね」

「はい」

「わたくしも弓術に魔法を乗せられるようになったのは最近のことですわ。きっとヴァレリオももうすぐお許しが出るでしょう」

「はい。私ももっと稽古して必ずできるようになります」


魔剣術の次は乗馬の話になった。

ヴァレンティーナ殿下も乗れるが、ヴァレリオ様もすでに大きな馬にも乗れるようになったらしい。

ヴァレリオ様は殿下だけでなくデルフィーナ殿下もニコレッタ殿下も普通の乗り方で乗馬を習得していると聞いて驚いている。

きっと、王女だから横乗りをするものだと思っていたのだろう。


その次は読書の話へと移った。

ヴァレンティーナ殿下はなかなかの読書家だが、ヴァレリオ様もお好きらしい。

小説も読むそうで、今は冒険小説が楽しいと話している。




耳に入ってくるのは何の変哲もない会話なのだが、私の胸の内にある種の感動が押し寄せてきた。


このように同年代の子供と、子供らしい気の置けない会話をしている殿下を拝見するのは初めてだからだ。


話が興味にぴったり合っているのか、ヴァレリオ様は殿下の問いに楽しそうに饒舌にお答えしている。

殿下ご自身、興味をお持ちのことばかりなので、お二人の会話が弾んでいる。


ヴァレリオ様とは趣味嗜好が合うのだろうか。

会話に固さがない。


普段は王女というお立場があるから、身内でない者に対して何が好きか嫌いかなどということははっきり仰らない。

相手が持っている物に対して羨ましく思うような態度を見せると、献上を要求されたと勘違いさせることがあるから、やはりそういうことはなさらない。


だがヴァレリオ様がそういう曲解をしないとわかっているのか、自然体で会話をなさっている。


殿下がたくさん召し上がることについても、ヴァレリオ様は驚きはしたが嫌悪感や忌避感などは示さず、そのまま受け入れているように見えた。


ヴァレリオ様が正式に殿下のお遊び相手となる可能性は高いかもしれない。



ただ、遊び相手と言うのは文字通りの意味ではなく、弓の稽古相手を務めたり、殿下の勉強に付き従い共に学ぶなど、なかなか厳しいことを求められる。

殿下の興味の範囲はとても広く、それについていける者はそうはいない。

ヴァレリオ様はついていけるだろうか。




そんな事を考えていると、突然扉の外で慌ただしい気配がした。


「ヴァレンティーナ殿下はこちらにいらっしゃいますか?」



どうやら美味しい食事と楽しいお喋りの時間はここまでのようだ。


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