表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

第十二話(最終話):誰のために、この刃を振るうか

夜明け。帝都の空が鈍く明るくなり始める頃。

 王宮から逃れるようにしてアメリアは歩いていた。


 ルドルフ・エーベルハルト。

 帝国の“黒幕”を自らの手で討ち果たした今、彼女の胸を満たしているのは達成感ではなく、わずかな不安だった。


 ――レオンが“裏切った”?

 そんなはずがない。そう信じたい。


 けれど。

 “もしも”が頭から離れない。


 アメリアは、ヴァレンタイン家の旧離宮――

 現在は廃屋となった場所に向かっていた。


 あそこはかつて、レオンと一緒に絵を描いた場所。

 誰にも言えなかった夢を語り合った、唯一の“救いの庭”。


 石畳の音が止む。

 静かに、重く軋む扉を押し開けると――

 そこにいたのは、やはり彼だった。


 レオン・ヴァレンタイン。

 黒の軍服を脱ぎ、今は簡素なシャツに身を包んでいた。


 「……来たんだね、姉さん」


 「あなたが、“あの男の手先”だったって聞いたわ」


 「違う。僕は“選ばされた”だけだ」


 レオンはゆっくりと語り始める。


 彼が“エーベルハルトの庇護”を受けていたのは事実。

 だが、それはギルバートとアメリアの命を守るためだったという。


 「兄さんが君を売ろうとしたとき、僕は止めた。けれど逆に脅されたんだ。

 “アメリアの命と引き換えに、宰相補佐の部下となれ”と」


 「そんなの、信じられると思う?」


 アメリアの声は冷たい。


 彼女の手には、もうナイフが握られていた。


 「君は僕の希望だった。

 けれど、君がどんどん“闇”に染まっていく姿を見て――

 止めることもできなかった」


 「ならどうして、黙ってたのよ」


 「僕は……君を“殺すことになるかもしれない”任務を与えられていた。

 だけど――最後の命令を、破ったんだ」


 レオンの胸元には、未開封の命令書。

 中にはこう記されていた。


 > 『対象アメリア・シェリルの排除を許可する。

 > なお、任務不履行時はヴァレンタイン家の爵位剥奪』


 アメリアは目を伏せる。

 「じゃあ、あなたは……」


 「僕はもうすべてを失った。君に――正面から、謝りたかった」


 「……バカね」


 次の瞬間。

 アメリアは、ゆっくりとスカートを摘まみ上げ、深々と一礼する。


 「ごきげんよう。汚いごみのお掃除に参りました」


 だがその礼は――彼に向けたものではなかった。


 「屋根の上、狙撃兵。裏手に二人。今夜が最後の“残り火”よ」


 レオンの瞳が驚きに見開かれる。


 「まだ残ってたのか……エーベルハルトの残党が……!」


 二人は背中合わせに立ち、迫る影に刃を振るう。

 今夜だけは、敵ではなく、共に戦う者として。


 アメリアのナイフが喉を裂き、

 レオンの細剣が銃を弾き飛ばす。


 血と煙の中、二人の呼吸が揃っていく。


 戦いが終わった後、レオンは言った。


 「……もう、お互いに刃を向け合う必要はないよな」


 「そうね。私たちはようやく、“同じ方向”を見られるようになった」


 その日の夕暮れ。


 アメリアは静かに、帝都を後にした。


 もう誰かに復讐するためではない。

 “誰かを守るため”でもない。


 今度こそ、自分の人生を――自分自身の意思で歩むために。


 辺境の村に戻った彼女を、子どもたちが笑顔で迎える。


 「姐さん! おかえりーっ!」

 「また変な薬作ってー!」

 「えぇ、今度は“眠らせる”薬よ。うるさい坊やにはピッタリね」


 その言葉に、子どもたちはワッと笑った。


 毒舌も健在。

 でもそこには、確かに温もりがあった。


 アメリア・シェリル。

 かつて没落し、最強の暗殺者となった令嬢。


 今はもう、“過去”に囚われることなく――

 明日という未来を、生きていた。


◆完◆

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


 本作『没落令嬢は、元最強の暗殺者でした』は、

 貴族社会の闇と、個人の再生を描くことを目的として執筆しました。


 主人公・アメリアは、生まれながらにして“貴族令嬢”という立場にありながら、

 裏切りと没落、そして暗殺者という“影”の道へ堕とされる運命を背負っています。


 ですが彼女はただ復讐に燃えるだけの存在ではありません。

 どれほど冷酷な判断を下す場面であっても、心の奥では「守りたい」という想いが確かにありました。

 それは、故郷の村で出会った子どもたちであり、

 かつての家族であり、そして彼女自身の心の居場所でもある“信じた誰か”です。


 この物語は、冷たい刃が傷を残しながらも、

 最後には確かに温かいものを抱きしめる――

 そんな“光と影の両面”を描こうとしたものでした。


 また、ジャンル的には「ざまぁ系」「復讐譚」に分類されますが、

 ただ復讐して終わるだけではなく、“その先の物語”も提示したいと強く思っていました。


 アメリアが最後に選んだのは“破壊”ではなく“再生”。

 それこそが彼女にとって、真の勝利だったのだと思っています。


 皆様の中にも、何かを失った経験や、

 諦めざるを得なかった夢があるかもしれません。

 でも、それでも――人はまた歩き出せる。

 この物語が、そんな一歩の背中をそっと押すような存在になれたなら、それ以上の喜びはありません。


 最後に、ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を込めて。

 そしてまた、次の物語でお会いできる日を願って――

ー作者

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ