第6話 クランクアップの瞬間
「キィィィーーン――」
突如、体育館全域に、鼓膜を抉るような不快な高音が鳴り響いた。
「な、なんだこれ!? マイクのハウリングか!?」
「キャッ!? 耳が、耳が痛い……!」
壇上で威張っていたサッカー部のリーダー男が慌ててマイクを落とし、全校生徒が一斉に耳を押さえてうろたえ始める。
だが、異変はそれだけでは終わらなかった。
体育館の照明が一斉に消え去り、代わりに床一面が、禍々しい紫色の光を放ちながら激しく脈打ち始めたのだ。
「おい、見ろよ! 床が、床が光ってるぞ!?」
「何なのこれ!? 怖い、誰か助けて!」
床に浮かび上がったのは、現代の科学では説明のつかない、巨大で複雑な幾何学模様。
――なんだ、これは。
『ウルフ(委員長)! 空間歪みを確認! これ、ただの怪奇現象じゃありません……異常な超高エネルギー、魔力コードです!』
耳の奥のインカムから、ハッカーの緊迫した声が響く。
「お嬢様、俺の後ろへ!」
俺は、気弱なバカ委員長の演技を一瞬で捨て、お嬢様を庇うように前に出た。
次の瞬間、視界が強烈な紫の光で完全に埋め尽くされ、重力が消失する。
空間が引き裂かれ、俺たちの意識は深い闇へと沈んでいった。
*
「……う、嘘……ここ、どこ……?」
「体育館じゃない……!? 何なのよ一体!」
次に目を開けた時、そこは日本の学校ではなかった。
天を突くほど高い天井、豪奢な大理石の柱が並ぶ、見知らぬ巨大な玉座の間。
そして周囲には、抜身の剣を構え、俺たちを警戒するように取り囲む、見たこともない鎧を纏った本物の騎士たちが並んでいた。
「ひぃっ! 本物の剣を持ってる!?」
「お父さん、お母さん! 帰して、帰してよぉ!」
泣き叫び、パニックに陥って床に這いつくばる他クラスの生徒たち。
だが、そんな大混乱のなか、我がXクラスの面々だけは違っていた。
着地の衝撃を全員が無音で完璧に殺し、お嬢様を中心にして、外側に向けて音もなく完璧な『球形防衛陣形』を組んでいた。
『異世界の迷い子たちよ、我が神殿へようこそ』
頭上の虚空から、重々しく響き渡る尊大で傲慢な声。
まばゆい光の中から現れたのは、黄金の光を放つ、自らを『神』名乗る男だった。
『お前たちに世界のシステムを授けよう。そして……これより、楽しいデスゲームの始まりだ!』
神は冷酷に歪んだ笑顔を浮かべ、全校生徒に向けて信じられないルールを宣告した。
『この世界から帰る方法は簡単だ。他クラスの奴らを倒すことだ。』
「――っ!?」
神の言葉に、体育館で泣き叫んでいた他クラスの連中が、ハッと息を呑んだ。
「他のクラスのリーダーを……?」
「つまり、別クラスの奴らを倒せば、俺たちは日本へ帰れるってことか……?」
神はさらに楽しげに、残酷な追撃を放つ。
「ルールは極めてシンプル、そして絶対だ。よく聞きなさい。
ここには【A・B・C・D】、引導を渡された落ちこぼれの【X】を合わせた計5つのクラスが存在するよね。
この異世界から元の世界へ帰る条件はただ一つ。『他のクラスのリーダーをすべて倒し、最後に生き残った一クラスになること』だ。
そう、元の世界に戻れるのは、勝利したクラスの生存者だけさ。
各クラスのリーダーたちを紹介しておこう。
• Aクラスリーダー:皇 獅子王
• Bクラスリーダー:不破 刹那
• Cクラスリーダー:陣内 剛鬼
• Dクラスリーダー:一ノ瀬 ほのか(いちのせほのか)最底辺、落ちこぼれのXクラスリーダー、一条 冷華。
最後に、このゲームで最も重要な『縛り』を教えてあげよう。
『リーダーが死ねば、そのクラスメイトは全員、巻き添えで即座に死亡する』。
――あ、そうそう。言い忘れていたけれど……。
このルールを無視して、僕自身を倒してもいいんだけどねー?』
『まあ。』
パチンッ
そう言って指をならす
――ズズズ…ドゴォォォォン!!!
遥か彼方に見えていた巨大な山が、光の塵となって一瞬で消滅する。
他のクラスメイトたちは身震いをしながらその場にへたり込んだ。
『ククッ、あはは! 見た?
まあ、僕を倒すのはできればの話、夢のまた夢ってことさ。
でも安心しなよ。君たちがこれまでに現実世界で積み上げてきた『経験値』に応じて、相応の魔法をあげるからさ。しっかり訓練して使いこなせるようになりなよ?
ああ、それとモチベーションが上がる耳寄りな情報をもう一つ。
この世界では、『敵を1人狩るごとに、自分のステータスが上がっていく』システムになっているんだ。
積極的に動いて人を狩れば狩るほど、ゲームが圧倒的に有利になるよ?
リーダーを守るか、魔法を訓練するか、他クラスを狩り尽くすか、それとも僕に挑んでみるか……。
さあ、命がけの学級崩壊を始めようじゃないか!』
その瞬間、玉座の間の空気が一変した。
さっきまで体育館の壇上で俺たちの頭を踏みつけ、大威張りしていたサッカー部の男たちが、騎士たちの落とした武器を拾い上げ、ギラギラとした残酷な視線をお嬢様へと向け始めたのだ。
「おい、聞いたかよ……。リーダーを殺せば、俺たちはクリアなんだってよ……」
「とにかく一番手っ取り早いXクラスの奴らを潰しに行こうぜ」
「ボーナスステージじゃねえか。おい、お前ら、早くあいつを殺して日本に帰るぞ!」
現代で俺たちをパシリにし、お嬢様をいじめていた元エリートたちが、明確な殺意を持って、俺たちの防衛陣形へと一歩ずつ歩を進め始めた。
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




