第21話 歩く椅子の台座
「うう……っ、重い……重いわよ……。一条さん、お願いだから許して……っ!」
神殿の回廊の中央。
そこでは、現代でお嬢様の机に黒板消しの粉をぶちまけ、教科書をバラバラに破り捨てていた、あのC組のいじめっ子女子リーダーたちが、信じられない体勢で這いつくばっていた。
彼女たち数人が四つん這いになり、その背中の上に、分厚い大理石の板が渡されている。
そしてその上には――傷一つない優雅な姿の、一条冷華お嬢様がゆったりと腰掛けていた。
文字通り、お嬢様の『歩く椅子の台座(踏み台)』として、いじめっ子女子たちがこき使われているのだ。
「あら、少し揺れが大きくてよ? もっと背筋を平らにして、私の紅茶がこぼれないように歩きなさい」
お嬢様は白粉で汚された制服のまま、異世界の最高級の紅茶が入ったティーカップを傾けながら、冷酷に、そして心地よさそうに言葉を紡ぐ。
「ひっ……! ご、ごめんなさい! ちゃんと真っ直ぐ歩きますから、これ以上呪いの出力を上げないでぇ!」
いじめっ子女子リーダーの少女は、首元の奴隷の呪印から発せられる激痛に耐えかねて、涙と汗で顔をドロドロに濡らしながら四つん這いのまま前進した。
彼女たちの知力や魔力は神から与えられた【大魔導師】のチート級だが、Xクラスのハッキングによって『身体のコントロール』と『痛覚の感度』を最大までいじられているため、お嬢様が少しでも不快感を示せば、全身を焼かれるような激痛が走るシステムになっていた。
「現代ではさぁ、あなたたち、放課後の旧校舎にお嬢様を監禁して『明日までそこで反省しなさーい!』ってゲラゲラ笑ってたよね?」
お嬢様の傍らを歩くハッカーの少年が、魔導画面を指で弾きながら、心底楽しそうに彼女たちを見下ろした。
「あの時さぁ、僕たちがお嬢様の死角で、旦那様を狙いにきた本物のテロリストをサイレンサーで秒速射殺して、死体を隠蔽してたことすら気づかないで、マジでおめでたい頭してたよね。そんなマヌケな一般人の君たちが、なんで今になって被害者面して泣いてるの?」
「あ、あ、あれは、ただの悪ふざけのつもりで……一条さんが没落令嬢だって噂があったから……っ!」
「悪ふざけ、ですか。では、これもただの悪ふざけ(職務)ですわ。私の服をチョークの粉で汚した罪、そして我が一条家の猟犬たちを足蹴にした罪、その身体の骨が軋む音で、たっぷりと購っていただきますわね」
お嬢様が優雅に紅茶を飲み干し、ティーカップをソーサーに戻した。その時、ほんの少しだけ大理石の板に荷重がかかる。
「う、あガはっ……!?」
女子リーダーの口から、苦悶の悲鳴が漏れる。意識はあるのに、お嬢様を乗せたまま這いずることを止められない。
現代で犯した陰湿ないじめの報いが、異世界では「一生、死ぬことすら許されずに絶対強者の踏み台として生きる」という極限の尊厳破壊として、彼女たちに完璧に帰ってきていた。
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