第17話 狂気の作戦変更
「――神を殺しに行くわよ」
神殿の広場に、お嬢様の冷酷な宣言が響き渡った。
世界で一番偉いはずの神から「約束はナシ! 日本には帰さなーい!」と裏切られた直後だというのに、お嬢様の顔には絶望など一ミクロンも存在しなかった。
あるのは、自分の時間を無駄にされたことへの、心底不愉快そうな嫌悪感だけ。
「ははっ、マジでお嬢様は最高っすね! 神様をぶっ殺して帰るとか、最高にシビれるミッションじゃねえすか!」
Xクラスの戦闘プロ(ヤンキー)が、拳を打ち鳴らして獰猛に笑う。
「そうだね。僕たちの帰還ゲートを勝手に消去した報い、たっぷりと受けてもらわなきゃ。システムを奪い取って、あの傲慢な神様を僕たちの奴隷(AI)にダウングレードしてやろうよ」
ハッカーの少年も、魔導画面に禍々しい緑色のハックコードを展開しながらクスクスと笑う。
普通の高校生なら、神の裏切りに直面すれば泣き崩れ、絶望するところだ。しかし、俺たちXクラスにとって、神の裏切りなど「任務の障害」に過ぎない。
「委員長。神の城へ進軍するにあたって、兵力(肉盾)が必要でしょう? そこに転がっている他クラスのゴミ共をただの死体にしておくのは、非常にもったいないわね」
お嬢様は死体の山を見下ろし、酷薄な笑みを浮かべた。
「さっき殺した奴らを全員、絶対服従の奴隷として生き返らせなさい。私をいじめた女も、あなたたちをパシリにした男も、神の軍勢を削るための防壁として、死ぬより惨酷に使い潰してあげるのよ」
「御意。……これより、作戦フェーズを【神殺し(ゴッド・スレイヤー)】へと移行する。ハッカー、軍師、異世界の生死システムへの強制アクセスを開始しろ。他クラス全員の『魂の回収』と『強制蘇生』を敢行する」
俺の脳内指示と同時に、クラスの頭脳系プロたちが一斉に動き出した。
「了解です、委員長。異世界の輪廻転生システムなんて、セキュリティの脆弱性だらけですからね。数分で生死の書き換えコードを注入してみせますよ」
軍師プロの男が眼鏡を指で上げ、魔導画面に膨大な数式を走らせる。
頭上の虚空から、駄々をこねていた神が、俺たちの異様な雰囲気に気付いて「ひっ……!?」と初めて怯えるような声を漏らした。
神様は自分の退屈しのぎのために俺たちを閉じ込めたつもりだろうが……自分が【怒らせてはいけない最悪のキチガイプロ集団】を本気にさせてしまったことに、まだ気づいていなかった。
「さあ、始めようか。死者蘇生のハッキングをね」
ハッカーの少年がキーを叩いた瞬間、血の海と化した神殿の広場に、不気味な黒い魔力の奔流が吹き荒れ始めた。




