第14話 代償
「あ、ガはっ……お、前……なんで、こんな……っ」
神殿の広場に、まだ辛うじて息のある男が一人だけ転がっていた。
学園で、俺を校舎裏に呼び出して背中を蹴り飛ばし、頭に泥スパイクを乗せてぐりぐりと踏みにじった、あの他クラスの勇者だ。
上空数千メートルからのなか、神から与えられた高体力のチートスキルのおかげで、奇跡的に即死だけは免れたらしい。
だが、その全身の骨は砕け、血の海に浸かりながら芋虫のように無様に這いつくばっていた。
そんな男の前に、俺は足音もなく静かに歩み寄った。
「ひっ……! く、来るな……バカ委員長……! あ、悪かった……俺が、俺が悪かったから……っ!」
男は涙と血を流しながら、必死に壊れた身体を動かして後ずさろうとする。
現代で俺をゴミのように見下し、パシリにしていた時の傲慢な態度は、もう見る影もない。
「悪い、ですか。何に対して謝っているのか、正確に述べていただけますか?」
「全部だよ! お前をパシリにしたのも、蹴ったのも、教科書を破らせたのも……っ! 全部謝る! だから、助けてくれ……俺は勇者なんだ、日本に帰らなきゃいけないんだよ!」
俺は這いつくばる男を見下ろし、冷徹に、温度の一切ない瞳のまま首を傾げた。
「おかしなことを言いますね。あなたは現代で、俺たちの頭を踏みつけながら『お前らには俺たちの靴の裏がお似合いだ』と仰いました。学校の全校生徒の前で、マイクを使って大爆笑を誘っていましたよね?」
「あ、あ、あれは、ただのノリで……っ!」
「ノリ、ですか。プロの任務を維持するために、俺はあなたの靴の泥を拭き、パシリに応えました。……ですが、あの時の蹴り方の角度、踏み込みの甘さ。俺の脳内サンプリングデータには、あなたの格闘センスが【下の下】であると、今もはっきりと記録されています」
俺は静かに右足を上げ、男の顔面のわずか数センチ横の床へと、軽く踏み下ろした。
ドコォォォン!!!
ただの足踏み。しかし、俺の本気の筋力によって、大理石の床がクレーターのように一瞬で爆砕し、凄まじい衝撃波が男の鼓膜を破った。
「ひゃうあああああッ!?!?!?」
「現代ではお嬢様の命令と、一般社会の法律という首輪があったから、あなたを生かして泳がせておいてやった。サイレンサーの不運な事故で済ませてやっていたんです。……ですが、お嬢様の現在の命令は【完全排除】。そして、ここは異世界だ」
俺は、男の顔面にゆっくりと靴の裏を向けた。
「今までの代償、その命で支払っていただきます」
「や、やめ――」
男が言葉を言い切る前に、俺の靴の裏が、男の頭部へと容赦なく踏み下ろされた。
ベキッ、という鈍い音。筋力【999999】のプロによる一撃の前に、男の頭蓋骨など消しゴムよりも脆くすり潰され、男の身体は一瞬でピクリとも動かなくなった。
『――こちらウルフ。現代編における、お嬢様へのいびり魔、および護衛へのパシリ魔。……これにて、他クラス全員の完全間引き、完了しました』
『了解、委員長。お疲れ様っす!』
インカムからヤンキーの明るい声が響く。
俺は靴についた血を静かに拭い、お嬢様のもとへと音もなく合流した。
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