第11話 サンプリングデータの回収
「ひ、ひぃぃぃ……ッ! 逃げろ! こんなの勝てるわけねえだろ!」
「神殿の外へ走れ! あいつらから離れるんだよ!」
玉座の間に、他クラスの生徒たちの無様な悲鳴が響き渡った。
A組、B組、C組のリーダーたちが一瞬で、かつ圧倒的な蹂躙によって全滅させられたのだ。チート能力を手に入れて調子に乗っていた一般人たちの戦意は、一ミクロンも残っていなかった。
彼らは武器を投げ捨て、我先にと大理石の廊下を走り、神殿の出口へと殺到していく。
だが、その逃走劇を、一条冷華お嬢様は死体の山の上に腰掛けたまま、退屈そうに見送っていた。
「あら、逃げるのですか? ずいぶんと見苦しい走り方ですわね」
「お嬢様、ご安心を。彼らに逃げ場など最初から存在しません」
俺は静かに銃口を下げ、耳のインカムに触れた。
『――ハッカー。ネズミどもが動き出したぞ。逃走ルートの予測データの開示を』
『了解です、委員長。すでに全員分の最適な「追い込みルート」は計算済みっすよ』
ハッカーの少年が、魔導画面に他クラス全員の顔写真と、複雑な赤い矢印のラインを浮かび上がらせる。
逃げ惑う他クラスの連中は、未だに気づいていない。
俺たちが現代の学校で、なぜ毎日ヘヘコヘコと頭を下げながら、彼らの「パシリ」を引き受けていたのかを。
「おい、こっちの通路だ! こっちならあいつらから隠れられる!」
「急げ! バカクラスの奴らが追ってくる前に――」
神殿の裏路地、複雑に入り組んだ迷宮のような回廊。
必死に息を切らしながら角を曲がった他クラスの生徒たちの前に、音もなく影が立ち塞がった。
「――よお。ずいぶんと遅いお着きじゃねえか、エリートの皆様よぉ?」
「ひっ……!? な、なんでお前がここに先回りしてるんだよ!?」
そこに立っていたのは、Xクラスの戦闘プロ(ヤンキー)だった。
あり得ない速度での先回り。恐怖に顔を歪める生徒たちを見下ろし、ヤンキーは肩をすくめた。
「なんでって、お前らの行動パターンなんか、全部お見通しだからだよ。お前、現代で俺に『売店でダッシュでコロッケパン買ってこい』って言ったよな?」
「え、あ……それ、が何だよ……!」
「あの時さぁ、俺はお前らの歩幅、心拍数、危機に陥った時に右と左のどっちに逃げるかっていう心理傾向を、全部サンプリング(データ回収)してたんだわ。お前はパニックになると、必ず狭くて暗い『右側のルート』を選ぶ。――な? 予測通りだろ?」
ヤンキーの冷酷な言葉に、男は言葉を失ってガタガタと震え出した。
俺たちがただパシられていたのは、すべて彼らのデータを集め、有事の際に一瞬で処理するためのカモフラージュ(隠蔽工作)だったのだ。
『委員長、こちらヤンキー。ネズミの第一陣、予測ポイントに誘導完了っす』
『よくやった。ハッカー、次のフェーズへ移行しろ。逃げ場のない狩りの時間だ』
神殿の四方八方、どの通路へ逃げても、そこには必ず完璧に先回りしたXクラスの護衛たちが冷たい瞳で待ち構えている。
現代のパシリによって集められた膨大な行動心理データ。
それによって、他クラスの逃走ルートはすべて完全に筒抜けだった。
「嘘だろ……どこに行っても、あいつらがいる……!」
「俺たちは、最初から手のひらの上で踊らされてたってことかよ……!」
行き場を失い、神殿の中央広場へと追い詰められていく他クラスの残党たち。
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




