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神様レビュー★1「世界の運営が雑すぎます」  作者: 海老崎 伊織
第1章 ★1レビュー、神様に届く
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8/10

第8話 高評価を要求する神様

 その商店街には、一軒だけ異様に繁盛している店があった。

「また列ができてるな」

 昼休み。

 神崎悠斗は会社近くの商店街を歩きながら、洋菓子店の前で足を止めた。

 店の名前は『パティスリー・コモレビ』。

 半年前に開店した、小さな個人経営の店だ。

 大通りから外れた場所にあり、店内も十人入れば窮屈になるほど狭い。

 それなのに、店の前には三十人以上が並んでいた。

「人気店なのですね」

 隣を歩くアリアが、列の先をのぞき込む。

 彼女の姿は、周囲の人間には認識されていない。

「先週までは、ここまで混んでなかった」

「新商品が発売されたのでは?」

「看板を見る限り、いつもと同じだな」

 店頭には、苺のショートケーキ、シュークリーム、焼き菓子などが並んでいる。

 特別な限定商品は見当たらない。

 並んでいる客たちも、どこか様子が妙だった。

「絶対ここで買わないと」

「今日は三箱買う」

「ほかの店じゃ駄目なんだよ」

 誰もが同じような言葉を繰り返している。

 行列が長いことに文句を言う人はいない。

 むしろ、並べること自体を喜んでいるようだった。

「何かの暗示を受けている可能性があります」

 アリアが小声で言う。

「神の関与か?」

「確認します」

 彼女が空中に神界用の画面を開く。

 店の上に、淡い金色の光が見えた。

 光は店内から客の頭上へ伸び、細い糸のようにつながっている。

「商売運補助が付与されています」

「商売繁盛の神様がいるのか?」

「大きな商業圏を担当する神々とは別に、個人商店や小規模事業者を支援する神もいます」

「この店が祈った?」

 アリアが記録を確認する。

 《対象店舗:パティスリー・コモレビ》

 《申請内容:客足の増加》

 《担当神:小規模商業繁栄神ホクホク》

 《奇跡適用期間:三十日》

「ホクホク?」

「人間が商売で成功すると、懐が温かくなることから付けられた神名です」

「本人が付けたのか?」

「はい」

「だいぶ軽いな」

 悠斗は行列を見つめる。

 店主が商売繁盛を願い、神が客を呼んだ。

 それだけなら、悪いことではない。

 しかし、客の様子は明らかに普通ではなかった。

「どんな補助を使ってる?」

「来店意欲の上昇、商品への関心強化、周辺住民への口コミ拡散です」

「暗示に近くないか?」

「自由意思を完全に奪うほどではありません」

「『絶対にここで買わないと』と言ってる人がいるぞ」

「少し強めに作用しているようです」

「少し?」

 店内から、紙袋を両手に抱えた女性が出てくる。

 女性は満足そうな顔をしていた。

「買えてよかった……」

 その直後、スマートフォンを取り出す。

 画面には、GOD REVIEWに似た金色の表示が浮かんでいた。

 女性は迷わず五つの星を押す。

 ★★★★★

「神様のおかげで素敵なお店に出会えました」

 投稿が送信される。

 金色の光が店の上へ昇っていった。

「今の人、神様を認識してるのか?」

「いいえ。通常、人間は祈りを叶えた担当神を知りません」

「じゃあ、どうしてレビューを?」

 アリアが女性に付いている光を詳しく確認する。

 その表情が曇った。

「評価誘導の暗示が付与されています」

「評価誘導?」

「願いが叶ったと感じた際、担当神へ最高評価を投稿したくなる暗示です」

「それはサクラレビューと何が違うんだ?」

「サクラ……?」

「自分で高評価を書かせてるようなものだろ」

 アリアは答えなかった。

 店の上には、大きな評価が表示されている。

 《担当神・ホクホク》

 《総合評価:★★★★★》

 《レビュー件数:12,481件》

 《満足度:99.8%》

 完璧に近い数字だった。

「怪しすぎる」

「商売繁盛の効果自体は出ています」

「店の売上だけはな」

 悠斗は商店街を見回した。

 繁盛している洋菓子店の向かいには、古い和菓子店がある。

 店頭に客はいない。

 さらに隣のパン屋も、昼時だというのに空いていた。

 少し離れた喫茶店では、店主が暇そうに外を眺めている。

「ほかの店の客が減ってないか?」

 アリアが商店街全体の商業運を表示する。

 《パティスリー・コモレビ:来店者数四八〇%増加》

 《和菓子処みのり:来店者数五八%減少》

 《ベーカリー朝風:来店者数四一%減少》

 《喫茶フジ:来店者数三六%減少》

「増えた客は、どこから来てる?」

「周辺店舗へ向かう予定だった人々の運命経路が変更されています」

「新しい客を呼んだんじゃなく、ほかの店から奪っただけか」

「そのようです」

 商店街全体の来訪者数を見る。

 補助前と、ほとんど変わっていない。

 一つの店に客が集中し、ほかの店が苦しくなっただけだった。

「商売繁盛と言えるのか、これ」

「対象店舗の売上は増加しています」

「担当外の店は知らないってことか?」

 アリアは気まずそうに目を伏せた。

     ◇

 悠斗たちは、まず繁盛している洋菓子店へ入った。

 列に並ぶ間も、客たちは興奮した様子で商品について話している。

「シュークリーム、十個買おうかな」

「一人三個までだって」

「じゃあ家族を呼ばないと」

 店内へ入る。

 若い女性店主が、忙しそうに接客していた。

 顔には疲労がにじんでいる。

「いらっしゃいませ!」

 商品は次々に売れている。

 ショーケースはほとんど空だった。

 悠斗はシュークリームを二つ買い、会計の際に店主へ尋ねた。

「最近、急に人気が出たんですか?」

「そうなんです」

 店主は戸惑ったように笑った。

「本当に突然で。最初は嬉しかったんですけど、ちょっと困っていて」

「困る?」

「毎日、開店前から行列ができるんです。作っても作っても間に合わなくて」

「従業員を増やす予定は?」

「そこまで売れ続けるか分からないので……」

 店主は声を落とす。

「最近のお客さん、少し怖いんです」

「怖い?」

「売り切れだと伝えると、泣き出す人もいて。昨日は『ここで買えないと不幸になる』って怒鳴られました」

 客を増やす暗示が、強くなりすぎている。

「この店が繁盛するよう、神様にお願いしましたか?」

 悠斗が尋ねると、店主は驚いた顔をした。

「神様?」

「例えば、神社で商売繁盛を祈ったとか」

「ああ。それなら、先月行きました」

 店主は店の奥を指差す。

 小さな棚に、商売繁盛のお守りが置かれていた。

「お店が苦しくて、もう閉めようかと思ってたんです。それで最後に、神頼みでもしてみようかなって」

「願いが叶ったんですね」

「はい。でも……」

 店主は行列を見る。

「ここまでじゃなくてよかったんです」

 店が潰れない程度に客が来てほしい。

 それが、一軒だけが商店街中の客を独占する状態へ変えられた。

「今は売上が増えても、無理を続ければ店主が倒れます」

 店を出たあと、アリアが言う。

「しかも補助期間は三十日」

「切れたら?」

「客足は元に戻ります」

「急に?」

「はい」

「最悪だな」

 繁盛に合わせて材料を増やし、設備を買い、人を雇ったあとで、客だけが消える。

 むしろ店を追い詰める可能性すらあった。

     ◇

 次に、向かいの和菓子店へ入る。

 引き戸を開けると、年配の男性が一人で店番をしていた。

 店内には、丁寧に並べられた羊羹や最中。

 だが客は一人もいない。

「いらっしゃい」

 店主は力なく笑う。

 悠斗は最中をいくつか選び、会計の際に話を聞いた。

「最近、商店街の人通りは増えてますよね」

「人は増えたよ」

 店主は向かいを見る。

「みんな、あっちへ行くけどな」

「以前はどうでした?」

「うちにも、ぼちぼち来てくれた。向かいの子とも仲良くやってたよ」

「今は?」

「店の前まで来て、急に向きを変えるんだ」

 老人は苦笑する。

「うちの看板を見てたはずなのに、何か思い出したみたいに向こうへ走っていく」

 運命経路の変更。

 まさに、それだ。

「恨んでいますか?」

「向かいの子を?」

 店主は首を横に振った。

「あの子も困ってる顔をしてる。本人が悪いわけじゃないだろ」

 それでも、この状態が続けば店は持たないという。

 パン屋も。

 喫茶店も。

 同じだった。

 商店街全体を支えるはずの商売繁盛が、一軒を勝たせるための競争になっている。

「ホクホクに連絡する」

 商店街を一周したあと、悠斗は言った。

「今回は、すでにレビューを書いてもよい状況では?」

「まず本人が何を考えているか聞く」

「最近、それを徹底されていますね」

「修正前の確認は必要だと分かったからな」

 アリアは通信画面を開いた。

 数秒後。

 景気のよい鐘の音が響く。

 画面の中を、金貨と菓子が舞う。

「待機画面が派手だな」

「商業系の神は、縁起を重視します」

 やがて、小柄な男性神が画面へ現れた。

 丸い顔。

 金色の衣。

 大きな腹。

 両腕には、高級そうな菓子箱を抱えている。

『おお、アリア殿! いつも神界運営、お疲れさまでございます!』

 満面の笑み。

 営業職のような明るい声。

 視線が悠斗へ移る。

 笑顔が一瞬だけ引きつった。

『そちらのお方は、もしや……』

「神崎悠斗です」

『これはこれは! 神界で話題の特級レビュアー様ではございませんか!』

「話題の内容が気になりますけど、今はいいです」

『本日はどのようなご用件でしょう? お近づきの印に、こちらをどうぞ!』

 画面から菓子箱が飛び出してくる。

 アリアが慌てて受け取った。

「神界銘菓『黄金まんじゅう』です」

「受け取らなくていい」

「ですが、お菓子に罪はありません」

「もう食べる気だろ」

 ホクホクは両手を揉みながら笑う。

『ほんのご挨拶でございます』

「パティスリー・コモレビへの商売繁盛補助についてです」

『ああ! あの成功案件ですか!』

 ホクホクが胸を張る。

『売上四八〇%増加! 顧客満足度も最高水準! 店主の願いを、見事に叶えました!』

「ほかの店から客を移動させただけですよね」

 笑顔が止まる。

『……商圏内の需要を、適切に再配分したのです』

「一軒へ集中させることを再配分と言うんですか?」

『商売は競争ですから』

「店主は、ほかの店を潰してほしいとは願っていません」

『そこまではしておりませんよ!』

「このまま続けば、何軒か潰れます」

『結果を出した者が勝ち、出せなかった者が退く。それが商売というものです』

「神様が勝者を選んでいるだけでしょう」

『祈りが届いた店を優先したのです』

「ほかの店も祈っていたら?」

『より強く願った者を優先します』

「願いの強さは、経営努力より優先されるんですか?」

 ホクホクの笑顔が少しずつ崩れる。

『神の支援も、立派な経営資源です』

「評価誘導の暗示についても聞きたい」

 今度こそ、ホクホクの顔が固まった。

『何のことでしょう?』

「願いが叶った人へ★5を投稿させていますね」

『さ、させているという表現は正確ではありません』

「では?」

『感謝を形にするきっかけを与えているだけで』

「暗示で?」

『人間は、感謝していても評価を忘れることがあります!』

「忘れるなら、満足していても投稿しない自由がある」

『評価がなければ、我々の働きが記録されません』

「だから強制する?」

『強制ではありません! 軽い誘導です!』

「★5以外を選べますか?」

 アリアが評価誘導の設定を開く。

 《推奨評価:★★★★★》

 《最低選択可能評価:★★★★★》

「選べないじゃないですか」

『わ、分かりやすくするためで……』

「レビュー件数一万二千件。全部この方式ですか?」

『全件ではございません!』

「何件?」

『……一万一千八百件ほど』

「ほぼ全部だろ」

 悠斗はGOD REVIEWを開く。

 ホクホクの評価欄。

 見事なまでに、★5しか並んでいない。

 文章も似ている。

 《願いを叶えていただき、ありがとうございます》

 《最高の神様です》

 《今後も利用したいです》

「利用したいって、何をだよ」

「暗示用の定型文ですね」

 アリアが確認する。

「完全に不正レビューじゃないか」

『不正とは心外です!』

 ホクホクは額の汗を拭う。

『神界では、高評価が重要なのです』

「利用者にとっても評価は重要です」

『出世に関わります!』

「本音が出たな」

『あっ』

 ホクホクは両手で口を押さえた。

 遅い。

「詳しく説明してください」

『それは神界内部の事情で……』

「暗示を使ってまで評価を集めた理由です」

 ホクホクはしばらく黙っていた。

 やがて観念したように、肩を落とす。

『神界では、各担当神の評価が半年ごとに集計されます』

「それで?」

『高評価の神は、担当範囲が広がり、予算と神力の配分が増えます』

「低評価なら?」

『担当範囲を減らされます。さらに下がれば、補助神へ降格です』

「ホクホク様は、現在昇進審査中です」

 アリアが記録を見ながら言う。

『あと少しなのです!』

 ホクホクが身を乗り出す。

『平均評価四・九以上を維持すれば、広域商業繁栄神へ昇進できます! そうなれば、もっと多くの店を救える!』

「今の方法で担当範囲を広げたら、被害が増えるだけです」

『広域担当になれば、商店街全体を調整できます!』

「そのために今は、一軒以外を犠牲にする?」

『必要な実績なのです!』

 悠斗は額を押さえた。

 評価が能力の証明になっている。

 だから神々は問題の解決より、数字を上げることを優先する。

 レインが雨を止めたのも。

 キュリアが恋愛成立件数を追ったのも。

 ホクホクが★5を集めたのも。

 すべて同じ構造だった。

「神様がレビューを恐れる理由、少し分かりました」

「はい」

 アリアも複雑そうな表情をしている。

「神界では、レビューは利用者の声であると同時に、神々の業績評価でもあります」

「両方に使うから、おかしくなる」

『何がおかしいのです!』

「評価を改善のためじゃなく、出世のために操作するようになる」

『それは……』

「願いを叶えるより、高評価を取ることが目的になってる」

 ホクホクは反論できなかった。

 悠斗はレビュー投稿画面を開く。

「神崎様」

 アリアが小さく呼ぶ。

「今回は投稿する」

 星を一つ選ぶ。

 ★☆☆☆☆

 ホクホクの顔が青ざめた。

『お、お待ちください!』

★☆☆☆☆

一店舗の売上を増やすため、周辺店舗から客を移動させています。

対象店舗にも過剰な負担が発生しており、補助終了後の反動も考慮されていません。

また、利用者へ評価誘導の暗示をかけ、★5レビューを実質的に強制しています。

商売繁盛ではなく、評価獲得を目的とした運用です。

暗示の解除と、商店街全体への影響を考慮した改善を求めます。

『待ってください! 本当に困ります!』

「何が?」

『★1が一件入れば、平均評価が四・九を下回ります!』

「一万件以上の★5があるのに?」

『特級レビューは重み付けが違うのです!』

「知りませんでした」

『今知りましたよね!?』

 悠斗は送信ボタンへ指を置く。

『分かりました! 暗示は解除します!』

「商業運の偏りも?」

『段階的に調整します!』

「補助終了後の店への支援は?」

『急激に客足が落ちないよう、三か月かけて自然減少させます!』

「周辺の店は?」

『商店街全体の来訪者数を増やす方向で再設計します!』

「最初からそうしてください」

『ですから、レビューはまだ送らずに……!』

「改善前なので送ります」

『そんな!』

 ホクホクは慌てて新しい菓子箱を取り出した。

『こちら、神界限定の千年熟成カステラです!』

「いりません」

『食べれば、一年間健康になります!』

「賄賂ですよね」

『心ばかりのお礼です!』

「まだ何もしてません」

『では金運はいかがです?』

「金運?」

『明日から三日間、落とし物を発見しやすくいたします!』

「届ける手間が増えるだけだろ」

『宝くじの当選確率を、ほんの少し……』

「交渉で評価を変えようとしないでください」

『★4でも結構ですので!』

「不正を指摘されたあとに★4を要求する神様、初めて見ました」

『★3!』

「下がってますよ」

『では★2で!』

「値引き交渉じゃないんです」

 悠斗は送信した。

 《レビューを送信しました》

 ホクホクの画面が赤く染まる。

 神界のどこかで、けたたましい警報が鳴り響く。

『あああああっ! 私の昇進がああああっ!』

 ホクホクは頭を抱えて画面の向こうへ倒れ込んだ。

 アリアは受け取った黄金まんじゅうを見つめる。

「これは返却したほうがよいでしょうか」

「証拠品として保管」

「食べてはいけませんか?」

「もう一個食べてるだろ」

 箱の中は、一つ減っていた。

     ◇

 翌日。

 パティスリー・コモレビの行列は、昨日の半分ほどになっていた。

 客の目から、異様な熱気も消えている。

「今日は別の店でもいいかな」

「向かいの最中、おいしそう」

「パンも買って帰ろう」

 人々は自然に商店街を歩き、複数の店へ入っていく。

 洋菓子店の店主は、少しほっとした表情で接客していた。

「急に客が減って、不安ではありませんか?」

 悠斗が尋ねる。

「少しは」

 店主は正直に答えた。

「でも昨日までより、今のほうがちゃんとお客さんの顔を見られます」

 客足は多い。

 それでも、店主が無理をしなくて済む範囲に調整されている。

 隣のパン屋にも人が入っている。

 向かいの和菓子店では、年配の店主が常連客と話していた。

「商店街全体の来訪者数も、少し増えています」

 アリアが運営記録を確認する。

 近隣駅から商店街へ足を延ばす人。

 ネットで存在を知って訪れる人。

 それぞれの店の特徴に合った客が、無理のない形で誘導されていた。

「ホクホクも、やればできるじゃないか」

「★1の効果でしょうか」

「本人は昇進がなくなって落ち込んでそうだけどな」

 GOD REVIEWには、改善報告が届いている。

 《評価誘導暗示:全件解除》

 《一店舗への過剰な運気集中:解除》

 《商店街全体への来訪補助:開始》

 《対象店舗の急激な売上低下を防ぐ移行期間を設定》

 《周辺店舗への損失補填を実施》

 最後に、ホクホクからの文章が付いていた。

 《改善対応を完了しました》

 《可能であれば、評価の再検討をお願いいたします》

 その下に、小さな文字。

 《★4でも結構です》

「まだ言ってる」

「反省しているのでは?」

「最後の一文で台無しだ」

 悠斗は評価を★1から★3へ変更した。

 ★★★☆☆

不正な評価誘導の解除と、商店街全体を対象とした改善を確認しました。

一店舗だけではなく、周辺への影響を考慮した点を評価します。

今後は、評価変更を要求しないでください。

「★3ですか?」

「改善はした。でも最初の不正は消えない」

「厳しいですね」

「それに継続確認が必要だ」

 送信する。

 すぐにホクホクから返信が届いた。

 《★3ありがとうございます!》

 《あと一つ増やしていただくことは――》

 途中で文章が切れている。

 おそらく上司に止められたのだろう。

     ◇

 その夜。

 悠斗は部屋で、ホクホクの件を振り返っていた。

「神界の評価制度、思ったより深刻だな」

 アリアは黄金まんじゅうの最後の一つを食べながら答える。

「神々にも階級があります」

「最高神とか下位管理神とか?」

「はい。担当する世界や地域の規模、使用できる神力、部下の人数も、評価によって変動します」

「だから低評価を恐れる」

「努力が認められなければ、担当を外される神もいます」

「でも、利用者の声を神の出世に直接使えば、数字を操作するやつが出る」

「ホクホク様のように?」

「たぶん、あいつだけじゃない」

 何十億、何兆件というレビュー。

 すべてが本当に、人間の自由な意思で投稿されたものなのか。

 高評価を得るために、神々が都合よく現実を変えていないか。

 問題を隠していないか。

 悠斗はGOD REVIEWのランキングを開く。

 高評価の神々。

 満点に近い部署。

 称賛ばかりのレビュー。

 以前なら、優秀な神々だと思ったかもしれない。

 今は逆に、不自然に見える。

「評価が高いから正しいとは限らない」

「低いから悪いとも限らないのかもしれません」

 アリアが言う。

「人間から嫌われても、必要な仕事はありますから」

「雨とか、死とか、病気とか?」

「はい」

 人間が望まないことを管理する神ほど、低評価になりやすい。

 一方で、目先の願いを叶える神は高評価を得る。

 その評価で予算と権限が決まるなら、神々は人間へ都合のよいことしかしなくなる。

 世界を維持するために必要な判断より、喜ばれる判断を選ぶ。

「レビュー制度を作ったやつ、そこまで考えてなかったのか?」

「神界が始まった頃からある制度なので、詳細は分かりません」

「誰が作った?」

「おそらく、創造神よりも古い存在です」

「世界設計者?」

 悠斗が口にすると、アリアの表情が変わった。

 第1話のレビュー権限。

 《発行者:世界設計者》

 同じ名前だ。

「関係あると思うか?」

「分かりません」

 アリアは正直に答える。

「ですが、本来のレビュー制度は、今とは違う目的で作られた可能性があります」

「本来の目的……」

 悠斗がランキング画面を閉じようとした、そのときだった。

 一瞬だけ、画面の隅に見慣れない表示が現れる。

 《監視接続を検知》

「何だ?」

 悠斗が押そうとすると、表示は消えた。

「アリア。今の見たか?」

「はい」

 彼女は神界用の管理画面を開き、通信履歴を確認する。

「ホクホク様との会話に、第三者が接続していました」

「盗み聞きされてた?」

「正規の閲覧権限です。ですが、接続者情報が隠されています」

「神界の誰かか?」

「その可能性が高いです」

「何のために?」

 アリアは首を横に振る。

 分からない。

 悠斗たちがホクホクの不正を調べていた間。

 レビュー制度の問題へ気付き始めた間。

 誰かが、すべてを見ていた。

     ◇

 神界の最上層。

 一般の神々が立ち入ることのできない、暗い管理室。

 一人の神が、悠斗とホクホクの会話記録を見つめていた。

 画面には、悠斗の言葉が表示されている。

 《評価を改善のためではなく、出世のために操作している》

 細い指が、ゆっくり画面をなぞる。

「もう気付き始めたのね」

 穏やかな女性の声。

 机の上には、神々の評価ランキング。

 削除されたレビュー。

 改ざんされた記録。

 非公開にされた低評価。

 無数の情報が整然と並んでいる。

 画面の隅には、管理者名が表示されていた。

 《評価管理神・レーティア》

 レーティアは微笑む。

「でも、まだ早いわ」

 彼女が指を動かすと、監視接続の記録が完全に消去される。

「神崎悠斗」

 暗い部屋の中で、その名前だけが静かに響いた。

「あなたのレビューが、世界を救うものなのか」

 笑みが少しだけ深くなる。

「それとも壊すものなのか、見せてもらいましょう」


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