第4話 雨を止めたら一滴も降らなくなりました
再レビュー制度が始まり、神々は以前よりも改善結果を気にするようになりました。
しかし、天候神レインが出した答えは――雨を降らせないこと。
晴天続きに喜ぶ人々の陰で、畑は乾き、貯水池の水は減っていきます。
雨が悪いのではなく、問題なのは降らせ方。
第4話、どうぞお楽しみください。
再レビュー制度が神界に導入されてから、一週間が経った。
神崎悠斗の利用する電車は、毎朝ほぼ定刻どおりに運行している。
通勤経路上の信号をすべて青にするという極端な処理も解除された。
例の駆け込み乗車をしていた男性には、「いつもより十分早く目が覚める」という小さな運命補助が設定されたらしい。
本人は、最近なぜか目覚めがよくなったと不思議がっていた。
「今回は問題なさそうだな」
朝の電車内で、悠斗はGOD REVIEWの改善報告を確認した。
《再発防止対応》
《対象者の睡眠周期を軽微に調整》
《公共交通機関への運命干渉を解除》
《他利用者への影響:なし》
画面の一番下には、運命神フェイトからの短い返信が付いている。
《指摘内容を反映しました》
以前のような「貴重なご意見ありがとうございました」という定型文ではない。
本人が書いたのだろう。
「フェイト様から個別の返信が届くなんて、珍しいです」
隣に立つアリアが、感心したように画面をのぞき込む。
彼女の姿は周囲の人間には見えていない。
混雑した車内だというのに、神の力で悠斗の横にだけ不自然な隙間を作っていた。
「お前、空間を広げられるなら前回もやってくれればよかっただろ」
「前回は、人間界の通勤状況を正確に調査する必要がありました」
「満員電車を体験してみたかっただけじゃないのか?」
「ち、違います」
アリアは目をそらした。
「ところで神崎様。今回は評価を更新されますか?」
「そうだな」
悠斗は前回のレビューを開き、星を二つから四つへ変更した。
★★★★☆
《遅延および過剰な運命干渉の解消を確認しました》
《対象者本人への負担も少なく、他利用者への影響もありません》
《今後も同様の対応を希望します》
送信する。
アリアの目が輝いた。
「★四つです!」
「何だよ」
「神崎様が、初めて神へ高評価を付けました!」
「問題が改善されたんだから当然だろ」
「神界へ報告しなければ……!」
アリアは半透明の報告画面を開き、猛烈な勢いで文字を入力し始めた。
《速報》
《特級レビュアーより★4を確認》
《神界運営史上初の評価回復事例》
「そこまで大事件なのか?」
「当然です! 特級レビューは改善後も評価を変更しないのではないかと、神々の間で不安が広がっていたのです」
「ちゃんと直せば評価するって、最初から言ってただろ」
「神々は人間の言葉をあまり信用しません」
「それ、神様が言っていいのか?」
アリアが報告を送信した直後、神界から大量の通知が返ってきた。
《運命管理局、臨時祝賀会を申請》
《フェイト責任者への処分を保留》
《全神界へ改善成功事例として共有します》
「評価一つで騒ぎすぎだ」
「神々にとって星は、出世や予算に関わる重要な数字ですから」
「だから数字しか見なくなるんだろうな」
悠斗が何気なく言うと、アリアは気まずそうに口を閉じた。
電車が地上区間へ出る。
窓の外には、気持ちのいい青空が広がっていた。
雲一つない。
強い朝日が街を照らしている。
「今日も晴れか」
「よい天気ですね」
「そうだな」
このときの悠斗は、まだ気付いていなかった。
最後に雨が降ったのが、いつだったのかを。
◇
その日も晴れた。
翌日も晴れた。
その次の日も、雲一つない快晴だった。
テレビでは、連日続く好天を好意的に伝えている。
『今週末も、全国的に絶好のお出かけ日和となりそうです』
『洗濯物はよく乾くでしょう』
『屋外レジャーにも最適です』
街では、人々が青空を見上げて笑っていた。
休日の公園は家族連れでにぎわい、観光地には人があふれる。
飲食店はテラス席を開放し、行楽施設は来場者数を伸ばしている。
SNSにも好意的な投稿が並んでいた。
《ずっと晴れてて最高!》
《雨がないだけで気分がいい》
《天気の神様、ありがとう!》
GOD REVIEWでも、天候管理局の評価が急上昇していた。
★★☆☆☆だった総合評価は、わずか二週間で★★★★☆まで上がっている。
「レイン様の評価が過去最高を記録しました」
悠斗の部屋で、アリアが嬉しそうに報告した。
「雨を減らすだけで、そんなに評価が上がるのか」
「雨を嫌う人間は多いようです」
「通勤や旅行には晴れのほうがいいからな」
「神崎様も、雨より晴れがお好きでしょう?」
「どちらかなら晴れだけど」
「では、問題ありませんね」
「今のところはな」
悠斗は窓の外を見た。
夜だというのに、空気が妙に乾いている。
ベランダに置かれた植木鉢の土も、すっかり白く乾いていた。
「最後に雨が降ったの、いつだ?」
「確認します」
アリアが天候記録を開く。
指を滑らせて過去の記録を追い、途中で動きを止めた。
「……二十三日前です」
「二十三日?」
「正確には、神崎様が事故に遭われた局地的豪雨が最後です」
「あれは記録上なかったことになっただろ」
「現在の人間界の記録では、三十一日前の小雨が最後となっています」
一か月以上、一滴も雨が降っていない。
「天気予報は?」
「今後二週間、すべて晴れです」
「梅雨の時期なのに?」
「はい」
悠斗はスマートフォンでニュースを検索する。
好天を歓迎する記事に混じり、いくつか気になる見出しが出てきた。
《ダムの貯水率、平年を下回る》
《一部地域で農作物の生育に影響》
《乾燥注意報、二十日連続》
《山林火災の危険性高まる》
「もう影響が出てるじゃないか」
「ですが、深刻な被害はまだ報告されておりません」
「深刻になってから直すのか?」
アリアは答えに詰まった。
悠斗はGOD REVIEWを開き、天候管理局のページを確認する。
高評価のレビューが大量に並んでいる。
《雨が降らなくて助かります》
《毎日晴れで快適です》
《今後もこの天候を維持してください》
その一方で、低評価も少しずつ増え始めていた。
《畑が乾いています》
《井戸の水が減りました》
《雨を降らせてください》
しかし、すべての投稿に同じ表示が付いている。
《少数意見として記録しました》
「少数意見?」
「評価管理システムが、全体の支持率を基準に優先度を判定しています」
「晴れを望む人のほうが多いから、農家の要望は後回しなのか?」
「利用者満足度を最大化するための仕組みです」
「水がなくなれば、全員困るだろ」
現在の満足度だけを見て、将来の被害を無視している。
数字上の高評価を維持するため、都合の悪い少数意見を切り捨てているのだ。
「天候神に連絡してくれ」
「レビューを投稿するのではなく?」
「まず本人に理由を聞く」
アリアが神界への通信画面を開く。
数回呼び出し音が鳴ったあと、画面に青い髪の少女が映った。
天候神レイン。
長い青髪を乱したまま、巨大な雲のようなクッションへ横になっている。
眠そうな目。
片手には「晴天維持」と書かれた操作盤。
『……何?』
「天候について確認したい」
悠斗が言うと、レインは面倒そうに片目だけを開いた。
『特級レビュアー』
「最後に雨を降らせたのはいつだ?」
『知らない』
「担当だろ」
『記録を見て』
「一か月以上降ってない」
『そうみたいだね』
「そうみたいじゃない。どうして止めた?」
レインはクッションへ顔を埋める。
『前に雨で★1を付けられたから』
「あれは雨を降らせたことが問題だったんじゃない」
『でも、晴れにしたら評価が上がった』
彼女が指を動かすと、画面の横に天候管理局の評価グラフが表示された。
雨量を下げるほど、評価が上昇している。
レインはその数字を指差す。
『人間は晴れが好き。雨は嫌い。結果が出てる』
「短期的な評価しか見てないだろ」
『高評価なら正しいんじゃないの?』
「農作物が枯れ始めている。ダムの水も減ってる」
『まだなくなってない』
「なくなってからでは遅い」
『雨を降らせたら、洗濯物が濡れたって苦情が来る』
「降らせる場所と時間を調整すればいい」
『面倒』
「天候神の仕事だろ」
レインは、心底不思議そうに首を傾げた。
『晴れが高評価なら、ずっと晴れでよくない?』
「よくない」
悠斗は即答した。
「雨が悪いんじゃない。降らせ方が問題なんだ」
『同じでしょ』
「全然違う」
『雨を降らせると怒られる。降らせないと褒められる。だったら降らせない』
「評価を上げることが仕事なのか?」
『神界では、評価が高い神が優秀』
「世界を維持するのが仕事だろ」
レインが黙り込む。
眠そうな表情は変わらないが、視線だけが少し揺れた。
アリアが悠斗の袖を引く。
「神崎様。レイン様は先日の★1で、処分対象になりかけたのです」
「処分?」
「天候管理局の予算が削減され、担当範囲も縮小される予定でした。今回の高評価で、ようやく保留になったところです」
だから雨を降らせない。
人間のためではない。
自分の評価を守るためだ。
だが、単純にレインだけを責めても解決しない。
神界の評価制度そのものが、彼女に極端な判断をさせている。
「地域ごとに必要な雨量は分かるか?」
悠斗が尋ねる。
レインは再びクッションへ顔を伏せた。
『一応』
「だったら、そこに合わせて降らせてくれ」
『人間の要望が多すぎる』
「どこに、どれだけ必要なのか整理すればいい」
『誰が?』
「……俺が調べる」
レインが初めて、少しだけ目を見開いた。
『レビュアーが?』
「現場を見ずに★1を付けても、また極端な修正をされそうだからな」
『面倒な人間』
「お互いさまだ」
通信を切る。
アリアが心配そうに悠斗を見る。
「地域ごとの必要雨量を調べるのは、簡単ではありません」
「分かってる」
「神崎様は天候の専門家ではありませんよね?」
「専門家に聞けばいい」
◇
翌日の休日。
悠斗とアリアは、電車とバスを乗り継ぎ、郊外の農村へ向かった。
ニュースで、水不足の影響が出始めていると報じられていた地域だ。
駅を降りた瞬間、乾いた熱気が体を包む。
空は青い。
どこまでも青い。
観光なら喜びたくなる空だ。
しかし周囲の田畑を見ると、印象が変わる。
田んぼには水が少なく、土がところどころ露出している。
畑の葉は力なく垂れ下がり、地面には細かいひびが入っていた。
「同じ晴天なのに、町で見たときとは違いますね」
アリアがつぶやく。
「天気そのものは同じだ。でも、受ける影響は場所によって違う」
二人は、畑で作業をしていた老人へ声をかけた。
悠斗は天候に関する個人調査をしていると説明する。
神様のレビューを書くためとは言えない。
「雨が降らなくなって、どれくらい影響がありますか?」
老人は空を見上げた。
「最初の一週間は、ありがたかったよ。畑仕事が進んだからな」
「その後は?」
「二週間を過ぎた頃から土が乾き始めた。水をまいても、すぐ蒸発する。井戸の水位も下がっとる」
老人はしゃがみ込み、野菜の葉を持ち上げる。
葉先が茶色く変色していた。
「このまま一週間も降らなければ、かなり駄目になるだろうな」
「毎日雨が必要ですか?」
「そんなわけない」
老人は笑った。
「降りすぎても根が腐る。収穫前に降れば、品質も落ちる。雨なら何でもいいわけじゃない」
「どのくらいが理想ですか?」
「作物や時期による。今なら、夜に少しまとまって降ってくれると助かる。昼間の作業にも影響しないからな」
悠斗はノートへ記録する。
地域。
作物の種類。
必要な時期。
希望する時間帯。
適切な雨量。
アリアも隣で神界の記録板へ書き込んでいる。
「人間は、雨を嫌っているのではないのですね」
「当たり前だろう」
「ですが、レビューには『雨をやめてほしい』という意見が多く届きます」
老人にはアリアの声が聞こえない。
悠斗は彼女へ小声で返した。
「困っているときの人は投稿するけど、必要な雨が普通に降っているときは、わざわざ感謝を書かないからな」
「何も書かれていない状態は、満足しているということですか?」
「少なくとも、不満がない可能性はある」
レビューに書かれた声だけが、利用者のすべてではない。
声を上げない人。
問題が起きて初めて影響に気付く人。
今は困っていなくても、将来困る人。
評価の数字だけでは見えないものがある。
悠斗たちは地域を歩き、複数の農家から話を聞いた。
稲作農家は、田植え後の水不足を心配していた。
果樹園では、雨が多すぎると病気になるが、今の乾燥も実の成長に悪いという。
ビニールハウスでは、外から水を引いているため、貯水池の水位低下が問題になっていた。
さらに地域の水道局を訪ね、貯水率の資料も確認する。
現在の貯水率は四十二パーセント。
例年なら七十パーセント以上ある時期だ。
節水が始まるまで、あと十日ほど。
「思っていたより時間がないな」
「明日から大雨を降らせれば、一気に回復できます」
「それをやったら洪水になる」
「では、どの程度がよいのでしょう?」
「だから今まとめてる」
悠斗は借りた会議室で資料を広げた。
地域ごとの土壌。
作物。
貯水池。
河川の状態。
天気予報。
専門家ではないため、精密な判断はできない。
それでも、現場から集めた情報を整理することはできる。
「この地域は、三日間に分けて夜間に雨を降らせる。最初は弱くして、乾いた土に水を吸収させる」
「最初から強く降らせてはいけないのですか?」
「乾燥した地面に大雨を降らせると、吸収されずに流れる可能性がある」
「なるほど」
「貯水池周辺には少し多め。果樹園は雨量を抑える。収穫時期の畑には降らせない」
「非常に細かいですね」
「天候を管理するって、本来こういうことじゃないのか?」
アリアは複雑そうな表情をした。
「神界では、地域ごとの降水量は自動設定です」
「今回はどうして機能してない?」
「レイン様が、晴天維持を最優先命令として設定したため、すべての自動調整が停止しています」
「やっぱりあいつのせいじゃないか」
「ですが、その設定を支持したのは、人間からの高評価です」
悠斗はペンを止めた。
神だけが悪いわけではない。
人間は目先の快適さを望み、晴天を褒め続けた。
神はその数字に従った。
誰も、少し先に起こる問題を考えなかった。
「だから、評価だけじゃ駄目なんだな」
「どういう意味ですか?」
「★1を付けて『雨を降らせろ』だけでは、また別の問題が起きる」
悠斗は新しいレビュー画面を開いた。
「今回は、改善案まで書く」
◇
その日の夜。
天候管理局へ、一件の特級レビューが届いた。
★★☆☆☆
《長期間の晴天により、農作物と水資源へ影響が発生しています》
《雨を完全に停止するのではなく、地域ごとの用途と必要量に応じた調整を求めます》
レビューには、複数の資料が添付されていた。
《地域別推奨雨量》
《農作物の生育時期》
《貯水率と河川状況》
《推奨降雨時間帯》
そして最後に、悠斗の意見が記されている。
《晴天を望む人と、雨を必要とする人のどちらか一方を選ぶのではなく、双方への影響を抑える方法を検討してください》
天候管理局の中央画面で、レインはそのレビューを眺めていた。
周囲の神々は、添付された資料の量にざわめいている。
「人間が降雨計画を作ってきたぞ」
「レビュアーの仕事ではないだろう」
「この地域、今日の予定雨量がゼロになっています」
「晴天維持命令が優先されているからだ」
「自動調整を戻せば、この案に近い雨量になります」
レインは雲のクッションに寝転んだまま、資料を一枚ずつ確認した。
「……細かい」
「どうされますか?」
部下の神が尋ねる。
「レビューどおりに降らせる」
「よろしいのですか? 雨が降れば、天候管理局の評価が下がる可能性があります」
「降らせなかったら、あの人間がまた来る」
レインは眠そうにあくびをする。
「そっちのほうが面倒」
指を動かし、晴天維持の最優先命令を解除する。
止まっていた自動天候調整が、ゆっくりと再起動した。
地域ごとの気温。
湿度。
土壌水分。
河川水位。
作物への影響。
無数の情報が連動し、必要な雨量が算出される。
レインは悠斗の資料と照らし合わせ、数か所を手動で修正した。
「最初は弱い雨」
「三時間後に少し増加」
「朝までに停止」
「観光地域は?」
「昼間は晴れのまま。夜に降らせる」
「山間部の貯水池周辺は?」
「二日間に分ける。まとめて降らせると崩れるから」
部下たちが驚いた顔でレインを見る。
「レイン様が、ここまで細かく天候を設定されるとは……」
「うるさい」
レインは不機嫌そうに操作盤を叩いた。
「人間にできて、天候神にできないと思われるのは嫌」
最後の承認ボタンを押す。
世界中の空で、止まっていた雲が動き始めた。
◇
その夜。
悠斗は自宅の窓を開けた。
乾いた風の中に、わずかに湿った匂いが混じっている。
「降りそうだな」
隣に立つアリアが空を見上げる。
昼間まで何もなかった空に、薄い雲が広がっていた。
やがて、ぽつりと一滴。
ベランダの手すりに、小さな水の跡が付く。
続いて、もう一滴。
強くもなく、弱すぎもしない雨が静かに降り始めた。
地面を叩く柔らかな音。
乾いていた土から、雨の匂いが立ち上る。
「豪雨ではありません」
「これくらいでいいんだ」
「洗濯物への影響も少ない時間帯です」
「天気予報にも、ちゃんと掲載されてる」
今回は過去も記憶も書き換えられていない。
必要な場所へ、必要な量の雨が降っている。
翌朝には雨が止まり、空は再び晴れる予定だ。
GOD REVIEWに改善報告が届く。
《晴天最優先設定を解除》
《地域別自動降雨調整を再開しました》
《農業地域および水源地域への優先降雨を実施》
《今後、短期評価だけでなく中長期的影響を判定項目へ追加します》
悠斗はレビューの評価を★★☆☆☆から★★★★☆へ変更した。
《適切な降雨を確認しました》
《現時点では大きな問題はありません》
《今後も地域ごとの事情を考慮した運用を希望します》
「★五つではないのですか?」
アリアが尋ねる。
「一回直っただけで満点にはしない」
「厳しいですね」
「継続して問題なければ考える」
「レイン様が聞いたら、また面倒な人間と言いそうです」
「もう言われてる」
窓の外で、静かな雨が降り続ける。
悠斗はその音を聞きながら、少しだけ笑った。
「でも、雨も悪くないな」
◇
神界。
天候管理局の画面に、悠斗から届いた★4レビューが表示されていた。
部下の神々が喜ぶ。
「評価が上がりました!」
「天候管理局への低評価も減少しています!」
「農業関連のレビューでは、感謝の投稿が増えています!」
レインは雲のクッションへ寝転んだまま、興味がないように目を閉じていた。
「そう」
「神崎悠斗からの添付資料は、どうしますか?」
「削除」
「承知しました」
部下が削除操作をしようとする。
「……待って」
レインが片目を開いた。
「保存して」
「どちらの資料を?」
「全部」
「すべてですか?」
「次に同じ地域で雨量を決めるとき、使えるから」
部下は少し驚いたあと、資料を天候管理局の共有記録へ保存した。
ファイル名は、
《人間界・地域別降雨調整参考資料》
作成者の欄には、神崎悠斗の名前が記録されている。
レインはその表示を見つめ、小さくつぶやいた。
「……本当に面倒な人間」
口調は相変わらず気だるい。
だが、その顔は以前ほど不機嫌ではなかった。
神界の窓の向こうでは、無数の雲が世界へ向かって流れている。
雨を嫌う人のいる場所へ。
雨を待っている人のいる場所へ。
それぞれに必要な量だけ、水を運びながら。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
人間から高評価をもらうため、雨そのものを止めてしまったレイン。
目先の評価は上がっても、その影響は農作物や水資源へ静かに広がっていました。
今回は悠斗も、ただ低評価を付けるだけではなく、現場の声を集めて具体的な改善案を提出しています。
少しずつですが、神様とレビュアーの関係も変わり始めたようです。
次回、第5話
「恋愛神、幼なじみを優遇しすぎ問題」
恋愛神の趣味によって、悠斗の同僚の恋が妨害されます。




