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神様レビュー★1「世界の運営が雑すぎます」  作者: 海老崎 伊織
第1章 ★1レビュー、神様に届く
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3/10

第3話 毎朝遅れる電車は仕様です

神様が部屋に住み着いてから、最初の出勤日。


悠斗が毎朝利用する電車は、なぜかほぼ同じ時刻に遅れていました。


調べてみると、その原因は事故でも混雑でもなく――たった一人の乗客を助けるため。


一人を救うことは正しくても、その方法まで正しいとは限りません。


第3話、どうぞお楽しみください。

 神様が部屋に住み着いてから、最初の朝が来た。

「神崎様。起床時刻です」

 午前六時三十分。

 枕元から聞こえた声に、神崎悠斗は薄く目を開けた。

 銀色の長い髪。

 青い瞳。

 白と青を基調とした衣装。

 頭の上には、淡く光る小さな輪。

 レビュー担当神のアリアが、ベッドの横に正座している。

「……なんでそこにいる?」

「監視役ですので」

「寝ている間も監視してたのか?」

「はい」

「怖いんだけど」

 悠斗は布団を引き上げた。

 昨夜、アリアには帰るよう何度も言った。

 しかし彼女は「監視対象から一定距離以上離れることは許可されていません」と言い張り、最終的に部屋の隅で眠ることになった。

 正確には、神は睡眠を必要としないらしい。

 夜中もずっと、床に座って悠斗を見ていたという。

「人間界では、寝ている人を見続けるのは普通じゃない」

「神界では、重要な監視対象には常時観測を行います」

「俺は災害か何かか?」

「神界では同程度の警戒対象に指定されています」

「余計にひどいな」

 悠斗は体を起こした。

 事故で痛めた左肩には、まだ鈍い痛みがある。

 それでも、いつまでも会社を休むわけにはいかない。

 医師からも、無理をしなければ出勤してよいと言われている。

「今日は会社へ行く」

「会社とは、どのような場所ですか?」

「働く場所」

「神界運営機構のようなものですね」

「うちの会社は世界を改変しない」

「それは不便ではありませんか?」

「普通はできないんだよ」

 悠斗が洗面所へ向かうと、アリアも後ろを付いてくる。

「来るな」

「監視です」

「顔を洗うだけだ」

「その間にレビューを投稿する可能性があります」

「歯磨きしながら★1を送るほど器用じゃない」

 結局、アリアは洗面所の外で待つことになった。

 朝食を取っている間も、着替えている間も、玄関で靴を履く間も、彼女は悠斗の行動を記録している。

 空中に半透明の板を浮かべ、そこへ何かを書き込んでいた。

「何を書いてる?」

「監視報告です」

「見せてみろ」

「機密情報です」

 悠斗が横からのぞき込む。

 アリアは慌てて画面を胸元へ引き寄せた。

 一瞬だけ内容が見えた。

 《監視対象、六時三十分に起床》

 《洗顔、歯磨きを実施》

 《朝食としてパン一枚と飲料を摂取》

 《現時点で危険なレビュー行動なし》

「夏休みの観察日記か?」

「正式な業務記録です!」

「その報告、誰が読むんだよ」

「上司です」

「上司も大変だな」

 悠斗は鞄を持ち、玄関を開けた。

 アリアも当然のようについてくる。

「お前、その格好で外を歩くつもりか?」

「何か問題が?」

「問題しかない」

 銀髪に神官風の衣装、頭上には光る輪。

 朝の住宅街を歩けば、確実に注目を集める。

「人間には見えないようにできないのか?」

「可能です」

「最初からやってくれ」

 アリアが指を鳴らす。

 体が淡い光に包まれ、輪郭が半透明になる。

 完全に消えたわけではない。

 悠斗には見えているが、通りを歩く人々はアリアに気付いていなかった。

「私の姿と声は、神崎様以外には認識されません」

「便利だな」

「ただし、物体には接触します」

「つまり?」

 アリアが廊下に置かれていた傘立てへ足をぶつけた。

 金属音を立てて傘立てが倒れる。

 隣の部屋の扉が開き、中年の男性が顔を出した。

「何の音だ?」

 悠斗は倒れた傘立てと、気まずそうなアリアを交互に見る。

「……すみません。足が当たりました」

「気を付けてよ」

「はい」

 男性が部屋へ戻る。

 アリアは小声で言った。

「神崎様はお優しいですね」

「見えない神様のせいですとは言えないだけだ」

     ◇

 最寄り駅へ着くと、改札前には多くの通勤客が集まっていた。

 アリアは忙しなく周囲を見回す。

「人間が大量に移動しています」

「通勤時間だからな」

「全員が同じ方向へ歩いています。集団儀式ですか?」

「会社へ行くだけだ」

「毎日ですか?」

「基本的には」

「毎日、決まった時刻に集まり、箱へ詰め込まれて移動するのですか?」

「言い方は悪いけど、だいたい合ってる」

 改札を通り、ホームへ向かう。

 電光掲示板には、悠斗が乗る予定の電車が表示されていた。

 午前七時四十二分発。

 いつも利用している便だ。

 ただし、時刻どおりに出発することはほとんどない。

 悠斗がホームへ着いた時点で、アナウンスが流れた。

『お客様にお知らせいたします。七時四十二分発の電車は、お客様対応のため、三分ほど遅れて運転しております』

「またか」

「何か問題があるのですか?」

「この電車、毎朝遅れるんだ」

「三分程度なら、大きな問題ではないのでは?」

「一日だけならな」

 悠斗はスマートフォンを取り出し、過去の遅延通知を見せた。

 月曜日、三分遅れ。

 火曜日、四分遅れ。

 水曜日、三分遅れ。

 木曜日、五分遅れ。

 そして今日も三分。

「ほぼ毎日、同じ時間帯に遅れてる」

「利用者が多いからでは?」

「それなら遅延を見込んだ時刻表に変えればいい。でも表示上は毎日、定刻運行を予定している」

 悠斗はホームの時計を見る。

 七時四十四分。

 電車はまだ到着していない。

「遅延の理由も、毎回『お客様対応』だ」

「人間への対応なら、仕方がないのではありませんか?」

「誰に、何を対応しているのかが分からない」

 元QA・テスターとして、不具合が周期的に発生しているのは気になる。

 毎朝。

 同じ電車。

 ほぼ同じ遅延時間。

 原因も同じ。

 偶然ではない。

 七時四十五分。

 ようやく電車がホームへ入ってきた。

 すでに車内は混雑している。

 扉が開くと、ホームで待っていた人々が一斉に乗り込んだ。

「神崎様」

「何だ?」

「これは本当に移動手段ですか?」

「そうだけど」

「収納ではなく?」

「人間を荷物みたいに言うな」

 アリアは人々に押されながら、悠斗と一緒に車内へ入った。

 姿は見えていないが、体は存在している。

 当然、他の乗客に挟まれる。

「く、苦しいです!」

「通勤電車はこんなものだ」

「神界なら空間拡張を使います!」

「人間界にはない」

「転移すればよいのでは?」

「できない」

「翼は?」

「生えてない」

「人間は不便すぎませんか?」

「今さら気付いたか」

 扉が閉まる。

 電車は三分遅れで出発した。

 その遅れは、乗り換え駅へ着く頃には五分へ広がっていた。

 悠斗は予定していた快速電車に乗れず、次の便を待つことになった。

 同じように乗り換えに失敗した人々が、ホームで時計を気にしている。

 電話をかけている会社員。

 落ち着かない様子の学生。

 保育園へ連絡している母親。

 たった三分の遅れ。

 だが利用者全員にとって、同じ三分ではない。

 乗り換えを逃せば十分になる。

 始業時刻に間に合わなければ、さらに大きな影響が出る。

「何千人も乗っている電車が毎日三分遅れれば、合計すると相当な時間になる」

 悠斗が言うと、アリアは首をかしげた。

「時間を合計するのですか?」

「一人が三分失うだけなら小さい。でも三千人なら九千分だ」

「百五十時間……」

「それが毎日続く」

 アリアは周囲の通勤客を見る。

「ですが、誰かを助けるために遅れている可能性もあります」

「だから原因を調べる」

「レビューを書くのですか?」

 アリアの顔に緊張が走る。

「まだ書かない。まず確認する」

「……安心しました」

「何で監視役のお前が一番怯えてるんだ」

     ◇

 会社へ着いた悠斗は、午前中の業務を終えたあと、昼休みにGOD REVIEWを開いた。

 アリアは隣の空席に座っている。

 他の社員には見えていないため、周囲からは悠斗が一人でスマートフォンを操作しているようにしか見えない。

 検索欄へ、利用している路線名と時刻を入力する。

 《関連する運営記録を検索します》

 数秒後、一件の項目が表示された。

 《運命補助処理》

 《対象:七時四十二分発・上り普通列車》

 《実施頻度:平日》

 《処理内容:出発時刻を三分から五分遅延》

「意図的に遅らせてるのか」

「運命補助処理……」

 アリアが画面をのぞき込む。

 詳細を開くと、処理の対象者が表示された。

 《救済対象者:一名》

 《対象行動:七時四十四分、駅構内へ到着》

 《目的:乗車失敗の回避》

「一人?」

 毎朝電車が遅れていた理由。

 それは事故でも、混雑でも、設備故障でもなかった。

 一人の乗客を乗せるため、運命管理局が電車の出発を遅らせていた。

「その人が乗り遅れないように、毎日待ってるのか?」

「どうやら、そのようです」

「列車一本を?」

「運命神は、個人の生活に必要な調整を行う場合があります」

「対象者の情報は見られるか?」

 アリアが神界権限を使って画面を操作する。

 映像が表示された。

 三十代ほどの男性。

 毎朝、ネクタイを直しながら駅へ走っている。

 改札を通過するのは七時四十四分。

 ホームへ駆け下り、発車直前の電車へ飛び乗る。

 その瞬間、運命補助処理が完了となっていた。

「毎朝同じだな」

「一度ではなく、継続処理になっています」

「どうしてこの人だけ救済対象なんだ?」

 追加情報を開く。

 《対象者が当該列車へ乗車できなかった場合、勤務先への遅刻が発生》

 《遅刻回数の増加により、評価低下の可能性あり》

 《生活安定度の低下を防ぐため、救済処理を実施》

「電車を遅らせる前に、本人を早く起こせよ」

 悠斗の声が少し大きくなる。

 近くにいた同僚が振り返った。

「神崎、どうした?」

「いや、何でもない」

 悠斗は声を落とす。

「毎朝寝坊してる一人のために、何千人が遅れてるんだぞ」

「しかし、その一人の生活は守られています」

「救済すること自体は否定してない。方法が雑だと言ってる」

 アリアは以前にも聞いた言葉だという顔をした。

「また、復旧と解決の違いですか?」

「似たようなものだ」

 一人が遅刻する。

 だから電車を遅らせる。

 目の前の結果だけを見れば、その人物は救われている。

 だが電車に乗る他の利用者への影響は考慮されていない。

 さらに本人は毎朝電車が待ってくれるため、生活習慣を変える理由もない。

 問題を解決するどころか、固定化していた。

 悠斗は担当者欄を見る。

 《運命管理局責任者:フェイト》

「昨日の信号機担当と同じ神か」

「運命神フェイト様ですね」

「直接確認できるか?」

「レビューを投稿すれば、担当部署へ通知されます」

「書く前に聞きたい」

「神崎様が慎重になられています……!」

「感動するところか?」

 アリアは神界通信用の画面を開いた。

 数度の転送を経て、黒髪で眼鏡をかけた神が映る。

『運命管理局です』

 背後には、無数の光る線が広がっていた。

 人間一人一人の運命を表しているらしい。

 フェイトは机から顔を上げず、書類を処理している。

『用件を簡潔に』

「七時四十二分発の電車を毎日遅らせている件です」

 悠斗が言うと、フェイトの手が止まった。

『……特級レビュアーか』

「俺のことを知ってるのか?」

『君のせいで、昨夜は一睡もできなかった』

「神も寝るんだな」

『比喩だ。神に睡眠は必要ない』

「じゃあ問題ないだろ」

『精神的な表現だ』

 フェイトは眼鏡を押し上げた。

『列車の遅延処理に何か問題が?』

「一人の駆け込み乗車を助けるために、数千人を遅らせている」

『救済対象者の生活安定に必要な処理だ』

「他の乗客の生活は?」

『個別に重大な運命変動は確認されていない』

「一人一人は数分だから無視してるのか?」

『許容範囲内だ』

「毎日積み重なっても?」

『運命に致命的な影響はない』

「会社に遅れた人もいる。乗り換えを逃した人もいる」

『それでも人生全体への影響は軽微だ』

 悠斗は眉を寄せる。

 神の視点では、人間の数分は誤差なのだろう。

 人生が大きく変わらなければ、問題なし。

 しかし人間は、その小さな時間の積み重ねを生きている。

「対象者が早く駅へ着くように調整すればいい」

『本人の自由意思への介入になる』

「電車を遅らせるのは介入じゃないのか?」

『公共交通機関は人格を持たない』

「利用しているのは人間だ」

 フェイトが黙る。

「救済をやめろと言ってるんじゃない。もっと影響の少ない方法を考えてくれ」

『具体案は?』

「本人が寝坊する原因を確認する。目覚ましを早める、朝の行動を短くする、駅までの移動を安全に少しだけ円滑にする。いくらでもあるだろ」

『細かすぎる』

「その細かい生活を管理してるのが運命神じゃないのか?」

 画面越しに、フェイトが深く息を吐いた。

『検討しよう』

「いつまでに?」

『いずれ』

「期限を決めてくれ」

『……四十八時間以内』

「分かった」

 通信が切れる。

 アリアが感心したように悠斗を見る。

「レビューを書かずに改善要求を通しました」

「対話で直るなら、そのほうがいい」

「では今回は★1なしですね」

「改善結果を見てから決める」

 アリアの安心した表情が、再び固まった。

     ◇

 翌朝。

 悠斗とアリアが駅へ向かうと、町の様子がいつもと違っていた。

 歩行者用信号が、次々と青へ変わっていく。

 悠斗が交差点へ近づく前に青になる。

 渡り終えると赤になり、その先の信号が青になる。

「ずいぶん都合がいいな」

「改善処理が行われたようです」

 GOD REVIEWを確認する。

 《運命補助処理を更新しました》

 《対象者の駅到着時刻を前倒しします》

 《通勤経路上の信号待ち時間を削減》

「信号を全部青にしたのか」

「これなら電車を遅らせず、対象者も間に合います」

「対象者だけに作用するならな」

 駅へ近づくにつれ、異変が見えてきた。

 多くの会社員が走っている。

 学生も走っている。

 自転車も妙に速い。

 すべての信号が青になるため、誰も立ち止まらない。

 前方の交差点が青になる。

 渡り切る頃には、その次も青。

 人々は「今なら間に合う」と考え、自然と足を速めていた。

 止まる機会がない。

 休む理由もない。

 駅へ向かう人間全員が、見えない何かに追い立てられるように走っている。

「何ですか、この光景は……」

「全員の経路に適用したらしいな」

 一人だけ信号を変えれば不自然になる。

 そこでフェイトは、同じ時間帯に駅へ向かうすべての人間へ処理を適用したのだろう。

「青信号が続いております! 改善成功です!」

「周りを見ろ」

 アリアが振り返る。

 息を切らした会社員。

 重い鞄を抱えて走る学生。

 子どもを乗せた自転車で必死にペダルを踏む母親。

 高齢の男性まで、点滅する青信号へ急いでいる。

「誰も遅れてはいません」

「全員が疲れてる」

「しかし、走るかどうかは本人の自由では?」

「青が続いたら、行けるうちに行こうと思うだろ」

 悠斗たちの横を、例の救済対象者が走り抜けていった。

 以前よりも激しく息を切らしている。

「間に合う! 今日こそ余裕で間に合う!」

 そう叫びながら、駅の階段を駆け上がっていく。

 ホームへ着いた時刻は、七時四十一分。

 たしかに定刻前だった。

 電車は七時四十二分ちょうどに発車する。

 遅延はない。

 救済対象者も乗車できた。

 記録上は、完全な改善だった。

 しかし車内では、走ってきた乗客たちが肩で息をしている。

 汗を拭く人。

 壁にもたれる人。

 脚を押さえる人。

 例の男性は座席に倒れ込み、苦しそうに胸を押さえていた。

「……これは改善と言えるのか?」

 悠斗が尋ねる。

 アリアは答えられなかった。

 GOD REVIEWには、すでに処理結果が表示されている。

 《列車遅延:解消》

 《対象者の乗車失敗:解消》

 《改善対応完了》

 すべて緑色。

 すべて正常。

 だが現場にいる人間は、誰も快適そうではない。

 悠斗はレビュー投稿画面を開いた。

「神崎様」

「★1にはしない」

「本当ですか?」

「遅延は直った。そこは評価する」

 悠斗は星を二つ選ぶ。

 ★★☆☆☆

 文章を入力する。

 アリアが横から読む。

★★☆☆☆

遅延が解消されたことは確認しました。

ただし、通勤経路上の信号を連続して青にした結果、多数の利用者が無理に走っています。

改善は確認しましたが、利用者の体力を前提にしないでください。

「これで送る」

「★が一つ増えました……!」

 アリアはなぜか感動している。

「そこまで喜ぶことか?」

「神界では、特級レビュアーの評価が改善した初めての事例です」

「まだ★2だぞ」

「前回比二倍です!」

「数字の見せ方でごまかすな」

 悠斗は送信ボタンを押した。

 《レビューを送信しました》

     ◇

 同じ頃、神界。

 運命管理局では、遅延解消を祝うささやかな会議が開かれていた。

「定刻運行率、一〇〇パーセントを確認」

「救済対象者も問題なく乗車」

「これで特級レビュー案件は解決だ」

 神々の間に、安堵の空気が流れる。

 責任者席に座るフェイトは、淡々と報告書へ承認印を押した。

「人間は数値で結果を見せれば納得する。今回も問題ない」

 その瞬間。

 局内の照明が赤く変わった。

 警報音が鳴り響く。

『警告』

『特級レビュー投稿者から、新しい評価を受信しました』

 神々の動きが止まる。

 中央画面に、二つの星が表示された。

 ★★☆☆☆

「星が……増えている?」

 一柱の神がつぶやく。

 別の神が胸を撫で下ろす。

「評価が改善したのでは?」

 しかし、続いて無機質な音声が響いた。

『前回の改善対応に対する、再レビューです』

 会議室が静まり返る。

「再……レビュー?」

 誰かが震える声で繰り返す。

 神界のレビュー制度では、対応済みになった案件が再び評価されることは想定されていなかった。

 一度「対応済み」にすれば、それで終わる。

 少なくとも、これまではそうだった。

 画面に悠斗の文章が表示される。

 《改善は確認しましたが、利用者の体力を前提にしないでください》

 その下に、さらに恐ろしい一文が現れる。

 《継続的な改善確認を実施します》

「継続的……?」

「今後も見られるということか?」

「一度対応しても終わらないのか?」

「また評価される?」

 神々の間に動揺が広がる。

 フェイトは眼鏡を押し上げた。

 その指先が、わずかに震えている。

 別の部署では、天候神レインが机に伏せたまま画面を見ていた。

「一回直せば終わりじゃないの……?」

 神界の各所で、同じ恐怖が広がっていく。

 低評価そのものではない。

 改善した結果まで確認される。

 対応済みという表示だけでは逃げられない。

 神々にとって、それはまったく新しい概念だった。

 神界全体へ、無機質な通知が響く。

 《再レビュー制度が有効化されました》

 《今後、改善済み案件は一定期間後に再評価されます》

 数秒の沈黙。

 そして神界中から、悲鳴が上がった。

「余計な機能を増やすなああああっ!」

 人間界へ戻った悠斗は、そんな騒ぎなど知らない。

 定刻どおり走る電車の中で、肩で息をする乗客たちを眺めながら、次の改善報告を待っていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


一人の遅刻を防ぐために、数千人が毎朝遅れる。


その問題を改善した結果、今度は通勤客全員が駅まで全力疾走することになりました。


どうやら神々は、「問題が直ったか」までは確認しても、「直した結果どうなったか」までは見ていなかったようです。


そして神界では、恐怖の新制度――再レビューが始まりました。


次回、第4話

「雨を止めたら一滴も降らなくなりました」


★1を恐れた天候神が、雨そのものをやめてしまいます。

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