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ROMANCE  作者: 北村タマオ
第1章 原始・古代
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八 力の証明

中華の大陸国に対して、大量の貢ぎ物と引き換えに融通してもらえた武人と軍師は、見るからに頼りなさげな男であった。倭国の「反女王派」の「クニ」の首長達は、頭を抱えた。つまり、自分達はその程度の立ち位置なのだ。「邪馬台国」に対して、あの戦の天才女子、「日本武尊」ことアマノを斃すのには、この蒼狼とか言う武人ではイマイチ迫力不足だ。軍師の方も、刃糖と言う名前らしいが、こいつもあんまり使えそうに見えない。

 仕方が無い。断られなかっただけでも、融通してもらえただけでも、儲け物と思うしか無い。こちらの貢ぎ物は、幾ら頑張ったと雖も、倭国としては頑張ったと言うだけで、中華の「魏」国の方が余程進んだ文明・文化を擁する大国である。

 それに、もう1つ確かな事は、これが最後のチャンスだ。これで負けたら、この倭国で「邪馬台国」に勝てる「クニ」は1つとしてなくなるのだ。


 倭国の「反女王派」の「クニ」が、中華の「魏」国より武人と軍師を呼び寄せたと言う情報は、すぐに「邪馬台国」の男の女王であるツキナ女王を、卑弥呼に伝わっていた。詳しい情報は分からない。強いのか、弱いのか、賢いのか、愚かなのか。

 「邪馬台国」に属する29の「クニ」は、それでも卑弥呼を見捨てようとはしなかった。それだけ、アマノこと「日本武尊」に対する信頼感は大きかった。しかし、倭国にて通じる力が、「魏」国の二流、三流の武人や軍師に通じるかどうか、元々倭国の方が三下の立場なのだから、そう思うのは常識的であった。

 それでも、和睦も降伏も有り得ないとして、その場の合議では「戦うべし」として議論の方向は固まっていた。


 蒼狼と刃糖は、アマノこと「日本武尊」の戦いぶりを通訳越しに聞かされて、2人にて次の戦について話し合っていた。

「刃糖、倭人の話は信用出来るのか。こいつらが弱すぎるから、誇張されているかもしれんぞ」

「だからこそ、「魏」帝は我らを寄越したもうたのだ。いくら何でも、一撃で戦を引っくり返す乙女なんて、それこそ誇張している部分が大きいだろう」

「この蒼狼、帝が征けというのであれば、何処へでも行く覚悟だが、どうにも今回は気乗りしない。幾ら大量の貢ぎ物を朝貢されたからと言っても、此処で勝っても、武名をあげる事は出来んよ」

「私の目からして見ても、倭人の力はそこまで強そうには見えません。蒼狼殿の矛の方が、連中の銅剣よりも強そうである」

「であれば、これから帰るか?」

「まさか、ここで武名をあげなければ、「魏」に帰ったら笑いものにされますぞ。適当に、貢がれた範囲内にて最低限働けば宜しいでしょう」


 2人の会話は聞き取れなかったが、倭国の兵は、蒼狼の体躯と鎧、それに矛を見て、こちらよりも文明・文化レベルで「魏」国が数段、いや、百段は上だと感じていた。良い食い物を食い、鎧や矛に使われている技術、全部が全部、倭国よりも優れていると、素人目に見ても感じ取れた。

 取り敢えず、これから「戦」だ。「邪馬台国」を打ち倒して、この倭国での覇権を取り返すのだ。


 戦地になると見ていた場所を見て、刃糖は思わず唸る。山、山、山、何処を見ても山ばかり。「山の国」と噂では聞いていたが、まさかここまで平地の少ない国とは思わなかった。川もそこら中に流れており、土地は豊かだが、住んでいる民の文化レベルは贔屓目に見てもそこまで高くない。

 こんなに戦いづらい地形を、刃糖は勿論、蒼狼も知らない。こんな所で戦なんて出来るのか。でも、あっちもこっちも、やる気満々だ。鎧や兜で身を固めて、銅剣を提げて、狭い平地に続々と集まっている。数も、そこまで多くは無い。中華での戦いとは、毛色が違うが、矢張りこんな豊かで長閑な島国でも、戦に明け暮れていると言うのは、何ともまぁ皮肉な話だ。

「「日本武尊」と呼ばれている戦乙女さえ斃してしまえば、後は弱兵ばかり。アマノさえ斃せば、蒼狼殿1人で充分でしょう」

 刃糖は、明らかにやる気がない感じで応対する。しかし、一撃で戦を引っくり返すと言う戦い方は、1度見てみたいものだ。中華に伝わる覇王・項羽の様に、武神の化身の如く巨軀と覇気の持ち主なのだろうか。

 であれば、こちらから声をかけてやりたい位だ。蒼狼も刃糖も、その程度の認識で、向かってくる「邪馬台国」の軍勢と、自分の背後に居る部下達を交互に見て、こいつらに戦ができるのか。矛をしごいて、先陣を切って突っ込んでいく。


 「日本武尊」ことアマノは、その戦場を矢張りジィッと睨み付けていた。1人、大暴れしている偉丈夫が居る。更にその後に、なんだか偉そうにふんぞり返っている男が1人居る。どちらをやるか、片方だけやって逃げるか、あるいは順番にやるか。

 ここは1つ、欲張ってやろう。1.8倍の銅剣を鞘から引き抜くと、左右に結って伸ばした妙ちくりんな髪型を揺らしながら、猛烈な速さで戦場を駆け抜けていく。


 見た。蒼狼は、確かにその目で見た。速い。まるで自分が戦った北方の騎馬民族の馬の様に、いや、馬より質が悪い。こいつは他の倭人のそれよりもデカい銅剣を持っている。あれで叩かれたら、兜の上からでも、頭を叩き割られるに違いない。

 あれが、「日本武尊」。恐るべき戦乙女。「魏」には勿論、朝鮮半島の列国にも伝わる強さを持つと言われているのは、確かだ。でも、こちらには目もくれていない。では、誰を狙っているのか。後の本陣まで、他の兵には目もくれずに、間をぬって駆け抜けていく、その先は。

「刃糖! 逃げろっ!」


 これが、「日本武尊」の力か。覇王・項羽とはまた違う、賢いやり方だ。見事である。こうして素早く後まで一直線に斬りこんで、指導者を討つ。合理主義的だ。そして、持っている得物も大きく、強そう、いや、強いだろう。こちらの剣よりも、いや、同じサイズであればこちらの剣の方が勝つだろう。

「お見事」

 それが、刃糖の最期の言葉であった。横薙ぎに胴体を大きく長い銅剣で叩き付けられて、胴体の中にある骨と脾臓が砕かれる音と痛みが、刃糖が最期に聞いた音になった。


 蒼狼は、唖然としつつも、武人としてすぐに立ち直っていた。相手にとって不足無し。もう毛ほども容赦しないし、油断もしない。こいつをやれば、相手は数だって力だって大したものではない。

 しかし、速い。刃糖を叩き砕いても、その俊足は止まらない。あっと言う間に刃糖の居た本陣を抜けて、自分を狙おうとする兵達の間を駆け抜けていく。うっかり見逃すと、あっと言う間に視界から消えてしまいそうだ。そうしている間にも、他の敵兵が次々と蒼狼に向かってくる。そちらの相手もしなければならない。

 そして、そのうっかりは起こる。視界から消えた瞬間、背後から回り込んだ、一際デカい銅剣が兜に振り下ろされる。そこで、蒼狼の意識は途切れる。視界は暗転、聴覚は急に消え去り、その場に倒れる。


「やり損ねたわね」

 アマノはそう言いながら、気絶した蒼狼を抱えながら敗走する敵軍を追撃しようとする味方を制止していた。あれが、「魏」国より来たと言う武人であろうか。と言う事は、自分が最初に叩き割った男は、軍師だろうか。兜が良く出来ていたから、一撃で砕く事は出来なかった。むしろ、こちらの銅剣が刃毀れしてしまったくらいだ。新しく作ってもらわないと駄目だ。

 矢張り、武具についてはまだまだこちらも改善の余地ありだ。「邪馬台国」も、今後は何かと外国の優れた技術を取り入れなければ、戦ってはいけない。


 蒼狼は死ななかった。だが、武人としての任を全うできない身体になってしまった。そのまま「魏」に返された蒼狼の口から、アマノこと「日本武尊」の戦い方を聞いた「魏」の皇帝は、「邪馬台国」の力を初めて認めていた。その証として、金印をかの国に送り、「魏志倭人伝」としてその勇名と文化を後世に伝えていた。

 「邪馬台国」は、こうして倭国最強の地位を不動のものにしたのだ。いずれは、この倭国は「邪馬台国」として統一されるだろう。誰もがそう確信していた。


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