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ROMANCE  作者: 北村タマオ
第1章 原始・古代
9/9

九 引き継ぎ

人は、役目を終えたら死ぬのだろうか。役目を終えた後は、その人生も幕を下ろすしか無いのか。

 卑弥呼こと男の女王ツキナの命は、今正に尽きようとしていた。数ヶ月前より吐血して以来、身体は急速に弱っていた。まだまだ「邪馬台国」も、ようやく統一出来たところで、自分の命が尽きるというのは、これも天命だと思うしか無い。

 これから「邪馬台国」はどうなる。兎に角、後釜だけは用意しておかなければ、折角到来した「統一」は、雨露と消えてしまうだろう。男の女王の次は、誰がなるのか。今度こそ、普通の女王にしなければなるまい。

 ツキナ女王の右腕であり、戦の担い手であるアマノはどうか、と言う話もあったが、アマノはあくまでも戦士であって、女王には向かない。て言うよりは、戦の場で死んでしまったら、軍の指導者どころか、政務の指導者まで死んでしまうのではリスクが大きすぎる。

 死ぬ前に、誰を後継者にするのか。それが、ツキナ女王の最後の仕事であった。卑弥呼の次期女王となるのを、誰なのか。民の話題はそちらに集中していた。


 「日本武尊」ことアマノは、何時もやっていた銅剣の調練をしないままに、大樹に背を預けて、瞑想していた。ツキナ女王の「死」はもう避けられないだろう。ツキナ女王は、これからアマノに命じる神託の内容を理解していた。

 自分は、これを受け入れられるだろうか。いや、受け入れなければなるまい。ここで断れば、倭国の統一は一夜にして崩壊してしまうのだろう。

 アマノは、あの日、ツキナと交わした約束を1夜たりとも忘れた事は無い。それはツキナも同じであろう、同じであって欲しい。その時、使者が1人、アマノの元に駆け寄ってくる。いよいよ危ないらしい。アマノは銅剣を手に取って、腰を上げる。


 もうそこには、魔術師も詐術師も居なかった。ただ、1人の死にかけの男子が1人居るだけであった。何度も吐血を繰り返しているのか。桶には血が溜まっている。

 その傍には、1人の少女が居た。不安そうな顔をアマノとツキナに交互に向けつつ、困惑した表情を浮かべているのを見る限り、どうやら彼女が次期女王らしい。

「アマノ、もう駄目みたいだ」

「そうね、そう見えるわ」

「ハハ、はっきり言うんだね」

「嘘を言って病気が治るのなら、幾らでも並べてあげるんだけどね」

「その通りだよ」

 ツキナは、少女に目を向けて云う。

「シャラ、彼女が次の「邪馬台国」の女王だよ。彼女を守るんだ。今まで僕を守ってきたように」

「嫌だ。なんて言わないと思って頼んでいるんでしょう」

「彼女、僕の従姉妹なんだ」

「世襲ね、まぁ分からないでもないわ。そうでもしないと、周りも納得しないだろうし」

 シャラと呼ばれた少女に、「日本武尊」のアマノは跪いて誓う。

「あなたは私が守る。何があっても、ツキナが頼んだ約束を守り抜く。あなたがどんな暴君になったとしても、私はその泥を全て被る所存です」

 シャラは、最初は躊躇する表情を浮かべていたが、アマノの言葉を聞いて覚悟を決めたらしく、首を縦に振る。

「アマノ」

「……何?」

「何処までも強く生きて」

 それが、ツキナ女王、男の女王、卑弥呼の最期の言葉であった。民は皆、この訃報に心を痛めて、巨大な墓を創り上げていた。シャラもアマノも乗り気ではなかったが、ツキナ女王の威を示して、倭国の中でもまだまだ「邪馬台国」に抵抗している連中、特に東北の「クニ」に対する威嚇には如何しても必要な措置であった。

それと同じタイミングで、シャラ女王には各「クニ」の首長より東北征伐を進言されていた。シャラ女王は、自分の従姉妹がそうであった様に、占いの儀式を経て、あらかじめ決めていた結論を述べる。

「攻めるべし」


 東北征伐に向けて、準備が着々と進められている中、「日本武尊」ことアマノは、巨大な墓、後円墳の建造している様子をみながら、渋い表情を浮かべる。あの墓を建造するのに、どれだけの労力を用いているのか。何かと争いになると自分が頼られている状況についても、アマノは危機感を感じ取っていた。

 自分も、誰か後継者を育てなければならない。男であろうと女であろうと構わない。自分より速く、自分より強く、そして自分より冷静な後継者を見つけなければ、「邪馬台国」の命運もまた、その短い一生を終えるのだ。後継者を見つけなければ、この国の系譜はそこで終わってしまう。

 アマノは、「日本武尊」はそれだけを懸念にして、東北征伐に出発していた。自分が不在の中で、シャラ女王は自分の責務を果たし続けられるのか。女王の職務の引き継ぎはちゃんとやったのだから、分離・独立してくる連合国は出てこないだろう。大陸国の「魏」も、朝鮮半島も手は出してこない。

 100以上の「クニ」に分かれていた倭国は、「邪馬台国」に纏まり始めている。ツキナが出来たのは此処までだ。ここから先は、自分の役割だ。ここで手を抜いて負けて死んでしまったら、竜頭蛇尾も良い所だ。やってみせなければ、自分の身丈も分かると言う事だ。あくまでも自分が単なるツキナ女王の付き人程度の存在であったのか、あるいは自分の意志で戦い抜けられる戦士なのか。これは正しく試金石であった。


 東北征伐の始まりは、東北の「クニ」に対して、来たるときが来たと見ていた。相手は、「魏」の武人も軍師も破ったアマノ、「日本武尊」の称号を受けた戦争の天才である。こちらにそんな兵はいない。降伏か、徹底抗戦か、合議の場は荒れていたが、1人の「首長」が言う。

「ただ1人、「日本武尊」に勝てる戦乙女を知っている。奴は、必ずやアマノを打ち倒すことが出来るでしょう」

 それを聞いても、尚も列国の反応は薄い。「魏」を相手に勝った「日本武尊」の力を恐れているのだ。

「一戦、機会を下さい。戦えば、分かります」

 仕方が無く、東北の「クニ」の首長達は納得した。そこまで推すのであれば、やってみれば良いと言う態度である。相手は西方の英雄、こちらは東北の小さい「クニ」の集まり。出来るのか。この戦いに勝ち抜けるのか。

 その東北の戦乙女の名を、カリサと呼んでいた。


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