四 倭国統一
ツキナ女王の「クニ」が、戦にて大勝したと言う話は、倭国の100以上の国々に広がっていった。それを為したのは、アマノという乙女であった事も衝撃を与えていた。その事実を知って、100以上の国々は、二手に分かれ始めていた。即ち、「女王派」と「反女王派」である。
ツキナ女王としては、その状況の変化に対して、流石に何もしないわけにはいかずに、何かしらしなければならないと思い、如何すれば良いのか悩んでいた。その思い悩む、男の女王に対してアマノは流石に見かねたのか、一言だけ助言する。
「魔術でも使えば良いんじゃないの?」
ツキナ女王は、そう言われても、と思いつつも、元慰み者として弄ばれていた男児と雖も、女王として担がれる身となった以上、自分もこのままでは駄目だと思い、アマノに告げる。
「魔術を習いに行く。何処かの「クニ」に魔術師なり占い師なり、誰でも良いから紹介して欲しい」
ベタレ。ツキナ女王の募集に応じてやってきた彼女はそう名乗っていた。東北の「クニ」より来た、魔術師としては一流らしいが、魔術師や占い師に一流も二流も無い。それっぽく見えるか、あるいは丸っきりの下手くそかのどちらかだ。
ベタレと名乗る魔女もまた、魔術の基本とは「詐術」であるとして、ツキナ女王に言う。
「魔術なんてこの世には無い。だから、自分で創るしか無いのよ。何でも良いから、それっぽく見せて、それらしく振る舞えば良いのよ」
でも、そこまで民は馬鹿なのか。下手な魔術を使えば、逆効果では無いのか。
「そこを上手く誤魔化し、纏めるのよ。それこそが「魔術」の基本よ。「詐術」なんだから、女王を演じるのよ」
自分に出来るのか。
「現にあんた、男なのに女王やっているでしょう。男が女になりきっているんだから、同じ要領でやりなさい」
では、具体的にどうやるのか。
「「神様」になりきるのよ。「女王」から「神様」へと昇格するのよ。あんたにも出来るでしょう」
……自分に出来なければ、この「クニ」は纏まらない。やります。やらせて下さい。
「まぁ、何でも気負わずにやってみなさいな。あんたには、生まれ持っている「才覚」があるわよ」
かくして、演出ベタレ、主演ツキナによる一大イベントが、招待に応じた「クニ」の首長達の前にて披露された。
広場のど真ん中に「篝火」を焚いて、その前にて舞うツキナ女王。「神木」より削り出した杖、と言う事にしている枝を削ってそれっぽく見せた杖を振り回しつつ、暫くしたところで、杖の先に火を灯す。そして、地面に火のついた杖で、それっぽく「図」を描く。この「図」と言うのは、「神託」と言う事になっている。全部「詐術」なので、それっぽく見せつけているだけだが、効果はあるらしく、「観客」は皆、本当に「神様」でも見ているかの様に固唾を呑んで見守っている。
その杖で描かれた地面の「図」の上から、更にツキナ女王は石を何個か投げる。これがベタレが演出した「占い」の全てである。その「魔術」を演じた後で、ツキナ女王は告げる。
「ここから先、この「クニ」を、倭国をして、一国へと束ねる国、「邪馬台国」を創り上げるべし。倭国に連なる100以上の「クニ」を、1つに纏め上げるのである」
儀式を見守っていたアマノは、ツキナ女王の告げる「神託」の意味する所を見抜いていた。ツキナ女王の儀式は、この「神託」と言う形での「政治的判断」は、倭国より海から隔てて存在している、大陸に存在している「帝国」の脅威が大きく影響している。100以上の「クニ」に分かれているばかりでは、その内に帝国の侵略を受けた場合、手も足もで無いままに各個撃破される。
倭国として100以上の「クニ」に分かれたままでも、別に悪い選択肢では無い。だが、ツキナ女王の「クニ」が生き延びるのには、拡大路線しかない。このまま一代の男の女王の元で、ユニークな「クニ」として時代を終えるのでは無くて、より先の、より大きな舞台に立たなければ、ツキナ女王の「クニ」は消えていくのみだ。
演出を担当したベタレは、完璧に「役柄」を演じ上げたツキナ女王に対して語りかける。
「随分、大きく出たわね。もう引き返せないわよ」
「良いんだ。こうしなければ、生き延びられないのは事実なんだ」
「倭国を統一するなんて、「詐術」の範疇ではないわね。あなた、誰かから助言でも受けたのかしら」
「いや、これだけは僕の判断だよ」
「出来るの?」
「出来なければ、このままの状態が未来永劫続ける事になる。誰かだがやらなきゃいけないんだ」
「アマノ独りでどうにかなるの?」
「彼女には戦の全てを任せる。何なら、他に幾らかの指導者や補佐役をつけても良い」
良くやったものだ。あの魔術師、良くやってくれた。その分、地位も報酬も弾んだのだ。これで無能であれば、他の魔術師なり占い師なり呼びつけなければならなかった。どうやら、それは杞憂に終わったらしい。
アマノは、銅剣を腰に提げながら、一連の「儀式」を見て、ツキナ女王もなかなかの役者であると感心していた。演出が優れていても、役者が下手くそであれば、文字通り台無しだ。
その儀式には、ツキナ女王との同盟を結んでいる首長も、かなりの数が参加している。彼らの表情は、この「神託」の意味を正しく理解しているものであった。倭国統一。誰もが夢に見た、否、夢そのものであった発想である。西方の大陸の様な統一国を創るなんて、そんな発想は今までどこの「クニ」にも無かったか、夢のままで終わっていた。あの女王は、それをやろうとしている。
「神託」なんて、演出であろう。良く出来た演出であるが、この際、「儀式」そのものよりも、出された結論の方が、これを聞いた首長達の胸に届いていた。やろう、一緒にやろう。倭国統一。より大きくなり、より強くなり、より豊かになる。この瞬間、ツキナ女王の提唱した「邪馬台国」の骨子が出来上がっていた。
ベタレは美味い米を食べながら、ツキナ女王を前にして、米を頬張りながら言う。
「倭国統一なんて、でっかく出たわねぇ。で、倭国統一の末にどんな世界を創るの?」
「やった後でどうしようかは、まだ」
「考えていないのぉ? それじゃあ、次はどうするのよ。言っておくけどね、私はあくまでも魔術師だからね。政治はあくまでも自分で考えてやりなさい。戦についても、アマノ独りを頼りにしていたら駄目よ。優秀な人材がいたら、ちゃんと論功行賞でもって報いないと、「暴君」として叩き殺されるわよ」
「……なんて、まだ早いよ。そもそも、倭国統一なんて、僕に出来るかどうか」
「そうね、私にだってそこまで自信は無いわね。ただ、今日の観衆の反応を見る限りでは、もしかすればいけるんじゃ無いの? やってご覧なさい。倭国統一」
ベタレの箸は止まらない。




