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モブキャラ以下の私ですが、学園最強の裏ボスに愛されております。  作者: 猫野 にくきゅう
第二章

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第39話 コートの熱気と、背後に隠れる自称ライバル

 図書館での勉強会から一夜。

 自尊心が高いくせに寂しがり屋な二階堂亜美が加わったことで、テスト対策は順調だ。


「精神を遊ばせることも必要ですわ。わたくしにも優雅な予定がありますの」


 そう言って去った彼女の言葉を思い出しつつ、私は久しぶりにバスケ部の陽華さまの元へ向かった。


 ◇


 西日の差し込む渡り廊下。


 一人で歩いていると、背後に妙な気配を感じた。

 私が足を止めれば止まり、振り返ろうとすれば物陰へ隠れる。


 角を曲がった瞬間に待ち伏せすると、案の定、そこにいたのは亜美さんだった。


「つけてきてたでしょ」

「な、なんですの自意識過剰ですわ! たまたま用事があっただけです!」


 真っ赤になって言い張るけれど、この先にあるのは体育館だけだ。


「これからバスケ部の見学に行くの。亜美さんもどう?」

「……あなたがそこまで仰るなら、二階堂家の嗜みとして視察して差し上げますわ」


 ほっとした顔で私の半歩後ろに滑り込む。

 昨日に引き続き、私は彼女の「盾」にされてしまったらしい。


 ◇


 体育館の入り口には、一年生の「ルミナス・プリンセス」、桜庭小鈴さんがいた。


「南藻さん! ……そちらの方は?」


 小鈴さんの純粋な視線に、亜美さんが私の背後へ完全に隠れた。

 ブレザーの裾をぎゅっと握る指に力が入る。


「クラスメイトの亜美さんよ」

「二階堂……亜美と、申しますわ……」


 肩越しに聞こえる声は消え入りそうだ。

 小鈴さんの笑顔に毒気を抜かれつつも、彼女は私の背中を決して離れようとしなかった。


 ◇


 二階の観覧席。

 そこには圧倒的な光景が広がっていた。


 コートの中央、196センチの巨躯が動くたび、体育館の空気が物理的に震える。


 有栖川陽華さまだ。

 しなやかな手足でディフェンスを抜き去り、高い打点からシュートを放つ。


「すごい……」


 隣で亜美さんが息を呑んだ。

 戦士のような陽華さまの美しさに、彼女の魂も射抜かれたようだった。


 練習後、陽華さまがこちらに歩み寄ってくる。

 196センチの影が私の視界を塗りつぶし、巨大な引力に囚われたような眩暈を覚えた。


「南藻ちゃん、小鈴! 来てくれたのね」


 陽華さまが顔を近づけて微笑む。その瞬間、背中の亜美さんが「ひっ……!」と短く悲鳴を上げ、私の背中に顔を埋めた。


 肩に爪が食い込む。

 激しい鼓動が背中越しに伝わってきた。


「あら、そっちの子は?」

「クラスメイトの亜美さんです。陽華さまのプレーに感動して、緊張で声も出ないみたいですよ」


 代弁してあげた直後、私の腰に激痛が走った。


「っ……!」


 亜美さんの指が、私の脇腹の肉を容赦なくつねり上げたのだ。

 「余計なことを言うな」という必死の抗議。あまりの痛みに涙が滲み、変な声が出そうになるのを必死に堪える。


「南藻ちゃんは、いろんな子に好かれているのね」


 陽華さまは背後の攻防に気づかず、穏やかに笑った。


「月華お姉さまが貴女を欲しがった理由がわかる気がするな。……でも、あんまり他の子と仲良くしてると、お仕置きされちゃうかもね?」


 ◇


 嵐のような「熱」が去り、ようやく解放された。


「……亜美さん、本気で痛いんだけど」


 私が抗議すると、彼女は耳まで赤くして睨み返してきた。


「勝手にわたくしの胸の内を曝け出さないでくださいまし!」

「紹介してあげたのに」


「……う、それは……感謝、していますわ。……これでも」


 蚊の鳴くような声。

 それが不器用な彼女の精一杯の言葉だった。


 腰に残るジンジンとした痛みが、彼女との奇妙な縁を肌に刻んでいた。

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