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モブキャラ以下の私ですが、学園最強の裏ボスに愛されております。  作者: 猫野 にくきゅう
第二章

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第32話 聖母の揺り籠、背徳の扇

 月華さまとの特訓、そして楓さまの部屋での休息。

 ここ数日、私の心はフローラリアたちの強烈な個性に振り回されっぱなしだった。


 そんな嵐のような日々が一段落した夜。

 ルームメイトの東雲柚月さんが、申し訳なさそうに切り出した。


「あの、南藻さん。……お願いがあるのですが」

「お願い? どうしたの」


「明日、一緒にブルーローズのサロンへ行っていただけませんか?」


 私は驚いた。

 ブルーローズは、三年生の白鳥聖羅さまが率いる派閥だ。

 月華さまのパートナーである私が、他派閥の聖域に足を踏み入れていいはずがない。


「今日、聖羅さまに『貴女の可愛いルームメイトを連れてきなさい』と言われてしまって……」


 柚月さんは困ったように眉を下げた。


 断れば彼女の立場が悪くなるだろう。

 幸い、明日の放課後は休みだ。


「分かった。私で良ければ一緒に行くよ」


 柚月さんは安堵したように微笑んだ。


 けれど私の中には、冷たい緊張が走っていた。

 学園の「聖母」と崇められる聖羅さま。


 その瞳の奥には、底知れない闇が潜んでいる気がしてならなかった。


 ◇


 翌日の放課後。


 ブルーローズのサロンの扉が開いた瞬間、むせ返るような薔薇の香りに包まれた。

 月華さまの部屋が「冷たい百合」なら、ここは理性を溶かす「甘い毒」だ。


「よくいらっしゃいましたね。歓迎しますわ」


 カウチソファに鎮座していたのは、白鳥聖羅さま。

 黒いシルクのドレスを纏い、縦ロールの髪を流した彼女は、圧倒的な気品を放っていた。手に持った黒いレースの扇子が、優雅に動く。


「お久しぶりです。有栖川月華さまのパートナー、小井縫南藻です」


 緊張で声を上ずらせて挨拶すると、彼女は花が咲くように微笑んだ。

 お茶の時間、聖羅さまの話術は滑らかだった。


「柚月さんは部屋ではどうなの? 甘えたりするのかしら?」


 そんな他愛ない会話に、私の警戒心は次第に解けていった。

 「聖母の揺り籠」に揺られているような、心地よいリラックス。


 ――しかし、その安らぎはパチリという音で一変した。


 聖羅さまが扇子を閉じたのだ。

 その瞬間、場の空気が凍りついた。


「二人とも、なんて可愛らしいのかしら。……もっとよく見たいわ」


 彼女の瞳から穏やかさが消え、獲物を値踏みするような光が宿る。


「二人とも、そこに立ってくださる?」


 指示されたのは壁際だった。

 私が柚月さんと並んで立つと、聖羅さまはゆっくりと立ち上がり、私たちの前へ。百七十三センチの長身が、私に影を落とす。


 ◇


 聖羅さまは柚月さんの背後に回り、その腰に手を回した。


「じっとしていてね、柚月さん」


 閉じた扇子の先端を、柚月さんの首筋に押し当てる。

 硬い象牙が白い肌をなぞり下ろすと、柚月さんが吐息を漏らして震えた。


 目の前で繰り広げられる一方的な蹂躙に、私は固まることしかできない。


「南藻さんも可愛がりたいけれど、貴女は月華さんのもの……他派閥の私が手を出すのはルール違反ね」


 聖羅さまは残念そうに溜息をつくと、手に持っていた扇子を柚月さんに握らせた。


「というわけで――お友達の貴女がやりなさい」

「えっ……?」


「南藻さんの身体を、その扇子でなぞるの。私がしたように、愛しさを込めて」

「そ、そんなこと……」


 柚月さんが縋るように私を見るが、聖羅さまの声は絶対だった。


「お友達同士のじゃれ合いなら、問題ないわ。……そうでしょう?」


 拒絶は許されない。この空間では、彼女の言葉が法律なのだ。


「……はい」


 柚月さんは抗うのを諦め、震える手で扇子を握り直した。


「ごめんなさい、南藻さん……」


 彼女は濡れた瞳で私に向き直った。

 私は覚悟を決め、静かに目を閉じる。


 ◇


 コツン、と硬い感触が喉元に触れた。

 象牙の冷たさに背筋が粟立つ。


 扇子を通じて、柚月さんの手の震えがダイレクトに伝わってくる。


 喉から鎖骨、そして制服の胸元へ。

 ゆっくりと、焦らすような速度で硬い異物が身体をなぞっていく。


「ふふ、上手よ。意外と柔らかそうね、南藻さん」


 背後から聖羅さまが愉しげに囁く。

 直接触れられていないのに、彼女の視線が肌を這い回るようで、身体の芯が熱くなる。


 扇子がウエストを通り、スカートの裾へ。

 太腿に冷たい感触が走った瞬間、私は唇を噛んで声を堪えた。


 恥ずかしい。

 けれど、それ以上に背徳的な高揚感が私を支配していく。


 薄目を開けると、柚月さんも頬を赤く染め、潤んだ瞳で私を見つめていた。


 震えていた彼女の手つきは、次第に熱を帯び、執拗に私の輪郭をなぞる。

 彼女もまた、この「命令」という免罪符に没頭し始めているようだった。


「あっ……ぅ……」


 敏感な場所をなぞられ、甘い声が漏れる。


「素敵なお友達を持って幸せね。これからも仲良く愛し合いなさい」


 聖羅さまの囁きは、呪いのような祝福だった。


 親友の手で弄ばれることに、泥のような快楽を感じてしまう。

 柚月さんの瞳には、私と同じ「共犯者」の色があった。


 薔薇の香りに理性が麻痺するまで、この禁断の遊びは終わらなかった。

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