第27話 二人の妹(パートナー)、秘密の共演
放課後。
私は月華さまとの練習のため、静かな回廊を歩いていた。
そこで見つけたのは、陽華さまのパートナーに選ばれた一年生の小鈴さんだ。
「あ、南藻さん。奇遇ですね」
立ち止まった彼女は、硝子細工のように繊細で、愛らしい笑顔を浮かべた。
元読者モデルの彼女は、立ち居振る舞いまで洗練されている。
けれど、その華奢な首筋に巻かれた「漆黒のチョーカー」が、彼女の白肌を痛々しいほど際立たせていた。
私と同じ、逃れられない枷。
一気に親近感がわき、私たちは自然と歩幅を合わせて歩き出した。
巨人すぎる双子に選ばれた者同士、共通の重圧を語り合いながら。
◇
サロンに到着すると、そこには月華さまと、部活帰りの陽華さまが揃っていた。
「ちょうどいいわ。今日は四人で合同練習にしましょう!」
陽華さまの一言で、二組のペアが同時にステップを踏むことになった。
練習は熾烈だった。
小鈴さんも、陽華さまのパワフルな動きに必死についていこうと汗を流している。
休憩中、ソファで並んで紅茶を飲んでいると、小鈴さんがそっと囁いた。
「南藻さんは成績優秀でいいな。私、勉強は苦手で……」
「そんな……。でも、月華さまに恥じないよう予習復習は欠かさないようにしています」
小動物のような彼女に褒められ、私はつい「一組の秀才」としての見栄を張ってしまう。
ふと視線を感じて顔を上げると、遠くから月華さまが氷のような瞳でこちらを凝視していた。
◇
「パートナー同士で踊ってみましょうか」
陽華さまの提案で、私と小鈴さんはフロアの端に立った。
音楽が流れ、恐る恐る彼女の腰に手を添える。
(……なに、これ。すごく、軽い)
月華さまとの練習は、常に巨大な重力に抵抗するような感覚だった。
けれど、腕の中にあるのは私と同じくらいの、華奢で柔らかな身体。
ウール越しに、高く湿った体温がじんわりと伝わってくる。
お互いに歩幅を探り合う、壊れ物を扱うようなダンス。
それは巨人の重力圏から解放された、信じられないほどの浮遊感だった。
至近距離で見る小鈴さんは、息を呑むほど可憐だ。
潤んだ瞳で私を見つめ、小鳥の足のような指先が私の肩で震えている。
お姉さまたちの「完成された暴力的な美」とは違う、強烈な庇護欲をそそる脆さがそこにはあった。
「南藻さん、上手です……。素敵な男役さんにエスコートされてるみたいで、ドキドキしちゃいます」
耳まで真っ赤にした彼女の吐息混じりの囁き。
その一瞬、月華さまの鋭い視線さえ忘れるほど、私の心拍数は跳ね上がった。
◇
帰り道、夜風に当たりながら私は混乱していた。
(どうしよう。私、小鈴さんに……)
私の理想は、月華さまや陽華さまのような「素敵なお姉さま」だったはずだ。
それなのに。
今、網膜に焼き付いているのは、月華さまの美貌ではなく、腕の中に沈み込んできた小鈴さんのあどけない笑顔と柔らかな肉感。
お姉さま好きの私が、あろうことか「妹」のような少女に心を奪われそうになっている。
これは月華さまへの、浅ましい裏切りではないだろうか。
「だめよ、落ち着いて。――これは、一時の熱病よ。そうに決まってる……!」
必死に自分に言い聞かせるけれど、頬の熱は引かない。
忠誠心と、新たに芽生えた背徳感。
披露会を前に、私の心は予想外の方向へと軋み、揺れ始めていた。




