第23話 湯煙の誓い、素肌の境界線
パートナー選定という名の「審判」を終えたばかりの夜。
本来なら自室で首元のチョーカーを見つめ、一人でその重みに震えるべき時間だった。
けれど、寮の廊下で柚月さんが不意に振り返った。
「ねえ、皆さん。……これから四人で、一緒にお風呂へ参りませんか?」
その瞳には、彼女のパートナーである聖羅さまのような、逆らえない「静かな支配」の影が混じっていた。
「私たちはこれから絶えず人目に晒されます。そんなに強張っていては、フローラリアの隣には立てませんわよ」
「……ええ、そうね」
「私たちにはリフレッシュが必要です。それにこの四人は図らずも、同じ身の上になりました。いわば運命共同体――互いの素肌を隠さない関係にならなくては。……よろしいですね?」
柚月さんの有無を言わさぬ重圧に、私たちは逃げ場のない「裸の連帯」へと引きずり込まれていった。
◇
大浴場の脱衣所。
私たちは無言で制服を脱ぎ始めた。
最初の試練は、首元の「枷」を外すことだ。
鏡の前で、月華さまの手で嵌められた黒と銀のチョーカーに指をかける。
――カチリ。
外した瞬間、猛烈な解放感と、同時に魂の拠り所を失ったような不安が襲ってきた。
鏡の中の私はあまりに無防備だ。
そして、チョーカーの跡がうっすらと赤く、帯状に残っている。
それは服を脱いでもなお、私が誰かの所有物であることを肌で主張していた。
隣では、怜奈さんがしなやかな肢体を晒し、千里さんは折れそうなほど体を丸めて震えている。
柚月さんは青いチョーカーを丁寧に置くと、私たちの「跡」を観察するように見つめていた。
「さあ、参りましょうか」
◇
浴室は濃密な湯気に包まれていた。
洗い場に並び、互いの背を流す。
健康的な怜奈さんの背中、壊れ物のように儚い千里さんの肌。
お湯が肌を叩き、羞恥心が少しずつ解けていく。
けれど、その安らぎを切り裂く声が響いた。
「あら。四人揃ってなんて、珍しいことですわね」
同級生たちの視線が一斉に注がれる。
湯気越しでも、視線が裸体を舐めるように這うのがわかった。
「見て、あの首筋の跡……」
「噂の『選ばれた方々』ね……」
服を着ている時よりずっと残酷な視線。
私はお湯に顔を沈めたが、柚月さんは違った。
濡れたうなじを堂々と晒し、凛と背筋を伸ばす。
「こんばんは。明日のレッスンに備えて、英気を養いに来たのですわ」
その振る舞いには、選ばれた者だけが持つ傲慢なまでの優雅さが宿っていた。
◇
「よろしいですか、南藻さん」
柚月さんがお湯の中で、私の手を強く握った。
「私たちはもう『見られる側』の人間です。裸であろうと、月華さまのパートナーとしての品格を問われ続ける。今のうちに、この視線に慣れなくては」
それは単なる馴れ合いではなく、屈辱の中でも己の帰属を肯定するための特訓だった。
私はゆっくりと顔を上げ、好奇の視線を真っ向から受け止めた。
隣には同じ印を誇る友人たちがいる。
その連帯感が、私の震えを止めてくれた。
◇
脱衣所に戻り、再びチョーカーを首に巻く。
湿った肌に冷たい革が触れた瞬間、それはもう「枷」ではなく、この学園で戦うための「装備」に変わっていた。
「ぷはぁ、生き返った!」
快活に笑う怜奈さん。
「……私も。少しだけ勇気が出ました」
千里さんの瞳にも、静かな光が宿っていた。
自室に戻る廊下、私は首元の銀色に触れた。
未熟さも羞恥もすべて晒した上で、もう一度月華さまの前に立つ。
その覚悟が、お湯の余熱とともに背骨に宿っていた。
「明日からは、いよいよダンスのレッスンですよ」
柚月さんが自室の前で私を見つめる。
「ええ。必死に食らいつくわ」
明日もまた、厳しい愛の試練が待っているだろう。
私は銀色の月を指でなぞり、その冷たさを慈しみながら眠りについた。




