告白
「そうだよ!すごく辛かったんだから……!」
「そっか……すまなかったな……」
俺は今、響に腕を抱きしめられながら響の頭を撫でている。学校を離れた後、俺を抱えた響はなんの変哲もないマンションの一部屋に入った。ヤツに襲われることはなく、かなり離れた地点に落ち着くことができた。
どうやらここは凛と響が以前に使用したことのある仮拠点のような場所らしく、食料などの備蓄がなされていた。
今はベッドに腰かけてこれまでのことを軽く話している。
本当は外に他のみんなを助けに行きたいんだが、俺にはみんなを見つける術も助ける力もないのだ。ここで息を潜めているしかない。
あの場に残る選択をした凛が心配だが、凛なら大丈夫だ、と響が自信満々に言うので不安を押し込め、信じることにする。これまでも二人でやってきているのだ、俺がとやかく言ってもしょうがないのかもしれない。
千秋やチームのみんなは無事だろうか……少しの間だったが、一緒に戦った仲だ。親しい間柄と言って差し支えないだろう。
千秋を一人にしてしまったことも悔やまれる……約束したのにな……上手く隠れてくれてると良いのだが……。
みんな、どうか無事に逃げ切ってくれ……。
「そうだよ……埋め合わせはしっかりしてよね。……凛のことも、ちゃんと慰めてあげて」
「ああ……」
凛の母親はあの日……小学校でボス狼に負けた日に亡くなってしまったと聞いた。
詳細は本人の口から、と言うことなので軽い報告だけだが、相当なショックだったであろうことは容易に想像がついた。
慰める……?俺に何が出来るというのか。
あの日離れ離れになってから俺は二人を探そうともしてなかった。凛の母親が亡くなって辛い時……一番肝心な時にいなかったのだ。
それなのに……二人はそんな大変な日々だったはずなのに、俺のことを探し続けてくれていたらしい。……こんな俺のことを。
俺なんかに凛の心を軽くしてやることが出来るはずもない。
「優希さん、響……いる?」
「凛っ!」
玄関の方から物音がして凛の声が聞こえる。俺は響を伴って急いで玄関へ向かい、待ち人の姿を確認した。
「無事で良かった……!」
「ふふっ……優希さん……改めまして、お久しぶりです。また会えて本当によかったです……」
凛は笑顔を向けてくる。大変だっただろうに、気丈に笑顔を向けてくれる。本当に強い子達だ。
「ああ……本当に……無事で良かったよ……!二人とも……」
挨拶もそこそこに今はベットに戻り座って話をしている。ワンルームのよくある部屋だ。少し狭く感じるが、不快ということは全くない。
両側を二人に挟まれてギュウギュウと密着されているが……なんだか懐かしいな……。
もう、かれこれ2時間は語らい合っているだろうか。
本当はまだ追われているであろう人達を助けに行きたいのだが……あのデカい花に俺が出来ることは何も無いのだ。
それに、その提案をしようとすると、二人がすごい剣幕で止めてくる。とりつく島もなく、離してもくれないので助けに行くのは諦めることにした。
諦める理由として利用したというのが正しいか……。いや、どうすれば良いか分からず歩き回っても俺が食われて終わりだろうしな……。
明日、花が無ければユニオンの本拠地に案内してもらう予定だ。それまでは身を隠すしか無い。
二人とは、あの日小学校で離れてからのお互いのことを話した。俺に頼まれて皆を非難させたが、狼に追いつかれてしまい、家屋での籠城戦になったのだという。
そして……そこで凛の母親は亡くなった。
あの人とはあまり良い関係を築けなかったことが悔やまれる。こんな世界になっても娘のことをしっかり守ろうとしていた。良い母親だったに違いない。
凛は母親を亡くしてもなお、俺のことを捜し続けてくれた。今でこそ笑顔で俺に頭を擦り付けているが、相当気持ちが沈んだことだろう。そんな時にそばにいられなかった俺のなんと情けないことか。
「頑張ったな凛、響。二人とも……凄いよ……本当によく頑張った……!」
二人じゃなかったらきっと生きてまた会うなんてことは叶わなかっただろう。そんな二人を俺は尊敬していた。
「そうですよっ……頑張りました!……優希さんと会えない日々なんて、今思い出しただけでも脚が震えてしまいます」
そんな大袈裟な、とは思うが……世界がこうなってしまってからの知り合いはかなり少ない。
災害当日から一緒にいたのだから、大いに心配をかけていたことだろう。
…………俺に向けられる好意も関係あるんだろうな……。しかし……素直に喜べないことではある。なんせ俺の体質が関係していることだからな……純粋な好意ではない。
「あっ、そういえば……優希さん、あのネイテールって人のこと、今どう思っていますか?」
ピリッと、一瞬空気が凍りついた気がした。何故、今そんなことを……。
「どうって…………ん?」
ネイのこと……美しい女性だと思うが……。違和感がある。あれほど恋焦がれていたネイに対しての感情にしては心が静かな気がする。
変わらず女性として好意的な印象は残っているが……好きとはまた違うような……?
「ふふっ……どうやら魔法は解けたみたいですね」
「良かったぁ……優希さんがあのまま無理矢理あの女と結婚するなんて絶対イヤだったから……!」
「あ、あぁ……魅了魔法は解除されてるみたいだ……凛が何かしてくれたのか……?」
「はいっ!ネイテールさんにお願いしてきました。私達が先だったと知ったら快く応じてくれました。もう会うことは無いと言ってましたよ。さようならって」
もう会うことはないか……それはそれで寂しいな……。ネイとは色々あったが……そこまで嫌うことは出来なかった。
それにしても……先、か…………。
凛も響も好意を隠そうとはしていない。流石の俺も確信を持って好かれていると言える。
だけど…………。
「……二人に言っておかなくちゃならないことがある」
俺は、俺に抱きついている二人を振り解き、ベッドから降りた。正面に向き直り正座をする。
二人ともきょとんとした表情だ。
「…………俺は、ウェリアという特殊な体質なんだ」
そして二人に俺の体質のことを話した。異世界から来たネイに教えてもらったことだ。そして、補給の欲求により俺に恋をしていると錯覚しているだけなのだと。
二人は高校生……まだ子供だ。思春期真っ盛りでもあるだろう。そんな未熟で多感な時期にこんな状況になったら、そりゃ勘違いもする。
「だから、二人は俺の魔力に惑わされているだけなんだ……ネイがかけた魅了魔法となんら変わらない……」
二人の好意は嬉しいが……騙し続けるのは良くないだろう。亡くなってしまった凛の母親との約束もある。俺は……二人の好意に応えるべきでは ──────
「「好きです。優希さん」」
凛と響は声を揃えて俺に告白をする。
「ウェリアなんて関係ないよ!私は優希さんのことが好き!」
「私もです……優希さんのことが好きです!」
「…………二人の気持ちは嬉しいが、それが正常な感情ではないということで……」
「信じてもらえませんか?どうしたら信じてもらえますか?」
凛と響は俺の手を取って立たせる。二人は微笑んでおり、俺を安心させようとしているように見える……慰められてる?……ち、ちょっと怖いような……。
「いや、そもそも……俺なんかに好意を向けてること自体がおかしいと思うんだが……違和感がないか?」
自分でもよく分からない。
「はぁ…………優希さんには私たちの気持ちをしっかり教え込んであげないといけないですね」
「そうだね……優希さんはとっても素敵な人だって教えてあげるね」
俺は手を引かれベッドに転がされる。
そのまま両側を固められ、ガッチリとホールドされた。腕は股で挟まれて動かせず、脚は絡みつかれて固定され、両側から密着され押しつぶされる。
美少女万力だ……久しぶりだな……。
「なぁ……こんなことしなくても、俺は逃げないぞ……?暑くないか?」
そう言ったらすぐに涼しくなる。響の能力だ……デジャヴかな?
「私がこうしたいんです……許して下さい」
「んふ……優希さん……」
二人は俺の耳元で囁くように話す。それだけで自然と身体が跳ねてしまう。
二人の顔は、二人の可愛らしい声が俺の耳にダイレクトに届く位置にあった。
「優希さん……すき」
「好きだよ優希さん」
そして……凛と響の告白が開始された。
「最初に会った時、怖い男の人から助けてくれましたよね。とっても素敵でした……勇敢で優しいところが好きです」
「私がモンスターに襲われてもうダメだーって時に助けに来てくれたよね。とってもかっこよかったぁ……。あの時に好きになっちゃったんだよ?」
「みんなが不安でいっぱいの時に、一生懸命励ましてくれましたよね。優希さんも不安だったはずなのに……。とっても安心したなぁ……すき」
「顔も好きだよ?すごくかっこいい……みんなを守るために戦ってる時の顔見てるだけで、キュンッてしちゃう。すき、大好きっ」
「うぁ……ふ、二人とも……ちょっと……」
耳にぶち込まれる甘い言葉の数々。吐息と共に鼓膜を響かせる彼女達の声は、心の充足と共に快感を与えてくる。
「すきです、かっこいい、すきっ……すきっ。んむ」
「すきっ、大好きっ!ずっと一緒にいたい……はむ」
徐々に近づいてきた唇は耳に触れ、キスも開始される。
「んちゅ……全部好きです……れぅ……ずっと好き」
「もう離れちゃヤダよ……んむ……好き……好きぃ」
舐め回しながら愛を囁かれる。
いつの間にか二人の腰はカクカクと押し付けられる。
俺の体は跳ね、内側から溢れる快楽を逃そうと体を捻ろうとしてるのだが、当然動かすことは出来ない。甘んじて受け入れ続けるしか選択肢はないのか……。
(好き好き好きっ大好きっ……スキスキ)
耳への囁きと同時に頭の中にも声が響き始めた。
凛の気持ちはもちろんのこと、響の気持ちも凛を経由して俺の中に流れ込んでくる。
「んちゅ……れぅ……れろ……しゅきんむ……ちゅき」
(かっこいい好き、好きっ可愛い……好き)
「はむちゅむ……しゅきしゅき……れぅ……」
(愛してます……ずっと一緒にいたい……結婚!結婚したい!)
耳と心に好意を一方的にぶつけられ続ける。
響の能力で部屋は涼しくなったはずだが、汗がダラダラと流れていくのがわかる。
二人の体は熱く、じっとりと汗ばんでいた。時折大きく跳ねて痙攣し、身体を押し付けてくる。
「分かった……分かったからぁ……ふたりとも……とまって……」
「んちゅ……好き……好き」
(誰にも渡したくないです……私達だけの優希さんになって……結婚してくださいっ!幸せになりましょう?)
「ちゅきっ、ちゅきっ……れぅ……しゅきぃ」
(一生一緒にいようね?もう絶対離さない……守ってあげるから……好きっ、好き!)
俺の声は聞こえてないのか無視しているのか……二人の告白は止まらなかった。
俺の心に押し込まれる感情は次第に粘り気を増していき、絡みつくように振りまかれた。
二人の想像する幸せな生活が共有され、その甘すぎる生活を強要させられる。
「すきれす……んちゅぅれう……はふっ……しゅき」
「しゅき……ゆうきしゃん……しゅき」
頭が体が……心が……熱く抱擁され熱を帯び、気が狂いそうになるのを必死に堪えた。
肺にすら二人の汗の匂いが充満していくのを感じ、俺の全てを支配されている感覚に陥る。
(優希さん……好き、幸せにするから……絶対に幸せにするから!大好きっ!)
(好きスキすきスキスキ大好き好きっ)
もはや拷問とも言えるほどの感情の濁流。
日の明るいうちから行われたその告白は、俺が気絶するまで行われた。
((「「……好き♡」」))
「…………はっ!」
目が覚める。
辺りは暗い……どれぐらい気を失っていたのだろうか……二人からの告白は終わったようだ。
途中、何度か覚醒と気絶を繰り返す羽目になったが、ようやく解放されたようだ。
二人とも相変わらず抱きついたままであるが、甘すぎる愛の囁きは今は寝息に変わっている。
股に挟まれたままの湿った腕は冷え、身体中に染み込んだ三人の汗も同様に体を冷やした。
…………拭くか。
二人の絡みついた体を解き、起き上がる。
「はぁ……」
下着の中は案の定だ。……一度も触られてないのに。
幸せそうに眠る二人を見る。
まさかこんな展開になるなんて……俺が何をしたというのか……。感情を直接流し込まれるということがどういうことなのか理解させられた。
同時に二人の感情の激しさも。
予想を遥かに超えたその激情は、俺の意識を刈り取るほどだ。こんな小さな身体のどこにこんなものが収まっているのか……不思議なくらいだ。
「はぁ…………」
正直……彼女たちの感情は重すぎた。俺ごときの身には余る。
凛と響の愛の告白は、自己肯定感を高めてくれたが、同時に重すぎるその愛は俺を押し潰さんと襲いかかってきた。
俺はそんな愛を向けられるほどの人間なのかと……。
はは……むしろ自己嫌悪に陥ってる自分に笑えてくる。
二人の気持ちには応えてあげるべきだろうと頭では分かっているのだが……きっと幸せだろうと思えるのだが……しかし…………。
俺は諸々の後処理をしながら、二人との向き合い方について考えた。




