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異界融合 〜崩壊した世界で少女達と共に生き抜く〜  作者: レモンGUN
一章

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6/18

素敵な人

 ────── ────── ──────


 最近、楽しみが増えた。おかげで、地震の後だというのに毎日が楽しい。


「優希さんっ、これを一緒に運んでくれませんか?」


「おう、いいよ。黒宮さんはいつも偉いな」


 えへへ。

 優希さんに褒められたくてつい、やらなくてもいいこともやったり、一人でもできることを、優希さんと一緒にいたくて手伝ってもらったり……。

 これだけのことが、こんなに嬉しいものなのだろうか?以前の私では考えられないだろうな。


「よし、こんなところかな。他に何か手伝えることはあるかい?」


「いえ、大丈夫ですっ。……それで、あの、そろそろお昼ですし、一緒にお昼ごはんにしませんか?」


「そうだね、お昼にしよう」


 最近は、お弁当を作って優希さんに食べてもらうのが、マイブームだ。私が作ったおかずを、優希さんに食べてもらう。これもとても嬉しかった。

 響には「ほほう、想い人にお弁当を作ってあげるなんて、精が出るねぇ」なんて、茶化されて少し恥ずかしかったけど…………。まぁ、間違ってない、と思う。

 避難所には、生鮮食品が集められた。近所のスーパーの人が、どうせ腐らせるだけだから、使ってくれ、と寄付してくれたものだ。たくさんあるので、私も使わせてもらっている。ありがとうございます、スーパーの人。


「今日は卵焼きがうまく作れたんですよっ!よいしょ……じゃじゃーん!」


「おおー、すごい綺麗だね。今日もいただいていいの?」


「もちろんです!いっぱい食べてください」


 私の作った卵焼きが、優希さんの口に運ばれて……。


「んむ!うまい!甘さもちょうどいいよ。黒宮さんはほんと料理上手だねぇ」


「にへ……お口にあって良かったですっ」


 思わず顔がニヤけてしまう。良かった、優希さんが喜んでくれて。優希さんが喜んでくれると私も嬉しいのだ。


 こんなことで、いいのだろうか?地震があってみんな大変なのに、こんな、毎日が楽しくていいのだろうか。こんなに、ウキウキしてるのはやっぱりおかしい?初めての感覚だ。自分の気持ちがよく分かっていない。


「ふぅ、ご馳走様。とても美味しかったよ、いつもありがとう黒宮さん」


「ふふ、お粗末さまです。また明日も作ろうと思うので、ぜひ食べてくださいっ」


「いいの?毎日乾物ばっかりじゃ辛いから、助かるよ。しかもこんなに可愛い子の手料理を食べられるなんて、生きてて良かったなぁー」


「そ、そんな、大げさですよぉー」


 か、かわ、可愛いって…… 。心がキュンとなった。すごく嬉しい……。顔がすごく熱い。優希さんも……か、かっこいいですよ!なんて……きゃー!




「へぇ、いいなぁ俺にも作ってくれよ、嬢ちゃん」


 男の人の声がして、そちらを見る。

 あ……この人は……初日に、配給所で言い合いになってしまった人だ……。


「どうも、こんにちはお兄さん。これは手伝いを一緒にしたから、少し分けてもらっているだけなんだ。おにいさんも、少しは避難所のために働いたらどうだい?」


 優希さんが、ベンチから立ち上がって私の前に立ってくれた。


「はぁ?なんで俺がやんなきゃいけねえんだよ。お前らの仕事だろ」


「……認識が間違ってる。各所で働いてくれている人たちはボランティアだ。みんな避難所での生活をよくしようと自主的に動いてくれているんだ。ここの生徒だって手伝いをしているぞ?君はどうだ?」


「けっ、そうかよ、自主的にやってんなら、俺はやらねーだけだ」


「別にそれでもいいだろう。それなら、みんなに感謝して、それ以上を求めるな」


「へいへいへい、そうですかい、どうもありがとう、なっ!」


 その人は、最後に優希さんを突き飛ばして、去っていった。


「だ、大丈夫ですか?優希さん……」


「ああ、全然へーきだよ、このくらい。まったく、困っちゃうよねぇ、ああいう人がいると」


 優希さんはにっこりとしながら言った。

 優希さんはすごい人だ。怖い人相手にも、しっかりと言い返すことができる。私を守ろうとしていたことも、伝わってきた。優しくて、とても、素敵な人。

 私も見習わなくっちゃ。







 翌日、私は優希さんと配給所のお手伝いをしていた。今日もお弁当を作ったので、今から食べてもらうのが楽しみだ。


「ああー、この長机ガタ来てるな。…………あぁ、ここのネジが緩んでるのか……」


 優希さんは机の足の付け根あたりを覗き込んでいた。確かに、この机ガタガタしてて、崩れそうだ。


「黒宮さん、ドライバーってこの学校あるかな?少し緩んでるところを締めるだけで直ると思うんだけど」


「あ、それなら校舎裏の倉庫にあるかも!私、とって来ますね!」


「あ、いやいや、いいよ、場所を教えてもらえれば俺が取ってくるから」


「軽いですし、私が持って来ますよっ、待っててください」


 私は優希さんが止めるのを振り切って倉庫に工具を取りに行った。優希さんに褒めてもらいたかったのだ。


 倉庫についた私は、中を見回す。ここは外で使うようなものがいろいろ詰め込まれているプレハブ小屋だ。それを修理するための工具もここにあったはず。前に、先生に言われて取りに来た記憶がある。


「あった!」


 見つけた、工具箱だ。これを持っていけば、優希さんは褒めてくれるかな。ふへへ。

 私は少し不純かなとも思いつつ、褒められる未来を想像して、ウキウキしながら倉庫の出口に振り返った。


 出口に向かおうとしたら、入り口にぬっ、と人影が現れて、中に入ってきた。

 ……あのときの男の人だ……。


「おっと嬢ちゃん、奇遇だな」


「こ、こんにちは……」


 私は、体が強張っていくのを感じた。なんで、この人がここに?


「あ、あの、なにか、探し物ですか?」


「ん?ああ、いや、そうなんだよ」


 そう言って、後ろ手に扉を閉めた。

 全身から血の気が引いていくのを感じた。怖い。この人の目的が私だということは私にも分かった。

 そして、私が逃げられないということも……。


 その人はこちらにゆっくり歩いてくる。私は、少しずつ倉庫の奥に後ずさった。


「俺はなぁ、嬢ちゃんのこと可愛いなぁって思ってたんだよ。どうだ?俺と遊ばねぇか?」


 声が出なかった。どんどん男は近づいてくる。


「大丈夫だ、痛くはしねぇよ。優しーく手解きしてやるからよ」


 どんどん詰め寄られて、私との距離は一歩ほどになってしまった。すでに背中には倉庫の壁が当たっている。男の人の大きな体が、目の前にあった。

 逃げ、られない。ツンとした汗の強い臭いがする。脂ぎった髪、伸び放題の髭、ニタニタ笑った時に見える汚い歯。気持ち悪くて、怖くて、涙が滲んだ。


 男は、私の腕を掴んで上に持ち上げた。


「っ!い、いた……。あ、あの、やめて……くだ、さい」


 絞り出せた言葉も男には届いてないのか、ハアハアと息を吹きかけながら顔を近づけてくる。


「嬢ちゃんほんと可愛いなぁ」


 鳥肌がたった。

 吐かれた臭い息が、私に吹きかけられる。

 もう、やだ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。


「ごめん、なさい……ゆるしてください……」


 いやだ……怖いよ…………。

 男は私の体操着の裾に手をかけた、そして …………



  ──────バァン!



 突然の大きな音にビクリと体が縮こまる。

 男の動きも止まり、音のした方……倉庫の入り口に目を向けた。


「はい、ストップ、ストーップ!そこまでだ、止まれ」


 優希さんが大きな声を出しながら、そこに立っていた。男は優希さんの方を見ながら固まり、呆然としている。

 ……私の腕を掴んでいる手が緩んでいる……!

 私は大きく腕を振り下ろして、男の手を振り解くと、わきを抜けて優希さんの方へ走り出した。


「優希さんっ!」


 私は、手を広げてくれた優希さんの胸に飛び込んだ。


「無事かい?怖かったね……ごめんね、もっと早く来れば良かった」


「ううん、ありがとう……優希さん……」


 私は優希さんの胸に顔を埋めてお礼を言った。優希さんの匂い……。安心する……。


 少しして、優希さんは立ち上がると、私を後ろに隠して男に向き直った。男は、こちらをじっと睨んで佇んでいた。


「おにいさん、ここ以外に行くあてはあるのかい?」


「ああ?」


「この避難所を出ても、どこかに別の居場所があるのかって意味だ。どうなんだ?」


「知るかよ」


「……正気か?こんなことをして、ここにいられると思うか?後先のことを、考えて無さすぎやしないか?」


「ああ!?そんなことテメーには関係ねーだろうがよ!」


「……そうだな、関係ないな。お前がどこで野垂れ死のうと、俺には関係ない」


「てめ、喧嘩売ってんのかゴラァ!」


 男はそう叫びながらこちらに走り出した。優希さんは私を後ろ手に下がらせると、ドアを勢いよく閉めた。

 ふと、周りを見ると、人が集まってきていることに気づいた。そういえば、優希さんがずっと声を張って喋っていたことを思い出す。きっと、みんなに気づいてもらえるようにしてたんだ。

 ドン、と倉庫から音が鳴りドアが開かれた。勢いよく飛び出してきた男だったが、周りの状況に気づいたのか、その勢いはすぐに萎んでいった。


「なにかありましたか?」 


 集まった人たちの中には、先生もいたようだ。質問を投げかけてきた。


「ええ、この男が ──────」


「こいつがっ!!こいつが、そこの女の子を襲おうとしてやがって、俺はそれを助けようとしたんだ!」


 男は、優希さんの声に被せて大声で喚き散らした。とんだ大嘘だ。


「……本当ですか?」


「いや、そこの男が……」「ああ、そうだよ!こいつがそこの倉庫に ──────」


「私は!この男の人に襲われました!」


 私はめいっぱいの大声で叫んだ。


「私が、倉庫にいる時に、その人が入って来て、ドアを閉めました!倉庫の奥まで、詰め寄られて腕を掴まれました!優希さんはその時助けに来てくれたんですっ!」


 思いついたままに、先生に説明する。


「……ふむ……。一度、話し合いの場を設けましょうか。重大なことですよ、これは」





 そうして、話し合いが行われたけど、すぐに決着はついた。

 先生方は私の言い分を全面的に信じてくれたし、優希さんが避難所のために手伝いをしていて、人柄をよく知っていたのも大きかったようだ。

 男は、避難所を追い出された。

 食料と水と毛布をたくさん持たされていたから、死にはしないだろう、と優希さんは言っていた。


 私は優希さんの顔を見上げた。優希さんは気づいて微笑んでくれる。

 優希さんが来てくれなかったらどうなっていたんだろう……。今でもその時のことを考えると、怖くなる。来てくれて、助けてくれて、ありがとう優希さん。



 私は、優希さんの顔を見ながら、心の中で優希さんへの想いがどんどん大きくなっていくのを感じた。


 

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