牢屋探し
「ここではないようだね」
俺は重い扉を閉めて踵を返し、報告をする。
「そうですか、では次に向かいましょう」
ロリ姫葉ちゃんはそれだけ言うと、スタスタと先を急いでいく。
異世界人が牢屋として使っていそうな場所を何部屋か見て回ったわけだが、使われてる形跡のある部屋はなかった。
先ほどの部屋も地下室という、牢屋としてはうってつけの場所だと思ったが、普通に倉庫として使われているだけだった。
「………………」
「………………」
移動中は無言だ。
もっと情報交換とか親睦を深めたりとかした方が良いとは思っているのだが……。いかんせんあちら側に壁を感じるんだよなぁ。
やっぱり朝っぱらからやっていたのがバレたのがマズかったのかな……。
姫葉ちゃんはどうやらこの世界では珍しい潔癖な倫理観をお持ちの方の様だ。俺みたいなやつを軽蔑している節がある。
…………いや、俺だってやりたくてやってるわけじゃ……まあ、気持ちいいと思ってる時点でギルティか。
──────ズン
……時折外からは戦闘音が聞こえてくる。騎士達も復帰し始めているとのことだから、大規模な戦闘が発生しているのかもしれない。
「……っ!止まって下さい」
階段を降りたところで先行していた姫葉ちゃんに小声で静止を指示される。
息を潜めて止まると、前方から騎士達の足音が聞こえてくる。結構な数だ……ガシャガシャと鎧が打ち合う音が響いている。
「……あの数は相手にできません、引き返しましょう」
「わ、分かった」
振り返り階段を登る……が、
「……だ、ダメだ、上から誰か来てる」
嘘だろ……最悪だ……鎧の音が聞こえる……おそらく騎士だろう。挟まれた……。
「ど、何処か、隠れる場所はっ……」
今騎士達と遭遇するのはマズい……!俺だけならまだ言い訳はたったかもしれないが、襲撃してきた奴と一緒にいるところなんて、言い訳が出来ないぞ……。
急いで辺りを見渡すが……身を隠せる様な場所はない。…………強いて言えば階段下の柱の影だが……一人分ほどしかスペースが無い。狭すぎる……流石に無理があるだろう。
他は……教室は無理か……廊下側に体を晒すことになる。どう足掻いても見られる。もういっそ走って逃げるか……?いや、一度見つかると牢屋の捜索が難しくなる……やはり見つからない様にしたいか……。
他に何処かないかと探していると、グイッと手を引かれた。
「ここっ、入ってください!」
「え、ええ!?……姫葉ちゃんは?」
「私も入りますっ」
先ほど目に入った階段下の柱の影だ。少しだけ窪んでいて、成人男性一人なら隠れるスペースがありそうだが……。
「早くっ」
くそ……上から降りてくる音が聞こえている、ここしか無いか。俺は出来るだけ詰めるようにその窪みに入る。
そして、少しだけ空いたスペースに姫葉ちゃんが身体を捩じ込ませた。
グイグイと俺を押し退け、なんとか収まることができたようだ。分身することで姫葉ちゃんの身体が幼くなっていたことが幸いした。
俺は腕を上げてスペースを空けており、姫葉ちゃんは俺の胸の辺りに顔を埋めるような形になっている。腕は折り畳まれて、手は俺の胸の辺りに添えられた…………なんだか満員電車に乗ってる気分だ。
「っ!マスカナル団長!報告いたします!」
上から降りてきた騎士と前から来ていた騎士が合流した。
…………マスカナルか……。騎士団長も襲撃に気づいて既に行動してたって言ってたな。
「毒を盛られた団員たちの回復は順調に進んでいます!現在は動けるようになり次第他の団員の解毒をするように呼びかけております」
「分かった。そのまま解毒作業を続けていいが、半数は広場に向かうように。既に外では戦闘が始まっている。部隊の再編成はしないから、個々人で状況判断をして襲撃者を鎮圧してくれ。大きな指示は引き続き念話でする。以上」
「はっ!」
指示出しが終わったのか、騎士達は小走りで散開していった。
「……はぁ……全く、養われてる分際で反乱とはね。自分の立場を理解できていないようだ」
「おっしゃる通りです……スパイによる工作を許してしまっていますし、やはりもっと徹底的に管理する必要があるのでは無いでしょうか。異世界人どもに自由を与えすぎているのでは?」
隊長と……幹部だろうか、数人がそこで話し始めた。管理か…………こいつらの知識のおかげで生きながらえる人達も、そりゃいたんだろうが……こいつらのせいで死にゆく人達もいる。
直接的に殺された人もいたという話だ。特権階級みたいなものが存在する世界から来たんだろうなということがよくわかる会話だな。
「そうだね。これを鎮圧したら整理しよう。王国に必要なものは鎖に繋いで、不要なものは処分する。当たり前のことだ。異世界人だからと優しくしすぎていたね」
「そうですな…………ところで、ウェリアの男はどうなりましたか?魅了魔法を使い始めたと聞きましたが……」
「ああ、羽山優希ね。今頃はネイの部屋で監禁されてると思うけど…………あ……手を出したら殺すからね?あれはウチの妹のものだから」
「め、滅相もございません……!」
「ネイは純情なところがあるからね……ゆっくり夫婦になりたいんだろう。……ま、見守ってやってよ」
「は、はい……私もネイテール副団長の幸せを願っております……」
「さて……僕らも広場に行こうか。身の程を教えてやりに行かないとね」
「はっ!」
ぞろぞろとその場から鎧の音が遠ざかっていく。ようやくか…………。
俺は姫葉ちゃんを見下ろした。胸に顔を埋めたまま微動だにしない。だ、大丈夫か……?
窪みにギチギチに詰まっているので、二人で外に出るように動かないと上手く出られない。
今更だが、姫葉ちゃんだけ隠して俺一人で見つかればよかったんじゃないか?…………まぁ、過ぎたことだ。何事もなかったんだからそれで良いよな。
「姫葉ちゃん……?」
呼びかけるとビクッとした後、顔を横にずらしていく。
「…………ふはぁ…………♡」
そして大きく息を吐いた。
……隠れるために顔が胸元に密着してたからな、苦しかったろう。
「……っ!……ぐっ……くぅっ……!」
息が落ち着くまで待とうと思っていたら突然暴れ出した。
「ぐぇっ……ち、ちょっと待って……出るっ!出るからっ……!」
俺も身を捩りながら外に出るように動く。
「んはっ!」
そして、ようやく狭い空間から解放され、二人して床に倒れ込んだ。密着していた身体が数分ぶりに離れて外気に触れる。
涼しい…………じっとりと汗をかいていたことに気づいた。
「ふぅ………………危ないところだったね」
ため息をついて姫葉ちゃんを見た。大丈夫だっただろうか……あの体勢だとだいぶ息苦しかったと思うが……。
「ふぅ……ふぅ……はぁ、ふぅ……んくっ……」
姫葉ちゃんは自分を抱きしめて俯いていた。時折身を捩って縮こまる。
「ひ、姫葉ちゃん……?」
俺は彼女の肩をゆすった。どこか……具合でも悪いのだろうか……。無理な体勢でしばらくいたからな……酸欠とかかもしれない。
「…………あっ…………」
こちらを見た姫葉ちゃんは声を漏らし、しばらく見つめられる。
……顔が赤い……症状は分からないが……しばらく休んだ方が良いだろうな。
「……っ!触らないでっ!」
「うぇっ!?」
突然、突き飛ばされて尻餅をつく。分身で幼くなっているとは言え筋力は健在だ。簡単に飛ばされた。
「あ……も、申し訳ありません……」
「いや……良いんだけど……その、体調は大丈夫かい?」
顔色を見ようと体勢を立て直していたら……
「あ……あのっ!……近づかないでください……」
「……はい…………」
拒絶された。
元から壁を作られていたと思ったが……こうまで明確に言われるとな…………流石に心にくる。
まぁ……仕方がないとは言えさっきのは潔癖な姫葉ちゃんには辛かったのかもな。俺も配慮が足りてなかった。
その後も探索は続くが、これまでと同じ様に無言で進められた。
そしてこれまでと異なり、目も合わせてもらえなくなった。常に一定の距離を保たれ、壁が一層分厚くなったのを感じる。
「な、なかなか見つからないね」
「………………」
…………はぁ、申し訳ないとは思うが……無視は辛いよ……。
そんな感じで外の、用具入れ倉庫の様なものを確認しにきた。
「これは……」
そこは明らかに怪しかった。
なんと言っても見張りの様な騎士が二人そこに立っていたからだ。この緊急時に見張りを立てるなんて相当大事な場所なのだと予想できる。
「しかしどうするか……」
中を確認しようにも見張りが邪魔だ。俺がなんとか釣り上げるしかないか?交渉しようにも、こっちには俺の体質以外に使えるものがないし、男相手に補給するのは勘弁願いたい。
正面から殴り込みは……流石に無理だしな……。
「私がやります」
姫葉ちゃんはそういうと、能力を使って分身した。三人に増えてさらに幼くなり、年齢は小学生くらいにはなっただろうか……。
増えた二人が大回りで倉庫の裏手に回っていく。
そして、残った一人が倉庫の前に躍り出た。
「っ!止まれ!」
騎士達が何やら手を向けて構えたが、二人の見張りの後ろからナイフを持った姫葉ちゃん達が襲いかかった。
そして、あっという間に息の根を止めていく。首の根をナイフで掻き切って、騎士達を物言わぬ人形に仕立て上げた。
…………当たり前の様に人を殺したな。
「何か文句でもありますか?」
「……いや…………」
姫葉ちゃんは高校生だ。
そりゃ、こんな世界では当たり前になったのかもしれないし、ここの騎士達には何人も生徒が殺されたと言っていた。見張りを始末しておかないと、ここが牢屋だった場合、千秋と六花を危険に晒すことにもなる。
……殺すという選択肢を取る正当性がいくらでも出てくるが…………しかし、迷いなく人を殺しにいけるかと言うと……。
……少なくとも見ていて忌避感の様なものは湧き出てくるな……。
………………いや、責めるべきではない。自分も殺しはしただろう。
いつかの公民館での出来事を思い出した。きっとあいつらも俺に対してこんな感情を抱いていたんだろうな。
感情で動いてはダメだ。理屈で考えろ。そんな甘っちょろいこと言ってたらこの世界じゃ生きていけない。
「助かったよ……中を調べてみよう」
「…………」
逆に姫葉ちゃんに何か言いたげな表情を向けられる。……なんか物申しておいた方が良かっただろうか……?
「罠とかないよな……?」
よく見ると幾何学模様の線が扉に描かれている。魔法陣的な?…………触っても特に何も無いし……大丈夫だろう……きっと。
俺は三人のロリ姫葉ちゃんと共に倉庫を開いた。




