分身の術
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ついにこの時が来た。
あの日、学校を追い出されてからずっとこの日を待ち望んでいた。
生徒会長でありながら……力を持っていながら、学校を守ることができなかった……!
多くの死者を出しながらも反抗し……無様にも敗走した…………。
後悔と自責の毎日だった……。
「しかしそれも今日まで」
絶対に取り返してみせる。救い出してみせる。
(あと30分ほどで突入の時間になるそうです。準備を万全にしておいてください)
ふと、頭の中に声が聞こえてきた。これは……凛の能力によるものだな。情報の伝達が行えるとても優秀な能力だ。本人も優秀なので、この世界においては素晴らしい人材と言える。救うことができて良かった。
しかも、今となっては珍しく貞操観念のしっかりしている子だ。魔力補給と称して盛ってる猿どもとは違う、よくできた子なのだ。全く……他の者も見習ってほしいものだ。下半身に脳みそを支配されているクズが多すぎる。
凛も、その友人の響も、可愛らしい容姿が故に男共に狙われている。これからも気にかけてあげなければな……。
ストレッチをしながら準備を進めていたらトイレに入っていく若い男女が目に入った。
補給か……。準備というのは魔力補給も兼ねての指示だろう。セックスが効率がいいのは分かってはいるが……不純だ。たとえ性欲が湧き出ようとも理性で抑えるのが人間というものだろう。
魔力石という便利な物があるのだから、補給を建前に盛っているとしか思えん。
ふと、一人の男がこちらに近づいてくるのに気付いた。
「ひ、陽ノ酉会長……ぼ、僕と補給……してくれませんかっ!」
………………はぁ。
うちの男子生徒だ。見覚えがある……確か一つ下の学年だったな……情けない。そんな愛の告白の様に言われてもな……世界がこうなる前にされたとしたら少しは嬉しかったりしたのだろうが。
今言われても好ましい要素が何一つない。下半身に勇気をもらったとでも言うのか。
「すまないな、魔力は間に合っている。他を当たってくれ」
「そ、そうですか……」
そそくさと去っていく男子生徒の背中を見送る。
……一部の人々は身体能力が上昇し特別な能力を得た。モンスターが現れる様になったこの世界ではなくてはならないものだ。しかし……この性欲が邪魔だ……。
能力を使う度に否応なしに湧いてきて風紀が乱れていく。
「ふぅ…………」
私の体もどんどん熱くなっていくのを感じる。先日しっかり解消したと思っていたが……いかん……今日の作戦は重要だ。この学校の生徒会長として、皆を救わねば。集中しろ……。
私は頬を叩いて気を紛らわせた。
そして、ついに決行の時。
「突入!」
柵が破壊され、ユニオンの仲間達が中に雪崩れ込んでいく。私は先頭付近を走っていた。
敵は動けないでいる可能性が高いが、そうでない者も多少はいるはずだ。できるだけ早く、多くの敵を無力化したい。まずは外にいるであろう見張りからだ。一直線に校門、正面入り口へ走る。
しかし、我ながら凄まじいスピードだな。校門とはほぼ反対側の柵から侵入したにもかかわらず5秒とかからず走り抜けられる。
校門に着くと見張りの男を三人確認できた。柵を破壊した際の轟音に驚いている様で、容易に近づくことができて助かる。
私は敵を殺すために能力を使った。
「っ!?なんっ……ぐぶぅ……」
「ぐあっ…………」
「ぐ……て、てき……しゅぅ……」
ある程度離れた位置にいる見張りの騎士が全員同時に崩れ落ちる。首から血を流し、間もなく絶命するだろう。
「ふぅ……」
三人の私が騎士どもからナイフを抜き取る。周囲に他の見張りがいないことを確認した後、昇降口から学校に入った。
「久しぶりだな……」
ここにくると、記憶が蘇ってくる。
学友達と切磋琢磨し、勉学に励み、部活動に熱を入れる。友情を育み、青春を謳歌した場所だ。
……そして、異世界人共に多くの学友を殺された場所でもある。
「待ってろ……異世界人ども……!」
ここで従わされている人達を救いに来たというのは紛れもない最優先の目的だが……異世界人への復讐心も私の感情の多くを占めている。
あの日の清算をしにきたのだ。
私は能力をさらに使った。
体が仄かに光を放ち、同時に近くの何もない空間が徐々に光っていく。数秒もすれば、そこには自分と瓜二つの人形が立っていた。
いや、人形ではない。これもまた自分なのだ。クローンとも言うべきか。そのクローンがさらに能力を使い、自分を生み出した。三度ほど繰り返すと、最初に作ったクローンと合わせて十体の自分が生まれた。
これくらいいれば校舎内を素早く制圧できるだろう。捜索、制圧という点ではすこぶる使いやすい能力だ。まぁ、分裂するほど若返ってしまうので、少し非力になるのが玉に瑕だが……。今は13から14歳といったところか……。
まぁ、筋力はそれでも強いことには変わりない。
「さて、行くか」
全ての教室を確認するのだ。手分けして回っていく。私はまず手前の教室に突撃した。
ここは……避難民の生活スペースとして割り当てられた場所だろう。いくつかの仕切りでスペースが区切られていた。
「避難民の皆さん!助けに来ました!」
まだ寝ている避難民や生徒に声をかけていく。待たせてすまなかった……もう大丈夫だ。
事情を説明しながら次々と起こしていく。
「…………」
しかし…………中には騎士の男と裸で抱き合って寝ている者もいた。…………不潔な。
「……んぐ……ぐっ……ぐぶぅ……」
毒で動けないであろう騎士の首をナイフで裂く。
加藤さんは拘束しろと言っていたが……生温い。こいつらは未知の力を持っているのだ。捕縛したところで手痛い反撃を貰う可能性が高い。
殺すのが一番確実だろう。コイツらにやり返す権利が私達にはあるはずだ。
「きゃぁっ!!」
隣で眠りこけていた女生徒が異変に気付いて目を開けたが、同時に声を上げて後ずさる。
「助けに来た。君たちも準備が出来次第ここを解放するために参戦してくれ」
「え?……か、会長!?」
裸の女生徒は体を隠すこともせずに騎士の死体と私を見比べていた。
「こ……殺したんですか……?」
「ああ」
「そう……ですか……」
女生徒は驚愕と嫌悪を露わにした。そして少し……悲しげな表情をしている様にも見える。
……なんだ?身体を重ねて情でも湧いたのか?…………敵だぞ?くそ……どいつもこいつも盛りおって……。
私はその部屋を後にし、隣の部屋へ向かった。
……どう足掻いても異世界人が教師を、学友を、仲間を大勢殺したという事実は変わらない。
私は、皆のために……いや、自分の復讐心に従って行動するのみだ。
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着替えを完了し、ドアを開けながら振り返った。
ニルファとルムネはカエルの様に足を開いて気絶しており、チックは「おにーさん♡」と繰り返しながら、顔を蕩かせてこちらにズリズリと這ってきている。まるでゾンビだ。
…………これを俺がやったのか…………。
業の深さに戦慄したが、同時に達成感も湧き上がってくる自分に驚いた。…………ひ、必要なことだった……うん。
俺は目を背けて、性臭の漂うネイの部屋を後にした。
ネイの部下達と一戦交えた俺は部屋から出た後、静かな廊下を慎重に移動していた。一つ一つ部屋を確認し、千秋と六花を探している。
ネイのあの言い振りだとどこかに牢屋のような場所があって、そこに二人ともとらえられているのだと思っている。
問題はその牢屋がどこにあるか見当がついていないことだ。学校に牢屋なぞあるはずもない。新しく作り上げたと見ているが…………。
「全ての部屋を確認していくしかないか……」
また一つ、また一つと確認していく。幸いなことに今のところ異世界騎士には遭遇していない。三階を捜索しているが、平騎士は下の階層で生活しているし、三階にいた幹部連中は団長含めて既に出払ったのだろう。
おかげで簡単に確認を完了できた。
次は二階か……というところで、下から階段を上がってくる足音が聞こえた。ほぼ飛び上がるようなスピードで上がってこられたので隠れる暇もなく、上がってきた人物と鉢合わせてしまった。
「……っ!……あなたは……」
目の前に現れたのは女の子だった。中学二、三年生くらいの歳だろうか。ポニーテールの可愛らしい子だ。
「や、やあ、こんにちは…………もしかして……ユニオン……の子かな?」
「…………失礼。私は陽ノ酉姫葉です。この間自己紹介をさせてもらいました。今は能力で少し若くなってしまっていまして……。たしか……刃山優希さん、でしたでしょうか」
…………あー……よく見ればこんな子いたかもな。キリッとした顔立ちのポニーテール女子高生。確かここの生徒会長をやっていた子だ。
「な、なるほど……能力で……三階を制圧をしに来たのかな?早いね…………こっちは幹部連中がいる場所だから、もう誰もいないよ。さっき全ての部屋を確認したところだ。みんな下に応戦しに行ったようだね」
俺は三階の状況を伝えた。正確には俺がやり潰した女の子が三人いるのだが……まぁ戦うことはできないだろう。あの三人は、許してやってほしい……。
「既に確認済みでしたか、助かります。…………ずいぶん…………臭いますね」
姫葉さんはスン、と鼻を鳴らしてそんなことを言った。
…………く、臭いかな……。まぁ……激しくやっていたのは確かだ……。
「あ、あはは……実は昨日の夜拉致されてこの階の一部屋に監禁されてたんだよね……なんとか脱出してきたところで…………」
苦しい言い訳しか出来ない……。姫葉さんにはウェリアという体質のことは言ってないしなぁ……。
「…………ちっ…… 」
し、舌打ちされたぁー…………そりゃ大事な作戦前なのにさっきまでヤってたとあれば、心象は最悪か……。
「そ、そんなことより!情報交換しないか?」
俺はこちらの状況を話した。早急にしなければならないのは千秋と六花の捜索だ。……ここの生徒会長だった姫葉さんだったら牢屋になりそうな部屋に見当がつけられるかもしれない。
同時にユニオン側の情報も貰う。予定通り柵の一部を破壊してそこから侵入したようだ。姫葉さんは先頭で学校内を制圧していて、能力で分身を繰り返し十人の姫葉さんが校舎内を走り回ってるとのことだ。
「分身か……すごいな、姫葉さん」
「………………」
…………し、しかしこれまた便利そうな能力だな。こういう捜索の人手としても使えるし、戦闘面でもかなり有用だろう。
必要なこと以外口が固くなってしまった姫葉さんと一緒に二階に降りていく。
……と、突然姫葉さんの体が淡く光りだした。そして光が収まると……そこには少し成長した姫葉さんが立っていた。
な、なんだ?何が起きた?
「クローンがやられました……」
姫葉さんが苦々しげに呟く。
姫葉さんのクローンは解除したり行動不能になったりすると、消滅するらしい。そして、消滅したクローンが持っている情報が残っているクローンに共有され、同時に見た目が少し元に戻る。
……つまり、先ほどの光は姫葉さんのクローンが消滅し、戻ってきた時の光というわけだ。
間を置かず姫葉さんはまた光りだした。光が収まったかと思うとまた光りだす。何度かポワポワと明滅を繰り返すと、そこには高校生……16歳くらい?の姫葉さんが立っていた。
「……7体やられました。どうやら異変に気付いた騎士が周りの騎士を助けて周り、その動けるようになった騎士たちが反撃を開始したみたいです」
姫葉さんは下階を睨みながら、腰から何やら取り出して握り込む……魔力石だ。魔力の補充をしたのだろう。
すぐにまた体が光り、今度はどんどん分裂していく。その度に背丈が低くなっていき、最終的には小中学生くらいの姫葉さんが十人現れた。
増えた一人一人は姫葉さんと同じ服装、装備をしていた。服はしっかりフィットしてるし、持ち物も同じように小さくなるのかな。
「刃山さんは、一人の私と一緒に、その牢屋に連れて行かれた人たちを探して下さい」
「わ、分かった、助かる。……残りの姫葉さんは……」
「私たちは起きてきた騎士どもを処理しにいきます」
険しい顔で一人の姫葉さんがそう言った。
「……了解。気をつけて……すぐに見つけ出して、加勢に向かうから」
「ええ……では……」
そう言うとナイフを持った子供の集団がゾロゾロ降りていった。…………なんか怖いな……。
「私たちも行きましょう。牢屋が設置されそうなところを一通り案内します」
「ああ、よろしく頼む」
俺はロリ姫葉さんの先導のもと、千秋と六花の捜索を再開した。




