魅了魔法
俺は、春華達から説明を受けた。俺にかけられてる魔法についてだ。
どうやら俺にはネイに惚れてしまう魔法がかけられているらしい。彼女のことをだんだん好きになっていってしまうのだとか。
「あいつらが来て初期の頃も同じ様に魔法にかけられた子が何人かいたわ」
ルールが定まってない頃色々あったそうだ。一度でも無理矢理連れて行かれてしまった子達は、その後からお相手の事が頭から離れなくなり、最終的に補給狂いになってしまったと……。
「今でもずっとベッタリだわ……ほら、あそこ」
春華が指差す方向を見ると、ここの生徒だったと思われる女の子が異世界騎士の男にしなだれかかっている。男の方はなんでもない様に食事をしていて、あまり構ってもらえていない。
……なんというか、上下関係もよく分かるな。
「あの子最初は本当に嫌がっていたわ。連れて行かれる時大声で泣いてたの、今でも覚えてる」
しかし変わってしまったと……。
「どこかでずっと補給してる子もいると思う」
たまにしか見かけない子も居るそうだ。補給のために飼われているんだと、苦々しく目を潜める賢斗。
「優希、あの女と会うの禁止」
六花がジトっと見てくる。
……惚れさせる魔法……魅了魔法的な感じか?ネイが俺に対してなんらかの魔法をかけて、そのせいで俺はネイのことが頭から離れなくなってしまうと……。
確かにネイの事を考えてはいるが……これが恋なのでは?何か不都合はあるだろうか?
「……ネイが俺にそんな事をするとは思えないんだけど」
そう言った瞬間、皆は顔を見合わせた。
「それ……魔法をかけられた子全員が同じこと言ってたわよ」
呆れ顔でそう言われた。
……そう、なのか?悪いが全くネイを疑う要素がないような……。あんな美人が俺にそんなことするのか?
「賢斗、男として正直に答えてほしい。ネイは美人だよな?いい身体してるよな?知的な女性だと思うよな?」
俺は賢斗の目を見つめ、質問をする。
「えっ!?……いや、そりゃ……綺麗な人だと思うし、頭も良さそうではあるけど……」
「ほら、俺はそんな彼女に惚れたんだよきっと」
惚れる理由はいくらでもある。よって魔法で無理矢理に好きにさせられているわけではない。QED。
…………全員納得してない様だが。
千秋は涙目で見上げてくるし、六花はムスッとして俺の腕を胸の間に挟んでくる。賢斗は怪訝な目でこちらを見て、春華は悲しげな目で賢斗を見ていた。……す、すまん賢斗……。
「わ、分かった。じゃあ少し距離を置いてみるよ。それでいいだろ?」
「ダメ。ずっと」
そういうわけにもいかんだろ……。
そんな感じで惚れ魔法についてあれこれ忠告された。大丈夫だと思うんだけどなぁ……。
……?
急に周囲がざわついた。なんだ?
見回すと、食堂にいる人達は皆ある方向を見ていた。俺もそちらに目を向ける。
何やら騎士達が紙を壁に貼り出している。なんだろうか?
「また追放されるチームが出たみたいね」
春華が言った。……追放か……。そういえば貢献度が低いチームはこの避難所から追い出されるシステムだったな……。ネイが隊長に進言してくれると言っていたが、取り合ってはもらえなかったようだし。
……隊長が張り出された紙の前に立った。
「ここに名前を書かれている人間は追放処分とする!みなの努力を食い漁る寄生虫はここには必要ない!この領土への今後一切の立ち入りを禁ずる!速やかに出ていきたまえ!」
高らかに言い放った。寄生虫ね……。あんたらもここを間借りさせてもらってる立場だろうに……。理不尽な仕打ちに怒りが湧いてきた。いくらネイのお兄様だろうとやっていることに納得は出来ない。
「私たちは刃山さんと千秋ちゃんのおかげでグレードも上がってるし、あそこには載ってないと思うけど……」
「追放されるチームが無くなるわけじゃないもんな……」
なんとか出来ないものか……。
「刃山さん」
賢斗が真面目な顔をして俺を呼ぶ。俺の目から視線を逸らさない。ともすれば睨んでいるかの様にも見える。
「なんだ?」
その雰囲気に合わせて俺も賢斗に身体を向ける。
「刃山さんは、ここにいる避難民たちを救いたいと思いますか?こんな、いいように支配されている現状がおかしいと思いますか?」
そんな事を聞かれた。そんなの決まってる
「当たり前だ」
答えた後、賢斗はホッとする様に息を吐いた。
「合わせたい人達がいます。今日、探索をしましょう」
俺たちは朝食を終えて探索の準備をし、校門に向かった。
そこでは、今朝追放が決定した子達が沈んだ表情で見送られていた。仲のいい子だろうか、涙を流し別れの言葉を送っている子もいる。
追放後に生き残ることは出来るだろうか……。危険を避けて物資を漁りつつなんとか別の避難所を見つけることが出来れば……。
いや、追放されたチームで生存を確認出来たことは無いんだけっけな……。ここで貢献度を稼げずにいた人達は、この世界で生きていける様に変わることが出来なかった人達だろう。この先は絶望だろうな……。
「刃山さん、離れたらあの人達と合流しましょう」
「……?分かった」
何か手があるのか?生きていくためのレクチャーをするとかなら何とか協力出来ると思うが……。
追放されたチームが出ていってから少し時間を置いて後を追いかける。
そのチームは空き家に入って項垂れていた。
「皆さん、こんにちは」
「……?あぁ、原町か……笑いに来たのか?もう後は死ぬだけだ。疲れた……」
意気消沈。生きる希望が見出せないといった感じだ。高校生とはいえまだ子供だ。こんな様子を見るのは辛い。
「いや、助けに来たんだ。ついてきてほしい」
声をかける賢斗。助ける?どうやって?他に避難所でもあるか……あるいは追放者同士のコミュニティがあったりするのだろうか。
他に道もないであろう追放チームは素直に従ってついて来た。道中言葉も少なく、ただただ歩いた。
モンスターは強化を付与した春華と賢斗で静かに処理をしていったが、追放チームは……成程確かに貢献度は稼げないだろうなといった動きだ。能力も戦闘向きではなく、そもそもモンスターに近づきたくない、といった様子。
千秋は火力は凄まじいのだが、音がうるさく、他のモンスターをおびき寄せる可能性がある。ほぼ非戦闘員みたいなチームが一緒なのでモンスターが集まってくるとまずい。今回はお休みだ。大勢の前で補給するのもアレだし。
「着いたよ」
2時間ほど歩いた頃に、賢斗がそう言った。
なんの変哲もない住宅街だ。その一つに入っていく。
「加藤さん、原町です」
静かな空間に賢斗が呼びかけると、何人かの階段を降りてくる音が聞こえる。
「無事だったみたいだな。良かった」
先頭には中年のおじさんがいた。強面のがっしりとした体格の男だ。……どこかで見たことある様な……?
その男の後ろからは、若い、高校生くらいの女の子が一人と、二十代前半くらいの男が一人、一緒に降りて来た。
「追放された人たちも一緒か」
「はい」
俺たちも合わせて、リビングにぞろぞろと集まっていく。
「まずは自己紹介から始めるか。私は加藤信雄。こうなる前は大学で講師をしていた。今はユニオンで皆の手伝いをしている。よろしく頼む」
……講師で思い出した。この人俺の卒業した大学の講師だ。この人の授業はとったことないけど、文系の何かだった気がする。
しかし、ユニオンか……避難所、とはまた違うのか?
「俺は岸山銀次だ。火が出せる。よろしく」
彼はなんというか……チャラい感じだ。金の短髪で、体格は筋肉質で強そうだ。口にピアスが……なんか怖そう。
いや、人を見た目で判断してはいけない。きっと良い人だ。
…………六花が彼の視界から逃れるように俺の後ろに移動している。彼の視線は、近くにいた俺でも分かるほど六花をロックオンしていた。鼻の下が伸びている……。
……まだ分からないぞ。俺だって六花のロリ巨乳を見たら目が離せなくなるだろうし。多分。
そんな彼を心底うんざりした目で見ていたもう一人の女の子が自己紹介を始めた。
…………いや、まだ分からないぞ。先入観、良くない。
「私は陽ノ酉姫葉だ。生徒会長をしていた。皆にまた会えて嬉しく思う」
「陽ノ酉会長生きてたんだね……良かった」
「ああ、心配かけたな。今はユニオンで活動させてもらっている」
彼女は、あの高校の生徒会長だったらしい。初期の頃にあの異世界騎士団と対立して、結果追いやられてしまったらしい。
茶髪のポニーテールで、キリッとした顔立ちの美人さんだ。身長は俺と同じくらいだ。……あと胸が大きい。俺はそこに目がいかないように努力した。反面教師がすぐそこにいたからだ。
しかし、追放チームの反応を見る限り、慕われていたのが窺えるな。追い出される前までいい生徒会長だったのだろう。
その後、こちらも自己紹介をして、軽食を取りながらの事情説明となった。
「つまり、追放された人達はほとんどユニオンで生活しているということですか?」
「ああ、そういうことになる」
驚いたことに、そういうことらしい。ユニオンではいくつかのグループを作って周辺を回り、生存者を集めているらしく、今では千人規模の大所帯になっているそうだ。
「計画の実行はいつでも大丈夫だ。どうだ?」
「はい、こちらも出来るだけ早く実行に移したいです。ここにいる刃山さんですが……おそらく副団長に魔法をかけられています」
計画。それは、ユニオンが協力して避難所を奪還、もしくは避難民を全て救い出す計画だ。
♪
「……本当か?それは……大丈夫なのか?」
「恐らく。例によって自覚症状は無いですが、かけられたのは昨日か……早くても3日前です。まだそこまで重症では無いはずです」
…………俺にかけられた魔法について話している。なんか可哀想なやつを見る目で見られている。
なんでだ……ネイは素敵な女性だろうが……。賢斗も認めてた。
「ですが、刃山さんと千秋ちゃんは強力な能力を持っています。この計画にも貢献をしてくれるはずです」
「ふむ……なるほどな。刃山さんにかけられた魔法が悪化する前に、事を進めたいと。……分かった。こちらとしても早くけりをつけたいと思っていたところだ。決行は明日の早朝。これから作戦会議だ」
…………え!?あ、明日!?は、早すぎないか?しかし、皆納得した様子で作戦の擦り合わせが始まった。……あれよあれよと物事が進んでいる気がする。正直あまり理解できている気がしない。
ユニオンが避難所を解放する。みたいな事だと思うが……。それ俺も参加するんだよね……?
…………不安だ……。
「黙っていてごめんなさい、刃山さん……」
作戦会議の後の学校への帰り道で春華に謝られた。
いや、作戦会議というか命令に近いものだったが……。既に入念に準備を進めていたらしく、途中参加の俺は結局、邪魔にならない程度に協力することになった。
まぁ、いくら便利な能力があるとはいえ、作戦に組み込むにはもう少し時間がかかってしまうのだろう。
ちなみに学校内には既に信用できる協力者が何人もいるらしいので、その人らにも明日は活躍してもらう作戦みたいだ。全然気づかなかった。
俺たちは今、アリバイ作りのために物資集めをしながら学校へ向かっている。
「いや、分かってるさ。すぐに話さないのが正解だろう」
謝罪の理由は、今まで別組織と繋がっていて異世界人に反旗を翻そうとしていたことを隠していたことだ。要はスパイ活動をしていたわけだ。
俺がすぐにチームに誘われたのも、まだ異世界人の息がかかっていない可能性が高いからという理由が大きかったようだ。まあ、追放されたらスパイ活動もクソもないので、崖っぷちであったことは確かなようだが。
「あいつらには大勢殺されました。僕らの友達も……」
仲のいい友達も初期の段階のいざこざで殺されているらしい。学校を取り返したいという思いもあるだろうが、復讐したいという思いもあるんだろうな。
話を聞いていて、同じ日本人としては助けてやりたい気持ちが大きい。
しかし……ネイを害さなければいけないというのが、個人的には苦痛だ……。何とか和解できないだろうか。
しかし、それを言ったら敵認定される気がしたので、作戦会議では言い出せなかった。
彼らの、特に学生達の怒りはひしひしと伝わってきていた。皆同じように復讐したい気持ちはあるだろう。
はぁ……ネイ…………。
探索しつつ戻ると、ネイが出迎えてくれた。
「優希さん、お帰りなさい。無事で何よりです」
ネイ……このままでは裏切らなければいけないのだろう。なんとかならないだろうか。
「こんにちは副団長。何か御用ですか?」
春華が前に出て俺を隠す。俺とネイをあまり接触させないということも先ほど話された。これ以上好きになるなと……。なんて酷いことを、と思うが、彼らからしたら俺が魅了魔法的なものに掛けられていることになっている。遠ざけたがるのは理解できる。
「いえ、優希さんにお話があるので、食事の後に三階に来てもらおうと思いまして」
「優希は今日はボクと寝るから」
今度は六花が前に出て俺を隠す。千秋も一緒に前に出てるのには少し驚いた。今まで俺以外には強く出ないから、どういう風の吹き回しなのか……成長したな……。
「……はい?あなたと、優希さんが?……なぜ?」
「ボクは優希のものだし、優希とはラブラブだから」
おい。
まぁ、ネイと接触を避けるために一緒に寝ることにはなっているが……そんな誤解されるようなことを言わないでくれ。ネイに勘違いされたらどうする。
「はぁ……私との方がラブラブだと思いますけど」
「は?優希はボクと一緒に寝たいって言ってる」
「それは本当ですか?直接本人に聞いてみないと信じられませんね……。優希さん、この女よりも私とラブラブして寝たいですよね?」
ネイは俺ににっこりと笑いかけ、自分が選ばれると確信を持っているような、自信に満ち溢れた表情だ。
……正直ネイの方に心が揺れるが……しかし…………
「すまない……ネイ。今日は別々に寝よう」
「………………え?」
ネイはにっこり笑ったまま固まった。言われたことが理解できていないといった様子だ。
「ふっ、そういうことだから。行こ、優希」
固まったネイの横を通っていく。振り返ると絶望の表情でこちらを見るネイと目があった。
ぐぅ……心が痛む。ネイ……ごめん………………。
俺は…………ネイが好きなんだと思う。けど、これは無理やりそう思うように魔法がかけられていると言われた。そんなこと言われても、全然納得できなかったが……。
じゃあ何故ネイと敵対するようなことをしているか……それは俺も同じ日本人の味方になってあげたいと思ったからだ。異世界人によって虐げられている日本人を助けたいと。
俺の恋を天秤にかけた時、どちらが重くなるか……すぐに結論は出た。それだけのことだ。




