恋……かな……
ネイに腕を組まれて歩いている。腕に胸が当たってドキドキしてしまう……。
「お、おい……あれ、ネイテール様じゃないか?」
「本当だ……やっぱりウェリアと……」
「くそ羨ましい……俺も一度でいいからネイテール様と魔力補給したかった……」
「バカが、お前じゃ逆立ちしても無理だ」
周りの視線も集まっている。学生や避難民がと言うより、異世界の騎士達が視線の主だ。驚愕している者、唖然としている者、様々いるが、一番多いのは嫉妬に思えた。
そりゃこんな美人でスタイル抜群で知的でクールで地位も持っている……正に高嶺の花といった存在なのだろう。
そう考えると、ネイと魔力補給してる俺ってかなり役得だな?ウェリアという体質に感謝だ。ウェリア最高!
「……しつこい!何度来ても答えは一緒よ!私たちに近づかないで!」
食堂に入ると、遠くの方から大きな声が聞こえた。というか聞き覚えのある声だ。
ガヤガヤと遠巻きに様子を見る野次馬に囲まれているようだ。
「おいおい、これは騎士団の意向だぞ?逆らっていいのかか?それに、やれば貢献度が稼げんだから乗らない手はないと思うがなぁ?」
「知ったことか!そんなことで仲間を売るわけないだろ!」
「そうよ!アンタらとするくらいなら死んだ方がマシよ」
人混みをかき分け、ようやく現場を視界に収めることができた。そこには俺が所属するチームの皆さんがいた。
主に声を荒げているのは春華と賢斗だ。相手は異世界騎士が五人。騎士側がニヤニヤと笑っているところを見るに、二人の形勢が悪いのだろうか。
二人の後ろでは六花が千秋を抱きしめ、身を潜めていた。
「ちっ……まだ落と…て……い……ですか……」
「……?ネイ、何か言ったか?」
ネイが何事か小さい声で喋った気がしたのだが、野次馬のガヤのせいでよく聞き取れなかった。
「いえ……何も。それより配給をもらいに行きましょう。私といれば最高グレードのものが選べますよ」
「い、いや……流石に放って置けないよ。チームがトラブルに巻き込まれてるみたいなんだ。先に食べてもらってていいから……ちょっと行ってくる」
「い、いえ、私も……行きます」
同じチームとして探索して死線を潜った仲だ。助けてあげられるなら助けたい。まぁ、ネイとしてはこの世界の有象無象と変わらないのだろうが……。
幸いついて来てくれる様なので、兵士側の説得をお願いできるかもしれない。
「あっ、優希!…………と、副団長……さん」
六花がこちらに気づいたが、ネイを見て露骨に嫌な顔をする。
俺たちが現れたことで、野次馬の視線がこちらへ向いた。
「おはようみんな。どういう状況なんだ?」
とりあえず事の経緯を知りたい。
「どうもこうも、こいつらが補給に付き合えって迫ってくるのよ!特に六花に!不同意よ!」
「おーい、人聞きが悪いな嬢ちゃん。こっちはお前らのためを思って提案してやってるんだぞ?」
なるほど、つまりはナンパというわけだ。しかし何度断ってもしつこく迫ってくる厄介な輩と。
風紀がどうのという事で同意なしの補給は認められてないわけだから、ルール違反だろう。
俺はここを管理する者の一人としてネイの言葉を期待し、横目でネイを見た。……が、発言する気は無さそうで、むしろ我関せずといった様子であらぬ方向を見ていた。
まあ、俺に対してはほぼ無理矢理だったからな……ネイは特別扱いされてる側だ。
「……不同意なら明確にルール違反だろう。大人しく諦めたらどうだ?」
「そういや、にいちゃんの女なんだってなぁ。悪いな、少し借りてくぜ、なんせ騎士団としてこっちは動いてんだからよ。ここにいる限りは従った方が身のためだ」
騎士団として補給を指示している?だからルールを無視してでもしつこく迫ってきていると。なるほどな、後ろ盾があるから大胆な行動をとっているにもかかわらず威勢がいいわけか。
「それは、チームが何か粗相をしたということか?ルールには従っているはずだが……何か違反をしたということなら教えて欲しい」
「いやいや、そういう問題じゃねぇのよ。騎士団には従えって話よ」
「……ネイテール様からも何か言ってくださいませんか?こいつら生意気にも逆らうつもりみたいですよ?誰のおかげで生きていけてるか理解していないようです」
…………理由もなく迫ってるってことか?
兵士はニヤニヤとネイに発言を求めている。騎士団の副団長として当然把握はしているのだろう。こちら側への加勢は期待できそうにないが……どういう状況なのか説明が欲しいな。
「…………」
しかし、ネイはまるで聞こえていないかの様にあらぬ方向を見ている。なんなら爪をいじっている。
「優希、その女が指示を出したってコイツら言ってた」
六花が新たな情報を教えてくれた。
ネイが……?騎士達に六花達と補給するように指示した?無理矢理にでもか?
「本当か?……ネイ」
俺はネイに確認をとる。仲間に対して理不尽な仕打ちを指示したと聞いて、少し怒気が滲んでしまった。眉間にも皺が寄ってしまったかもしれない。
ネイに目を合わせた。瞳が揺れている。
「……………………いいえ?」
ネイは否定した。
良かった。やっぱり、ネイがそんなことをするはずがない。こんなにクールで聡明で美人なネイが、そんな愚劣な指示を出すわけがないんだ。
仲間である六花の発言を信じるなら、嘘をついているのはこの兵士たちということになる。
「……は?ね、ネイテール様?話がちが ──────」
「全く最低ですね。意中の女性と事を為したいからと無理矢理に迫り、あまつさえ私の名を勝手に出すなど。……これは厳罰が必要ですね」
「そ、そんな!あんまりです!……俺たちはただ指示に従って……」
「言い訳は無用です。ニルファ、チック、ルムネ、こいつらを牢に連れて行ってください」
「はーい」
ネイの部下三人は……ペン?のようなものを兵士達に向かって振った。すると、光の輪が兵士の周囲に現れ、キュッと閉じていく。体に沿った形に変形しながら密着していき、最後はガッチリ固定されたようで、兵士の腕は動かせなくなったようだ。
「ちょ、ネイテール様!待ってください!」
「はーい暴れないでねー」
「暴れたら殴るから」
「だめですよ、ニルファ」
兵士たちは騒がしいながらも三人に連行されていった。遠くから男の喚く声が聞こえてくる。
牢か……そんな施設、学校にあるのか?あるいは新しく作ったのか……。
「優希っ!」
「助けてくれてありがとう、優希」
千秋と六花が俺に抱きついてきた。兵士達に迫られて怖かったろう。俺はよしよしと頭を撫でた。
「本当に助かりました、刃山さん。……副団長さんも」
「二人もよく頑張ったな。仲間のために一歩も引いてなかった。かっこよかったぞ?」
「はは、やめてくださいよ。チームなんですから、当たり前ですよ」
春華と賢斗もこちらに歩いてくる。二人が主に対抗していたようだったし、結果として事なきを得ている。頼りになるじゃないか。
「…………じゃあ、これからはチームの時間だね。副団長は帰っていいよ」
六花がそんな事を言い出した。
「おいおい、そんな言い方はないだろう。ネイがいてくれたおかげで解決したようなものだぞ?」
もう少しいい関係にはなれないだろうか。お互い良く思ってないのは分かってはいるが……恐らく原因は俺で。
しかし、助けてくれた人に対してその言い草はあんまりではないか?
「…………」
ネイは何も言わずに六花を見下ろしていた。六花もネイにガンを飛ばしている。……これは怒っているのか?表情に乏しい六花だが、何となく睨みつけているような気がする。
せっかくトラブルを解決したのに……一難去ってまた一難だ。
「はぁ……優希さん。私は一度戻りますね」
「そんな……ネイ、気にすることないよ」
立役者を追い出すのはどうかと思うし……というか、単純にネイと食事がしたかった……。
「いえ、いいんですよ。あの団員達にも話をしないといけませんしね……」
う……残念そうなネイの顔を見ると、心臓が締め付けられる……。笑顔にしてあげたいのだが……。
「優希、いこ」
グイッと六花と千秋に引っ張られ歩かされる。
「ま、また今度!一緒に食事をしましょうね!」
俺は振り返り、何とか次の約束を取り付けようと声を上げる。
ネイは悲しげに手を振っていた……。
「あの女のことどう思ってるの?」
配給を受け取り、席について食事が始まるところで六花にそう言われた。
あの女……ネイのことだろう。どう……と聞かれると自分でもよく分からない。だが…………好意を持っているのは確かだろう。ネイの顔を見るとまるで初恋のようなドキドキに襲われる。
クールな性格、豊かな胸にスラリとした身体。美しいライムグリーンの髪に、顔のパーツの全てが、俺の求めているものに思える。俺に笑いかけるその笑顔が眩しく、愛おしい……。
「恋……かな……」
恋……か……。俺もまだ25だ。恋愛……いいかもしれないな。
「すごいニヤけ顔ね……」
春華は呆れ顔だ。
「ネイってなに?そんな呼び方してる人聞いたことない」
「え?ああ……本人にそう呼べって言われたんだ」
誰も呼んでないのか……いや、確かお兄様はネイと呼んでいたな。しかし、兄妹だろうから愛称で呼ぶのは普通か。……そうなると俺がネイと呼ばせてもらっているのって……。
ふふふ、優越感に心が躍る。
「ずる……六花もなんか特別なやつちょうだい」
六花が上目遣いで見つめてきた。
「え、ええ…………うーん……り、りっちゃん……とか?」
即興で適当に付けたが、何か意味あるか?これ。
「……ん…………」
六花の顔はみるみる赤くなった。
「や、やっぱ、いい……普通で……」
「そ、そうか……」
照れるなら要求すんなよ……。
逆にこっちが照れるわ!なんて思っていたら……
「盛り上がってるところ悪いけど……刃山さん……多分だけど、魔法かけられてるかも」
「へ?」
そんな事を春華に言われた。




